カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

統治機構改革20年の課題

5月4日の日経新聞経済教室、亀井善太郎・立教大学特任教授の「独立財政機関を通じ可視化 将来世代の負担を考える」から。

・・・多様性を有する一人ひとりにより構成される社会は、個人の自由や尊厳をその基盤に置くが、その一方で国家や社会として一つの意思決定に至らねばならない時がある。主権者であるそれぞれの国民の考えを踏まえて、いかなる方法で実現するか、これこそが統治機構のデザインである。
昭和の終わりから平成にかけての選挙制度改革や橋本行革をはじめとする一連の統治機構改革は、その後の政治を形作った。外交や安全保障では成果もみられたが、当初意図された政治への信頼回復、さらには成熟化社会や厳しさを増す国際情勢に対応できる存在感ある政治に至るには、まだ多くの課題を抱えている。
課題の一つが将来世代、すなわちまだ生まれていない人々の視点の欠如だ。彼らは当然、投票権もないし、発言もできない。予算の決定といった現在の選択は、将来世代が背負う債務に影響を及ぼし、その返済を担う彼らにとっての選択肢を狭める。だがこうした懸念について、世論からも政治からも問題提起がなされない状態が続いている・・・

・・・平成期以降の政治を振り返れば、長期の課題を直視せず、先送りする短期志向の政策決定もしばしばみられた。また政府による事前予測がその後実績とかい離しても、エビデンス(証拠)に基づく十分な検証と説明がされてこなかった。これも統治機構改革に残された課題と無縁ではあるまい。
平成の統治機構改革では、従来の各省庁・官僚主導によるボトムアップ・コンセンサス(合意)型の統治機構からの脱却が進んだ。そして主権者である国民の選択を駆動力にして内閣を統治機構の主体とし、「国務を総理する」内閣の高度の統治・政治の作用を重視した、いわゆるウエストミンスター型議院内閣制への転換がなされた。
その成否については様々な議論があるが、日本を取り巻く状況を考えれば、国民の選択を駆動力にした内閣主導の統治機構という大きな方向性の転換はあり得ない。むしろこの間に見えてきた課題を踏まえ、さらなる改革に挑む「統治機構改革2.0」が求められる。その主眼は、内閣では統治機構の中核を担うチーム確立の安定化、官僚機構では専門性の回復となる・・・

次世代の視点を統治機構に組み込む主張については、原文をお読みください。

10年後の財政、破綻確率50% 

5月3日の日経新聞経済教室、島澤諭・中部圏社会経済研究所研究部長の「10年後の財政「破綻確率」50% 将来世代の負担を考える」から。
・・・バブル崩壊以降、経済危機を経験するたびに、一般会計歳出の名目国内総生産(GDP)比でみた財政規模は拡大している。さらに経済危機が去った後も高止まりし、元の水準に戻る前に次の経済危機が到来して一層の拡大が進んでいる・・・

・・・筆者は「動学的確率的一般均衡モデル」を用いて日本のマクロ経済と財政の現状を再現し、確率ショックを加えて今後の推移をシミュレーションした・・・その結果、10年後の財政破綻確率は50%、20年後は60%となった。何も対策を施さずに現状のまま放置すれば、時間の経過とともに財政破綻リスクが高まる。
他の先進7カ国(G7)諸国でも、過去に例のない大規模な財政支援が実施され財政規律に悪影響を及ぼしている。10年後の財政破綻確率を試算したところ、日本に次いで財政状況の悪いイタリアでは29.3%となった。だがコロナ対策の規模が世界最大の米国は4.9%、ドイツに至っては1.2%にとどまる。
日本の財政破綻確率は、他のG7諸国平均(7.9%)の6倍強(イタリアを除くと3.7%、14倍弱)と、その高さが際立った。

次に財政破綻リスクを軽減する政策として消費税率引き上げを考え、シミュレーションをした。すると消費税率の引き上げ幅が5%の場合は財政破綻確率は27.5%、10%の場合は13.1%、15%の場合は5.0%、20%の場合は2.4%にまで改善できると推計された。なお財政健全化策の規模が同じなら、他の税目での増税や政府支出削減でも、消費増税による結果と大きな違いはみられない。
このように、G7諸国並みにまで日本の財政破綻確率を引き下げるには、消費税率15~20%分に相当する財政健全化が必要となる・・・
・・・消費税は社会保障目的税とされているが、消費増税を重ねても社会保障給付の3割弱がいまだに赤字国債で賄われている。消費増税の大部分が、赤字国債の発行で肩代わりしてきた消費税財源の不足分を解消するのではなく、新たな社会保障の充実のために使われてきたということだ・・・

・・・政府も国民も多くがコロナ禍に乗じて、税財源の裏付けもなく、ひたすら歳出拡大を求め続ける現状をみると、いちかばちかのギャンブルに興じているに等しい。財政が破綻し国債の引き受け手が現れなければ、財政赤字で賄っていた歳出を削減する「財政的トリアージ(優先順位付け)」を実施せざるを得ない。
この場合シルバー民主主義とも指摘されるように、政治的影響力が強く経済的弱者とみなされがちな高齢世代向けの給付よりも、社会資本の維持や教育、少子化対策など将来への投資が削減される可能性が高い。また残りの人生が長い世代ほど租税負担も重くなるなど、財政破綻のツケは将来世代ほど大きくなる・・・

ワクチン先進国から後進国へ、萎縮した日本の行政

5月10日の日経新聞「必然だったワクチン敗戦」から。
・・・新型コロナウイルスのワクチン開発で日本は米英中ロばかりか、ベトナムやインドにさえ後れを取っている。菅義偉首相が4月、米製薬大手ファイザーのトップに直々に掛け合って必要なワクチンを確保したほどだ。「ワクチン敗戦」の舞台裏をさぐると、副作用問題をめぐる国民の不信をぬぐえず、官の不作為に閉ざされた空白の30年が浮かび上がる。

1980年代まで水痘、日本脳炎、百日ぜきといった日本のワクチン技術は高く、米国などに技術供与していた。新しいワクチンや技術の開発がほぼ途絶えるまで衰退したのは、予防接種の副作用訴訟で92年、東京高裁が国に賠償を命じる判決を出してからだ。
このとき「被害者救済に広く道を開いた画期的な判決」との世論が広がり、国は上告を断念した。94年に予防接種法が改正されて接種は「努力義務」となり、副作用を恐れる保護者の判断などで接種率はみるみる下がっていった。
さらに薬害エイズ事件が影を落とす。ワクチンと同じ「生物製剤」である血液製剤をめぐり事件当時の厚生省生物製剤課長が96年に逮捕され、業務上過失致死罪で有罪判決を受けた。責任追及は当然だったが、同省内部では「何かあったら我々が詰め腹を切らされ、政治家は責任を取らない」(元職員)と不作為の口実にされた・・・

手塚洋輔著『戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷』(2010年、藤原書店)が、この問題を取り上げ、行政がなぜ萎縮するようになったかを論じています。名著です。

砂原庸介教授による政治研究新刊書紹介

最近載せていなかった、砂原庸介・神戸大学教授による、政治研究新刊書紹介を取り上げます。しばらく取り上げていなかったので、たまっています。

5月3日 政治参加
4月3日 地方自治・日本政治
3月15日 民主主義/権威主義
2月11日 日本の行政学/地域衰退

たくさんの新刊書が出ているのですね。政治・行政研究の最先端を、このように説明してもらえるのは、ありがたいです。
参考「現代日本政治、新しい研究成果

新型コロナウイルス、病床は空いているのに逼迫

5月1日の日経新聞1面「コロナ医療の病巣 機能不全の実相(上)」「空き37万床でも逼迫 非効率 改革先送りの代償」から。
・・・感染者数は欧米より桁違いに少なく、病床数も世界有数の多さを誇る日本が、またも緊急事態宣言に追い込まれた。「病床逼迫」の裏で何が起きているのか・・・

・・・現在と同様に感染者が急増した昨年末、実は全国の一般病床と感染症病床を合わせた約88万9千床のうち約37万2千床(42%)は空いていた。コロナ禍のまっただ中なのに、2019年末より約3万床増え、病床使用率はむしろ低下していた・・・当時、健康観察や治療が必要な感染者は約4万人。それを大きく上回る病床が使われないまま、年明けには2度目の緊急事態宣言に発展した。「ベッドが足りない」と悲鳴があがる一方で、大量の空き病床が発生する矛盾は、日本医療の機能不全を象徴する・・・

記事では、次のようなことが指摘されています。
・急性期病床を名乗りながら、実態は十分な診療体制を整えていない病院があること
・病院間の役割分担や連携が不十分で運用が非効率なこと
・病院内で、専門外の医師を感染症対策に回すように強制できないこと
・医師個人は応召義務があるが、医療機関は事実上診療しないことが正当化されること

そして、救急患者の搬送先が見つからない、たらい回しが起きています。