カテゴリーアーカイブ:社会の見方

日本の土地所有権の「強さ」

2026年6月9日   岡本全勝

6月3日の日経新聞中外時評は、斉藤徹弥・上級論説委員の「土地所有権は成熟に向かう」でした。

・・・近代国家制度に影響を与えた19世紀の思想家ジョン・スチュアート・ミルは、土地はみんなの財産であり、土地の私有が許されるには、地域のみんなに便宜をもたらすことが条件になるとした。
この私的所有と公共の福祉は不可分という考え方は土地所有制度の基本になる。欧州は地域の総意で土地利用や建築を規制し、古い街並みを残してきた。日本はなぜそうならなかったのか。土地所有の歴史に詳しい松尾弘・慶大教授の解説はこうだ。

土地所有制度は個人の利益と公共の利益を調和し、土地が生む利益を最大化する。だが明治政府が地租改正で私的所有権を導入すると、公共の福祉と不可分という理解が不十分なまま、土地の取引や利用の自由化が進んだ。
土地は価値を生み、国の財政を安定させた。だが自由化の成功は規制を難しくする。公益による規制は私的所有権を外から制限するものとの理解が定着してしまった。
当時は市町村が頻繁に再編され、欧州のように地域で土地利用の計画を考える仕組みができなかったのも大きい。将来どんな土地にしたいか、理念がなければ景観は守れない。時間はかかっても地域の理念を地道に育むべきだ。

地価高騰、外国人の取得、景観・環境、空き地、所有者不明――。現代の土地問題は明治以来、市場原理では解決できず、公共の福祉が問われる事態への備えを怠ってきた帰結である。
松尾氏はこの未成熟な土地所有制度がいま、試行錯誤を経て発展してゆくプロセスに入ったとみる。公共の福祉のため土地の私的所有権を制約し、国や自治体、地域が関与を強めつつあるからだ・・・

私は、日本人は個人主義(集団より自分を優先する)の社会だと考え、その一つが土地の所有権の強さだと思います。地域のことを考えず、私権を優先します。ちなみに日本人は集団主義と言われますが、あれは嘘でしょう。同調圧力が強く、それに従っているだけと思えます。

インターネットを予想できなかった人たち

2026年6月8日   岡本全勝

読売新聞「時代の証言者」は、鈴木幸一の「ネット開国に挑む」が続いています。鈴木さんは、インターネットという言葉が一般に知られていなかった時代、インターネットイニシアティブ(IIJ)を創業し、国内企業で初めてインターネットの商用サービスを始め、日本のネット基盤を築き上げてきました。6月4日の「資金集め 相手にされず」から。

・・・1992年12月、インターネットイニシアティブ企画という会社を設立し、93年にインターネットイニシアティブ(IIJ)に変更しました。社名には、我が社がイニシアティブ(主導権)を取ってネットで社会変革をもたらすとの気概を掲げました。
資本金の目算は大きく外れました。電力会社からの10億円とその他の企業からの拠出で、20億円以上集まる想定でしたが、実際は、懐の寂しいエンジニアが持ち寄った約1800万円でのスタートでした。

当てにしていた企業からの出資話はビジネス的に詰められた話ではなく、資金集めはゼロからの出発となったため企業へのお願いに日々を費やしました。ネット市場の成長予測と事業計画を綿密に練り、その将来を説きました。
ある銀行の幹部に「日本のインターネットの利用者は現在は1000人程度ですが、10年後には3000万人になります」と話をすると、当初は「ホラもそこまでくるとたいしたものだ」とあきれられました。私の予測は、逆の意味で外れました。10年後の利用者は8000万人に迫り、今では驚きでもありません。
悔しい、笑い話のような思い出もあります。
ある鉄鋼メーカーにお願いに行った際には、「インターネットを私なりに調べましたが、皆がビジネスとして使うようになったら、全裸で逆立ちして銀座を歩きますよ」と、冗談交じりに言われました・・・

この人たちに、現在の心境を聞いてみたいですね。

竹工芸、購入者の8割が外国人

2026年6月7日   岡本全勝

5月31日の日経新聞別刷りに「竹の魔術 しなりが導く匠の技」が載っていました。

・・・日本人にとって竹がもっとも身近な植物の一つであることは間違いないだろう。和的な景観を彩る要素としてだけでなく、しなやかで強靱な特性は昔から、人びとの暮らしを支えてきた。近年は厄介者扱いされることもある一方、その秘めた能力に魅せられる人は少なくない。
細い竹ひごが、生き物のようにしなる。岐部笙芳(せいほう)さんの手が交差するたび、目の前で美しい網目模様が広がっていく。大分県九重町にある岐部さんの工房を訪れた。現在全国で3人いる竹工芸の重要無形文化財保持者(人間国宝)の一人だ。
創作は「材料とり」と呼ばれるひごづくりから始まる。真竹を縦に割り、包丁を使ってひごをつくる。細いものは1ミリ以下。端から見ているとわけなく見えるが、均一な幅を保つのは経験のたまものだ。使用する数も作品によっては百本を超えるというから、繊細さに加えて根気もいる・・・

・・・(訓練学校の)1年の課程を終えた後も学び続け、展覧会で受賞もした。だが、作品づくり一本で食べていくのは難しい。問屋の求めに応じてつくった小物は一つ3000円。月に10個が精いっぱいだ。バブル期にはバッグが高値で売れたこともあったが、崩壊とともに需要は激減。アルバイトをしながらの制作が続いた。
第二の転機は25年ほど前だ。ある日、日本の竹工芸に造詣が深い米国人ロバート・コフランドさんが通訳を伴い工房を訪れた。「作品を見せてほしい」と請われ、2点を注文して帰った。その後、米国で個展を開催することになる。
いまも購入者の8割を外国人が占める。団体が山あいの工房にバスで乗り付けることもあるそうだ。「元の竹から変化して様々な形に変化する。実演すると『なんなんだこれは』と驚かれる」。竹が醸す日本文化への憧憬もあるのだろう・・・

早まる採用活動は悪いことか

2026年6月5日   岡本全勝

5月27日の日経新聞に、「採用計画調査から(4)」「早まる就活、6割「悪影響」採用活動、コスト増に疲労感」が載っていました。

・・・日本経済新聞社がまとめた採用計画調査では、2026年春入社の採用活動における早期化や長期化の影響について聞いた。「悪い影響があった」と回答した企業は6割を超えた。学生だけではなく企業にも疲弊が表れている。
26年春入社の面接、試験など選考の開始時期は「24年10~12月」が27.3%と最も多かった。「25年3月」(18.7%)、「25年1月」(12.9%)、「24年7~9月」(9.9%)と続く。
政府は新卒採用の選考活動開始時期について卒業年度の6月1日以降が望ましいとしているが、25年6月以降だったのは5.6%にとどまった。ルールと実態が乖離していることが浮き彫りになった。

早期化・長期化による影響について良しあしを聞くと「悪い影響があった」とした企業が1778社のうち1112社と62.5%を占めた。
具体的な影響(複数回答)では「早期に学生との接点を持ち、自社理解を深めてもらえた」が66.3%と最多だったものの、次に多かったのは「内定辞退防止の負担が大きくなった」で55.2%となった。内々定辞退者の数について「前年より多かった」と答えた企業は3割に上った。優秀な人材を獲得するために早期からの採用活動を有効と考える半面、内定辞退の対応策に頭を悩ませる企業が増えている・・・

でも、採用活動が早まること、企業の負担が大きくなることが問題なのでしょうか。
大学では、通常4年間学ぶのですよね。3年生の夏や秋から採用の面接などをして学生を選ぶということは、学生が身につけた学問を問わないに等しいでしょう。(学問を問わず)優秀な学生と判断して会社が採用したいなら、卒業を待たず、2年生でも3年生でも学年途中で採用すればよいのではありませんか。
良い学生と見込んだら、卒業を待たずに、採用すれば良いのです。それなのに、なぜ卒業まで待つのか。内定辞退の恐れもあるのに。
採用活動が早まることが問題ではなく、卒業証書が形式的価値しか持たず、学んだ内容を問わないという大学教育と、企業の採用基準が問題なのです。

日本人の孤独感、40年にわたり上昇

2026年6月4日   岡本全勝

5月21日の朝日新聞に「日本人の孤独感、40年にわたり上昇 81研究を分析、「悪化」を統計的に確認」が載っていました。

・・・「孤独」は世界的に非常に差し迫った重要な社会課題と言われるが、日本でも実際に悪化しているのか。中央大学の研究グループが日本国内で過去に実施された研究を分析したところ、約40年間にわたり孤独感が上昇していることを確認し、専門誌に発表した。

 孤独感は単なる個人の主観的な感情ではなく、心身の健康リスクを高める可能性が指摘されている。世界保健機関(WHO)の報告書によると、世界の6人に1人が孤独感に悩み、年約87万人の死亡の原因となっている。WHOは、孤独と社会的な孤立を、解決を急ぐべき深刻な公衆衛生上の課題と位置づけている。
日本も深刻化していると言われるが、長期的な変化はわかっていなかった。
そこで研究グループは、孤独感を定量的に評価するための指標(UCLA孤独感尺度)を使って日本で1983~2023年に実施された81研究のデータ(計約5万人が回答)を統合して分析した。
平均値の推移をみると、孤独感は約40年間で長期的に上昇していることが統計的に確認された。

青年期(中学生~大学生)、成人期、老年期(65歳以上)にわけたところ、とりわけ青年期で上昇していた。全体的には男性の方が女性より孤独感が高い傾向が見られるが、年々の変化をみると女性で上昇傾向が確認できた。新型コロナウイルス感染の流行前に比べて流行中の方が孤独感が高かったことも確認できた。
社会環境の変化の影響についても探った。単身世帯数やインターネットの利用時間のほか、経済的な豊かさを示すGDP(国内総生産)の増加は、孤独感の上昇と関連が見られた。また、平均の世帯人数や婚姻率の減少も、孤独感の上昇と関連が見られた・・・

血縁や地縁の希薄化、核家族化と単身者の増加、非正規労働者の増加など、一人暮らしで自由な生活を得たのですが、他方で孤独がやってきました。これは、連載「公共を創る」で取り上げている成熟社会の課題の一つです。他人とのつながりは面倒なものでもあります。スマートフォンによる便利なつながりは、多くの場合、深いつながりにはなりません。