カテゴリーアーカイブ:行政機構

国の役割を規定している地方自治法

2026年10月12日   岡本全勝

地方自治法は地方自治に関する基本法です。ところが国の役割も規定しているのです。

地方自治法は、最初に次の2条を置いています。
第1条 この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。

第1条の2 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
② 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。

第1条の2は、2000年に施行された地方分権一括法で、国と地方の役割分担の基本として定められました。長文でなかなか読みにくい文章ですが、国と地方公共団体の役割分担が書かれていることはわかります。
第2項には「国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務・・・その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い」と書かれています。地方自治法に、国の役割が書かれているのです。もちろん、国と地方の役割を並列して書いているわけではありません。主語は国になっていて、末尾は「地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と国に義務を課す形になっています。

第1条では、「国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより」とあり、国と地方の役割分担を定めようとすると、国の役割を書かざるを得ません。
本来なら憲法に規定すべきことでしょう。しかし、日本国憲法は改正がされず、法律で対応しています。憲法第92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」と定めているので、このように法律で定めることもおかしくはないのですが。反対に、国の役割を基本的・包括的に定めた法律はないのでしょうね。

非公開の与党事前審査

2026年9月9日   岡本全勝

「総理のSNS投稿は行政文書か2」の続きにもなります。
役所の意思決定にかかる文書は、保存され、情報公開の対象となります。
法律や予算については、政府決定の前に、与党審査が必要です。各省の意向だけでは決められず、与党の承認が必要です。そして、しばしばその過程で原案に修正が加えられます。

ところが、その与党審査はほぼ非公開で、記録も残されません(ですよね)。
与党審査に提出した各省の文書は、保存対象の行政文書に該当するでしょうが、それらがどの程度保存されているのか。また、与党による修正過程が残されているのか。
日本の政治を分析する際に、重要な要素だと思うのですが。

増える役所の仕事2

2026年8月12日   岡本全勝

「増える役所の仕事」の続きです、5月に自民党行革本部に呼ばれた際に、使った資料を紹介することを忘れていました
関係者に数え直してもらうと、2001年の省庁再編時に各府省設置法に列記されていた929の所掌事務は、2026年度には1157に約2割増えています。

この40年近く、我が国は、「小さな政府」を目指して、新自由主義的改革として業務を民間に切り出したり、規制を緩和したりしてきました。その努力はほぼ行き着いたように見えます。他方で新しい社会の課題が発見され、行政需要は減るどころか、増えています。各政策について事業量を減らす努力は続けられていますが、政策課題の数の方が増えているのです。

行政学では、近代国家の変遷を次のように説明してきました。
まずは、市民生活や経済活動を自由に任せ、政府の介入は最低限にとどめる夜警国家から出発します。しかし、19世紀半ばから、新しい社会問題や都市問題への対応が必要となり、サービス国家へ転換します。その動きは20世紀に入ってさらに加速し、政府の役割が生存権の保障にまで拡大します。また、景気変動への介入を求めるケインズ経済学も採用します。このような国家は福祉国家と呼ばれ、財政規模と公務員数が膨張しました。

第二次世界大戦後、世界は経済成長に恵まれ、行政サービスはさらに拡大しました。ところが二度にわたる石油危機で、先進各国経済は不況になり、財政危機に見舞われます。1980年代には、行政活動を見直し縮小する行政改革が、先進各国の共通の政治課題となりました。新自由主義的改革は、この流れにあります。

ところが、成熟社会ではこれまでにない新しい問題が生まれ、政府の役割は再度、広がっているように見えます。この点について、行政学が分析と理論化をして、そして対処の方針そ提示することを期待しています。

室田哲男著『危機管理法制の可能性』

2026年8月3日   岡本全勝

室田哲男著『危機管理法制の可能性』(2026年、信山社)を紹介します。著者は、元総務省の官僚、現在は政策研究大学院大学教授です。

東日本大震災以降の災害対応や危機管理の実務経験を踏まえ、その後の危機管理法制研究の成果をまとめたものです。災害、感染症、国民保護などの危機管理法制を横断的に比較・分析し、それぞれの制度の特徴や課題を整理するとともに、危機管理法制全体の実効性向上に向けた方向性を考察しています。

我が国の危機管理は、近年急速に充実してきました。私も英文の『Public Administration in Japan』(2024年、Palgrave Macmillan)で強調しました。ところが、危機と言っても多種多様で、危機管理も異なります。それぞれに書かれたものはあるのですが、それら全体を横断的に見た本は少ないです。また、実務が変化するので、それを追いかける必要があります。研究としても、労力と分析視点が必要なのです。

これらの危機管理の多くは、地方自治体が担います。自治体関係者に有用です。お勧めします。

「日本版DOGE」の成果?

2026年7月29日   岡本全勝

7月9日の朝日新聞が「税優遇「廃止」、120件中1件どまり 無駄見直す「日本版DOGE」、省庁点検」を伝えていました。日経新聞「日本版DOGE「税優遇廃止」1件のみ 13府省庁120件、財源捻出見通せず」、読売新聞「消費税減税の代替財源「租特」見直し難航、省庁自己点検で「廃止」は120項目中1件のみ」。

・・・十分な効果が見込めない減税措置や補助金を見直す「日本版DOGE(ドージ)」をめぐり、企業などへの特例的な減税である「租税特別措置(租特)」の成果を検証する各省庁の自己点検結果が出そろった。無駄を洗い出し、消費減税の財源確保につなげる狙いだが、対象の約120件のうち廃止の方針が示されたのは1件にとどまった。
今回の点検対象は、来年度以降の継続が決まっていないものが中心で、国税(約50件)と地方税(約70件)で、減税額は計1兆円規模にのぼる。担当大臣の片山さつき財務相の要請により各省庁が今月8日までに公表した点検資料を、朝日新聞が集計した。

廃止方針が示されたのは、企業の事業再編にかかる登録免許税の軽減の1件だけ。2024年度の開始から申請実績がなく、経済産業省は「制度の終了が相当」と認めた。
一方、実績に乏しくても廃止に後ろ向きな租特も目立つ。シェアサイクルの普及を目的としたポート(置き場)の設備の固定資産税軽減措置は、21年度の開始から24年度まで適用件数は計4件だけ。国土交通省は、この措置が市区町村の自転車施策促進の契機になるなど「一定の政策効果が認められる」などと評価。ロボットや通信技術を活用する「スマート農業」を手がける会社の設立時などに登録免許税を軽減する措置は、24年度の開始から実績は3件にとどまるが、農林水産省は「一層の周知を行う」とした。

財源確保とはほど遠い結果に、不満を隠さないのが片山財務相だ。7日にあった閣議後会見では「現時点で満足のいくものではない。1件1件きちっと見させていただく」と強調した。今回の点検結果を踏まえ、年末に向け、財務省と各省庁との協議が本格化する。
日本版DOGEの取り組みは、米実業家イーロン・マスク氏が率いた米政府効率化省(DOGE)になぞらえたもので、今回の租特のほか補助金・基金の削減も掲げている。熱心なのが、日本維新の会だ。昨年10月の自民と維新の連立合意書にも施策の推進が盛り込まれた。今年6月には租特は「ゼロベースで要否を判断する」ことを求める要望書を片山氏に渡した・・・

本家アメリカの政府効率化省も、腰砕けで終わったようですが。
このような見直しで、大きな廃止や縮小がでてくるとは思えません。それぞれの租税特別措置あるいは予算は、それなりの理由があってつくられています。その事情が変わらない限り、廃止する理屈はでてきません。査定をすると言っている財務省も、それらの政策を認めたのですから、「自ら止めます」とは言いにくいでしょう。それ以上に、それぞれの政策には利害関係者がいて、それを応援する議員がいます。その人たちを説得しない限り、官僚だけでは廃止できないのです。
もし、大幅に削減しようとするなら、考えられる方法は次のようなものでしょう。
1 国会で廃止対象を洗い出してもらう。あるいは与党で洗い出してもらう。政治家には「役人にはできないだろうから、私たちがやる」と言って欲しいです。租税特別措置や予算廃止に反対する議員を、説得してください。
2 削減に熱心な政党もあるようですが、総論はよいので、どの項目を廃止するか、いくつか例を挙げてください。
3 もう一つは、必要性などの理屈を超えた方針で、廃止することです。例えば5年経ったものとか。その際に、「一律縮小」は止めてください。項目が減らない限り、役所の仕事量は減らないのです。