カテゴリーアーカイブ:行政機構

法律に出てくる「市民」

2026年4月15日   岡本全勝

法律に規定された「消費者市民社会」」の続きです。残る「市民」に関する法律の規定は、次の2つになります。
「市民」特定非営利活動促進法、成年後見制度利用促進法
「市民生活」暴力団不当行為防止法、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律など

市民という言葉は、市の住人という意味でも使われますが、ここでは、西欧近代で生まれた「政治参加の主体となる自立した個人(citizen)や地域社会を担う主体」として取り上げています。その観点では、警察関係で出てくる「市民生活」は「住民の生活」と言い換えることができるようで、少々異なります。

成年後見制度利用促進法には、ずばり「市民」が出てきます。
(基本理念)
第三条 2 成年後見制度の利用の促進は、成年後見制度の利用に係る需要を適切に把握すること、市民の中から成年後見人等の候補者を育成しその活用を図ることを通じて成年後見人等となる人材を十分に確保すること等により、地域における需要に的確に対応することを旨として行われるものとする。

しかし、市民の定義はないようです。どの範囲を指して市民というのか、国民とはどのように異なるかは不明です(専門家の方に教えていただけると幸いです)。

もう一つ「市民」は、特定非営利活動促進法に出てきます。

特定非営利活動促進法
(目的)
第一条 この法律は、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること並びに運営組織及び事業活動が適正であって公益の増進に資する特定非営利活動法人の認定に係る制度を設けること等により、ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とする。

この法律は、案の段階では「市民活動促進法」という名前でしたが、自民党内での反対で、現在の名前になったという経緯があります。ここに出てくる「市民」は、「政治参加の主体となる自立した個人や地域社会を担う主体」という意味だと考えられます。
「市民社会」は歴史学や政治学、社会学でよく使われる言葉ですが、歴史的にそれを勝ち取った西欧諸国と異なり、日本では違った歴史を歩んだので、「市民社会」や「市民」という言葉がなじんでいないのかもしれません。

法律に規定された「消費者市民社会」

2026年4月14日   岡本全勝

「市民社会」とは歴史学や政治学、社会学でよく使われる言葉です。ウィキペディアでは、概ね次のように定義されています。「市民社会とは、ブルジョワジー(市民)が封建的な身分制度や土地制度を打倒して実現した、民主的・資本主義的社会」。しかし、政府の文書で使われることは、見たことがありませんでした。
消費者教育の推進に関する法律に、「消費者市民社会」という言葉があることを教えてもらいました。この法律は、平成24年(2012年)に作られました。議員立法のようです。第2条に定義があります。

消費者教育の推進に関する法律
(定義)
第二条第2項 この法律において「消費者市民社会」とは、消費者が、個々の消費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会をいう。

ただし、これは「市民社会」という言葉ではありません。消費者が積極的に参画する社会を指しているようです。歴史的な意義を持つ「市民社会」とは違うように思えます。
そこで、知人に教えてもらって、e-Gov 法令検索で「市民社会」を検索しましたが、法律には「消費者市民社会」以外は出てきません。次に「市民」で検索してみました。すると、次のような単語と法律が出てきました(これらの法律を引用しているような法律は除きます)。
「市民」特定非営利活動促進法、成年後見制度利用促進法
「市民生活」暴力団不当行為防止法、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律など
「市民権」出入国管理法など
「市民農園」「市民緑地」市民農園整備促進法、都市緑地法

このうち「市民権」は外国人についての規定であり、日本人についてではありません。「市民農園」「市民緑地」もここで取り上げている「市民」とは異なるようです。(この項続く)。

自治体情報システム標準化の遅れ

2026年4月10日   岡本全勝

時事通信社の地方団体向け専門情報サイト「iJAMP」4月1日に、庄司昌彦・武蔵大学教授「システム標準化「多くの犠牲の上でたどり着いた60点」」が載っていました。
この問題(期限に間に合わないこと)は、当初から指摘されていました。現場での移行が遅れたのではなく、そもそも期日の設定に無理があるというのです。突然、現場の意見も聞かずに、移行期限を決められたとも言われています。記事でも、意思決定過程の不透明さが指摘されています。

・・・地方自治体の情報システム標準化は2025年度末に移行期限を迎えた。「半数超の自治体で遅れ」と報じられているが、1システムでも遅れる自治体がいくつあるかというより、約3万4000のシステムのうち、どれだけ遅れているかという視点の方が重要だ。大いに心配していたので、期限までに移行完了したシステムが半分を超える見込みという現状は「なんとか大失敗にはならなかった」と捉えたい。多くの障害を乗り越え、いわば文字通りの不眠不休の努力の上に何とかたどり着いた「60点」と評価できる。ぎりぎり合格点といったところだが、途中でもっと判断を誤れば、50点、40点、もしくは30点となったリスクもあっただろう・・・
・・・スケジュールを巡って、自治体関係者の反応が厳しいことは承知している。ここまできたら遅れの有無そのものを問題にすべきではない。遅れを問題視すれば、「危険でも早く終わらせろ」という動機が働きかねない・・・

・・・心身を病んで離職した職員や「もう行政のシステム市場には関わりたくない」と言っている業者も存在する。意思決定をする立場の人は、こうした事実を認識すべきだ。特定の悪者がいて、どこかと癒着していたというような単純な構図ではなく、情報共有や意思決定に関する構造的な課題が主な原因であると考えられる。今後もシステム改修は続くので、今回の反省を次に生かしていかなければならない。
標準化20業務のうち9業務について座長として仕様書策定に関わった立場でも見えない部分が多いくらい、標準化やガバメントクラウドに関する全体像や意思決定過程は不透明だった。会議としてはデジタル庁に「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」が存在するが、3年ほど開催されていない。司令塔的な会議体がない上、公開の場で外部の視点による検証の仕組みもなく、方針が突然示されるような状況が続き、適切な意思決定プロセスとは言いがたかった・・・

『証言とデータでみる総務省』

2026年3月30日   岡本全勝

縣公一郎・原田久編『証言とデータでみる総務省 支援型行政への変ぼう』(2026年、勁草書房)を紹介します。
宣伝文には次のように書かれています。
「総務省(旧総務庁系部局)は行政の基本的な制度の管理・運営を任務とする制度官庁だ。しかし近年、各省の政策立案や業務改革等の支援等を強化している。本書では、元総務次官や元総務審議官の証言や、研究者によるデータの分析、さらにはアメリカとの比較によって、その成果と課題を明らかにする」

第1章は山下哲夫・元総務事務次官へのインタビュー、第2章は堀江宏之・元総務審議官へのインタビューです。これまでの行政改革の歴史と、行政管理の役割の変化がよくわかります。一言で言うと、査定官庁から、各省の業務改革支援への転換です。行政評価も、評価自体に力を入れるのではなく(よく言われる評価表を埋めることに力を入れるのではなく)、どうすればよりよい業務になるかを考えるのです。これらの機能は「平時」のものであり、別に改革時(例えば省庁改革、規制改革など)に企画をすることも、行政管理の役割です。

人を減らし、組織を増やさないことが、かつての行政管理であり、行政改革でした。予算削減もこれに含まれます。しかし、人員削減も行き着くところまで行き、職員を募集しても定数が埋まらない状況になりました。
本来、行政管理とは行政組織がよりよい成果を出すためのものです。新自由主義的改革は、削減にばかり目を向けすぎました。
二人のインタビューを読むと、行政管理局の政策の転換が見て取れます。

p81に、行政事業レビューデーターベースで事業数が10年間で、4000あまりから5000まで増えているという指摘があります。
これとは別に、原田久・立教大教授が「行政国家論再論」(季刊「行政管理研究」2023年9月号、行政管理研究センター)で、2001 年の省庁再編時に各府省設置法に列記されていた858の所掌事務は、2021年度には935事務に増えていることを指摘しています。
「人口が減るのだから公務員数を減らすべき」との意見もありますが、すでに先進各国の中では日本の公務員数は少なく、さらに仕事を増やしていながら職員を減らせとは、無理な話です。

行政の中を考える、社会の中の行政を考える

2026年3月23日   岡本全勝

会社の中の私、私の中の会社」の続きになります。行政、そして各省や自治体の中だけを見ていては、役割や課題が見えてきません。社会の中での行政を見ると違った景色が見えてきます。連載「公共を創る」では、「内包と外延」という言葉を使いました。

「会社の中の私、私の中の会社」の考え方と図は、行政の役割を考える際にも応用できます。これまでは、行政の中の各省や自治体を深掘りしていました。しかし、私たちの暮らしを支えてくれる公共空間という観点から見ると、行政・役所はその一部でしかありません。