カテゴリーアーカイブ:経済

中国の産業振興政策

2026年5月21日   岡本全勝

5月10日の読売新聞「あすへの考」、西村友作・中国対外経済貿易大学教授の「挙国体制 資金・人材を集中」から。
・・・中国は近年、電気自動車(EV)や太陽光パネルなどの幅広い分野で競争力の高い製品を生産し、世界市場で存在感を高めている。生成AI(人工知能)や人型ロボットなど新たな成長領域でも米国と技術覇権競争を繰り広げるまでになった。
経済成長の源泉となるイノベーション(技術革新)は、自由な発想や多様性のある社会が促進要因になると説明されてきた。それではなぜ中国共産党による一党支配の中国でイノベーションが次々と生み出されるようになったのか。今後どうなるのか。死角はないか。疑問は尽きない。
2002年から北京で暮らし、中国の対外経済貿易大学で研究を続ける西村友作教授に「中国式イノベーション」のメカニズムと展望を聞いた・・・

・・・中国式イノベーションは、国家が示す重点分野に企業、資金、人材が集中する「挙国体制型」が特徴です。そのプロセスは総じて同じ経過をたどります。
第1段階では、国家方針に基づく政府支援によって起業や研究開発が促進されます。重点分野には起業家や技術者が一気に入ってきて、「政府が支援しているのだから安心だ」と考えた官民の投資ファンドなどから巨額の資金が流入します。中国では企業誘致や人材獲得を巡って地方政府が競い合うので、起業や投資、開発は一層拍車がかかります。
第2段階では、比較的緩い規制の下、社会実装が進み、企業間競争が激化します。新しい技術やサービスを導入する時、日本人は100%を求めたがりますよね。中国人はミスに寛容といいますか、完璧を求めない。60%ならゴーです。まずやってみて、トライアンドエラーを繰り返しながら改善していくわけです。利用者を獲得するため、割引キャンペーンも繰り返され、それに対応できない企業は淘汰されていきます。
第3段階では、こうした「多産多死」の競争環境の中で勝ち残った企業が大規模化し、巨大企業が育ちます。政府はサービスの普及に伴って生じた問題に対処するためにそれまでの放任姿勢を改め、市場ルールの整備に乗り出します。規制強化と競争激化の中でさらに淘汰と寡占化が進み、欠かせないサービスとなって中国社会に根付いていくことになります・・・

・・・中国は今ある技術を新たな領域に応用する「1から10」と、それを世の中に広く浸透させる「10から100」が得意です。日本のデンソーが発明したQRコードをモバイル決済に応用したのはその典型例です。一方で、全く新しいものを創出する「0から1」は苦手でした。
こうした状況の転換点になったのが第14次5か年計画(21~25年)でした。研究開発費を年平均7%以上増やし、基礎研究比率を総額の8%以上まで高めること、さらに製造業の競争力を高め、製造業の質の高い発展を促進することを掲げました。国家方針の転換を受けて、イノベーションの重点分野は、それまでのデジタルサービスから先進製造業に移行しました。

3月に採択された第15次5か年計画(26~30年)では、「高度な科学技術の自立自強を加速」することを重点方針に掲げ、ゼロから新たな技術を創出する力の強化を図るとしています。
さらに「高い技術を持つ人材の移民制度を創設する」とも明記しました。トランプ米政権が科学技術関連予算を削減し、米国の研究・教育機関に動揺が広がる中で海外人材を獲得する好機と捉えているのだと思います。25年10月には科学技術分野の外国人若手人材を対象とする「Kビザ」を新設し、米国で研究者のリクルート活動を強化しています・・・

インターネット広告の逆効果

2026年5月20日   岡本全勝

パソコンに、電子メールでさまざまな広告が届き、ウェッブ画面には、いろんな広告が表示されます。
前者はさっさと削除します。後者には2種類あります。画面の真ん中に表示されて、それを見ないと本来のページが閲覧できないものと、画面の端に表示されるものです。記事の途中に挿入されているものもあります。「次へ」をクリックすると、予期しない広告に飛ぶとか。何の宣伝かわからない表示も。それを知りたくてクリックしたらダメなのですよね。

イライラしますよね。ほとんどが興味のないものです。広告に誘導する印は大きく表示されているのですが、消そうとする印は小さく・薄くしか表示されていません。
また画面の端に表示されていても、興味を引くために刺激的な内容になっているものもあります。多くの人が嫌悪感を抱くのではないでしょうか。同じものが何度も表示されるのも、不愉快です。その会社や商品を嫌いになる人が増えて、逆効果だと思うのですが。
ごく少数でも引っかかる人がいたら、売り上げが伸びて、広告の効果があるのでしょう。引っかかる人がいるということですね。

リキッド消費

2026年5月12日   岡本全勝

4月20日の日経新聞経済教室、久保田進彦・青山学院大学教授の「若者世代の消費行動、「リキッド消費」で流動的に」から。ものや情報があふれると、このようになるのでしょうか。

・・・「リキッド消費」という言葉をご存じだろうか。現代の消費スタイルを的確に表現した新しい概念であり、2017年に英国在住の研究者らによって提示された。日本には19年に紹介され、25年には一般向け解説書「リキッド消費とは何か」も出版された。
リキッド消費は短命で、アクセスベースで、脱物質的な消費と定義される。

短命性とは物・サービス・情報・体験の価値がそのときの場面や状況に左右されやすく、長続きしない傾向を指す。その結果、消費は移り変わりやすくなり、次々と新しいものを求めやすくなる。

アクセスベースとは、物やサービスなどを所有せずとも、その価値にアクセスできればよいとする考え方である。レンタルやシェアリング、サブスクリプション型の音楽配信などをイメージすると分かりやすい。
アクセスベース型の消費には(1)所有に伴うお金・手間・心理的な負担を避けられる(2)手が届きにくい高額な製品でも気軽に利用できる(3)気分や状況に応じて様々なものを試したり使い分けたりしやすい――といったメリットがある。

脱物質とは同じ価値や機能を得るために、物質を少ししか(あるいは全く)使わないことである。例えば写真はプリントではなくスマートフォンに保存され、現金も紙幣や硬貨ではなく電子マネーとして持つことが一般的になった。物質に頼らない生活が広がることで価値観や心理も変化している。物を持つことよりも経験や体験のほうが満足や幸福につながると感じられやすく、ぜいたくな物よりも特別な体験のほうがラグジュアリーとして価値づけられる傾向がある。

3つの特徴で、現代の消費傾向の少なからぬ部分を説明できる。物事の価値がはかないものとなり、所有に意味を感じず、形あるものを必要としなくなることで、消費は流動化し、気まぐれで移り気な様相を強めていく。リキッド消費は一時的な流行ではなくデジタル化、グローバル資本主義、プラットフォーム経済といった複数要素に支えられた中長期的現象である。

筆者は前述の3つに加えて「省力化」も重要な特徴だと考えている。ここでいう省力化とは、消費に伴う時間や労力をできるだけ少なくしようとすることである。気まぐれで移り気な消費を実現するには、時間や労力のコストを下げる必要があり、そのためには手軽さが必要となる。
現代の消費は、できるだけ時間や手間をかけない方向へと進んでいる。「おすすめ」やランキング、ワンクリック購買といった仕組みは選択や判断の負担を軽減する。また取扱説明書を読まなくても直感的に使える製品は、使用時の認知負荷を軽くする。リキッド消費の実現は省力化によって下支えされている・・・

本部の管理と店舗の主体性

2026年5月9日   岡本全勝

4月21日の日経新聞「良品計画を変えた「個店経営」」から。

・・・生活雑貨店「無印良品」を運営する良品計画。美容品などがヒットし、株価は3年間で5倍になった。新型コロナウイルス禍以前から低迷していた業績を回復させた立役者は在庫コントロール部だ。各店舗が需要を逃さず不良在庫も出にくい売り場になった。

小売業界では、収益性を追求した小型店の都心出店が増えている。流れに逆行するような郊外大型店を裏で支えている部署がある。
22年8月、良品計画は在庫コントロール部を新設した。商品計画部内にあったコントロール課を部に昇格し、経営と現場をつないで横断的に在庫を管理する専門部署とした。部署の人数は非公開だという。発足の狙いは、全店舗の販売や在庫の方針を本部主導で決める手法から、各店舗が主体性を持つ「個店経営」への転換だった。

本部が策定した商品投入などの計画を踏まえ、各店舗が販売や在庫の計画を立てる。在庫コントロール部が経営計画と売り場を連動させ、過剰在庫や欠品を抑制して個店の収益性改善を支える。在庫コントロール部は個店ごとに販売・在庫計画のベースプランを作り、坪数に応じた標準の品ぞろえや売り場づくり、陳列数量などモデルレイアウトを共有する。個店の稼ぐ力を最大化する旗振り役だ。

個店ごとに不良在庫の削減を進め、スキンケア品など利益率やリピート率の高い新商品を投入した。陳列や動線も工夫した。需要予測の精度も高まり、セールでも欠品がないように在庫を確保して人気商品が売れる仕組みを整えた。
在庫回転率は改善している。21年8月期は1年間に2.19回だったが、25年8月期は2.36回に高まった。商品数が増加し、国内を中心に売り場面積が拡大するなかでも収益性が高まっている・・・

30年間で物価は2倍に、賃金は9割に

2026年4月21日   岡本全勝

4月6日の朝日新聞に「月刊データジャーナリズム」「物価2倍超、ウナギもサンマも」が載っていました。
・・・新年度が始まりました。このタイミングで値上げされた商品やサービスも多く、買い物をしていて「高い」と感じる場面も増えたのではないでしょうか。ここ30年の消費者物価指数を振り返り、物価の変遷を追ってみました・・・

・・・近年、物価の上昇が著しい。
総務省が食品や光熱費、教育などの値段の変化を数値化した「消費者物価指数(CPI)」によると、うなぎのかば焼きの値段は1991年から2025年までに約2.5倍になった。
比較可能な387品目で調べると、上昇率が2倍を超えたのは23品目。値上げが特に大きかったのは「たばこ(国産品)」と「さんま」で約2.6倍。「灯油」が約2.5倍、「わかめ」と「水道工事費」が約2.4倍だった。全体の82%にあたる318品目が値上がりしていた。

とはいえ、ここ30年超を見渡すと、日本はバブル崩壊後の1990年代から、物価や賃金が上昇しない傾向が長く続いていた。
2010年時点で値段が上がっていたのは55%にあたる213品目。消費者物価指数の総合指数も20年代に入るまで110%を超えることはなかった。
厚生労働省の毎月勤労統計では、従業員5人以上の事業所で働く人(自営業やフリーランスを除く)の賃金を基に計算した「購買力」を示す実質賃金指数は、この間に1割ほど減った。
物価の上昇に賃金の伸びが追いついていないことを示しており、この間は「失われた30年」とも呼ばれる・・・

1991年を100とした折れ線グラフがついています。総合物価指数は120.8、光熱水費や食料は140を超えています。実質賃金指数は88.2です。