カテゴリーアーカイブ:社会と政治

女性首長「いまだゼロ」8県

2026年10月28日   岡本全勝

10月25日の朝日新聞ウェブニュースに「女性首長「いまだゼロ」8県に 岩手で誕生、人数・割合トップは東京」が載っていました。岩手県雫石町で、県内初の女性首長が生まれたことに関連してです。

・・・ 朝日新聞の調べでは、10月20日時点で市区町村長に女性がいないのは14県。このうち広島は、知事が女性だ。
富山、石川、奈良、島根、香川、愛媛、佐賀、宮崎の8県は、過去も含めていないか、いたという記録が確認できていない・・・
・・・女性のトップは、全国1741市区村長でわずか82人。最多の東京でも17.7%にとどまる。政治の世界ではまだマイノリティーだ・・・

テック企業が国家を乗っ取る

2026年8月18日   岡本全勝

7月29日の朝日新聞オピニオン欄、マリエッチェ・スハーケ(テック政策研究者)さんの「これはテック・クーデター」から。

・・・シリコンバレーなどのテック企業が、国家に並ぶ力を獲得したと言われて何年もたつ。いや、目の前で起きているのは、国家の権能自体を企業が乗っ取る「クーデター」なのだ――。元欧州議会議員でテック政策研究者のマリエッチェ・スハーケさんの訴えだ。民主主義が統制を奪い返す道は残っているのか。

―「クーデター」とはまた強い言葉ですね。
「かつて国防や諜報、インフラ開発といった領域は、公共の責任を負った政治と政府の専売特許でした。しかし今は海底ケーブルの開発・敷設から戦争での爆撃ターゲットの決定、さらには機密情報の真偽の選別までテック企業が担っています」
「有権者に選ばれたわけでもない企業が、監視や抑制もないまま、正当なプロセスを経ずに国家権力を奪取してしまっている。これはまさにクーデターです。テック企業の独善だけでなく、それを許してきた政治指導者たちも批判されるべきです」

―米起業家のイーロン・マスク氏が典型例でしょうか。
「彼は衛星通信サービス『スターリンク』のウクライナ側への提供を一時拒み、ロシア寄りの『和平案』を示しました。たった一人の富豪が地政学的な決定権を持ち、国際法を無視して自らのビジョンを世界に強制できる現実が生まれています」
「マスク氏に限りません。米データ解析大手パランティアはイランなどでの軍事作戦の選定に関与しているだけでなく、コロナ禍では『誰を優先的に治療すべきか』というトリアージまで担いました。膨大な情報と資本、独自のイデオロギーに基づき、一企業とそのCEO(最高経営責任者)が、民主的な政府を追い越して支配力を持つ社会が構想されているのです」

―なぜテック企業がここまで権力を握ったのでしょう。
「共和・民主両党とも、企業に自由を与えすぎました。『既存勢力に挑戦する革新の旗手』というナラティブ(語り)は魅力的だったのです。バイデン前政権時には独占禁止法を厳しく適用する努力をしましたが、成功を収めるに至っていません」

―欧州連合(EU)はテック企業の権力を警戒し、数々のデジタル規制を導入しました。
「EUの規制は誇るべきものですが、あまりにも後追いでした。今日はAI(人工知能)法、明日は量子法といった具合に、技術の進展をそのつど追いかける立法には限界があります。人員や予算も不足してきました。そして、競争力向上などの名目で、その規制自体が今や突き崩されようとしています」
「EUもロビー攻勢に対抗しきれていません。同僚議員が規制修正案を一度に120件も出したことがありますが、それはテック企業の提案と全く同じものでした。露骨な例ですが、私がより懸念するのは、学会や市民団体への支援といった『目に見えにくい形』でも企業の影響力が膨らんでいることです」

―対する欧州も、自前の有力なプラットフォームを持てていない弱みがあります。
「私たち欧州人は長く、規制がより良い景色をもたらすと信じてきましたが、それだけでは期待される結果を出せなかったのは事実です。自ら『作りあげる』ことへとかじを切らなければなりません。独自の技術基盤を築いて選択肢を持たなければ、真の主権は得られません」
「そもそも欧州はデジタル技術で米国に依存し、関係を信頼しすぎていました。しかし今や、テック企業だけでなく米政府までもが欧州の規制を攻撃し、EUの正統性そのものを揺さぶっています。『クーデター』が民間企業による権力の乗っ取りにとどまらず、さらに進んだ段階に入ったといえます」

法律の背景を知る

2026年7月20日   岡本全勝

民法は、大学で学びました。必須科目でした。学んでいるときは、法学一般に「無味乾燥」な学問だと思い、条文と解釈を覚えるだけで「これで学問かな」と疑問も持ちました。
団藤重光先生の法学入門も受け、各先生方は条文の意義も教えてくださったのですが。学生としては、条文と解釈、判例を覚えたら終わりで、その先は考えなかったのです。例えは悪いですが、自動車の運転技術のようなもので、身につける必要はありますが、真理を追究する学問とは別だと思ったのです。

後に、星野英一著『民法のすすめ』(1998年、岩波新書)を読んで、「なるほど、民法はこのような社会の歴史の変化に対応して、変化してきたのか」と納得しました。大学でも、「自立して平等な市民」という基本を変更した事例として、労働法制や借家人・消費者保護法制を学んだのですが。
憲法については、近代市民革命からの歴史を習うので、その変遷と意義は必須でした。それと同様に、民法も変化してきたことを理解できたのです(遅いです)。民法が社会のもめ事を解決する、社会が円滑に運用される基盤を提供する学問だと、理解できました。

本棚を整理していて、大村敦志著『民法総論』(2001年、岩波書店)を見つけました。「民法総則」(これは民法の一部)ではありません。私の関心は、社会の中の民法、社会の変化に民法はどう対応したかということです。星野先生の本の延長で買ってあったのですね。今となってはいささか古いのですが、私の関心からは問題ありません。引き続き『現代法の動態ー社会変化と法』(2014年、岩波書店)、大村敦志著『人間の学としての民法学』(2018年、岩波書店)も図書館で借りて、一部を斜め読みしました。大村先生の『民法改正を考える』(2011年、岩波新書)も本棚にあります。

法学に限らず、政治行政学や社会学で興味を引くのは、大きな変化があったときですよね。それは対象とする社会や現実が変化したときです。変化が少ないときは学者の出番は少ないです。連載「公共を創る」を書いている問題意識も、これに通じます。
歴史学が、政治史から社会史や文化史に変化してきました。政治史も権力者を中心とした見方から、政府が国民に対しどのようなサービスを提供してきたのか、それに併せて法律はどのように変化してきたのかを説明する歴史学になりませんかね。

「頑張り報われぬ」剥奪感

2026年7月20日   岡本全勝

6月24日の朝日新聞オピニオン欄、木村忠正・立教大学社会学部教授へのインタビュー「生活者2.0 「頑張り報われぬ」剥奪感抱く多数派 ネットの罠が拍車」から。

・・・ 有権者は、どんな価値観や心理から政治家に一票を投じているのか。総選挙後に大規模なウェブ調査をした立教大学の木村忠正さんは、「まじめに頑張っても報われない」という多数派の思いがいま、政治を動かしていると分析する。投票行動を左右する有権者の心理から、日本社会の地殻変動が浮かび上がる・・・

―今年2月の衆院選の直後に実施したという調査で、何が浮かび上がりましたか。
「衆院選の翌日・翌々日に、全国の18~69歳を対象にウェブ調査をし、2千以上の回答を得ました。注目したのは、有権者が投票先を決めるとき、何が影響しているのか、です」
「興味深かったのは、年齢や性別といった属性よりも、『その人がどんな価値観を持ち、どう情報を扱い、どう社会から影響を受けるか』という道徳心理や情報行動が、投票行動に強くかかわっていたことでした」

―具体的に、どんな心理や価値観が影響していましたか。
「最も印象深かったのが、日本社会を覆う『相対的剥奪(はくだつ)感』の強さでした。どの政党を支持するかを問わず、『まじめに頑張る普通の人が報われない』という不満が一様に高かった」
「そして注目すべきは、この剥奪感の出口、つまり不満を向ける先が、政治的な立場によって異なっている点です。右派は矛先を少数者やマスコミに向ける一方、左派は『社会の不平等』や『再分配をしない体制』への抗議というかたちをとっています」

―そもそも、なぜ多くの人が「自分は報われていない」と感じているのでしょうか。
「その背景には、資本主義の歴史的な転換点があると考えています。第2次世界大戦後から1980年代頃まで続いた『黄金の例外期』の終焉です」

―黄金の例外期とは?
「主要先進国で、福祉資本主義が例外的に機能していた時期のことです。戦争による富の集積のリセット、教育水準の向上、多くの人を雇用する製造業中心の高度成長という条件がそろい、日本を含む各国で分厚い中間層が形成された。この頃はアメリカでも、中位4割が全体の6割の富を持っていました」
「この中間層の経済的安定を基盤に、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といったマスメディアが国民国家の情報空間を形成しました。メディアが民主主義の基盤となり得たのは、この黄金の例外期のおかげです」
「しかし現在、富は一部の層に極端に偏在し、先進産業国における資産をみると上位10%が7割を得ている。経済学者のトマ・ピケティは、現在の富の集中は歴史的例外ではなく、資本主義の常態だと指摘します。分厚い中間層が成立していた時代こそが例外だったのです」

―この「中流の終わり」は、先の衆院選でどんな影響をもたらしたと考えますか。
「中道改革連合が惨敗したことが、その表れです。中道がスローガンとした『生活者ファースト』という言葉は、かつては均質な普通の日本人という実体を伴っていました。暗黙の前提として一億総中流の安定した生活があった時代には、生活者という概念が意味を持っていた」
「中道支持が比較的多かった60代以上は、製造業中心の産業構造、終身雇用、安定した社会保障といったシステムの恩恵を肌身で知る人々です。しかし、90年代以降に成人した就職氷河期世代やデジタルネイティブにとっては、『普通の日本人』と言われても、リアリティーのない神話のような世界でしょう。この現実を直視せずに『昭和の夢』を語っても、響かない」

希望がないと不満もない

2026年7月19日   岡本全勝

連載「公共を創る」第264回(7月9日)に、次のようなことを書きました。

NHK放送文化研究所が行っている「日本人の意識調査」「今の生活にどの程度満足していますか」という問いには、2024年では、満足している人(どちらかといえば満足しているを含め)が75%、不満だ(どちらかといえば不満だを含め)は24%です。かつてに比べ満足度が低下していますが、4人に3人が満足しています。

NHKのウェッブサイトに、博報堂生活総合研究所との座談会(2019年6月14日公開)が載っています。そこに、若者の生活満足度が上がっていることについて、次のような趣旨の発言があります。
・・・「今の生活に不満がある」ということは、「これから先良くなる可能性がある」ということであり、今よりもっといい生活があるという期待があると、今の生活に不足があると感じられてしまう。しかし、「将来が今より良くなるわけではない」と考えれば、今の生活に満足するしかなくなる。日本の行方や今後のくらし向きについて、「現状のまま特に変化はない」「同じようなもの」という回答が最も多くなっていることとあわせ考えると、「将来への期待がないから不満もない」と理解できるのではないか・・・

確かに、将来に希望や期待がないと、不満も生まれません。それが、この調査結果の「4人に3人が満足」の内容なら、喜べません。