カテゴリー別アーカイブ: 官民協働

民間委託、企業と非営利団体との違い

ダイバーシティ研究所メールマガジンVol.185(2023/10/20発行)、田村太郎さんの発言から。

・・・阪神・淡路大震災をきっかけに市民活動が法人格を得て契約の主体となって行政や企業とともに公共の担い手となることへの関心が高まり、1998年にNPO法が成立、施行しました。その後NPOと行政との「協働」が叫ばれ、委託契約を結んで公共のNPOは増えました。加藤哲夫さんはNPOが行政から委託を受けて仕事をすることは「自治の取り戻し」であるとよくおっしゃっていました。これまでは行政に公共の仕事を委託していたが、これからは当事者性と専門性の高い市民が自ら地域の課題を治めていくのだ、民間企業への委託とNPOへの委託はそもそも意味が異なる、コストを下げるための委託ではなく、これまで行政に委ねてきた自治を取り戻すプロセスなのだと。

ダイバーシティ社会を推進する上で、この「自治の取り戻し」という発想はとても重要です。行政のしくみは市民が納めた税をもとに同じ施策を公平に分配するには優れていますが、ひとりひとりのニーズに合った施策を提供するには不向きです。専門性に加え、当事者性の高いNPOが質の高い取り組みを行ってこそ、人の多様性に配慮のある社会を形成することができます。NPO法の成立・施行から25年が経ちましたが、現状はどうでしょうか。

私は自治を取り戻す装置としてのNPOの機能はこのところ後退しているように感じます。景気の後退で民間の企業も行政からの委託に次々と参入し、当事者性はおろか、専門性も低いところが価格だけで委託契約を落札していく事例が各地で起きています。阪神・淡路大震災で発見した市民活動の重要性と、自治を取り戻す装置としてのNPOの機能を改めて見つめ直し、ちがいを認め合い誰もが活躍できる社会の再構築に臨まなければならない。8月末の仙台での熱い議論から、そんな思いを新たにしました・・・

企業への委託は、「協働」とは言いませんよね。

青柳光昌さん、インパクト投資

11月25日の朝日新聞夕刊「いま聞く」は、青柳光昌・社会変革推進財団専務理事の「インパクト、新興企業どう支援」でした。
詳しくは原文を読んでいただくとして。青柳さんも、東日本大震災復興の際に、復興庁が知恵を借り助けを借りた恩人です。現在は、このような新しい仕事に挑戦しておられます。

・・・「インパクト投資」や「インパクトスタートアップ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。前者は収益と共に社会課題の解決をめざす企業への投資で、後者はそういう経営を行う新興企業をさす。規模は小さいが、確実に芽吹いている。
社会変革推進財団(Japan Social Innovation and Investment Foundation、以下SIIF)ではインパクト投資、なかでもインパクトスタートアップへの投資に力を入れている。

「インパクトはそもそも『影響を与える』という意味の英語ですが、ここでは特に『社会に良い影響を及ぼす』という意味で使っています。もともとは社会的インパクトと言っていましたが、最近では『インパクト』だけで表現することも多くなりました。インパクトスタートアップとは社会課題解決をめざす新興企業。私たちSIIFは、そのようなインパクトスタートアップに年間1億円規模で投資や助成、あるいは他の出資者とファンドをつくって、投資をしています。このようなインパクト投資も注目されていて、岸田文雄首相も施政方針演説で言及しました」
SIIF専務理事の青柳光昌さん(55)はこう話す。金銭的利益と共に社会課題の解決をめざす会社のことを「社会的企業」ともいう。どう違うのだろうか。
「ほぼ同じ意味ですが、インパクトスタートアップのほうが、より成長に焦点をあてていると言っていいでしょう」

インパクト投資は、投資全体からみれば微々たる額だ。しかし急増している。
「SIIFの調べでは2021年は1兆3204億円。20年は3287億円で、1年で4倍に伸びています。21年11月には、金融機関が合同で『インパクト志向金融宣言』を出しました。現在、メガバンク、地銀、生損保、投信会社、ベンチャーキャピタルまで42機関が分野横断的に参加しており、それだけインパクト投資が注目されているということでしょう」

環境に配慮した経営をしている企業に投資をする「エコファンド」など、同種の「社会に良いとされることをしている企業」への投資はいくつも存在した。インパクト投資はどこが違うのか。
「先ほどの『宣言』には各金融機関のトップが自ら名を連ねており、インパクト投資に向き合う本気度がより高いといえるのでは。経済的な成功だけが人生の成功ではない、社会をより良く変えることも生きがいだという若い人が増えています。私たちの投資先の一つに、保育の質の向上や保育士の負担軽減をめざし、保育施設向けICT(情報通信技術)サービスを提供する『ユニファ』があります。13年の設立で、CEO(最高経営責任者)は住友商事、CFO(最高財務責任者)は外資系金融の出身です。30代で創業あるいは転身しています。彼らは、自分たちが社会課題を解決していることに誇りを持ち、明確な成長志向があって日本発で世界進出もしたいと、夢と戦略を描いています」・・・

損保会社の協力による罹災証明迅速化

4月23日の読売新聞1面が「罹災証明 発行迅速に 自治体・損保 家屋調査一本化」を伝えていました。

・・・災害時の支援金受給などに必要な「罹災証明書」の発行手続き迅速化のため、内閣府は、自治体と損害保険会社の連携を推進する。災害時には証明書を発行する自治体と、保険金を支払う損保がそれぞれ被災家屋を調査しており、これらの一本化を進める。今年度に一部の自治体の先行事例を調査し、普及を図る。

罹災証明書は、市町村が被災家屋の状況を調査して「全壊」「半壊」などを認定する書類。災害救助法に基づく公費による応急修理や、被災者生活再建支援法に基づく支援金の受給に必要になる。
しかし、大規模災害では、しばしば自治体の調査負担の増大で発行に時間がかかる問題が指摘されてきた。例えば2019年秋に台風15号、19号などの被害に相次いで見舞われた千葉県市原市では、計約1万1500件の証明書の発行申請があり、発行まで約1か月かかる状況が生じた。
こうした中、一部で始まったのが損保会社と自治体の協力だ。三井住友海上火災保険(本社・東京)は21年から自治体向けサービスとして、水害時の保険金支払いのために調査した被災家屋の写真や被害状況を、契約者の同意の上、罹災証明書発行の資料として無償提供する協定を結んでいる。
同社によると、損害保険は調査から支払いまで最短3日で完了し、自治体の手続きよりも早い。既に全国45市町村がこのサービスを導入し、自治体によっては発行申請も同社経由で可能で、被災者による自治体への手続きは不要になる。
あいおいニッセイ同和損害保険(同)も20年、福井市と水害時の保険調査で撮影した被災家屋の画像などを提供する覚書を交わした・・・

このホームページで非営利団体との協働「NPOとの協働、地方の観光振興」、行政の企業との連携「コマツの被災地支援」を取り上げたところです。

損保会社のデータ提供による社会貢献

2月21日の読売新聞夕刊に、「防災・減災 損保データ提供」という記事が載っていました。
・・・大手損害保険各社が、災害時に自治体やボランティアへ被災データを提供する取り組みを始めている。人工知能(AI)や衛星の活用でデータの収集・分析がしやすくなった。各社の持つデータを使い、近年増えている大規模災害に備える狙いがある。
東京海上日動火災保険は1月下旬、大分、宮崎両県で震度5強を観測した地震の被災情報をNPO法人「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」に提供した。昨年末に結んだ協定に基づく初めての事例となる。市町村単位の被災データを無償で送った。
東日本大震災以降、市民の間で防災意識が強まり、大規模な災害では、数十万の規模でボランティアが集まる。これまでは、災害ニュースを基に、被害が大きそうな自治体に入って、派遣先の指示を仰いできた。最近は災害が広域にわたり、どこに行くべきかを選ぶのも難しくなっている。
損保各社は被害データを主に、保険の査定に使ってきた。適切な情報を伝えられれば、ボランティアの活動を支えられる・・・

・・・自治体の災害対策に役立ててもらおうとの動きもある。三井住友海上火災保険は、気象や位置情報を使って、災害時に人がどこに滞留しやすいかをAIで分析。地図に示して提供する実証実験を始めた。異常気象の発生を予測し、効率的な避難計画の策定につなげる・・・・

行政以外の政策実行主体

2月7日の日経新聞夕刊に、斉藤徹弥・編集委員が、「新たな官民連携「GaaS」 政策実行の主体が多様に」を書いておられます。

・・・新型コロナウイルス下で国や自治体の行政が逼迫しています。人口減少や財政難でコロナ前から人員を抑えてきたこともあり、民間のNPO法人や企業が肩代わりする場面が増えてきました。これまで自治体が担っていた政策を実行する主体が多様になり、官民連携の幅が広がっています。
ガバメント・アズ・ア・サービス(GaaS、ガース)という言葉があります。必要なときに必要な行政サービスを提供するデジタル政府を指すことが多いようですが、総務相を務めた増田寛也東大客員教授は別の意味を持たせます。
そのときに最適な交通機関を使うMaaS(マース)に倣い、行政サービスによって国や自治体、NPO、企業のうち最適な主体が実行するという考え方です・・・

記事では、次のような事例が紹介されています。一人親の子どもに食事を提供する事業について、経費を国が全額負担するのに、手を上げた市町村は1割もありません。コロナ対応で手一杯が理由だそうです。NPO法人のフローレンスは、市町村を介さずに直接NPOに予算を渡す仕組みを国に提案して、認められます。

私も、東日本大震災の際に、企業や非営利団体にさまざまな提案をいただき、また実行してもらいました。そこから考えて、連載「公共を創る」で「公私二元論から官共業三元論へ」を説明してます。