カテゴリーアーカイブ:社会

孤立しやすくなり、カウンセリングが必要とされるように

2026年7月24日   岡本全勝

7月5日の読売新聞「あすへの考」、東畑開人・臨床心理士の「カウンセリング 心のケア、人生の山越えるまで…」「人々が孤立しやすくなった結果、社会的に必要とされるように」から。
・・・様々な悩みであふれ、ストレスの多い現代社会。人生の苦難に直面するなかで、ある日突然、自身のメンタルが崩れてしまったり、身近な人が心の不調を抱えたりすることがあるかもしれない。
こうした「心の非常事態」に向き合うのが臨床心理士や公認心理師だ。どちらの資格も持ち、2026年の新書大賞を受賞した「カウンセリングとは何か 変化するということ」の著者でもある東畑開人さんは、約20年にわたり人々が抱える様々な悩みや葛藤に耳を傾けてきた。主宰する東京のカウンセリングルームを訪ね、現代を生き抜くヒントを聞いた・・・

夜眠れず、会社に出勤できない。ある日、子どもが学校に行けなくなる。この先どうしたらいいのだろうか――。
悩みを抱え、生活が危機に陥ったり、人生に行き詰まったりした時、人はカウンセリングを訪れます。病院や学校、役所など、様々な現場で働く心理士の同僚と話すと「ケアする体制が整うほど利用者が増える」などの現実を耳にします。近年、心のケアを必要とする場は増えていると感じます。
背景には、日本社会の構造変化があります。昔は地域や近所などコミュニティーの圧力が強く、いわゆる「おせっかい」が多い時代でした。自分のことは自分で決めたいのに、周囲の人が介入してくる。どう抜け出すかが人々の悩みの中心でした。
しかし、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が発生した1995年以降、社会から次第に余裕が失われていきました。人々のつながりが希薄になり、個人主義が強まった結果、「周りの人のことがよくわからない」のが今の社会です。他者に立ち入ることが難しくなり、自己責任の風潮も強まり、人々が孤立しやすくなった結果、心のケアが社会的に必要とされるようになったと認識しています。

僕はこれまで、学校のスクールカウンセラーや、精神科クリニックの心理士として働き、約10年前からは東京でカウンセリングルームを開業しています。子どもから高齢者までやって来ますが、悩みのメインはやはり「孤独」です。家族がいて仕事もあり、周りに人はたくさんいる。うまく生きているように見えるけれど、実は孤独を抱えている人たちがそれなりに多いと感じます。

心のケアには2種類あります。一つは国が福祉として対応するケアで、基本的に「いかに生き延びるか」という問題です。食事や住まい、当座のお金の確保に始まり、心に必要な手当てを行い、人権を保障し、生活を立て直すための支援が広く行われています。実際、行政には子育てや介護など様々な相談窓口があります。
一方で、「いかに生きるか」というとてもプライベートな苦悩については、僕のような民間のカウンセラーが向き合う仕事になるように思います。

心のケアは基本的に、普段の生活や人間関係のなかでなされているものです。子どもを駅まで送ってあげる、疲れている相手においしいものを作る、落ち込んでいる同僚に声をかける。これらも立派な心のケアです。カウンセリングのプロでなくとも、できることはたくさんあります。
ただ、時々それがうまくいかなくなる時があります。例えば、子どもに今までうまく接することができていたのに、ある日突然「うるせえ!」と拒否されてしまう。何かおかしなことが起きているけど、なぜかわからない。スマートフォンが原因かと思って取り上げると、余計に関係は悪化する。
こういう時、子どもの心はいつもと違っています。僕はこれを「雨の日」と呼んでいて、心理学的に対処するのが心理士の仕事です。アブノーマルな心の状態になった時、心がどう動くかといった心理学の知識を活用し、プロとしての専門性を発揮するのです。

住宅の広さ、国の目安が廃止

2026年7月14日   岡本全勝

8月20日の日経新聞に「住宅、家族向けも40〜50平米が標準に? 消えた広さの「国の目安」」が載っていました。個人の自由と言っても、いくらでも狭くてもよいのでしょうか。誰だって、それなりに広い家に住みたいです。小さな家が増えるのは、地価が高いからで、そちらを放置していることが問題でしょう。しかし、旧基準の、4人家族で50平方メートルは、狭いですね。ゆとりある生活も、趣味のものを持ち込むこともできませんね。

・・・今後の住宅のあり方を示す国の「住生活基本計画」から、広さについての目安が消えた。昨今の住宅高騰で家は狭くなるばかり。目安がなくなり、これからの住まいはどうなるだろうか。

国土交通省は今後10年の住宅政策のあり方を示す同計画を5年に1度のペースで見直している。2026年度からの最も新しい計画は3月に閣議決定された。
新しい計画には異変があった。住宅の広さについての目安が削除されたのだ。目安とは、豊かな住生活の実現に必要な「誘導居住面積水準(誘導目標)」と、必要不可欠な「最低居住面積水準(最低面積)」の2つを指す。
広さの目安は戦後の住宅不足が解消し、住宅政策を「量」から「質」へと転換するなかで1970年〜80年代につくられた。例えば都市部では家族4人で95平方メートルを目標にする。一人暮らしでは25平方メートルを最低面積とするといった内容だった。

なぜ今、削除されたのか。国交省の会議で計画の見直しにあたった東京大学教授の大月敏雄さんに尋ねると「ライフスタイルが多様化する中で国が一律の基準や目安を設ける時代じゃない。それに目安と現実が乖離している」という回答だった。

確かに誘導目標は、現代の東京の感覚からするとやや高い理想に感じる。家族4人でも都市部のマンションなら70平方メートル前後を想定する人が多いだろう。100平方メートル近い物件はそもそも数が少ない。検索サイトで100平方メートル以上の新築マンションをみると「億ション」が目につく。
一方、最低面積がなくなると狭い家に押し込まれる人が増えてしまうのではないか。大月さんは「都心部では狭くても家賃が安いなら住みたいという人もいる」と話す。「国が目安を押しつければそうした人たちの住む場所の選択肢が少なくなる」とし、「原則的には民間市場で需要と供給に合わせて決められるべきだ」と主張する・・・

記事には、2001年頃に75平方メートルを超えていた新築マンションの面積が、最近は65平方メートルまで下がっている図もついています。

経済停滞・高齢化と終身雇用の変貌

2026年7月13日   岡本全勝

かつての日本の雇用慣行は、「年功賃金、終身雇用、企業別組合」と言われていましたが、私は、「新卒一括採用、人事課による配属決定、年功人事管理、終身雇用」が特徴だったと考えています。日本の雇用慣行は、いわゆるジョブ型雇用に対するメンバーシップ型雇用です。もっとも、日本だけだそうですが。

近年、それが代わりつつあります。
早期転職と中途採用の増加は、新卒一括採用をくずし、終身雇用も揺るがしています。
人事課による配属決定は、従業員の不満を招いています。年功人事管理は、実はかつても能力と業績によって差をつけていたのですが、なるべくそれを目立たさないようにしていました。しかし、良くできる社員から管理職を選抜する方法では、真の管理職を養成しないことになり、問題を生じています。「みんな仲良く働きましょう」の班長には向いているのですが、何かを切り捨てる厳しい判断はできないのです。

そして、終身雇用も、不況期にリストラという名の首切りが行われ、崩れてしまいました。そして非正規労働者の増加は、新卒一括採用・終身雇用を一部の人に限定してしまいました。
それに生き残った従業員には、年功人事管理と終身雇用はまだ適用されているようですが、以前とは形が異なっています。
かつては、競争に勝ち残った人が幹部になり、なれなかった人は関係企業や団体に引き取ってもらい、そこでそれなりの処遇を受けました。また、企業が成長している時代は、内部での組織の拡大と関係企業などの増加が、それを引き受けました。しかし成長が止まり、さらに縮小する時代になると、引き受けてもらえなくなりました。
そして、雇用の65歳までの延長は、年長者のみんなを同じような処遇にできなくなりました。「なるべく平等に」が成り立たなくなったのです。また、「経験を積むほど技能が上がり、職位を上げて、報酬も上げるという」年功人事も、できなくなりました。

「年功賃金、終身雇用、企業別組合」と「新卒一括採用、人事課による配属決定、年功人事管理、終身雇用」は、経済成長期に形成されたのですが、その時期にのみ成り立った慣行でしょう。経済成長が止まり、年長者も抱えるには、年功の処遇はできません。組織も生き残りをかけて厳しい競争に生き残るために、管理職や幹部を意識的に養成する必要が出てきました。ここでも、年功処遇は難しくなります。

こうしてみると、かつての企業や役所の職場は「疑似ムラ」であったことがよくわかります。生活共同体です。それは良い働きをしたのですが、企業が経営を維持できなくなると、企業が機能的組織であることが顕現するのです。
それはまた、共同体に面倒を見てもらえる反面、同調を強いられ、共同体を抜けることも難しかった「集団主義」から、個人の才覚で職を代えることができる、しかしそれは自己責任である「個人主義」への転換でもあります。

出生数が減っても出生率上昇?

2026年7月6日   岡本全勝

6月16日の日経新聞に「13県で出生率上昇の喜べぬ現実 「女性流出」の地方、縮む分母」が載っていました。
・・・厚生労働省が発表した2025年の人口動態統計で13県の合計特殊出生率が前年から上昇した。10県以上の上昇は7年ぶりだ。地方の少子化は改善したのか。専門家に話を聞くと、現実には計算上の分母となる女性の流出が影響している可能性がある。

合計特殊出生率は1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す。全国的には10年連続で低下し、過去最低の1.14となった。一方、岩手県や宮崎県など13県で出生率が上昇した。出生率が上がる都道府県が生じること自体が3年ぶりだ。
ただこの3県(香川、富山、石川)を除く10県の出生数は25年も減少したままだ。

ニッセイ基礎研究所の人口動態シニアリサーチャー、天野馨南子氏は地方の現状として「20代の未婚女性が就職期に地元からいなくなり、見せかけの出生率が上がっている」と分析する。
合計特殊出生率は15〜49歳の各年齢ごとに分母をすべての女性の数、分子をその年に生まれた子どもの数として出生率を計算し、それを合計する。分母にあたる女性の数が「転出」などで減ると、出生数が増えていなくても出生率が上がる構図にある。
天野氏が人口推計と住民基本台帳人口移動報告をもとに作成した20代女性の流出率ランキングによると、出生率が上昇した13県のうち、岩手と秋田は全国ワースト5位に入る。徳島、長崎、高知、宮崎各県は20位以内で、それ以外の7県も香川などを含めすべて流出の状況だ。
出生率が上昇したとしても、地域の女性が減れば将来的な出生数の減少要因となる。岩手、秋田はこの10年間で出生数が45%以上減少した。全国平均(33.3%減)を上回るペースだ。この傾向に拍車をかけかねない。

婚姻数も出生数に影響する。全国の婚姻数は2年連続で増加した。13県で増えたのは石川、富山、静岡、滋賀の4県のみだった。
天野氏は女性の流出に連動する出生率ではなく「出生数の実数が減少している現実を直視すべきだ」と話す。地方では「結婚支援と女性の多様な雇用の創出」に力を入れるべきだと主張する・・・

平等ではトッププレーヤーは生まれない

2026年7月2日   岡本全勝

6月27日の読売新聞に「鈴木彩艶の身長伸ばすため「休養」増やしたコーチ、チーム内の反対意見に「平等ではトッププレーヤーは生まれない」」が載っていました。

・・・ガーナをルーツとする父と日本生まれの母の間に生まれた鈴木選手。Jリーグ・浦和レッズの下部組織に加入した小学生の頃から手足が長く、シュートへの反応も良かった。ただ、クラブにはプレー以外に心配なことがあった。
中学入学時の身長が約1メートル70だった鈴木選手について、クラブが両親の身長などから算出した将来の予想身長は1メートル80前後。GKは身長が大きいほどカバーできる範囲が広がり、ハイボールへの対応なども有利になる。「何もしないより、何かした方がいい」。杉尾さんが鈴木選手に提案したのは、身長を伸ばすために休養を増やすことだった。

チーム練習が週5日の中、中学1年の終わりから鈴木選手だけ休養日や、軽めのトレーニングだけで帰らせる日を設けた。チーム内には「平等ではない」という反対意見も出たが、杉尾さんは「平等ではトッププレーヤーは生まれない」と他のスタッフを説得した。
一方の鈴木選手は、練習開始1時間前にグラウンドに来て、自主練習してからチーム練習に臨むぐらいの練習好き。身長が求められることは理解しつつも、「ポジション争いで差が広がるのではないか」と不安を感じていたという。
結果的に、中学卒業時に1メートル80を超えた鈴木選手は、16歳で浦和レッズとプロ契約を結んだ・・・

平等を重んじるこれまでの日本社会への、良い警鐘です。