カテゴリーアーカイブ:教育

日本の若者「国や社会に役立つことをしたい」は少ない

2026年10月22日   岡本全勝

10月11日の読売新聞、古沢由紀子・編集委員の「進路迷う若者 視野広げる経験を」から。

・・・「医学部への進学希望が過熱している」「高収入で安定した職業の医師に人気が集中する」。日本と韓国の経済団体による交流事業で来日した韓国の高校教師たちから、そんな発言が相次いだ。半年余り前、都内で開かれた日本の教師との意見交換会の一コマだ。
韓国では難関大の入試でも高校の成績が重視される。そのため校内の競争が激化し、成績をつける教師への重圧も大きいという。
日本側の参加者から目立った反応はなかったが、医学部人気が高いのは日本も同様だ。特に理系が得意な女子の医学部志向は顕著で、理工系学部に女子学生が増えない一因とされる。
印象的だったのは、韓国の教師から「医師に優秀な学生が集中すると理工系分野が衰退し、科学技術が発展しないのではないか」と国全体への影響を懸念する声が多く聞かれたことだ。日本の学校関係者にはあまりみられない「俯瞰的」な視点のように思えた。

日本財団が6か国の17~19歳を対象に今年実施した意識調査では、「国や社会に役立つことをしたい」と答えた割合が日本の若者は最も低かった。こども家庭庁が日本と米国、ドイツ、スウェーデンなどの若者を対象に行った2023年の調査でも、「社会をよりよくするため社会問題解決に関わりたい」という日本の若者は際だって少ない。
教育評論家の尾木直樹さんはタイ、インドネシアなどの学校を視察すると「将来は国の発展に尽くす仕事をしたい」と「大志」を語る子どもに出会うという。「日本でそうした言葉を聞かないのは、社会の中でどんな役割を果たしたいかという視点で考える経験が少ないからでしょう。国情の違いもあり、希望の進路を自由に選べる環境は望ましいことではありますが」

確かに「国のため」といえば、かつての日本を想起させる。明治政府は「富国強兵」を掲げて理工系人材の育成に力を入れ、軍事力、技術力の強化を図った。
教師が主人公の小説「坊っちゃん」の発表から今年で120年の夏目漱石は、自らも教師経験を持つ。帝国大学在学中の論文では「国家の為(た)めに人間を教育するという事は理屈上感心すべき議論にあらず」と当時の風潮を批判。「教育は只(ただ)教育を受くる当人の為めにするのみにて」「人間として当人の資格を上等にしてやるに過ぎず」という訴えは時空を超えた正論だろう。

現代の若者たちには、国内外の情勢や社会の課題に触れて視野を広げ、様々な仕事の意義を考える機会がもっと必要なのだろう。その上で、希望の進路が見つかるといい。高校や大学の学びの「転換」、そして企業など地域のサポートにも期待したい・・・

手書き習慣ないが3割

2026年10月11日   岡本全勝

10月3日の読売新聞に「手書き習慣「ない」3割 文化庁調査 デジタル社会 影響」が載っていました。

・・・文化庁は2日、2025年度の「国語に関する世論調査」を公表した。文字を手書きする習慣を大切にすべきだと考える人は8割を占めたが、日常生活で手書きする機会がないと答えた人は3割に上った。専門家は社会のデジタル化による影響を指摘している。

調査は今年1~3月、全国の16歳以上の男女計6000人に郵送で行い、3777人から有効回答を得た。
日常生活で手書きする機会を尋ねたところ、ない(2・7%)、あまりない(26・7%)を合わせた「ない」は29・4%だった。世代別では、16~19歳は「ない」が11・6%だった一方、20歳代から70歳以降の各世代では「ない」が26~33%に上った。手書きについての調査は14年度にも面接方式で行っている。単純比較はできないが、手書きする機会が「よくある」は5・4ポイント減り、「あまりない」が5・8ポイント増えていた・・・

私も、ペンを使うことが少なくなりました。万年筆のインクが減りません。特に、朱は使わなくなりました。黒で書いた原稿を直す際に使っていたのです。ボールペンは3色(黒、赤、青)を使っていますが、これは手帳やメモ、原稿やゲラの修正に使っています。
字を書かなくなると、忘れてしまいますね。簡単な漢字が出てきません。指先と頭はつながっています。

日本型人材育成の課題 忖度生む教育やめよ

2026年9月15日   岡本全勝

「若い日本人の持つ能力の生かし方」の続きです。9月7日の日経新聞に、竹内弘高・国際基督教大学理事長が「日本型人材育成は忖度生む ICU理事長「正解ありきの教育は時代遅れ」」を書いておられました。紙面では「日本型人材育成の課題 忖度生む教育やめよ」という見出しです。
・・・日本は子どもの学力は高いのに経済は伸び悩んでいる。競争力の回復には、そんな「残念な」日本型人材育成をどう変えればよいか。経営学者で米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)と一橋大の双方で長く教えた竹内弘高・国際基督教大(ICU)理事長に聞いた。

―日本は子どもの学力では世界トップクラスですが国の経済成長率は低い。教育システムに問題があるのではありませんか。
「よい塾に通い、よい大学に進み、日本の大企業に入るというベルトコンベヤーのようなシステムが完全に時代遅れになっている。今やプレイングフィールド(競技場)は世界なのに、世界で戦えない子どもを育てている」
「この日本型システムは正解ありきだ。速く正解すると偏差値が上がる。生徒は塾の先生の教えを疑わない。野性味を失い、会社に入った後も忖度(そんたく)する人に育ってしまう」
「経済協力開発機構(OECD)の2024年の調査で、日本は中学生に批判的に考える必要がある課題を与える教員の割合が調査対象国・地域の中で最も少なく、ガラパゴス状態になっている。つまり批判的思考をさせていない。この問題は間違いなく大きい」

―人工知能(AI)による翻訳の精度が高まり、英語を学ぶ必要性が薄れるとの見方もあります。
「HBSの修了生はほぼ7割がスタートアップを目指すようになった。彼らにとって一番大事なのは世界中にいる投資家を説得することだ。それには投資家の共通言語である英語力が欠かせない。エレベーターピッチといって、目的階に着くまでの15秒間に投資家をがむしゃらに説得しようとする」
「英語が標準語になった理由の一つは、白黒がはっきりした非常にダイレクトな言語だからだ。レトリックも大事で、それにユーモアを組み合わせることで勝ちパターンのコミュニケーションが成立する」

―米国では大学と大学院が新産業を生む成長のエンジンになりました。
「一橋大の商学部で教員をしていた頃、日本の大企業の人事担当者に『学生を白地でください』と言われた。入社後に我々が教育するから、よい学生をそのままくださいという意味だ。そのため大学4年間をろくに勉強せずとも卒業できる傾向は今でも続いている」

―学部教育の密度の濃さが違う気がします。
「ハーバードの学部は学生に24時間体制で関わる。学生は予習し、終日授業を受ける。全寮制なので、寮に戻るとハウスマスターという指導者が授業で生じた疑問に答えてくれる。大食堂で夕食を取った後、スポーツなどの課外活動に行くと優れたコーチに教わる」
「学生が様々な場で共に過ごすことで、全員がリベラルアーツの神髄である真善美を学ぶ」

―大学院はどうですか。
「HBSでは世の中や未来を良くするために必要な問題解決力を身につける。具体的には企業の経営課題や意思決定を詳述したケースを教材にして学ぶ。2年間で約800のケースを議論する。教科書はなく正解もない。学生は仲間と脳から汗が出るほど議論する中で、自分にとっての問題解決法を体得する」
「米国の大学と大学院は卒業後も学生の成長に関わり続ける。卒業生を頻繁に集め、選ばれた最高の教員が話をする。そこで多額の寄付が集まり、ハーバードでは全体で数兆円規模の基金になる。大学に恩義を感じての遺贈も多い。日米の最大の差だ」

―AI時代の大学教育は何を大事にすべきでしょう。
「ノウイングからドゥーイングへの転換だ。知識には形式知と暗黙知がある。数値やアルゴリズムといった形式知はAIに任せていい。経験、洞察力、感情、思い、信念などの暗黙知が大事だ」
「暗黙知は実践と行動を伴う。そしてビーイングすなわち自分自身を知ることにつながる。生き方はAIには教えられない。大学はそこに力を入れるべきだ」

――具体例はありますか。
「HBSは11年から学生を海外の現場に送り出し、問題解決に取り組む授業を始めた。ケースでノウイングを学ぶだけでなく、現場でドゥーイングを学ぶ教育にした」
「2年目から選択科目になったが毎年約200人が参加する。現場の一つが日本で、東日本大震災の被災地に行く。農家などに張り付き、問題の解決策を提案する。最近では著名ブランドのヨウジヤマモトやアニメの会社の問題解決にも携わるようになり、最も人気のある授業になった」・・・

子どもの学習時間減少、背景に学ぶ意味の喪失

2026年9月13日   岡本全勝

8月24日の日経新聞「子どもの学習時間減少 背景に学ぶ意味の喪失、教育に企業の参加を」から。詳しくは原文をお読みください。
なるほどと思います。学校教育は、実社会から距離を置いていました。それは職業選択とともに、政治教育についても同様です。「蒸留した」知識を教えるのではなく、より現実を教えるべきだと思います。金融知識や、病気になったり犯罪を犯した際の知識などもです。

・・・子どもの学習時間が減少を続けていることがベネッセ教育総合研究所と東京大学の共同研究で分かった。背景に何があるのか。同研究所の岡部悟志主任研究員と東大社会科学研究所の藤原翔教授に共同で寄稿してもらった。

日本の子どもたちの学びに異変が起きている。ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所による「子どもの生活と学びに関する親子調査2025」によれば、この11年で学校外の学習時間は約2割減少した。
興味関心を持って学ぶ「勉強が好き」な子どもの割合が減り、「何のために勉強しているのかわからない」といった学ぶ意味や目的を見失っている子どもの割合が増えている。小学4〜6年生ではこの10年でほぼ倍増して4割となり、中学・高校生では半数に迫っている。
同じ子どもを追跡した分析では、学ぶ意味を見失っていた子どもほど後に学習時間を減らし、逆に学習時間が短かった子どもほど、その後学ぶ意味を見失いやすい。因果関係は速断できないが目的意識の喪失と学びからの離脱が絡み合いながら進んでいる。これはスマートフォンなどの情報機器の普及だけでは説明できない。機器の利用時間が同じくらい増えた子どもの間で、学習時間を減らしていたのは学ぶ意味を見失っていた子どもだった。

以上を踏まえれば問題は単に学習時間が減ったことではなく、子どもたちが学ぶ意味を見失い始めていることである。もっといえば社会全体が子どもに「学ぶ意味」や「未来への希望」を十分に示せなくなっている点にある。
背景には子ども自身の問題に加え社会の変化がある。かつては学校で努力し、成果を残せば将来安定した仕事や生活につながるという道筋が広く共有され、「何のために勉強するのか」という疑問に一定の答えが与えられた。しかし大学進学の大衆化や雇用の流動化、生成AI(人工知能)の登場による仕事の変化によって、その見通しは揺らいでいる。子どもは大人を通して社会を見ている。身近な大人が仕事への誇りや将来への希望を語れなければ、子どもが学びの先に未来を描くことも難しい。

一方で注目すべき変化も生まれている。小中学生とは異なり、高校生では学び自体を面白がったり、学びが実生活で役立つと感じたりする傾向が近年強まっている。高校では現在の学習指導要領で「総合的な探究の時間」が設けられ、「実社会や実生活と自己との関わりから」問いを見いだす取り組みが行われてきた。
高校生の学びが定期考査や受験だけを目的にするのではなく、社会課題や自らの将来との関連を深め、地域や企業で働く人々との出会いを通して新たな意味を獲得し始めているのだとすれば、そこには重要な示唆がある。学びが社会や未来とつながり「自分は何のために学ぶのか」を実感できた時、自ら学ぼうとする力が育ち始める。この視点に立てば子どもの教育は学校や家庭のみが抱える問題ではない。

子どもが「社会」を具体的に思い描く時、その中核にあるのは社会と接点のある職業生活であり、そこで働き生活を営む大人たちの姿だろう。それゆえ企業が教育から距離を置けば置くほど、子どもにとって社会は抽象的で遠い存在になり、「学ぶことが未来につながる」という実感も得にくくなる。
企業に期待されるのは知識や技能の伝達ではない。仕事の面白さや葛藤、失敗や挑戦、社会とのつながりを自らの経験を通して伝えることだ。エンジニアや研究者、デザイナー、営業職、起業家など多様な職業に携わる人々と出会うことは、子どもに具体的な未来を示すことになる。
高校での探究学習が成果を上げつつあるとすれば、それは高校生が社会と接点を持つことを通して、学びを現実の課題や将来と結びつけられるようになりつつあることを示しているのかもしれない・・・

図書館の二つの形

2026年9月12日   岡本全勝

東大出版会の広報誌『UP』9月号、今橋映子・阿部賢一・邵丹・沼野充義さんの座談会「いまだに死ねない文学のために(AIニモ負ケズ)――比較、翻訳、世界」で、阿部さんが次のようなことを紹介しておられます。
「現代フランスの文学研究者ウィリアム・マルクスが、『心の中の図書館』で、「図書館には二つの形がある。一つは物理的な、目に見える具体的な図書館。もう一つは、非物理的な目に見えない、心の中の図書館です。後者は、一人一人の心の中にある、これまでの読書体験や人生の記憶が積み重なって形成された、独自の文学の蓄積です。」

なるほどと思います。
人工知能が、世界中から情報を集めてくれます。世界中の本もです。それと、各人の頭の中にある情報との違い、さらには人生との違いを表しているように思えます。