カテゴリーアーカイブ:行政

内閣人事局幹部の公務員論

2026年9月13日   岡本全勝

月刊『中央公論』10月号に、青木栄一・東北大教授、北村亘・大阪大学教授、辻恭介・前内閣人事局総括参事官による座談会「内閣人事局の視点から 国家公務員の変貌とあるべき未来」が載っています。お勧めです。関心ある方は、ぜひ記事をお読みください。

青木先生と北村先生は、『現代官僚制の解剖Ⅱ』(2026年、有斐閣)を出版するなど、現在の官僚研究の第一人者です。その質問に、内閣人事局で総括参事官を務めた辻君が答え、また辻君が内閣人事局で考えていたことを語っています。
国家公務員の離職、やりがいと業務負担軽減と給与の上昇の影響、モチベーション、人材不足、特定の省の離職意思、多様化する職歴、中途採用、労働市場と公務員試験、嫌われる地方勤務、人脈づくりで地方公務員に負けていないかなどなど。最近の国家公務員の動きや志向がよくわかります。

この鼎談や『現代官僚制の解剖Ⅱ』を読むと、官僚論が変わったと感じます。かつては、官僚が国家の政策を支えていること、その誇りや権力志向、政策の作り方、関係者との調整を含めた行動論、組織内での競争などが主でした。優秀な若者(かつては男性)が国家のために官僚を目指すこと、そして就職してからは滅私奉公であることは疑われませんでした。ところが、優秀な若者が官僚を目指さなくなり、中途退職も珍しくなくなりました。「官僚の魅力」を説明しなければならなくなったのです。

記事の最後にもあるように、官僚は名前を出さなくなりました。辻君が実名で出て現状を説明し、自分の考えを述べていることは立派です。同僚や後輩たちも、見習ってほしいと思います。
なお、このような発言に対し、匿名の批判がなされることがあります。意見があるのなら、匿名で無責任な批判するのではなく、責任を持って実名で書いてほしいです。

総理の指示書と閣僚の評価

2026年9月12日   岡本全勝

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第29回「所管のみ、目標なき役所」(7月10日配信)で、次のようなことを指摘しました。
「役所の各部局には、「任務と所管」は定められていても、「目標」は与えられていない。各省設置法や組織令には任務のほか、所掌事務が詳しく書かれていますが、その目標は書かれていない。何が課題なのかを考え、それら課題に優先順位をつけ、いつまでにどのように進めるのかを考える。そして、大臣や首長の了解を取って、部下を指揮して解決に導く。それが幹部の役割だ」

9月9日の日経新聞に「内閣改造、首相指示書が占う「高市人事」」が載っていました。「指示書」と聞いても、知らない人が多いでしょう。総理は内閣発足時に、各閣僚に何をしてほしいかを紙に書いて渡します。それが指示書です。
総理の政策の重点は、国会での所信表明演説や施政方針演説で示されますが、それを各大臣に示したものと言えるでしょう。各省からすると、各省設置法による任務(各省とも広範です)の中で、この内閣が何に力を入れるかが示されることになります。

内容には具体的なものとそうでないものが含まれているようです。しかし、このように項目として指示が出されると、どこまでそれを達成したかが評価できます。もっと知られてもよいことであり、そしてこれによって閣僚を評価するべきです。

ところで、この指示書は役所の文章としては、どのような位置づけにあるのでしょうか。各大臣からは、職員に対しどのようなかたちで指示が降りてきているのでしょうか。
また、これも秘密事項以外は国民にわかるように、総理官邸のホームページなどに載せればよいと思います(すでに載っていたらごめんなさい)。「高市早苗首相の18閣僚への指示書、全文明らかに」(2025年10月23日づけ日経新聞)

政策立案での人工知能の利用

2026年9月10日   岡本全勝

9月3日の日経新聞に「霞が関にAI課長? 生産性向上に期待、官僚の役割の再設計迫る」が載っていました。機械を使うことで便利になりますが、下請けに出すことですよね。表計算や調べものなどは、効率化できると思います。しかし、企画立案に使うようでは、職員の能力向上にはなりません。難しいところです。

・・・「概算要求に関する財務省への説明にどの資料を持っていけばいいでしょうか」。8月上旬、総務省の若手官僚が問いかけると、間髪を入れずに助言が返ってきた。相談相手はパソコンの画面の向こうにいる「AI(人工知能)課長」だ。
AIが霞が関官僚の育ての親になる――。そんな未来が少しずつ現実味を帯び始めている。
総務省の事業展開技術課。デジタルインフラの海外展開などを所管する部署で今夏から嶋田信哉課長の「分身」のAIが若手官僚の教育係を担う。政策の起案から議員への説明資料の添削、他省庁との交渉術まで何でも相談できる。
AIには経歴や過去の講演資料から生活習慣まで読み込ませ、嶋田氏の仕事の進め方や政策判断の基準を再現できるようにした。所管する海底ケーブルや通信インフラの最新動向も把握する。
課長本人は海外出張で不在の場合も多い。「時間を選ばず何度でも壁打ちができる」と部下からも好評だ。
嶋田氏自身も国際会議でのプレゼン資料のたたき台作りなどを任せている。ブラックとやゆされる霞が関でも定時帰りがほとんどだ。
「下調べを頼むならAIの方が圧倒的に速い」と内閣府の幹部は語る。「部下に頼むことはだいぶ減った」・・・

・・・AIは使い方を誤れば将来の行政能力を損なうもろ刃の剣にもなる。あるベテラン官僚は「目先の生産性は上がっても次の世代を担う人材まで効率よく育つとは限らない」と懸念する。
大臣らが答弁に使うデータを集めたり、他省庁や企業との打ち合わせの準備をしたり。こうした下積みを通じて若手は霞が関特有の仕事を身につけてきた。先輩の判断を間近で学ぶ職場内訓練(OJT)が日常だった。
「答弁作成ではAIを使わないようにしている」。ある省の課長はそう言い切る。組織の経験知が細ることへの危機感が強い。「ただでさえ外注が増えている。そこにAIまで入れば、部下が自分で手を動かす機会がさらに減る」・・・

非公開の与党事前審査

2026年9月9日   岡本全勝

総理のSNS投稿は行政文書か2」の続きにもなります。
役所の意思決定にかかる文書は、保存され、情報公開の対象となります。
法律や予算については、政府決定の前に、与党審査が必要です。各省の意向だけでは決められず、与党の承認が必要です。そして、しばしばその過程で原案に修正が加えられます。

ところが、その与党審査はほぼ非公開で、記録も残されません(ですよね)。
与党審査に提出した各省の文書は、保存対象の行政文書に該当するでしょうが、それらがどの程度保存されているのか。また、与党による修正過程が残されているのか。
日本の政治を分析する際に、重要な要素だと思うのですが。

官民転職増加、技能の見える化へ

2026年9月9日   岡本全勝

8月25日の日経新聞に「脱ブラック霞が関へ」「給与減っても官僚にカムバック キャリア形成を多様化、魅力に気づき」が載っていました。

・・・2026年の人事院勧告は中央省庁の人材戦略の転換点を映した。公務員離れの打開策を、給与水準や勤務時間の改善から開放的なキャリア形成の提示にまで広げた。「選ばれる公務職場」をめざし、新人から幹部をめざす単線型の職歴の積み方を見直す。

「民間企業に出て国家公務員は国民生活に直結する仕事ができるのが魅力だと再認識した。私のように官民を行き来する人がより増えるといい」。キャリア官僚から民間に転出して出身省庁に戻り、課長級の役職に就いた浅野彰人さん(仮名)は語る。
浅野さんが民間への転出を決意したのは入省15年目だった。異業種で政策立案とは別のスキルを身につけたいと思った。新天地として選んだのは都市開発やスタジアム運営を手がける大手企業だ。開発や経理の部門などを担当した。
カフェでの会議など働き方の自由さに当初はカルチャーショックを受けた。しかし、6年ほど働いたころ、国家公務員のやりがいに気づき、戻ることを決めた。会社の役員には億単位の年収を得る人もいたが、幸せそうに見えなかった。官僚に戻って給料は3分の2に減った。不満はない。民間で培った経営の視点もいかせる。

民間から霞が関へのカムバックを考えるのは浅野さんだけではない。
公務員の経験がある人を含む民間からの志望者を対象に選考する経験者採用の数字に傾向を見てとれる。25年度の申込者数は2360人と、前年度に比べて74.7%増加した。25年度の申込者に対する倍率は4.1倍だった。
人材が霞が関の内外を行き来する開放的な制度が必要だ。事務次官や局長など幹部に就くことが成功とされる単線型のキャリア形成が多様な働き方を狭めてきた・・・

・・・さらに26年の人事院勧告は「成長できる職場の整備」をうたった。目玉の一つは官僚として得られるスキル(技能)の見える化だ。
人事院は6月、中央省庁で身につけられる57種のスキルを一覧にした。①業務②対人③課題解決の3つに分類したのが特徴だ。①は資料作成力や法令・制度への理解、②はプレゼンテーション力やリーダーシップ、③は国際的視野や課題発見力などを求める。
人事院では秋ごろから始める人事異動の希望調査で一覧の活用を始める。現時点のスキルを自覚し、どの場所であれば自分が成長できるかを判断する一助にする。一覧は一般にも公開しており、民間から官僚をめざす人も参考になる。
明治大の出雲明子教授(行政学)は「スキルを定義することにより、民間からの転職希望者が就きたいポストに求められる能力を把握しやすくなる」と話した。

海外に目を向けると、官民を行き来したキャリア形成や省内外での公募制度が定着する。米国では各省庁の上層幹部は政治任用で決まる。民間企業や法律事務所などからの指名は珍しくない。
新卒で採用して人材を育てていく日本の人事制度に近い英国や韓国でも幹部職員にはポストごとの公募制度がある。24〜25年の英国政府の調査によると、部長級以上の任用候補者の13%は直前のポストが民間だった。
韓国も組織内外から幹部ポストを公募するものの、現役官僚で合格者が占められることが多い。職務内容が特殊なため、民間志望者の職歴をどう考慮すればいいか判断が難しいからだ。人事院のスキル一覧はこうした課題の克服につなげる狙いもある。
官民交流には行政という特殊な経験を担った人材を確保できる点で民間にも利点がある。企業側にとっても受け入れ環境の整備が急務だ・・・