カテゴリーアーカイブ:行政

「希望格差社会」の20年

2026年9月26日   岡本全勝

9月10日の朝日新聞オピニオン欄、山田昌弘・中央大学教授へのインタビュー「「希望格差社会」の20年」から。
20年前の先生の指摘は、慧眼でした。私の連載「公共を創る」も、このような分析に多くを負っています。男女共同参画、働き方改革などは進んだのですが、非正規雇用という大問題は改善されず、対策も進んでいません。求められているのは、食品の消費税を2年間軽減するような政策ではありません。政治家も国民も根本的問題から目を背け、目先のパンに飛びつくようです。

・・・新自由主義が根を張った小泉政権下、山田昌弘さんは当時の世情を「希望格差社会」と名付け、きたる分断を強く危惧した。それから20年余。絶望が社会を引き裂くには至っていない。人々は怒らず、むしろ満足を深めているようだ。「このまま日本は幸福に衰退する」。ニヒリズムに満ちた警句の真意とは。

―「希望格差社会」を出版した2004年当時、どのような分断を憂慮していましたか。
「希望は『努力が報われる』と感じた時に生じ、絶望は『努力がむなしい』と感じた時に生じます。平成時代とは、将来への展望において国民が勝ち組と負け組とに分裂し、さらに社会全体からも徐々に希望が失われていく過程でした」
「戦後の高度成長期からバブル経済期までの若者は、頑張れば豊かな生活を築けるという安心感と将来への期待を持てました。『一億総中流』とは、全員が同じ生活水準という意味ではなく、努力すれば誰もが人並みの生活を実現できるという希望を表す言葉でした」
「しかしバブルが崩壊し、ほぼ同時に、グローバル化と脱工業化、情報化の波が押し寄せます。それに十分適応できなかった日本企業は正社員の雇用を守る一方、新卒採用を抑え、非正規雇用を増やしました。若い世代を調整弁にしたのです。就職氷河期世代の若者は、収入が保障され家族を養う見通しを持てる者と、将来設計を描けない者とに二極化しました」

―それが「希望」の格差につながったと?
「平成期には『経済停滞』『男女共同参画の停滞』『少子高齢化』『格差の進行』という負のトレンドが生じました。これらは相互に関連しており、その根本原因は昭和のシステム、すなわち『日本的労働慣行』と『性別役割分業型家族』から脱却できなかったことです」
「新卒一括採用、終身雇用、年功序列型賃金、手厚い福利厚生が特徴のメンバーシップ型雇用は、一度その枠に入りさえすれば、定年までの安定と右肩上がりの昇給を約束するものでした。そして家庭では、一家の大黒柱たる夫と、家事・育児を一手に担う専業主婦の妻がペアになる。政府は、この労働と家族のシステムを前提に、税や社会保障の制度を設計しました。そこから外れると様々な不利益を被る。独身者、非正規雇用者、フリーランスなどは制度の恩恵からほぼ閉め出されました」

―「昭和のシステム」の内側にいる人と、そこから排除された人の分断が、より深刻化したということですね。
「新卒時に正社員になれなかった人が年齢を重ねてから正規採用される道は極めて細くなります。平成が始まった89年には非正規の割合は19%でしたが、19年には38%に上昇します」
「そして雇用における格差は、家族を持てるかの格差にも直結しました。日本では、男性が家族を養う結婚モデルが根強く残っています。共働き世帯でもなお『夫が正規雇用、妻はパート』の組み合わせが圧倒的に多く、低収入で結婚できない男性が増えれば、結婚できない女性も増える。50歳時の未婚率は20年には男性28・3%、女性17・8%に達しています」
「かつて氷河期に不安定なレールに乗せられたロスジェネ世代の多くが、一度レールを外れたら戻れない日本型雇用のなかで家族形成の機会も阻まれ、そのまま中高年独身者という巨大な固定層を形成しているのです。格差は単に広がっただけでなく固定化し、経済も社会も完全に行き詰まった状態です」・・・この項続く

『現代官僚制の解剖Ⅱ』

2026年9月23日   岡本全勝

「内閣人事局幹部の公務員論」の続きにもなります。青木先生と北村先生は、『現代官僚制の解剖Ⅱ』(2026年、有斐閣)を、この春に出版しておられます。このホームページで紹介しなければと思いつつ、先送りして半年が経ちました。すみません。

有斐閣の広報誌「書斎の窓」9月号に、渡邉有希乃・青木栄一・北村亘・柳至さんによる座談会「誰が官僚を目指すようになったのか―『現代官僚制の解剖Ⅱ』から考える」が載ったので、そちらを紹介します。インターネットで読むことができます。もちろん本を読んでいただきたいのですが、このような座談会は本のある面を鋭く切り取る場合があります。著者たちが(あとがきに書かれていない)意図や苦労を語り、評者が異なった角度からツッコミを入れるからです。この座談会がそうです。

渡邉さんの指摘で特に興味深かったのは、次のようなものです。
官僚を考える際に二つの「断絶」を考えるべき(官僚と普通の社会人との「断絶」、昭和の官僚と平成の官僚の「断絶」)、昭和のころの(エリートで社会と会社に尽くした)銀行員との比較、パブリック・サービス・モチベーション(PSM)と組織との一体化の違い、中途退職した人との比較はできないか。

『解剖Ⅰ』については、「官僚意識調査「現代官僚制の解剖」」「執筆者たちが語る『現代官僚制の解剖』」。

避難所運営に企業

2026年9月22日   岡本全勝

9月9日の読売新聞夕刊に「熊本地震 避難所運営 企業の知恵 資材・人材手配など 進む委託 自治体 「生活再建」に集中」が載っていました。

・・・熊本地震で開設された避難所の民間委託が進んでいる。読売新聞の取材では8日時点で、11市町にある37か所のうち9割弱に上る。民間委託は、自治体職員に罹災証明書の発行など生活再建業務に集中してもらうためで、ノウハウを持つ企業や団体が運営を担い、避難者に快適に過ごしてもらう狙いもある。

1日午前、熊本県宇城市の不知火(しらぬい)防災拠点センターで、避難所の運営業務を受託する旅行大手・阪急交通社の社員らが、運び込まれた寝具のマットレスを見て、顔をほころばせた。最大震度7を観測した同市は今月から、避難所全8か所の運営を同社に委託。同社の災害時緊急対策支援チーム「DHAT(ディーハット)」のメンバー約50人が対応する。
熊本県によると、8日時点で、宇城市では計486人が避難している。DHATは、避難者やボランティアの受け付け、マットレスのような必要な資材の発注、看護師ら医療スタッフの手配などを担う。宇城市の担当者は「避難所を任せられる。今後は被災者の生活再建に向けて力を入れたい」と強調した・・・

・・・熊本県によると、8日時点で熊本、宇土、宇城、八代、氷川といった11市町37か所の避難所などに1855人が避難している。うち御船(みふね)、益城(ましき)、芦北など8市町33か所は民間が運営している。避難所となった施設の指定管理者がそのまま、業務追加で運営するケースもあった。県の担当者は「罹災証明書の発行などに職員を充てられ、被災者の一日も早い生活再建につながることが期待できる」としている。
内閣府によると、自治体は災害が発生した際、避難所を開設して食料などを提供し、被災者の生活環境の整備に努めることが、災害対策基本法で定められている。一方、人員や経験などが不足し、避難所の運営が難しい自治体もある。近年は避難所の運営を民間に委託する事例が増えている。
20年7月の九州豪雨や、24年1月の能登半島地震でも民間委託が行われた。大規模災害に備え、災害時の連携や協力に関する協定を自治体と民間企業が結ぶ動きも広がっているという・・・

大臣は業績評価でなく交代する

2026年9月20日   岡本全勝

先日、「総理の指示書と閣僚の評価」を載せました。そこで次のようなことを述べました。
・・・総理は内閣発足時に、各閣僚に何をしてほしいかを紙に書いて渡します。それが指示書です・・・内容には具体的なものとそうでないものが含まれているようです。しかし、このように項目として指示が出されると、どこまでそれを達成したかが評価できます。もっと知られてもよいことであり、そしてこれによって閣僚を評価するべきです・・・

9月17日に内閣改造が行われ、数人の大臣が交代しました。任命権は総理にあり、お一人で決めるようです。党所属国会議員にアンケートを取り、希望を聞いたとのことです。では、再任されなかった大臣は、どのような業績評価を受けたのでしょうか。知りたいところです。もっとも、よほどの失敗をしない限り更迭されることはなく、年に一度の定期異動と見ることもできます。
その点では官僚の定期異動と同じ、特に1年で交代する次官や局長と同じとも言えます。業績評価は、人事には生かされていないのです。

内閣改造の場合は、総理は各大臣の働きぶりを評価すること以上に、待機組を処遇する・処遇しなければならない事情があります。人事権は、大きな権力の源泉ですから。報道機関も、業績評価はそっちのけで、「新鮮味がない」などと評論します。
ところで、新内閣の閣僚への総理指示書は、公開されたのでしょうか。日経新聞「首相指示書の全文 18閣僚の任務とは」

自治体職員の被災自治体支援

2026年9月20日   岡本全勝

9月9日の朝日新聞に「全国自治体から2万人超 熊本地震で進化する「対口支援」 限界も」が載っていました。
・・・熊本地震の被災地に、全国から延べ2万人を超える自治体職員が派遣されている。主力は「対口(たいこう)支援」と呼ばれる仕組みで熊本県外から訪れた職員たち。被害の把握や生活再建の支援など、被災自治体が担う膨大な業務をサポートしている。

観測史上最高の39.2度を記録した8月26日の熊本県八代市。「北九州市」と書かれたファン付きベストを身に着けた職員が、3人ひと組で被災した住宅を調べていた。外壁のひび割れや傾いた柱などをタブレットで撮影し、書類に記録していく。担当するのは、住宅などの被害の程度を「半壊」「一部損壊」などと認定する調査。罹災証明書の発行の前提となり、支援金などに影響する。慎重な判断が必要だが、被災者の生活再建のためにスピードも求められる。

3人は、国が中心となって差配する対口支援「応急対策職員派遣制度」で被災地に来た。「対口」は「ぴったり合う」といった中国語に由来し、支援に入る都道府県や政令指定市を被災自治体ごとに総務省が割り振り、業務を助ける仕組みだ。
対口支援は2016年の熊本地震でも行われたが、被災地での職員の配置に偏りが出ることもあった。国は課題を踏まえ、18年に制度を正式に導入。今回は8月31日時点で、熊本県内の8市町に全国65の都道府県・市から延べ2万2035人が派遣され、主に住家被害の調査や罹災証明の対応、避難所の運営支援を担っている・・・

・・・対口支援の職員が最も多く充てられている業務が、罹災証明書の受付・発行や住家被害認定調査だ。8月30日時点で約7万件申請され、半数近くにあたる約3万2千件が交付された。
10年前の熊本地震の際は、発生約1カ月時の交付率は申請の3割ほどだった。前回地震を経験した八代市の職員は「単純に比較できないが、(他自治体からの)支援により、とても早く進んでいると感じる」と話す。
それでも、国が目標とする「罹災証明書の1カ月以内の交付」は達成できなかった。ある被災自治体の職員は「応援職員を増やせば単純に業務のスピードが上がるものでもない」と指摘する。支援側は、週単位で入れ替わっていく。そのつど研修や引き継ぎなどが必要で、増援が多すぎると受け入れ側の負担も大きくなるという。
総務省によると、全国の地方自治体の職員数は市町村合併などの影響で、この30年で15%ほど減少している。この職員は「対口支援の職員も強い使命感を持ってやってくれている。(受け入れ側も支援側も)精いっぱいの能力で調査をしているのが現状だ」と話す・・・