カテゴリーアーカイブ:行政

増える役所の仕事2

2026年8月12日   岡本全勝

増える役所の仕事」の続きです、5月に自民党行革本部に呼ばれた際に、使った資料を紹介することを忘れていました
関係者に数え直してもらうと、2001年の省庁再編時に各府省設置法に列記されていた929の所掌事務は、2026年度には1157に約2割増えています。

この40年近く、我が国は、「小さな政府」を目指して、新自由主義的改革として業務を民間に切り出したり、規制を緩和したりしてきました。その努力はほぼ行き着いたように見えます。他方で新しい社会の課題が発見され、行政需要は減るどころか、増えています。各政策について事業量を減らす努力は続けられていますが、政策課題の数の方が増えているのです。

行政学では、近代国家の変遷を次のように説明してきました。
まずは、市民生活や経済活動を自由に任せ、政府の介入は最低限にとどめる夜警国家から出発します。しかし、19世紀半ばから、新しい社会問題や都市問題への対応が必要となり、サービス国家へ転換します。その動きは20世紀に入ってさらに加速し、政府の役割が生存権の保障にまで拡大します。また、景気変動への介入を求めるケインズ経済学も採用します。このような国家は福祉国家と呼ばれ、財政規模と公務員数が膨張しました。

第二次世界大戦後、世界は経済成長に恵まれ、行政サービスはさらに拡大しました。ところが二度にわたる石油危機で、先進各国経済は不況になり、財政危機に見舞われます。1980年代には、行政活動を見直し縮小する行政改革が、先進各国の共通の政治課題となりました。新自由主義的改革は、この流れにあります。

ところが、成熟社会ではこれまでにない新しい問題が生まれ、政府の役割は再度、広がっているように見えます。この点について、行政学が分析と理論化をして、そして対処の方針そ提示することを期待しています。

官民投資のあるべき姿

2026年8月10日   岡本全勝

7月28日の日経新聞経済教室、赤井伸郎・大阪大学教授の「官民投資に役割分担の設計を、民間追随なければ失敗に」から。

・・・「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)」では、高市早苗政権の「責任ある積極財政」路線の下、17の戦略分野について官民投資ロードマップに盛り込まれた施策パッケージを着実に実行する方針が盛り込まれた。2040年度までに累計370兆円超の投資が予定される。
筆者の整理では、官民投資における役割分担は以下の5つのポイントにまとめられる。▼政府が投資予見性を高め、民間が投資実行を担う仕組み▼民間投資のボトルネック解消を政府が担う仕組み▼官民双方で需要創出を分担する仕組み▼財政措置により政府が直接的にリスクを引き受ける仕組み▼分野横断的な基盤整備により、個別分野で投資する民のリスクを軽減する仕組み――である。

官がリスクを取る際のカギは、民の投資リスクを減少させ収益性を高められるかどうかである。そうでなければ事業選定か、リスクの取り方に問題がある。重要なことは官民が適切に役割を分担しているかどうかである(図参照)。すべての施策には不確実性・リスクが伴う。官民の適切なリスク分担で、より大きな効果が期待できる。

社会には政治の変動・政策変更や自然災害など、民ではコントロールできない大きなリスクが存在する。それが原因で民が投資できない場合には、リスクを官が担うことによって将来の期待収益がプラスとなり、民間投資が可能となる。
官が担うことが望ましいかどうかは、リスクのタイプによる。政治・政策や自然災害については一般的に官が民よりも情報を持ち、リスク許容度も高いと考えられる。しかし事業性の見極めなど、本来であれば民が比較優位を持つ判断領域において官が先行してリスクを取ってしまうと、失敗につながる可能性がある。

過去の失敗事例として、官民ファンドのクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)や農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)が大きな損失を計上したケースが挙げられる。背景には公益性と収益性のトレードオフ問題に対する制度設計上の不備、事業リスクの見積もり・審査体制の甘さ、投資回収のコントロールの不備、高コストな組織運営、カントリーリスク・地政学リスクの直撃などがあったと考えられる。
官民ファンドの理念としては、政府が「アンカー出資者」としてリスクを先取りし、民間資金の呼び水となることが掲げられていた。しかし現実には政府出資比率が非常に高くなり、民間資金がほとんど追随せず、リスクが政府に一方的に集中する「呼び水効果の空洞化」が起きていた。
今回の官民投資ロードマップが前提とするリスク分担モデルはどうか。事業性の見極めが十分でないまま政府がリスク分野で先行投資を行うものの、民にとってはいまだ投資リスクが大きく、収益確保が見えないため、民間投資が追随しない――という落とし穴に陥る可能性がある・・・

・・・以下では、これまでの経験・教訓を踏まえ、より具体的に官民の役割分担の制度設計を考えてみたい。
第一に17分野を一律のリスク分担モデルで扱うのでなく▼研究開発の比率の高い分野(量子・核融合・次世代半導体など)▼大規模設備投資・量産能力構築が中心となる分野(造船能力増強や蓄電池・データセンターのインフラ整備など)――の2種類に区別する・・・
・・・第五に、意思決定主体の権限を明確化する。専門性と一定の裁量を持つプログラム責任者による機動的な判断(早期の見直し・撤退を含む)を可能にするガバナンス制度を設計する・・・
クールジャパン機構、回収率低迷6割

クールジャパン機構、回収率低迷6割

2026年8月9日   岡本全勝

7月21日の日経新聞に「統廃合検討のクールジャパン機構、回収率低迷6割 総花投資ツケ重く」が載っていました。
・・・経済産業省は官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)の統廃合に向けた検討を7月中にも始める。累積赤字は540億円に膨らみ、投資回収率は60%と他の官民ファンドに見劣りする。コンテンツの「目利き」を欠いたまま総花的な投資に走ったツケが出ている。機構は日本文化などのコンテンツ振興につながる商品やサービスの海外展開を目的に13年に発足した・・・

・・・クールジャパン機構は政府が財政投融資を使ってリスクを取り、民間投資の呼び水となることを狙う官民ファンドの一つだ。国が1406億円と出資金のおよそ9割を出している点は他のファンドと共通する。
「官民ファンドの枠組みに無理があった」。経産省幹部はこう振り返る。官民ファンドには民間が手を出しにくい投資リスクの高い案件が集まりやすい。高い利益を出せば「民業圧迫」との批判も浴びる。民間に比べ運営に一定の難しさはつきまとう。それでもクールジャパン機構の業績は他の官民ファンドに比べて悪い。
会計検査院によると、投資実行額に対する回収額の割合を示す回収率でクールジャパン機構は24年3月末時点で60.0%だった。業績不振で26年3月に解散した農林水産省所管の農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の58.5%と同水準だった・・・

・・・要因の一つが総花的な投資だ。日本のコンテンツ振興を掲げるものの、総投資額2040億円のうちメディア・コンテンツ分野は30%に過ぎない。ライフスタイル・ファッション分野が36%と最多で、ほかに食やインバウンド観光など対象は多岐にわたる。

コンテンツ産業に詳しい人材の欠如が背景にある。専修大の松本淳教授は「業界全体で目利きできる人が少ない」として、機構が優秀な人材を獲得できなかったとみる。金融出身の人材を中心に「投資成果を上げないといけない中で総花的な投資になった」と指摘する。
社長はイッセイミヤケ社長などを歴任した太田伸之氏が初代を、18年からソニー・ミュージックエンタテインメント最高経営責任者(CEO)などを歴任した北川直樹氏が務めた。21年に就任した今の川崎憲一氏は大和企業投資の社⻑を務めた経歴を持つ。
機構の投資はアジアでの百貨店事業など発足当初から苦戦を強いられたものも多い。明治大の田中秀明教授は「『損をしない』という目標ではうまくいかない。財務相は株主として国民に還元せよと収益を厳しく求めるべきだ」と強調する。
海外に比べたコンテンツ振興の司令塔機能の欠如も目立つ。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)は人材育成から資金調達、海外展開まで一括支援する。フランスはCNC(国立映画・映像センター)が映画入場に関する税金などを原資に製作を補助する・・・

女性再就職 正規雇用の壁

2026年8月7日   岡本全勝

7月19日の読売新聞「あすへの考」は、吉田尚大・編集委員の「女性再就職 正規雇用の壁」でした。

・・・女性の正規雇用率は20代後半をピークに下がり続ける。グラフに描くとL字形になることから「L字カーブ」と呼ばれる。正規雇用の女性が出産や育児を機に退職した後、再就職すると、パートなど非正規雇用になることが多いためだ。女性の活躍の機会を減らし、男女の賃金格差や女性の管理職比率の低さの一因となっているため、希望すれば正規雇用で働き続けられる環境の整備が求められる。

正規雇用比率を見ると、男性は50代後半まで70%程度を維持している。一方、女性は、35~39歳は43・6%、40~44歳は39・5%と下がり続けていく。
その影響は大きい。2026年の男女共同参画白書によると、日本の男女の賃金格差は、男性の賃金の中央値を100とした場合、女性は79・3。経済協力開発機構(OECD)諸国の女性の平均89・7と比べて差がある。企業の管理職に占める女性の割合は課長級16・1%、部長級9・3%。いずれも、正規雇用の女性の層が薄いのが一因だ。

L字カーブが生まれた歴史的背景として、周燕飛・日本女子大教授は産業構造の変化を挙げる。
1950年代半ばから始まる高度経済成長期前は、農業や自営業の世帯も多く、女性は貴重な働き手だった。畑や店舗は自宅とほぼ同じ場所にあり、働きながら育児や家事ができた。
高度経済成長期が始まると、男女とも会社で働く人が増えた。自宅と働く場が離れ、子どもが生まれると女性が育児や家事のために退職し、子育てが一段落すると教育費などのために非正規雇用で再就職する、という流れができた。
周教授は「日本には年功序列制の企業が多く、雇用の流動性が低い。中途採用市場も小さく、高学歴の女性ほど、希望に沿う業務や賃金の正規雇用の仕事を見つけにくい。欧米ならすぐに採用されるような女性が能力を発揮できないのは損失だ」と指摘する。

L字カーブの一因として、日本企業特有の「メンバーシップ型雇用」を挙げるのは、本田一成・武庫川女子大教授だ。
日本の典型的な会社員は、定期異動によって社内で様々な業務を経験し、勤続年数に応じて賃金が上がっていく。安定した雇用や賃金と引き換えに、長時間労働や転勤を受け入れるなど、企業の良きメンバーに徹していく。
メンバーにとどまるため、男性はハードな長時間労働をこなすが、早く帰宅して家事や育児をすることはできない。一方、家事や育児を担う女性の多くは、ハードな働き方はできないためにメンバーにとどまれず、退職や非正規雇用への移行を選ばざるを得ない。性別役割分担意識の強い日本では、「男性は仕事、女性は家庭」というあり方が受け入れられやすい土壌もあった。国も、会社員らの配偶者が保険料を払わなくても基礎年金を受け取れる「第3号被保険者」制度などを導入し、働く男性社員を支える妻の役割に報いた。
本田教授は「現状だと、メンバーにとどまれるのは、長時間労働をいとわない『M(Male=男性)型』の働き方ができる社員しかいない」と指摘。「生活に重点を置いた『F(Female=女性)型』の働き方をM型に取り入れ、男女とも家事や育児を担いながら働けるようにしてL字カーブを解消するべきだ」と強調する。

女性が正規雇用で働き続けられるようにして、L字カーブを解消するためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。
正社員の女性が退職する原因の一つが、長時間労働に加えて、家事・育児の負担が女性に偏り過ぎていることだ。21年の社会生活基本調査によると、女性の家事や育児の時間は1日約7時間半にも及ぶが、男性は2時間に満たない。大和総研の高須百華研究員は「負担の重さから、正社員を辞めたり、働き方の柔軟性が高い非正規雇用を選んだりするようになる。長時間労働が前提の働き方を見直し、フレックスタイム制度の導入などで働く時間を自由にするなど、夫婦とも家事・育児の時間を取れる働き方改革が必要だ」と語る。
「キャリアにつながる責任ある仕事を任せ、『目標を達成できたかどうか』を基準に、時間当たりの生産性を評価するなど、育児中の女性でも昇進できる制度が必要だ」と訴えるのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員だ。任せる仕事の質は変えずに量を調整することで、「ライフ」だけでなく「ワーク」を充実させることも、働き続ける意欲を持つには欠かせない・・・

室田哲男著『危機管理法制の可能性』

2026年8月3日   岡本全勝

室田哲男著『危機管理法制の可能性』(2026年、信山社)を紹介します。著者は、元総務省の官僚、現在は政策研究大学院大学教授です。

東日本大震災以降の災害対応や危機管理の実務経験を踏まえ、その後の危機管理法制研究の成果をまとめたものです。災害、感染症、国民保護などの危機管理法制を横断的に比較・分析し、それぞれの制度の特徴や課題を整理するとともに、危機管理法制全体の実効性向上に向けた方向性を考察しています。

我が国の危機管理は、近年急速に充実してきました。私も英文の『Public Administration in Japan』(2024年、Palgrave Macmillan)で強調しました。ところが、危機と言っても多種多様で、危機管理も異なります。それぞれに書かれたものはあるのですが、それら全体を横断的に見た本は少ないです。また、実務が変化するので、それを追いかける必要があります。研究としても、労力と分析視点が必要なのです。

これらの危機管理の多くは、地方自治体が担います。自治体関係者に有用です。お勧めします。