カテゴリーアーカイブ:行政

先進国は「投資国家」へ

2026年3月23日   岡本全勝

3月4日の日経新聞経済教室、諸富徹・京都大学教授の「高市政権の「責任ある積極財政」、財源は不透明」から。表題とは異なる部分を紹介します。

・・・首相が演説で最も力を入れたのが危機管理・成長投資による強い経済の実現だ。人工知能(AI)・半導体、造船、資源・エネルギー安全保障・グリーントランスフォーメーション(GX)など17の戦略分野に財政資源を集中投下する。17分野が経済安全保障と密接に結びつきつつ、新たな産業政策として構想されている点に高市財政の本質があると筆者は考える。
これは、近年の産業政策の世界的な潮流と軌を一にする。その国の経済にとって死活的に重要な産業分野を指定し、政府が率先してリスクを取って長期投資することで予見可能性を高め、民間投資を促す。

半導体製造能力の強化を狙って米国のバイデン政権が22年に成立させたCHIPS・科学法、脱炭素投資の推進を狙った同年のインフレ抑制法(IRA)などが代表例だ。トランプ政権はこれらを換骨奪胎しながら、ますます戦略的な産業投資を強化している。
欧州連合(EU)もグリーンおよびデジタル分野の産業育成を目指す多年度の政府投資スキーム「次世代EU」を20年に創設した。日本では政府がGX経済移行債で調達した20兆円を先行投資し、民間のGX投資を促す仕組みが該当する。
地政学的リスクが高まるなか、どの国にとってもエネルギーや重要鉱物、半導体など戦略分野の製造能力とサプライチェーン(供給網)を確保する重要性が高まっている事情がある。

これは政府の役割の大転換を意味する。これまでは産業振興のため規制緩和や法人減税をし、産業立地の条件整備を行うことが政府の役割だった。だが近年は戦略分野の産業に対し、自国内で製造能力を増強する引き換えに政府が公的資金で長期投資するという手法に切り替わった。国家は「投資国家」としての相貌を帯びるようになったのだ。
もちろん財政は拡張的になる。だが、投資国家は収支を長期で合わせる。政府はリスクを取って投資する代わりに将来、成長の果実として税収増を獲得する。税収増が投資コストを上回れば、帳尻は合う・・・

3月21日の日経新聞オピニオン欄、小竹洋之・コメンテーターの「政府の「失敗」か「不作為」か 高市首相の戦略投資はやり方次第」は、産業政策の目的を、市場の失敗の修正に限らず、市場の創造や形成にも見いだす考えがあることを紹介しています。マリアナ・マッツカート、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授によると、社会的な課題の解決を目指す「ミッション志向」の積極的な政府介入を正当化し、「最後の貸し手」にとどまらず「最初の投資家」としての役割を求めるのです。

参考首相官邸ホームページ「日本成長戦略会議

首相が語る責任

2026年3月19日   岡本全勝

3月8日の日経新聞「風見鶏」、峯岸博・編集委員の「高市首相が語る「責任」の重み」から。

・・・「首相はうかつに『責任』という言葉を使わない」。駆け出し記者だった1990年代、先輩からそう教わった。さまざまな不祥事での閣僚交代をめぐり野党から任命責任を追及されても、どの首相もかたくなに責任論をかわし続けた。
任命責任を認めるのはすなわち辞めることを意味するとの不文律があったからだ。「責任」という言葉はそれほど重かった。

日本経済新聞のデータベースで「首相」と「任命責任は私にある」をセットで検索すると、90年代はゼロ件だった。それが2010年代になると急増する。
その多くが安倍晋三政権時代だ。閣僚が辞任するたびに安倍氏は野党が拍子抜けするほどあっさり任命責任を認めた。「国民に深くおわびする」と頭を下げ、それで幕引きが図られた。
刑事責任は刑事罰を、民事責任は損害賠償などを伴うが、任命責任の場合は閣僚が辞めても首相に法的な罰や賠償は科されない。
首相は企業の経営者らとは異なり結果責任が特定されるケースも少ない。歴代政権では競うように「地方創生」や「女性活躍」が叫ばれたが、成果が見られず責任をとって誰かが辞めたという話は聞かない・・・

・・・責任ある態度で積極財政を進められるだろうか。学習院大の野中尚人教授は「中身を考え方や数字、目標、財源などとセットにして、国民に説明を尽くすのが『責任ある』の言葉が意味する本来の姿だ」と指摘する。「それができなければ無責任になる」とも話す。
責任に言及するなら未達の場合は辞める覚悟か、相手が納得するまで説明する姿勢が必要というわけだ・・・

・・・ハリウッド大学院大の佐藤綾子特任教授(パフォーマンス心理学)によると、高市首相は環境によってくるくる変化する「カメレオン型」の表現がうまい。
それによって「約束を破るのではないか、最後まで責任をとれないのではないかとの疑問がでるのを想定し、先に『責任がある』と答えておくのは世論への予防線でもある」という。大風呂敷を広げても「責任ある」と付けると安心感を与えたり、けむに巻いたりできる魔法の言葉のようだ・・・

震災デジタルアーカイブが消えてゆく

2026年3月18日   岡本全勝

3月4日の読売新聞に「東日本大震災15年 震災デジタルアーカイブが消えてゆく 約50件中10件超が閉鎖・停止」が載っていました。

・・・2011年に発生した東日本大震災の写真や動画、文書などをインターネット上で保存・公開するデジタルアーカイブが、徐々に姿を消している。経費節減や担当者の世代交代などが原因だ。持続可能なデジタルアーカイブのあり方や、データの継承が課題となっている。

東日本大震災では、数多くのデジタルアーカイブが作られた。政府が「復興構想7原則」などで、震災の記録や教訓を国内外から容易に閲覧できる仕組みの構築を示したことや、デジタルカメラが浸透し、スマートフォンも普及しつつあったことが要因だ。
国立国会図書館などへの取材や資料から、約50件は作られたことを確認できた。運営主体は、県や市町村、大学、図書館、研究機関、報道機関などが多いが、そのうち少なくとも9件が閉鎖され、2件が公開停止となっている。主な理由は、維持費やシステム更新などの経費節減、担当者の世代交代という。

2016年に公開を始めた「茨城県東日本大震災デジタルアーカイブ」は、21年度末で閉鎖した。その後、国会図書館が運営する東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」が、データを継承した。県の担当者は「システム更新の時期でもあり、資料も集まりきったので引き継いだ」と説明する。年間約140万円の維持費が削減できたという。
宮城県気仙沼市が運営していた「けせんぬまアーカイブ」は、開始から10年経過し、老朽化したサーバーの更新を行わず、24年に閉鎖した。約1万点の写真や動画などは、県と県内市町村が運営する「東日本大震災アーカイブ宮城」が引き取り、公開を続けている。

米ハーバード大ライシャワー日本研究所の「日本災害DIGITALアーカイブ」は、今夏をめどに東北大が運営する「みちのく震録伝」に引き継がれる予定だ。
当初から運営に携わるハーバード大のアンドルー・ゴードン教授は、1月に東北大で行われたシンポジウムで「私もいずれ退職する。人材が循環する中で、災害に関心のある研究者が、常にライシャワー日本研究所にいるとは限らない」と、移管する理由を語った。

六つの閉鎖アーカイブを継承している「ひなぎく」を担当する、国会図書館の小林芳幸主任司書は、「担当者や組織のトップが代替わりすると、活動が停滞してしまうアーカイブもある」と指摘する・・・

復興予算32.5兆円の内訳

2026年3月17日   岡本全勝

3月5日の朝日新聞に「東日本大震災15年」「復興予算 32.5兆円、どこからどこへ」が載っていました。

・・・国が東日本大震災と、東京電力福島第一原子力発電所事故の復興予算に投じたお金は、2024年度までで約32.5兆円になった。国民1人当たり27万円に相当する。どこから集め、どう使ったか、お金の流れから探った。

復興に使うお金は増税や国の借金「復興債」などで賄っている。24年度までの国の決算でまとめると、国の借金は約17・4兆円分増え、増税額は約7・2兆円に達した。「借金」は税収や政府保有株の売却益などで返していく。
災害復興のための増税は戦後初。復興特別所得税は今年まで2・1%、27~47年は1・1%を上乗せする方向。法人税は12年度から原則2年、10%を付加。住民税も14~23年度、納税者1人当たり年1千円を上乗せした。「今を生きる世代全体で連携し負担を分かち合う」との考えが増税の原点にある。

使い道は、防潮堤や高台移転などの「住宅再建・復興まちづくり」が約13・5兆円と最多で、「産業・なりわいの再生」は約4・5兆円。生活支援などの「被災者支援」は約2・3兆円と全体の1割弱。復興庁のまとめだ。

5年ごとに見直してきた復興予算の枠は膨らみ続ける。15年度までの「集中復興期間」は26・3兆円で、20年度までの「復興・創生期間」で32・0兆円へ。今年度で終わる「第2期復興・創生期間」で32・9兆円、次の「第3期復興・創生期間」の終わる30年度までで34・9兆円となる見込みだ・・・

情報が多すぎると伝わらない

2026年3月16日   岡本全勝

時事通信社の地方自治体向け情報サービス「iJAMP」2025年3月7日号に、岡本正弁護士の「自治体職員のための災害復興法学(5)=情報はあっても伝わらない ラストワンマイルをつなぐ災害ケースマネジメント」が載っていました(今ごろ紹介してすみません)。

・・・自治体側が情報を精力的に発信しても、被災者には伝わらず、その結果生活再建に役立つ支援制度の申請に至らず再建できない―――。その理由は、情報が多すぎること、情報が難解であること、そもそも情報が公表されていないこと、などが挙げられます。

災害復興支援の各種制度の根拠は法律です。所管する省庁の担当部局が、災害時に利用できる支援制度を情報発信します。それ自体はとても大切ですが、その量があまりに多いのです。私が内閣府出向中におきた東日本大震災では、半年間で約2000通の災害に関する「通知」「事務連絡」「お知らせ」が、各省庁から都道府県等へ発出されました。とても被災地でさばききれる情報量ではありません。

内容も特殊です。日常業務では聞いたこともない単語が次々出てきます。「災害に対する金融上の措置」(財務省等)、「被災者に係る被保険者証等の提示等について」(厚生労働省)、「被災中小企業・小規模事業者対策について」(中小企業庁)などの通知類は平時に目にすることはまずありません。市民に周知すべきものなのか、誰がどう説明するのか、判断がつかないまま、大量の情報が掲示板等にあふれて埋もれていきます。

国が自治体に通知等を発出しながら、それを公表しない場合もあります。災害救助法が適用された災害で必ず発信される通知「避難所の確保及び生活環境の整備について」(内閣府)は、国が自発的に公表しません(なお、現在公表中のものはすべて私や支援専門家らが内閣府へ働きかけて公表に至ったものです)。応援職員や被災した市町村も目にすることなく、支援の遅れ、法解釈の誤りを生んでしまったこともあります・・・