カテゴリーアーカイブ:経済

伝統的企業の企業内官僚制の悪弊

2026年7月11日   岡本全勝

6月22日の日経新聞、西條都夫・特別編集委員の「パナソニックに必要な「解体新書」」から。この官僚制(性)には、本家官僚もびっくりです。

・・・パナソニックホールディングス(HD)は今度こそ復活するのだろうか。「ザ・JTC(日本の伝統的大企業)」とも呼ばれる同社は過去40年以上足踏みを続けた。連結営業利益は昭和時代の1984年度に記録した5757億円をいまだに超えられず、ライバルのソニーグループや日立製作所に置いていかれた。成長力不足に悩む日本経済の縮図のような存在である。ところが、どうしたことか最近のパナソニックは調子がいい・・・
・・・株価上昇の要因は相場全体の上げ潮に加え、昨年来の1万人を超える人員削減と、人工知能(AI)用データセンター(DC)向け分散型電源システムの好調だが、底流では企業の体質転換も進んでいるようだ。

一つは過剰な官僚体質の是正だ。OBによると、以前の同社は煩雑なプロトコルに縛られた組織で、「役員に事業計画をプレゼンするときは、事前に課長、部長、事業部長と上げていく。そのたびにあれこれ注文がつくので、プレゼン用のパワポ資料が『ver100』を超えることもザラだった」という。稟議の承認を得るのも面談が原則。上位者が例えば長期出張中だと、ただただ待つしかなかった。
一昔前のJTCなら「あるある」かもしれないが、さすがにこれでは競争できない。ある社員は「こうした弊は改まり、組織の風通しは昔より格段によくなった。幹部の若返りも進んだ」という。
外資の経験が長く、21年にパナソニックに招かれた玉置肇副社長も「もともとセクションごとの縦割りが強く、事業部間の情報共有も不十分だった。この壁を壊すことで経営チームの一体感が生まれた」と指摘する。
ガチガチの官僚体質が普通の組織に一歩近づいた、というところだろうか・・・

再利用市場2

2026年7月10日   岡本全勝

再利用市場」の続きです。日経新聞6月9日は、川端基夫・関西学院大学名誉教授の「中古品に海外で新たな価値も」でした。
・・・日本のリユース市場(販売額)は、図1のように24年時点で3兆円を超える巨大市場に成長し、40年には5兆円に達すると予測される。筆者も今後の拡大余地は大きいとみている。その理由を4つ挙げたい。
1つ目は、中古品購入への抵抗感の低下である。20〜30歳代の若い世代は、7割以上が過去1年間に中古品を購入した経験をもつ(メルカリ総合研究所の24年調査)。世代交代で一層の市場拡大が予想される。
2つ目は、不用品売却が容易になったことである。各家庭に眠る不用品は、25年時点で90兆円を超えるという推計もある。今後はそれらがリユース市場で流通する可能性が高い。
3つ目は、リユース店の海外進出の増加である。国の内外が連動したグローバルな市場拡大が見込める。
4つ目は、訪日客による中古ブランド品への需要増加である。日本の真贋判定レベルの高さや商品のきれいさ、円安などが主な要因だ。訪日客の増加が続けば、さらなる需要拡大が見込める。
このうち1つ目と2つ目の背景には、フリマアプリの普及があるとみてよい。図2のように、リユース市場はネット上での販売が6割強、店頭販売が4割弱である。とくにフリマアプリを介した個人間売買が全体の4割を占め最大になっている。ネット取引は広域から買い手を探し出せるし、売り手の利益も多くなる。
とはいえ店舗の数も増えてきている。リユースの店舗には2種類がある。一つは近年店舗を急増させている買い取り専門店で、消費者から買い取った商品を一括して国内のオークションで同業者などに売却する。ブランド品や宝飾・貴金属の売買が主であるが、今や世界中から入札がある。
もう一つは店頭で消費者から買い取り、店頭で消費者に再販売する店である。衣料品・書籍・玩具・家電・家具・雑貨などあらゆるものが店頭で売買されている。この業態を注意深く見ると、リユース店の経営上の特徴がよく理解できる・・・

・・・先述のように、日本のリユース企業は海外市場の開拓にも力を入れる。海外店舗数は、筆者の調査ではすでに500店に迫るが、まだ成長の余地が大きいと考えられる。日本のリユース企業には、海外市場での競争優位性があるからだ。
海外店舗には(1)ブランド品などの買い取り専門店(2)幅広い商品の買い取りと再販売を行う店(3)日本の中古品を現地で販売する店――の3種がある。
(1)と(2)は現金での買い取りを行っており、それ自体が海外での競争優位性になっている。海外ではアンティーク品などを別として、中古品を現金で買い取る店が少ないからだ。

特に欧米では伝統的に寄付文化が根付いてきた。中古品は店に寄付され、販売収益は教会や慈善団体に寄付される。米国では中古品を寄付すると、寄付した中古品の金額に相当する税の控除証明が店側から発行される。消費者は、換金狙いではなく税の控除狙いで中古品を処分しているのだ。したがって、日本式の現金買い取り自体が海外では人気を呼んでいる。
また、販売面でも地元リユース店にはない優位性がある。日系リユース店は店舗が明るく清潔で、クリーニングや修理が施されたきれいな中古品が整然と並ぶ。ブランド品は、真贋判定が確かで偽物が無いことも優位性となっている。

一般に中古品は、新品よりも安いという理由だけではなく、買い手が新品と異なる新たな使用価値(効用)を見いだすことで売れる側面がある。壊れたパソコンでも修理の部品取り用として使えるし、古く汚い洗濯機も工事現場で泥汚れを洗うために売れている。
海外では、国内とはさらに異なる使用価値が見いだされることも多い。国内では、中古のひな人形や五月人形はまず売れない。縁起物には中古品はそぐわないからだ。日本人形やこけし、古びた子供用玩具も新たな価値を見いだしにくい。だが、海外ではそれらも結構売れている。ひな人形や五月人形・日本人形などには急増する現地の日本料理店のインテリアとして、日本の子供用玩具には子供がけがをしない安全な玩具としての使用価値が見いだされているからだ。
つまり、国境を越えると商品に対する意味づけや使用価値が変わり、新たな市場が生まれるのである・・・

再利用市場

2026年7月9日   岡本全勝

日経新聞経済教室は、6月8日、9日と「拡大するリユース市場」を連載していました。8日は山本晶・慶応義塾大学教授の「販価値の可視化が変える消費」でした。
・・・リユース(再利用)市場とは、中古品や未使用品が再び売買される市場を指す。中古品市場の専門紙であるリユース経済新聞によると国内のリユース市場規模は2024年で約3.3兆円と推計され、15年で約3倍に拡大した。物価高やインバウンド(訪日外国人)需要の増加など複数の要因が絡み合い、市場は活況を呈している。リユース市場では、消費者が売り手としても買い手としても参加する。

市場拡大の理由のひとつは、中古品の売り手としての消費者行動の変化である。フリマアプリの普及や中古品買い取り店の店舗拡大により、消費者の家庭にある不用品を売却するハードルが劇的に下がった。
フリマアプリは、スマートフォン一つで家庭内の余剰資源の売却を可能にする。匿名配送や人工知能(AI)による出品サポートなどの機能拡張で、利便性はさらに高まっている。
また、中古品買い取り・販売店の店舗数が増大し、消費者の生活圏内にリユースとの物理的な接点が増加していることも、市場の成長をけん引している。こうした実店舗では梱包や発送の手間をかけず、外出のついでに不用品を持ち込んで簡単に現金化できる手軽さがあり、幅広い消費者の売却行動を後押ししている。
消費者が家庭内の余剰資源を売却するようになった背景には、それまで不明瞭だった衣類やバッグなどの中古価格が、自動車や不動産のように可視化されたことも大きい。

次に、リユース品の買い手としての消費者を考える。中古品は「生活防衛のための節約」と「お得に楽しむための探索」という2つの軸で消費者から選ばれている。前述のようなリユース品との接点拡大に加え、長引く物価高による家計の圧迫も相まって、新品よりも価格が安い中古品は生活防衛の手段として広く受け入れられている。
かつては中古品に対して汚れや不具合などの悪いイメージがあったかもしれないが、日本の中古品は品質が高い。実際、日本の中古品は「Used in Japan(ユーズド・イン・ジャパン)」と呼ばれ、海外の消費者から高い評価を受けている。中古でありながら傷などが少なく、新品に近い品質を保っているためである・・・

コンサルのち、すし職人

2026年6月23日   岡本全勝

6月7日の朝日新聞に「コンサルのち、すし職人 AI時代、現場で働く」が載っていました。

・・・東京・銀座にある高級すし店「はっこく」。ひのき板で作られた三つのカウンターの一つを任されているのは、駆け出しのすし職人、深澤宏樹さん(30)だ。
慶應義塾大学を卒業後、米大手コンサルティング会社のアクセンチュアに入り、日本法人でテクノロジーを担当。港区のオフィスでIT戦略や経営戦略を語っていた。順調なキャリアに見えるが、物足りなさを感じるようになった。「ITやテクノロジーを分析する分野では世界に自分より優れた人がたくさんいる。自分の強みは何だろう、と考えるようになったんです」

学生時代にアルバイトをした時、海外の観光客にとってすしのブランド力が圧倒的だったことを思い出し、「海外ですし屋をやってみたい」という新しい目標ができた。会社勤めをしながら、すし職人養成の専門学校「東京すしアカデミー」に通った。
アカデミーの福江誠校長(58)によると、コロナ後、社長や、ITやコンサル企業に勤める会社員など、いわゆるホワイトカラー層の受講が一気に増えたという。その背景について、福江校長は「技術を身につけることが魅力的な『生存戦略』に見えるのでしょう」と語る。
5800人の卒業生のうち、およそ1割が海外で開業したり、就職したりした。「欧米の一流店で働くと年収は約2千万円に達するケースもある」と福江校長は話す・・・

・・・AIの普及で働き方はどう変わるのか。「ホワイトカラー消滅」(NHK出版新書)の著者で日本共創プラットフォーム(JPiX)会長の冨山和彦さんに聞いた。

短期的には、AIの浸透でプログラマーや総務や営業などの仕事が削られるだろう。会計士や弁護士であっても、過去の判例や学説を探すような2次情報の検索・分析はAIの独壇場になる。「中間管理職」も、AIと競合するため非常に厳しい立場に立たされる。
生き残っていける働き手には、大きく分けて二つのタイプがある。
一つは、AIを「スーパー部下」として使いこなし、プロンプト(指示)を出してグローバルな判断、的確な意思決定ができる一握りの「優秀なボス」。もう一つは、現場で自らの身体と感情、技能を使って「1次情報」を取りに行くブルーカラー的な働き手だ。人手不足なので、すでに建設現場の高度な重機オペレーターや高所作業員などは、年収1千万円を超える業種もある。
今後はエッセンシャル産業やブルーカラーとホワイトカラーの中間領域の仕事で特殊な資格、技術を持つ人びとが新たな「中産階級」を形成していくだろう。対人サービスや現場労働の集約型産業に富が集まってくる。歴史の必然とも言える。
大企業の歯車として誰に感謝されているか分からない内勤仕事より、目の前のお客さんの役に立ち、直接「ありがとう」と言われる対人労働の方が、仕事としての充実感は圧倒的に高い。人間がやるべき仕事の本質をもう一度見つめ直す、良い機会になるだろう・・・

中国の産業振興政策

2026年5月21日   岡本全勝

5月10日の読売新聞「あすへの考」、西村友作・中国対外経済貿易大学教授の「挙国体制 資金・人材を集中」から。
・・・中国は近年、電気自動車(EV)や太陽光パネルなどの幅広い分野で競争力の高い製品を生産し、世界市場で存在感を高めている。生成AI(人工知能)や人型ロボットなど新たな成長領域でも米国と技術覇権競争を繰り広げるまでになった。
経済成長の源泉となるイノベーション(技術革新)は、自由な発想や多様性のある社会が促進要因になると説明されてきた。それではなぜ中国共産党による一党支配の中国でイノベーションが次々と生み出されるようになったのか。今後どうなるのか。死角はないか。疑問は尽きない。
2002年から北京で暮らし、中国の対外経済貿易大学で研究を続ける西村友作教授に「中国式イノベーション」のメカニズムと展望を聞いた・・・

・・・中国式イノベーションは、国家が示す重点分野に企業、資金、人材が集中する「挙国体制型」が特徴です。そのプロセスは総じて同じ経過をたどります。
第1段階では、国家方針に基づく政府支援によって起業や研究開発が促進されます。重点分野には起業家や技術者が一気に入ってきて、「政府が支援しているのだから安心だ」と考えた官民の投資ファンドなどから巨額の資金が流入します。中国では企業誘致や人材獲得を巡って地方政府が競い合うので、起業や投資、開発は一層拍車がかかります。
第2段階では、比較的緩い規制の下、社会実装が進み、企業間競争が激化します。新しい技術やサービスを導入する時、日本人は100%を求めたがりますよね。中国人はミスに寛容といいますか、完璧を求めない。60%ならゴーです。まずやってみて、トライアンドエラーを繰り返しながら改善していくわけです。利用者を獲得するため、割引キャンペーンも繰り返され、それに対応できない企業は淘汰されていきます。
第3段階では、こうした「多産多死」の競争環境の中で勝ち残った企業が大規模化し、巨大企業が育ちます。政府はサービスの普及に伴って生じた問題に対処するためにそれまでの放任姿勢を改め、市場ルールの整備に乗り出します。規制強化と競争激化の中でさらに淘汰と寡占化が進み、欠かせないサービスとなって中国社会に根付いていくことになります・・・

・・・中国は今ある技術を新たな領域に応用する「1から10」と、それを世の中に広く浸透させる「10から100」が得意です。日本のデンソーが発明したQRコードをモバイル決済に応用したのはその典型例です。一方で、全く新しいものを創出する「0から1」は苦手でした。
こうした状況の転換点になったのが第14次5か年計画(21~25年)でした。研究開発費を年平均7%以上増やし、基礎研究比率を総額の8%以上まで高めること、さらに製造業の競争力を高め、製造業の質の高い発展を促進することを掲げました。国家方針の転換を受けて、イノベーションの重点分野は、それまでのデジタルサービスから先進製造業に移行しました。

3月に採択された第15次5か年計画(26~30年)では、「高度な科学技術の自立自強を加速」することを重点方針に掲げ、ゼロから新たな技術を創出する力の強化を図るとしています。
さらに「高い技術を持つ人材の移民制度を創設する」とも明記しました。トランプ米政権が科学技術関連予算を削減し、米国の研究・教育機関に動揺が広がる中で海外人材を獲得する好機と捉えているのだと思います。25年10月には科学技術分野の外国人若手人材を対象とする「Kビザ」を新設し、米国で研究者のリクルート活動を強化しています・・・