5月10日の読売新聞「あすへの考」、西村友作・中国対外経済貿易大学教授の「挙国体制 資金・人材を集中」から。
・・・中国は近年、電気自動車(EV)や太陽光パネルなどの幅広い分野で競争力の高い製品を生産し、世界市場で存在感を高めている。生成AI(人工知能)や人型ロボットなど新たな成長領域でも米国と技術覇権競争を繰り広げるまでになった。
経済成長の源泉となるイノベーション(技術革新)は、自由な発想や多様性のある社会が促進要因になると説明されてきた。それではなぜ中国共産党による一党支配の中国でイノベーションが次々と生み出されるようになったのか。今後どうなるのか。死角はないか。疑問は尽きない。
2002年から北京で暮らし、中国の対外経済貿易大学で研究を続ける西村友作教授に「中国式イノベーション」のメカニズムと展望を聞いた・・・
・・・中国式イノベーションは、国家が示す重点分野に企業、資金、人材が集中する「挙国体制型」が特徴です。そのプロセスは総じて同じ経過をたどります。
第1段階では、国家方針に基づく政府支援によって起業や研究開発が促進されます。重点分野には起業家や技術者が一気に入ってきて、「政府が支援しているのだから安心だ」と考えた官民の投資ファンドなどから巨額の資金が流入します。中国では企業誘致や人材獲得を巡って地方政府が競い合うので、起業や投資、開発は一層拍車がかかります。
第2段階では、比較的緩い規制の下、社会実装が進み、企業間競争が激化します。新しい技術やサービスを導入する時、日本人は100%を求めたがりますよね。中国人はミスに寛容といいますか、完璧を求めない。60%ならゴーです。まずやってみて、トライアンドエラーを繰り返しながら改善していくわけです。利用者を獲得するため、割引キャンペーンも繰り返され、それに対応できない企業は淘汰されていきます。
第3段階では、こうした「多産多死」の競争環境の中で勝ち残った企業が大規模化し、巨大企業が育ちます。政府はサービスの普及に伴って生じた問題に対処するためにそれまでの放任姿勢を改め、市場ルールの整備に乗り出します。規制強化と競争激化の中でさらに淘汰と寡占化が進み、欠かせないサービスとなって中国社会に根付いていくことになります・・・
・・・中国は今ある技術を新たな領域に応用する「1から10」と、それを世の中に広く浸透させる「10から100」が得意です。日本のデンソーが発明したQRコードをモバイル決済に応用したのはその典型例です。一方で、全く新しいものを創出する「0から1」は苦手でした。
こうした状況の転換点になったのが第14次5か年計画(21~25年)でした。研究開発費を年平均7%以上増やし、基礎研究比率を総額の8%以上まで高めること、さらに製造業の競争力を高め、製造業の質の高い発展を促進することを掲げました。国家方針の転換を受けて、イノベーションの重点分野は、それまでのデジタルサービスから先進製造業に移行しました。
3月に採択された第15次5か年計画(26~30年)では、「高度な科学技術の自立自強を加速」することを重点方針に掲げ、ゼロから新たな技術を創出する力の強化を図るとしています。
さらに「高い技術を持つ人材の移民制度を創設する」とも明記しました。トランプ米政権が科学技術関連予算を削減し、米国の研究・教育機関に動揺が広がる中で海外人材を獲得する好機と捉えているのだと思います。25年10月には科学技術分野の外国人若手人材を対象とする「Kビザ」を新設し、米国で研究者のリクルート活動を強化しています・・・