カテゴリーアーカイブ:社会の見方

意識の鎖国

2026年5月24日   岡本全勝

日本の投資の停滞」(4月20日)で、滝澤美帆・学習院大学教授の「日本は「イースト型」の経済成長を促せ」(4月2日の日経新聞経済教室)を紹介しました。そこには、次のようなことが書かれていました。
「日本の労働生産性(時間当たり)はこの30年間、主要先進国で最低水準にとどまり続けている。深尾京司・経済産業研究所理事長の研究によれば、1人当たり国内総生産(GDP)を基準に見ると、日本が技術フロンティアから著しく乖離した局面は鎖国下で産業革命に乗り遅れた江戸時代末期、太平洋戦争前後に続いて、1990年代以降が3度目だという」

日本が海外との交流をやめて「内向き」になった時代は、平安時代(中期以降、遣唐使船の停止)、江戸時代(鎖国)、戦時中があります。内に閉じこもると、それなりに安定した社会ができますが、外からの刺激と競争がないと残されてしまいます。
「失われた30年」は、これらと並べることができるかもしれません。
鎖国をしているわけではないのですが、特に国際化が進んだ現在では、海外で戦わないと地位が低下するのです。内に閉じこもった企業だけでなく、海外への留学生や旅行客の減少など。国民が「世界一になった」と満足したことで、海外との競争を怠ったように見えます。意識の鎖国です。第2の鎖国とも言えるかもしれません。

古代の朝鮮半島や中国との交流から始まり、南蛮貿易、明治時代と、文物や思想などを輸入することで、日本は発展してきました。それを考えると、平安時代、江戸時代、戦時中に続く、第4の鎖国なのかもしれません。
もう一つは、「先進諸国に追いつく」という「この国のかたち」が機能しなくなったことも挙げられます。目標・手本とすべき国や文明が明確でないのです。佐伯啓思先生「日本の方向を決めるのは」2

理想の家庭を掲げ、家庭を壊す宗教

2026年5月24日   岡本全勝

5月10日の朝日新聞「「理想の家庭」掲げ介入する宗教 学習院大学教授・橋迫瑞穂さんに聞く」から。
・・・東京高裁から解散を命じられた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題をきっかけに、献金による貧困や子どもへの虐待などの問題が注目されるようになりました。「家族が大事」と掲げることが多い宗教が、しばしば家族を壊してしまうのはなぜか。宗教とジェンダーや家族の関係に詳しい橋迫瑞穂さんに聞きました・・・

―高額献金による家族の困窮など「家庭が大事」と言っている宗教が家庭を崩壊させている状況が浮き彫りになりました。
今に始まった話ではありません。宗教が家族を通して平和で愛に満ちた世界を作るとうたう。教えは結婚や子育てのあり方にも及んでいく。その中で、暴力やネグレクト(育児放棄)、布教活動の強制など子どもへの虐待が起きていることは、1990年代にすでに問題視されていました。
90年代は、有名俳優の合同結婚式やオウム真理教の事件などが注目された時期です。家族問題や「2世問題」も明らかになったのですが、いつの間にか忘れ去られたように思います。そして時を経て、安倍晋三氏の銃撃事件が起きた。あの頃しきりに「このままでは危険だ」と言われていたのに、教訓として生かされなかったと思い知らされました。

―なぜ宗教は「家族」にこだわることが多いのでしょうか。
近代以降、宗教は生き方やアイデンティティーに深く関与する存在になり、特に新宗教の多くが家族の様々な問題を解決すると説いてきました。貧乏ならば、信者同士で助け合う。家族内の争いも病も、祈りや組織的な取り組みで乗り越える。そうした現実的な利益をもたらすものとして成り立ってきたのです。
教義の中でも、家族や家庭が重視されます。その結果、教団の「理想の家庭」に忠実な子育てが虐待につながったり、「世界を救うための子どもであり、あなたのものではない」という教えによってネグレクト状態になってしまったりという問題が起きてきました。

―子どもには酷ですね。
ただ、宗教が果たしてきた役割も評価すべきだと思います。新宗教が「貧・病・争」の解決を重視してきたことや、伝統宗教が児童養護施設などを経営してきたことで、家族が担えない部分を補う役割も担ってきました。プラスに働いている面も確実にあります。

―選択的夫婦別姓や同性婚、性教育に反対する宗教団体もあります。
宗教団体の運営に「伝統的な家族」の規範がフィットしている以上、「もっと自由でいい」という社会は脅威です。そして、性や生殖に関することは宗教と不可分です。性の秩序を確かなものにし、教団の世界観を広げるために介入するのは当たり前のことです。
「伝統的な家族を守る」というニーズは政治とも合致します。家族が福祉や再生産を担ってくれれば国家はそれらにお金を回す必要がないですし、国家を維持することに役に立つ。「政治と宗教のつながり」が問題視されましたが、両者の利害が一致することに何の不思議もありません。

―女性にとって不利益が大きい家族観ですよね。
「女性に役割を与える」ことに新宗教はたけています。家庭を重視する中で「それを守るのは女性なんだ」と強調してきました。新宗教団体には女性信者が多いと言われています。とはいえ、男性中心主義から逸脱しないレベルの役割です。
より深刻な問題は、生きがいを見いだした女性たちが献金での貢献にシフトしてしまうことです。自分を犠牲にしてまでお金を捧げることが生きる意味であり、自分を証明する手立てになってしまうのです。

革新的な科学の発明10

2026年5月23日   岡本全勝

5月16日の日経新聞別刷り「何でもランキング」は「人類を飛躍させた科学の発明」でした。ウエッブでは「インターネットは何位? 人類史に残る「不連続」イノベーション10選」という表題です。
・・・世界人口が雪だるま式に増えたこの300年あまり。人類の発展の背景には、それまでの常識を全く過去のものにしてしまう革新的な発明があった。人々の暮らしを変え、人類史に大きなインパクトをもたらした科学技術のイノベーションのうち、いま知っておきたいものを専門家が選んだ・・・

それによると、第1位は窒素肥料。農作物の収穫量を大幅に改善し、食糧難を乗り越えました。
第2位は、ワクチン。過去半世紀で1.5億人の子どもを救ったとのことです。
第3位は、蒸気機関。産業革命の推進力になりました。
第4位は自動車、第5位は抗生物質、第6位はインターネット、第7位は発電機、第8位は転炉、第9位はトランジスタ、第10位はマイクロコンピュータです。
みなさんなら、何を挙げますか。

コロナ禍にみる政治と専門家との関係

2026年5月22日   岡本全勝

5月17日の朝日新聞「コロナ5類から3年 いま考えるべきこと」「ワクチン開発や専門知、生かせる国へ」。
・・・新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の経験を踏まえ、いま何を考えるべきなのか。「創薬」と「政治と専門知」について、聞きました・・・

牧原出教授の発言「どれが最適解、決めるのは政治」から。
・・・コロナ禍は、政治と専門家の関係がどうあるべきか、という大きな課題を残しました。
感染拡大と医療逼迫が深刻化するなかで、東京五輪の開催の是非などをめぐり、政権と専門家の意見の対立が表面化する場面もありました。専門家が「前のめりだ」と指摘されることもありました。首相の記者会見では、同席した専門家が説明する場面が多かったため、専門家がコロナ対策を決めているかのように国民には映りました。
専門家は科学的な知見にもとづいて意見を述べる。それを採用するかどうかは政治が決める。採用しない場合は、その理由も含めて政治の側が説明する――。本来はこれが政治と専門家の関係のあり方でしょう。

感染対策と社会経済活動とどちらを重視するか。コロナ禍の後半では、医療・公衆衛生などの自然科学と、経済などの社会科学の専門家の間で意見を一つにまとめることが難しくなりました。
私自身は、別々に議論してそれぞれの「最適解」を出すやり方もあったと考えています。意見の違いを国民からも見えるようにし、最後は政治がどちらをとるか決める、というかたちです。

一方で、異なった分野の専門家と日常的に交流を深め、互いの考え方を理解することは重要だと思います。
いつ何が起きるのか、予測不能な時代です。パンデミックと大震災が同時に起きる「複合災害」も念頭に置かねばなりません。そのときに政治は、専門家のもつ「専門知(専門的知見)」を読み解く力が求められます。ポピュリズム(大衆迎合主義)では乗り切れないことは明らかで、こうした課題は、現在の高市政権にも向けられていると、私は考えます・・・

中国の産業振興政策

2026年5月21日   岡本全勝

5月10日の読売新聞「あすへの考」、西村友作・中国対外経済貿易大学教授の「挙国体制 資金・人材を集中」から。
・・・中国は近年、電気自動車(EV)や太陽光パネルなどの幅広い分野で競争力の高い製品を生産し、世界市場で存在感を高めている。生成AI(人工知能)や人型ロボットなど新たな成長領域でも米国と技術覇権競争を繰り広げるまでになった。
経済成長の源泉となるイノベーション(技術革新)は、自由な発想や多様性のある社会が促進要因になると説明されてきた。それではなぜ中国共産党による一党支配の中国でイノベーションが次々と生み出されるようになったのか。今後どうなるのか。死角はないか。疑問は尽きない。
2002年から北京で暮らし、中国の対外経済貿易大学で研究を続ける西村友作教授に「中国式イノベーション」のメカニズムと展望を聞いた・・・

・・・中国式イノベーションは、国家が示す重点分野に企業、資金、人材が集中する「挙国体制型」が特徴です。そのプロセスは総じて同じ経過をたどります。
第1段階では、国家方針に基づく政府支援によって起業や研究開発が促進されます。重点分野には起業家や技術者が一気に入ってきて、「政府が支援しているのだから安心だ」と考えた官民の投資ファンドなどから巨額の資金が流入します。中国では企業誘致や人材獲得を巡って地方政府が競い合うので、起業や投資、開発は一層拍車がかかります。
第2段階では、比較的緩い規制の下、社会実装が進み、企業間競争が激化します。新しい技術やサービスを導入する時、日本人は100%を求めたがりますよね。中国人はミスに寛容といいますか、完璧を求めない。60%ならゴーです。まずやってみて、トライアンドエラーを繰り返しながら改善していくわけです。利用者を獲得するため、割引キャンペーンも繰り返され、それに対応できない企業は淘汰されていきます。
第3段階では、こうした「多産多死」の競争環境の中で勝ち残った企業が大規模化し、巨大企業が育ちます。政府はサービスの普及に伴って生じた問題に対処するためにそれまでの放任姿勢を改め、市場ルールの整備に乗り出します。規制強化と競争激化の中でさらに淘汰と寡占化が進み、欠かせないサービスとなって中国社会に根付いていくことになります・・・

・・・中国は今ある技術を新たな領域に応用する「1から10」と、それを世の中に広く浸透させる「10から100」が得意です。日本のデンソーが発明したQRコードをモバイル決済に応用したのはその典型例です。一方で、全く新しいものを創出する「0から1」は苦手でした。
こうした状況の転換点になったのが第14次5か年計画(21~25年)でした。研究開発費を年平均7%以上増やし、基礎研究比率を総額の8%以上まで高めること、さらに製造業の競争力を高め、製造業の質の高い発展を促進することを掲げました。国家方針の転換を受けて、イノベーションの重点分野は、それまでのデジタルサービスから先進製造業に移行しました。

3月に採択された第15次5か年計画(26~30年)では、「高度な科学技術の自立自強を加速」することを重点方針に掲げ、ゼロから新たな技術を創出する力の強化を図るとしています。
さらに「高い技術を持つ人材の移民制度を創設する」とも明記しました。トランプ米政権が科学技術関連予算を削減し、米国の研究・教育機関に動揺が広がる中で海外人材を獲得する好機と捉えているのだと思います。25年10月には科学技術分野の外国人若手人材を対象とする「Kビザ」を新設し、米国で研究者のリクルート活動を強化しています・・・