理想の家庭を掲げ、家庭を壊す宗教

2026年5月24日   岡本全勝

5月10日の朝日新聞「「理想の家庭」掲げ介入する宗教 学習院大学教授・橋迫瑞穂さんに聞く」から。
・・・東京高裁から解散を命じられた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題をきっかけに、献金による貧困や子どもへの虐待などの問題が注目されるようになりました。「家族が大事」と掲げることが多い宗教が、しばしば家族を壊してしまうのはなぜか。宗教とジェンダーや家族の関係に詳しい橋迫瑞穂さんに聞きました・・・

―高額献金による家族の困窮など「家庭が大事」と言っている宗教が家庭を崩壊させている状況が浮き彫りになりました。
今に始まった話ではありません。宗教が家族を通して平和で愛に満ちた世界を作るとうたう。教えは結婚や子育てのあり方にも及んでいく。その中で、暴力やネグレクト(育児放棄)、布教活動の強制など子どもへの虐待が起きていることは、1990年代にすでに問題視されていました。
90年代は、有名俳優の合同結婚式やオウム真理教の事件などが注目された時期です。家族問題や「2世問題」も明らかになったのですが、いつの間にか忘れ去られたように思います。そして時を経て、安倍晋三氏の銃撃事件が起きた。あの頃しきりに「このままでは危険だ」と言われていたのに、教訓として生かされなかったと思い知らされました。

―なぜ宗教は「家族」にこだわることが多いのでしょうか。
近代以降、宗教は生き方やアイデンティティーに深く関与する存在になり、特に新宗教の多くが家族の様々な問題を解決すると説いてきました。貧乏ならば、信者同士で助け合う。家族内の争いも病も、祈りや組織的な取り組みで乗り越える。そうした現実的な利益をもたらすものとして成り立ってきたのです。
教義の中でも、家族や家庭が重視されます。その結果、教団の「理想の家庭」に忠実な子育てが虐待につながったり、「世界を救うための子どもであり、あなたのものではない」という教えによってネグレクト状態になってしまったりという問題が起きてきました。

―子どもには酷ですね。
ただ、宗教が果たしてきた役割も評価すべきだと思います。新宗教が「貧・病・争」の解決を重視してきたことや、伝統宗教が児童養護施設などを経営してきたことで、家族が担えない部分を補う役割も担ってきました。プラスに働いている面も確実にあります。

―選択的夫婦別姓や同性婚、性教育に反対する宗教団体もあります。
宗教団体の運営に「伝統的な家族」の規範がフィットしている以上、「もっと自由でいい」という社会は脅威です。そして、性や生殖に関することは宗教と不可分です。性の秩序を確かなものにし、教団の世界観を広げるために介入するのは当たり前のことです。
「伝統的な家族を守る」というニーズは政治とも合致します。家族が福祉や再生産を担ってくれれば国家はそれらにお金を回す必要がないですし、国家を維持することに役に立つ。「政治と宗教のつながり」が問題視されましたが、両者の利害が一致することに何の不思議もありません。

―女性にとって不利益が大きい家族観ですよね。
「女性に役割を与える」ことに新宗教はたけています。家庭を重視する中で「それを守るのは女性なんだ」と強調してきました。新宗教団体には女性信者が多いと言われています。とはいえ、男性中心主義から逸脱しないレベルの役割です。
より深刻な問題は、生きがいを見いだした女性たちが献金での貢献にシフトしてしまうことです。自分を犠牲にしてまでお金を捧げることが生きる意味であり、自分を証明する手立てになってしまうのです。