山本健太郎著「政界再編」

山本健太郎著「政界再編ー離合集散の30年から何を学ぶか」(2021年、中公新書)を紹介します。
自民党が分裂して、細川連立内閣ができたのが1993年です。それから30年近くが経ちます。その間に、政党の離合集散は目まぐるしいものがありました。
本書は、まずその歴史を通史として描きます。いや~、こんなにもたくさんの政党があったのですね。読んでいると、「そういえばこんな政党もあったなあ」と懐かしくなります。私は、二度の政権交代を間近で見ました。そのことなども思い出していました。
30年とは結構長い年月で、若い人は知らないことが多いでしょう。この本は、役に立つと思います。

他方で、衆議院選挙に小選挙区制を導入したのは、金のかからない選挙を目指すとともに、二大政党制を目指したからです。一時はそれに成功した、政権交代もできたと思えましたが、その後の歴史は二大政党制、政権交代とはまったく違った状態になりました。自民党は野党に転落しても大きな分裂はせず、民主党はバラバラになりました。
本書では、その原因を探ります。政治家たちが次の選挙で当選するために、「落ち目になった政党」を見限ります。しかし、相手の党の候補者がいる選挙区では、相手党への鞍替えは困難です。その際に検討されるのが、第三極です。第1党と第2党がせめぎ合っていると、第3党は少数でもキャスティングボートを握ることができます。第1党が絶対多数だと、第三極の出番はありません。この分析は、切れ味がよいです。
そして、今後の展望も書かれています。

思いついたことを書いておきます。
一つは政党の機能です。国民の政治意識や政治への要求(の分裂)を反映するのが、政党の役割でもあります。政党の背景に、利益や政治的主張の異なった勢力があり、それを代表するのです。かつてのイギリスの保守党と労働党がわかりやすいです。
日本のこの30年間の政党再編は、それとはどのような関係に立つのか。冷戦終了で、社会党の存立意義がなくなり、経済成長を遂げ停滞に入って労働組合も意義を失いました。政治的対立軸がなくなったのか、あるいはそれを示せない野党・言論界に責任があるのか。
もう一つは、地方組織や支持母体です。地方組織や支持母体がしっかりしておれば、このような簡単な離合集散はできないと思います。

山本健太郎君は、私が東大で客員教授として授業を持っていたときの「塾頭」の一人です。塾頭たちはその頃、大学院生で、新米教授の私を指導してくれました。