岡本全勝 のすべての投稿

政治家。計画的でなく、その場のやむ得ない決断

10月12日の日経新聞読書欄、岡崎哲二・東大教授のアダム・トゥーズ著『ナチス 破壊の経済』(みすず書房)についての書評「独戦時体制の全体像を詳述」から

・・・第2に、開戦の直接の引き金となったドイツによるポーランド侵攻は、周到に準備された「電撃戦」ではなく、ドイツ経済の切迫した状況と国際情勢の圧力の下での、やむを得ない決断だったことが強調されている。39年、国際収支の制約によってドイツの再軍備が限界に直面する一方、潜在的な敵国である英国、フランス、米国、ソ連の軍備拡張が進展し、ドイツが不利になっていく国際的な軍備バランスの中で、ヒトラーは早期開戦の決断を迫られた・・・

かつてこのホームページで、「強力な独裁者であったナポレオンもヒットラーも、信念であのような国家をつくり、対外戦争を続けたというよりは、その場その場で国民の支持を取り付け、政権を維持することを優先したとみえます。そのために、戦争を続けなければならなかったのです」と書いたことがあります。「社会はブラウン運動4

貧困専業主婦

10月10日の朝日新聞オピニオン欄、周燕飛・労働政策研究・研修機構主任研究員へのインタビュー、「貧困専業主婦のワナ」から。
・・・かつては中流家庭の象徴だった専業主婦。経済の低迷により給料が下がるなどして共働きが増えると、「勝ち組」などと称されるようになった。だが一方で、「貧困専業主婦」と呼ばれる人たちもいるという。新たな格差問題につながると指摘する周燕飛さんに聞いてみた。「貧しくても専業主婦」の何が問題なのですか?・・・

問 その存在に目が向けられてこなかった理由は何でしょう。
答 本人が自ら進んで専業主婦を選び、大きな不満を持っていないため、当事者からの訴えが少ないからでしょう・・・調査では、貧困専業主婦の3人に1人が、とても「幸せ」と感じています。

問 この問題が注目されるようになったのはなぜですか。
答 日本の人口と経済構造が変わり、「夫は外で働き、妻が家庭を守る」という専業主婦モデルが崩れつつあるからです。大卒男性の生涯賃金は、1996~97年のピーク時の8割程度に減っています。世帯の消費額から算出すると、片働きでやりくりするには、およそ年収480万円以上が必要です。しかしこの基準を満たす男性世帯主は約4割しかいません。
同じ学歴の男女が結婚する「同類婚」が増えていることもあります・・・今は晩婚化で、高学歴・高所得者同士の「パワーカップル」が増えています。低学歴同士の結婚で、専業主婦を選ぶと、貧困世帯に陥りやすくなります。

問 国が、個人の生き方に介入してもいいのでしょうか。
答 問題は、本人だけでは気づきにくい「欠乏のわな」があることです。100グラム58円の豚肉をまとめ買いするために、自転車で30分かけてスーパーに行くという女性がいました。こうした生活を繰り返していると、、金銭的な欠乏のほかに、時間の欠乏が起こり、余裕がなくなり思考も欠乏します。目先のやりくりで精一杯になると、長期的なことが考えられなくなってしまいます。このような貧困専業主婦には、意識と現実のズレをなくすために、軽い政策誘導が必要だと思います。

原文をお読みください。
最後の「国が、個人の生き方に介入してもいいのでしょうか」は、重い問いです。引きこもりの人などへの支援の場合も、議論になります。

行政化する日本政治、その2

前田健太郎・東大法学部准教授の「行政化する日本政治」の続きです。
先生は、1990年代に佐々木毅先生が、野口さんと同様に、政治思想の研究者が行政学の研究動向を批判したことを取り上げます。政党優位論への反論です。

・・・佐々木の批判の要点は、こうした政党優位論が、政治家の役割に関する不適切な理解に立っているということであった。民主政治における政治家の役割とは、ただ単に個別の政策分野で官僚に対して影響力を行使することではない。むしろ、政治家の役割とは、政党を組織することを通じて、様々な政策分野を横断する政策パッケージを提示し、その中身を他の政党との論争を通じて鍛え上げることである。族議員のように、選挙区単位、業界単位の特殊利益を代弁し、その利益を当該分野の所管官庁の予算獲得を支援することを通じて実現しようとする政治家は、本来果たすべき役割を果たしていない。政党優位論が見出したのは、「政治家の官僚化」なのである・・・

・・・1990年代以降に展開した政治主導のための諸改革の行き過ぎが忖度の問題を生み出したのではない。むしろ問題は、政治主導が、政治家同士の論争を通じた政策決定ではなく、首相の権限強化を通じたリーダーシップの行使と理解されたことにある。その帰結として、与野党間はもちろん、与党や官僚制内部においても政策を巡る論争が低調になったのである・・・

鋭い指摘です。原文をお読みください。
私も、官僚の評価の低下の原因の一つは、政策を議論しないことにあると主張しています。政策を決定するのは、内閣です。そして、決められたことを実行するのは、官僚の役割です。しかし、政治家に対し、必要な政策、選択肢としての政策を提示することも、官僚の重要な役割です。
毎日新聞「論点 国家公務員の不祥事」」「毎日新聞「論点 国家公務員の不祥事」その2

アサガオと青虫

今は、10月中旬。わが家のアサガオは、まだ花をたくさんつけています。さすがに大きな花は少なくなり、小さな花が少しになりました。今日の報告は、アサガオの花でなく、青虫です。

去年も出た青虫。今年も出ました。
1週間ほど前に気がつきました。葉っぱがなくなっていて、よく見ると大きな青虫が数匹、元気よく葉を食べています。そのうちに、花まで食べました。いくつかの茎は、葉も花もない、茎と種だけになっています。キョーコさんによると、7匹もいるそうです。
去年は突然いなくなったのですが、今年はどうなるのでしょうか。
2018年アサガオと青虫」「2018年アサガオと青虫2

台風被害、復旧の難しさ

風による大きな被害をもたらした台風15号に続き、台風19号が、各地に大雨による大きな被害をもたらしました。気象庁が、狩野川台風以来と予告した通りになってしまいました。被害に遭われた方に、お見舞い申し上げます。
被災者を救助し、避難所に入ってもらい、生活の支援をします。次に、復旧の段階に入ります。被災者にとっても、自治体にとっても、大変なことです。

ところで、私の経験では、一般の方、自治体の職員、報道関係者が、意外と気づかない「課題」があります。それは、大きく報道されることと、被災者にとって重要な課題が、ズレていることがあるのです。
道路や堤防などの公共施設は、国土交通省や自治体の土木部が経験と能力を持っています。農業被害の把握も、農水省と農政部が取り組んでくれます。それも大変なのですが。

課題は、つぎのようなものです。
・各家庭への支援。どのような支援策があるかの相談や、何に悩んでいるかの聞き取り。これは、最近までは家庭のことは「自己責任」とされ、自治体の業務ではありませんでした。しかし、公共施設の復旧も重要ですが、住民の生活再建の方がより重要なのです。
・がれきの片付け。分別しておかないと、後の作業が大変です。これについては、環境省が経験を積みました。
・ボランティアの受け入れと、配置。これも、近年経験を積み重ねてきましたが、多くの自治体と社会福祉協議会にとっては、初めてのことです。
・そして、これらの対応に当たる市町村役場への職員の応援です。

なぜ、これらの項目を、ここで挙げるのか。それは、
・これまで、各家庭の責任と町内での助け合いで対応していたことが、行政の責任になったからです。
・道路や農地は、県庁にも市町村役場にも担当部局があります。しかし、ここに上げた項目は、担当部局がないのです。危機管理課や防災課は、ここまで手が回りません。庁内で対策会議を開いても、これらの項目は担当課がないので、上がってきません。
・県庁にも、このような視点で市町村役場を応援することが、これまでなかったのです。

公共施設の被害状況は、比較的早くまとめられます。担当部局があるからです。しかし、個人の家がどの程度被災したかは、すぐには報告されません。これは、ふだんそれを担当している部局がありません。役所の目で見るのと、被災者の目で見るのとでは、すべきことが違って見えます。
また、激甚災害に指定するかどうかが報道されますが、これは公共施設の被害額が算定の基礎になります。極端なことを言えば、家屋がたくさん倒れていても、道路や堤防に被害がないと激甚災害にはならないのです。