岡本全勝 のすべての投稿

制度を所管するのか、問題を所管するのか。2

制度を所管するのか、問題を所管するのか。1」の続きです。
既存組織は、どうしても、所管している制度(法令や予算)を前提に考えます。担当職員は、その法律の逐条解説や制度の解説を読んで、勉強しています。何ができて何ができないかを、頭にたたき込んでいます。これが、正しい公務員です。
これまでにない問題が発見された場合に、既存の制度で対応できないかを検討します。解釈変更や、少々の改正でできないかです。それが難しいとなると、「既存制度ではできない」という判断になります。

法令や予算を変えるとなると、労力と時間がかかります。そして実現できるかどうか、簡単には判断できません。
ところで、時に、国会や議会の質問で「鋭い指摘」(制度を改正して対応した方がよいと考えられる指摘)が出ることがあります。しかし、前日の夕方に質問が出たら、「できません」という答弁しかできません。法令改正や予算獲得には、それなりの時間が必要なのです。

「それは、法令に書いてありません」「それは私の所管ではありません」というのが、守る公務員です。「法令や予算にないなら、考えましょう」というのが、変える公務員です。
公務員全員が、後者になることは無理です。対応策は、公務員の中を、言われたことをする人と、制度改正まで踏み込んで問題解決を考える人との、2種類に分けることです。かつての国家公務員上級職は、この考えだったのでしょう。
この項続く。

ワクチン先進国から後進国へ、萎縮した日本の行政

5月10日の日経新聞「必然だったワクチン敗戦」から。
・・・新型コロナウイルスのワクチン開発で日本は米英中ロばかりか、ベトナムやインドにさえ後れを取っている。菅義偉首相が4月、米製薬大手ファイザーのトップに直々に掛け合って必要なワクチンを確保したほどだ。「ワクチン敗戦」の舞台裏をさぐると、副作用問題をめぐる国民の不信をぬぐえず、官の不作為に閉ざされた空白の30年が浮かび上がる。

1980年代まで水痘、日本脳炎、百日ぜきといった日本のワクチン技術は高く、米国などに技術供与していた。新しいワクチンや技術の開発がほぼ途絶えるまで衰退したのは、予防接種の副作用訴訟で92年、東京高裁が国に賠償を命じる判決を出してからだ。
このとき「被害者救済に広く道を開いた画期的な判決」との世論が広がり、国は上告を断念した。94年に予防接種法が改正されて接種は「努力義務」となり、副作用を恐れる保護者の判断などで接種率はみるみる下がっていった。
さらに薬害エイズ事件が影を落とす。ワクチンと同じ「生物製剤」である血液製剤をめぐり事件当時の厚生省生物製剤課長が96年に逮捕され、業務上過失致死罪で有罪判決を受けた。責任追及は当然だったが、同省内部では「何かあったら我々が詰め腹を切らされ、政治家は責任を取らない」(元職員)と不作為の口実にされた・・・

手塚洋輔著『戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷』(2010年、藤原書店)が、この問題を取り上げ、行政がなぜ萎縮するようになったかを論じています。名著です。

高校教科書、足し算や九九を教える

5月8日の日経新聞夕刊に「高校教科書 学び直し対応」という記事が載っていました。
・・・「3×8=」「36+42=」……。来春から主に高校1年生が使う「数学Ⅰ」のある教科書には、2桁同士の足し算や引き算、九九といった演習問題が並ぶ。さまざまな事情で基礎学力が身に付かないまま高校に進学した生徒のために編集され、文部科学省の検定に合格。学習指導要領にも記載された「学び直し」のニーズの高まりに応えたものだ。
作ったのは東京書籍。数学Ⅰは難易度が異なる4種類があり、その中で最も易しいものに盛り込んだ。数学編集部の提橋正一部長が高校を訪れた際、教員が小学2年生用の算数教科書を使って教えているのを見て、必要性を強く感じた。「これまでは大学入試の方ばかりを向いて作っていた」と振り返る。

約170ページのうち、冒頭の約30ページが主に小学校の復習だ。整数の足し算と引き算から始まり、「37+28=65」などを筆算で解く方法を示す。九九では「7×5」を「7+7+7+7+7」と、7を5つ足したものだと丁寧に解説している。
続けて割り算、小数、分数、速さの求め方などを説明し、最後に中学1年で習う負の数を紹介する。項目ごとに演習問題があり、教科書に直接書き込めるよう余白を確保した。
高校の学習範囲も基礎的なものに絞り、漢字には極力ルビを振った。提橋部長によると、小中学校を休みがちだった生徒も含め、多様な学力層が在籍する通信制高校などでの採用を見込む・・・

なるほどと思うとともに、そのような学力でも小学校や中学校を卒業させることがよいのか、高校には何を求めて進学しているのか、疑問になります。
なんのための義務教育であり、なんのための高校なのでしょうか。

買って捨てる、ごみ事情

杉並区の広報誌4月15日号「特集 すぎなみビト 芸人・ごみ清掃員 滝沢秀一」から。
・・・目標はただ一つ。日本のごみ削減! お笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さんは芸人として活躍する一方で、9年前から民間のごみ清掃会社で仕事を始めました。収集現場の日常を発信したSNSが話題となり、現在は芸人と清掃員、二つの仕事をしながら、執筆や講演を通してごみについて考える大切さを伝えています。今号ではごみ清掃の仕事とごみの削減にかける思いをお聞きしました・・・

─ ほかにもごみ清掃員を始めて驚いたことはありますか?
なぜこんなものが出るのだろう? と驚くような、謎めいたごみはたくさんあります。
例えばバナナの皮はなくて中身だけとか、同じものだけが45ℓのごみ袋いっぱいに詰め込まれているとか。刃がむき出しの包丁がごみ袋に入っていたり、みそ汁がそのままごみ袋に捨てられていたりすることもあります。
水分は結構厄介で、ごみは圧縮しながら清掃車に収めるので飛び散るんですよね。僕らはこれを「ごみ汁」と呼ぶのですが、浴びると本当に臭いがとれません。また、水分は焼却時に余計なエネルギーを使うのでコストが増します。もちろんそのコストは税金から賄われます。
こういったことはあまり知られていないのではないでしょうか。生ごみは水分を多く含んでいるため、一回でもぎゅっと絞って出すことをおすすめします。

─ コロナ禍でごみそのものにも変化はありましたか?
家で過ごす時間が増えたことが影響しているのでしょう、とにかく収集してもしきれないほどごみの量が増えました。大掃除や模様替えをする人も多いようで、洋服や100円均一で買えるような収納用品が大量に出ている印象です。安く買った分、捨てることがあまり惜しくないのかもしれません。ご
みと日々向き合っていると、「安く買ってすぐに捨てる」というサイクルが私たちの社会では当たり前になっているのかな? という気がします。

制度を所管するのか、問題を所管するのか。1

広い視野と行動力、岡本行夫さん」の続きにもなります。
公務員にとって、広い視野と狭い視野との違いは何か、どうして生まれるのでしょうか。その一つの答として、「制度を所管するのか、問題を所管するのか」の違いに、思い至りました。

広い視野の反対の一つが、「法令に書いてありません」「予算にありません」「それは私の所管ではありません」という公務員のセリフです。これはこれで、正しいのです。法律に基づいて仕事をする公務員としては。
しかし、困っている住民からすると、これでは答えになりません。社会の問題を取り上げ解決するのが公務員の役割なら、思考と視野を所管の範囲に狭めてはこまります。

その基にあるのが、制度を所管するのか、問題を所管するのかの、思考の違いです。
ある課題について、制度(法令、予算)を所管していると考えると、その制度の範囲内で処理しようと考えます。それに対して、問題の解決を所管していると考えると、今ある制度を超えて、どのようにしたらその問題を解決できるかを考えるでしょう。

東日本大震災からの復興で、被災者支援本部と復興庁が、これまでにないことに取り組んだのも、これで理解できます。これらの組織は、制度を所管しているのではなく、被災者支援と被災地の復興が任務だったからです。
この項続く