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見えにくい仕事能力の育成と評価

成果の見えやすい仕事と見えにくい仕事」の続きです。

・・・このことを一般向けに解説したものとして、組織の経済学の分野で著名なジョン・ロバーツ米スタンフォード大教授による「現代企業の組織デザイン」を挙げておこう。米国企業の実例を基に、見える仕事にだけ焦点を当てた成果主義の弊害、内発的動機付けと長期雇用の重要性を指摘した。
経済環境の変動に対応して、労働資源が最も必要とされる産業や企業に効率的に投入されるには、円滑な労働移動が重要だ。一方、労働資源が投入される職場で最も効率的に活用されることも重要だ。

後者の点では、見えにくい仕事にインセンティブを与えるには、働く場所を移動すると報酬が下がる仕組みが必要となる。もし移動してもすぐに同じ報酬が得られるならば、契約で明示されておらず、しかもその成果が見えない仕事に頑張ろうとはしないからだ。
また見えにくい仕事は前もって約束しにくく、定型化しにくい。人間に優位性があるのは定型化しにくい仕事だ。事前に明確にできないことに柔軟に対応することに、人間の優位性と労働者を雇用するメリットがある。明確にできる仕事は機械に代わられ、外部に委託され、労働者を雇う必要性が小さい。雇われても対価は高くないことが多い・・・

・・・どこにでも役立つ一般的技能は労働者の生産性のコアだ。古典的な人的資本理論では、一般的技能の習得費用は労働者個人が負担すると考えられていた。にもかかわらず、外国語学習のように一般的技能の習得を企業が支援してきたのは、従業員が長期的に貢献してくれるという期待があったからだ。それが失われるならば、自分で自分に投資する金銭的余裕のない者は能力の向上が妨げられる。
これは企業が抱え込みたい優秀な人材は会社から能力向上の機会を与えられる一方、そうでない人は機会に恵まれないことになり、二分化が進むことを意味する。実際、短時間労働者の推移をみると、どの国でも女性での割合が高い(図2参照)・・・

成果の見えやすい仕事と見えにくい仕事

9月13日の日経新聞経済教室、江口匡太・中央大学教授の「70歳雇用時代の正社員改革(下) 能力評価、中高年活用の鍵」から

・・・人事管理の問題の一つは働きぶりをどう評価するかだ。仕事には成果が見えやすいものと見えにくいものがある。もし労働者の仕事ぶりや労働サービスの成果が見えるなら、その仕事自体を外部に発注できる。例えば不動産登記や税務に関わる文書作成、広告や印刷物のデザイン、オフィスの清掃や警備は、労働者を直接雇用するより外部の業者に委託されることが多い。
成果の見える仕事ばかりならば、企業の存在理由を初めて考えたノーベル経済学賞受賞者のロナルド・コースの推論のように、究極的にはすべての仕事を個人事業主に外注することも可能だ。だが現実は異なる。主要7カ国(G7)諸国などでは、経営者や自営業者といった雇用されない働き方は就業者全体の1割程度にすぎない(図1参照)。

労働者が雇用されるのは外部に簡単には発注できない仕事があるからだ。とりわけ成果が見えにくいものは、契約で約束できず外部に発注しにくい。そのため労働者を直接雇用して、成果の見えにくい作業をさせることになる。成果が見えにくい仕事は、短期的にインセンティブ(誘因)を与えるのも簡単ではない。
いくつか例を挙げよう。将来に向けて必要な投資や人材育成は、効果が見えるまで時間がかかる。製品の生産量やサービスの提供時間といった数量は見えやすいが、製品・サービスの品質や顧客満足度は見えにくい。重要なノウハウや企業機密を守っているかどうかも知りようがない。漏洩が露見して初めて事態がわかるものであり、そもそも漏洩してからでは遅い。
人材育成、顧客満足度の向上、機密保持などは企業経営にとって重要であり、短期的には見えにくくても長期的には企業収益に反映される。長期的に雇用されて働くならば、企業の収益が減れば自分の報酬が下がり、雇用が失われることもあるから、そうならないようにするだろう。一方、雇用期間が短期であれば、あとは野となれ山となれと考えても不思議ではない・・・
この項続く。

鹿島茂先生の古書集め

鹿島茂著『子供より古書が大事と思いたい 増補新版』(2008年、青土社)を読みました。
いや~、感激しますわ。表題から、その内容を推測できます。で、私も読んだのです。

先生が集めておられるのは、ヨーロッパ19世紀の挿絵本です。中には、とんでもない値段が付いている本もあります。それらを扱う専門店があるのです。日本の街角にある古本屋とは、全く違う世界です。
フランスの古書、古書店の事情がよくわかりました。私の立ち入る世界ではないということも。

先生が、どのようにして、目当てのものを手に入れられるか。この本の元となった文章が書かれた頃は、インターネットがなく、ファックスでやりとりされています。
さらに、お金の問題です。先生は、大金持ちのお坊ちゃまでなく、大学教員です。どのようにして、費用を工面されたか。借金をして、その借金返しのために原稿を書き続けたとの趣旨が書かれています。

さて、表題にもなっている「子供より古書が大事と思いたい」は、フランス滞在中の出来事を書いた部分です。どのようにお子さんが「かわいそうな目」に遭ったか。それは本をお読みください。奥さんも子供さんも、えらい。

規制当局と企業の力関係

9月16日の朝日新聞オピニオン欄、記者解説。ニューヨーク支局・江渕崇記者の「ボーイング機、信頼失墜 規制当局を圧倒、墜落後も構図不変」から。

・・・737MAXは昨年10月にインドネシアで、今年3月にはエチオピアで墜落し、計346人が死亡した。惨劇の遠因は、その誕生の経緯に潜んでいた・・・
・・・危うい飛行機が世に出たのはなぜか。MAXが安全だとお墨付きを与えたのは、規制当局のFAAだ。「認証」という安全性を確認する手続きを踏んだが、現実には、FAAは人手不足から、重要箇所以外の認証はボーイングの技術者に権限を委任していた。米紙によると、問題の飛行システムの評価すら、ボーイングに委ねられていたという。MAX開発を急ぐプレッシャーの中で、危険性は見過ごされた・・・

・・・15年前から、技術者が問題を見つけてもFAAではなく、ボーイングの上司に報告する決まりに変わっていた。MAXとは別の機体の補修をめぐり、レバンソン氏はエンジンを支える重要部品がFAA基準を満たせないと気づいた。決まり通りボーイングの上司に伝えると、「黙って認証するように」と迫られた。拒むと「10分で机を片付けろ」と職場を追われた、と明かす。
業界が規制当局を知識や力で圧倒し、規制を骨抜きにする――。福島第一原発事故を巡り、東京電力と原子力規制当局の関係で指摘された「規制のとりこ」と呼ばれる構図そのものだ。
FAAの上部組織の米運輸省は12年の内部監査で、「FAA幹部とボーイングの近すぎる関係」を警告したが、見直されないまま時は過ぎた・・・

・・・影を落とすのは、独占で巨大化したボーイングとの圧倒的な力の差だ。
米旅客機産業はかつて大手3社が競ったが、1997年の合併でボーイング「1強」になった。ロビー活動や献金でワシントンににらみをきかせ、歴代政権の大物大使経験者を取締役に迎えた。トヨタ自動車やフェイスブックが問題を起こしたとき、米議会は首脳を呼んで質問攻めにしたが、ボーイング幹部は証言台にすら立っていない・・・

中国という実験

9月9日の日経新聞夕刊が、「中国、なぜ「異形の大国」? 民主化なき成長、にじむ覇権主義」を解説していました。
1949年の建国から70年。1978年に改革開放政策で市場経済に転換してから40年。2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟してから約20年です。

・・・中国の名目国内総生産(GDP)が日本を抜いたのは2010年。今は日本の3倍近い規模です。建国当初と比べると、経済規模は膨大になりました。国民の可処分所得は建国時の567倍に。1億元(約15億円)以上の資産を持つ世帯がおよそ11万に上るという調査もあります。
経済は巨大ですが、発展途上国です。先進国クラブといわれる経済協力開発機構(OECD)の分類では、先進国の一歩手前の「上位中所得国」で、政府開発援助(ODA)を受け取れます。14億人の人口で割ると1人あたりの経済規模は1万ドル弱と、日本の4分の1程度だからです・・・
・・・一党独裁体制なので、民主主義の先進国からみると違和感を覚える点があります。共産党政権は工業と農業、科学技術、国防の「4つの近代化」を目指し、大きな成果をあげてきました。一方、70年代末に民主活動家の魏京生氏が「第5の近代化」として訴えた民主化は、40年あまりたっても実現していません。
ダライ・ラマ亡命につながった59年のチベット動乱や60~70年代の文化大革命、89年の天安門事件、99年の法輪功弾圧、2009年にウイグル人デモ隊と当局が衝突したウルムチ騒乱と、たびたび国民を武力で抑えつけています。
最近はIT(情報技術)の進歩で個人情報が詳細に把握されやすくなりました。キャッシュレス決済のデータで生活や行動がつかめます。監視カメラの顔認識などの性能も上がっています。
豊かになった半面、格差は大きいのが実情です。都市住民と農村住民は戸籍が違い、出稼ぎにきた農民は社会保障や子供の教育も十分に受けられません。農村出身者を強引に立ち退かせて都市開発するなど、社会の不平等が効率的な発展につながっている皮肉な側面もあります・・・

経済が大きく発展したことは、すばらしいことです。他方で、民主化が進んでいません。国家(共産党)による締め付けは、ITの発達でより強くなっています。WTOに加盟を許せば、民主化が進むと当時の先進国の指導者たちは考えました。今のところ、それは失敗しているようです。
共産党幹部にとって、第一の目標はその体制の維持であり、国民が豊かになるのはその手段だという見方もできます。この後、いつまでこのような状態が続くか。歴史の壮大な実験です。20世紀の大実験だったソ連は、70年で崩壊しました。

「ちょっとウンチク 政治が描き変える建国の瞬間」も若い人には、勉強になるでしょう。民主主義国家ではあり得ないような話です。
・・・1949年10月1日、北京の天安門の上で毛沢東は中華人民共和国の成立を宣言した。この歴史的瞬間を描いた董希文の「開国大典」は、数奇な運命をたどった油絵だ。
当局の依頼で董が絵を描き上げたのは50年代前半。その後、50年代半ば、60年代、70年代と、3回も描き直しを求められた。3度目は董が病気で弟子が作製。董の没後、4回目の「修正」が必要とされ、新たな複製が作られた。
度重なる「修正」の原因は政治変動だ。失脚した要人やときの権力者に恨まれた故人が画面から消えた。歴史に対する共産党政権の姿勢がわかる「名画」といえる・・・