NPOによる政策形成

9月19日の朝日新聞オピニオン欄に、秋山訓子・編集委員が「政策形成の新潮流 NPO×政治家、課題解決へつなぐ」を書いていました。

政治家や官僚、業界団体による伝統的な政策形成のあり方が少しずつ変化している。社会課題に取り組むNPOや社会的企業の中から、現場での問題解決だけでなく制度を変えようとする人々が動き出し、政治と結びつくようになってきた。
2021年、菅義偉政権で「孤独・孤立担当相」が新設された。英国に続き世界で2例目だったが、これはあるNPOの活動が始まりだった。

「孤独」のような課題は新しい。複雑化、多様化した社会で官僚は現場の動きについていけず、情報収集能力も落ちている。高度経済成長時代には政治家、官僚、業界団体が票とカネを媒介に結びついた、いわゆる「鉄の三角形」による政策形成が主流だった。だが、少子高齢化で財源は限られ、無党派層も増えて、この構造は崩れかけている。縦割りの省庁より、先駆的で柔軟なNPOや社会的企業のほうが新しい課題に取り組みやすい面がある。

1980年代以来の行政・政治改革で官邸機能が強化され、首相が指導力を発揮するようになった。NPOなどでも首相やその周辺とうまくつながれば、政策実現可能性が高まる。孤独担当相創設はその例といえる。
NPOに対しては自民党内に偏見もあったが、若い世代が増えると受け止め方が変わってきた。女性や障害者など、自民党が従来あまり触れなかった課題もNPOと連携して政策化する例が出ている。NPO側も、政策実現のため与党志向が強まっている。

孤独担当相の創設に関わった加藤氏(現厚生労働相)は、政治家とNPOなどが協力し合う意義をこう語る。「政治だけで何でも解決できる時代ではない。行政は縦割りであり、制度をきれいに作ってしまいがちだが、機能しないことも多い。政治家がコーディネーターとなり、NPOや社会的企業、官僚、研究者など関係者でフラットに政策を議論することが必要だ」
このような政策形成の実例は、まだまだ少数だ。だが多様化した社会で、新しいやり方が出てくるのは時代の必然ともいえる。政治家も官僚もNPOも、社会の課題を解決するという目的自体は同じだ。手を携えながら政策づくりをどのように進めていくか、さらに知見を積み重ねていくことが必要になるだろう。

連載「公共を創る」目次5

「目次4」から続く。「目次1」「目次2」「目次3
全体の構成」「執筆の趣旨」『地方行政』「日誌のページへ

第4章 政府の役割再考
2 社会と政府
(3)社会をよくする手法
10月6日 131社会と政府ー政府の「大きさ」をめぐる論点
10月13日 132社会と政府ー政府による市場経済への介入手法
10月27日 133社会と政府ー市場経済への介入手法ーその特徴的な事例
11月10日 134社会と政府ー政府の社会への介入─その新たな動き・手法
11月17日 135社会と政府ー「大きな政府」から「小さな政府」へー行政改革
12月1日 136社会と政府ー行政改革の分類ー目的別・効果別の歴史
12月8日 137社会と政府ー「小さな政府」「官の役割変更」ー行政改革の分類
12月15日 138社会と政府ーガバナンス改革─行政改革の分類
(2023年)
1月12日 139社会と政府ー行革を巡る近年の動き
1月19日 140社会と政府ー政治主導を巡る近年の状況
1月26日 141社会と政府ー近年の行政改革における問題点
2月2日 142社会と政府ー行政改革から社会改革へ
2月9日 143社会と政府ー「新しい課題」への対処法
3月2日 144社会と政府ー政策を体系的に示す─内閣・府省・自治体
3月9日 145社会と政府ー「新しい課題に対する新しい行政手法」とは?
3月16日 146社会と政府ーサービス提供における官民関係の変遷
4月6日 147社会と政府ー「新しい行政手法」─その特徴と課題
4月13日 148社会と政府ー「新しい行政手法」─NPOとの関係
5月11日 149社会と政府ー対立軸の変化
5月18日 150社会と政府ー現代日本の新しい対立軸
目次6」へ続く

連載「公共を創る」執筆状況

恒例の、連載原稿執筆状況報告です。8月末に書いたように、第4章2(2)「政府の社会への介入」が思いのほか長くなったので、後半を(3)「社会をよくする手法」として独立させることにしました。

(2)が9月29日で終わり、10月6日から(3)が始まります。それで、目次のページを新しくしました。
このあと、(3)の中をどのような構成にするか、いろいろと悩んでいるのですが。原稿を書いていくうちに整理できるだろうと、見切り発車しました。行政手法については、行政学の教科書にも詳しく載っていないのです。
右筆の意見と加筆のおかげで、原稿は10月13日号までゲラになっています。

縮む日本経済、30年前に戻る

9月19日の日経新聞1面は「止まらぬ円安 縮む日本 ドル建てGDP、30年ぶり4兆ドル割れ」でした。

ドル建てでみた日本が縮んでいる。1ドル=140円換算なら2022年の名目国内総生産(GDP)は30年ぶりに4兆ドル(約560兆円)を下回り、4位のドイツとほぼ並ぶ見込み。ドル建ての日経平均株価は今年2割安に沈む。賃金も30年前に逆戻りし、日本の購買力や人材吸引力を低下させている。付加価値の高い産業を基盤に、賃金が上がり通貨も強い経済構造への転換が急務だ。
経済協力開発機構(OECD)によると日本の今年の名目GDPは553兆円の見込み。1ドル=140円でドル換算すると3.9兆ドルと1992年以来、30年ぶりに4兆ドルを下回る計算だ。現時点での期中平均は127円程度だが、円安が進んだり定着したりすると今年や来年の4兆ドル割れの可能性が高まる。

ドルでみた経済規模はバブル経済崩壊直後に戻ったことを示す。世界のGDPはその間、4倍になっており、15%を上回っていた日本のシェアは4%弱に縮む。12年には6兆ドル超とドイツに比べ8割大きかったが、足元で並びつつある。

1ドル=140円なら平均賃金は年3万ドルと90年ごろに戻る計算だ。外国人労働者にとって日本で働く魅力は低下している。今年の対ドルの下落率は円が韓国ウォンを上回り、ドル建ての平均賃金は韓国とほぼ並ぶ。11年には2倍の開きがあった。物価差を加味した購買力平価ベースでは逆転済みだが、市場レートでも並ぶ。

尚絅学院大学、公共社会学フォーラム出演

今日は、尚絅学院大学の公共社会学フォーラム「震災復興と公共社会学」で基調講演をするために、仙台に行ってきました。
題は「震災復興と公共社会学」です。尚絅学院大学では、公共社会学専攻の大学院設置を予定しています。その一環として「続フォーラム(全3回)を開催するのですが、第1回目が今日でした。

先日も書いたように、長谷川公一先生が勧進元になっておられます。
私はかねがね、社会学が欧米の理論の輸入や「説明の学」にとどまっていることに不満を感じていました。最近では、格差、非正規雇用、子どもの貧困、若年介護者、孤独と孤立などなど実社会の問題を取り上げる研究「実用の学」が増えていることは喜ばしいことです。公共社会学は、まさにそれです。応援の意味を込めて、話をしてきました。