カテゴリーアーカイブ:社会の見方

東大大学院工学系、講義を英語化

2025年10月4日   岡本全勝

9月22日の日経新聞に「東京大の大学院工学系研究科の講義英語化 「内なる国際化」に弾み」が載っていました。
・・・東京大学の大学院工学系研究科は今年度から講義を原則、英語で行うことにした。英語化により世界のライバルに伍する国際的な教育空間に近づく半面、教員は「教え方を学ぶ」ことも必要になる。他の有力大でも、同様の動きが徐々に広がる。

「英語化は当然やるべきだと思っていた。学生は英語が飛び交う環境に抵抗感がなくなる。海外に出ていくチャンスも広がる」。工学系研究科の加藤泰浩研究科長(工学部長)は、講義の英語化に踏み切った理由を熱っぽく語る。
加藤氏は1990年代、米ハーバード大で初めての在外研究を経験した。当時37歳。学部の卒論から博士論文まで全て英語で書いていたが、現地での会話に苦労した。「同じ思いを学生にさせたくない」と話す。
23年4月、研究科長に就任すると英語化の検討を始めた。ただ、講義の英語化は10年以上前から懸案として引き継がれていたという。

修士課程、博士課程で計約3900人いる学生の3分の1が留学生。講義の英語化は、アジア出身者が多い留学生の国籍の偏り是正にもつながると見る。政府が10兆円を投じた大学ファンドで支援する「国際卓越研究大学」への認定を東大が申請していることも考慮し、大学院は英語化に踏み切ることにした。
講義の英語化率は現状で7割強。目標は、これを9割に引き上げる。日本建築を扱う建築学などの分野や外部講師に配慮し、日本語で教える余地を残した。
この件を担当する津本浩平副研究科長によると、英語化は知識の更新が速くなっていることとも関係がある。
「最先端の研究成果は英語で発信され流通している。その流れがどんどん速くなり新しい言葉が出てきている」と津本氏。翻訳する時間はなく、日本人同士の会話も自然とほぼ英語になる。「英語を道具として使う必要性が一段と高まってきている。波に乗り遅れる理由の何割かは言語ではないかと思うこともある」

もう一つ、津本氏が挙げたのが隣国のトップ大学の状況だ。授業を交換している韓国ソウル大の教員や学生の英語力が近年、向上著しい。「ソウル大は相当議論して英語化を進めている。中国の清華大もそう。私たちも努力を加速していい」と話す・・・

私は先日、時事通信社の会員制評論誌「コメントライナー」に「英語が国語になる日」を書きました。明治初期の帝国大学では講義は英語でした。
その時と状況は異なりますが、世界で活躍するためには英語は必須なようです。

福井ひとし氏の公文書徘徊6

2025年10月3日   岡本全勝

『アジア時報』10月号に、福井ひとし氏の連載「一片の冰心、玉壺にありや?―公文書界隈を徘徊する」第6回「王臣蹇蹇たり―「公文録」の時代」が載りました。ウェッブで読むことができます。

今回は物騒なことに、10人もの人を死なせてしまうのです。誰を、どのようにして? それは本文をお読みください。みなさんがご存じの有名人ばかりです。
ところで、公文書なので、決裁の過程ではんこが押されています。
19ページのはんこは、いかにも安物で、「ほんまにこんな政府幹部がこれを使ったの」と思います。「三文判」ですよね。本文にあるように、原本は焼失し、再生する際に三文判を使ったのでしょうか。
27ページのはんこは、個性が出ているようです。山縣は「有朋」としているし。大山も「巌」です。ひっくり返して押している人もいます。渋々押したのでしょうね。

プラザ合意から40年、日本とドイツ通貨環境で貿易に明暗

2025年10月3日   岡本全勝

9月11日の日経新聞経済教室、清水順子・学習院大学教授の「プラザ合意から40年、日独の通貨環境で貿易に明暗」から。

・・・戦後の日本は1971年のニクソン・ショックに始まり、米国主導の方向転換により大きな為替変動に見舞われてきた。同じ敗戦国として工業化にまい進し、同様の試練を乗り越えてきたドイツと比較して、日本の経常収支構造は85年のプラザ合意後の40年間に大きな違いが生じた。原因は何だったのか。両者の歩みを比較し、今後の日本が取るべき道を考えたい。

図表の上部に貿易関連データの日独比較を示した。貿易収支額は85年時点で日本がドイツに勝っていたが、2024年は日本が赤字なのに対してドイツは黒字を維持する。その主因は輸出額に如実に表れている。日本の輸出額はこの間に4倍になったが、ドイツは9倍以上に拡大した。
もちろん、日本企業はこの間に海外生産比率を上げ、第1次所得収支で経常収支黒字を維持するという、国際収支の発展段階説における「成熟した債権国」に移行した。だが結果として23年に日本はドイツに名目GDP(国内総生産)で抜かれ、産業空洞化が改めて浮き彫りになっている。

この差を生んだ理由の一つが通貨を取り巻く環境の違いである。欧州は独マルク中心の為替市場で、ドルよりもマルク相場に対して欧州通貨が安定的に推移する為替協調体制が1980年代から確立されてきた。
それに対して、日本はアジアで唯一のハードカレンシー(国際通貨)として、対先進国通貨のみならず、中国をはじめとするアジア通貨に対しても激しい為替変動を繰り返してきた。
さらにドイツは1992〜93年の欧州通貨危機を乗り越え、99年にユーロ統合を成し遂げた。翻って日本では90年代に円の国際化の機運が高まり、アジア通貨危機(97〜98年)後には域内通貨間の安定のためのドル・ユーロ・円の3通貨バスケット制を提案したものの、結局何もなしえなかった。
この違いは、2008年のリーマン・ショック以降の両通貨の動向に大きな影響を与えた。日本は12年末にアベノミクスが開始されるまで、歴史的な円高局面を余儀なくされた。対してドイツはその後の欧州財政危機でも、自国通貨高に悩まされることはなかった・・・

・・・また、ドイツの輸出における自国通貨建て比率は全期間を通じて8割と、日本(4割未満)の倍以上。域内輸出比率も高く、ユーロ域内の貿易をほぼユーロ建てで行えるドイツに対して、日本企業はアジア域内の貿易ですらドル建てが円建てのシェアを上回る。
アジア域内で円が使われない理由の一つはサプライチェーン(供給網)における企業内貿易を米ドルに統一するという日本企業の合理的判断ではあるが、アジア企業にとっては円の為替相場変動が激しいことが主因とされる。輸出のドル建て比率が高い日本は「日本経済にとっては円安が望ましい」という円安信仰を掲げてきたが、貿易赤字に転落した今、円安が日本経済にもたらすデメリットは無視できなくなっている。
さらに、直接投資動向の違いもある。図表下部の通り、両国とも対外直接投資のGDP比は50%前後と高い。対内直接投資は、24年末でドイツにGDP比26.5%の残高があるのに対して、日本はようやく5%台になったところである・・・

経済低迷でも再開発が進む東京

2025年9月30日   岡本全勝

9月11日の朝日新聞オピニオン欄「東京のカタチ2025」、地理学者のラファエル・ランギヨン=オセルさんによる「再開発で維持する競争力」から。
労働者の中で正規雇用と非正規雇用の格差が進むとともに、地域間では東京とその他の地域の格差が広がったのです。

・・・私はフランス南西部の田園地帯の出身です。そのためか大都市にひかれるのですが、東京は魅力的で成熟したグローバル都市です。
都市研究の専門家として、丸の内、六本木、日本橋、渋谷などの再開発プロジェクトや昭和からの商店街の関係者に聞き取りを行い、東京の再開発について博士論文を執筆しました・・・
・・・バブル崩壊後、日本経済は低迷が続きましたが、東京はバブル崩壊前より競争力のある都市となっています。なぜ、何十年も経済が停滞しているのに、東京はめざましい再開発が進んでいるのでしょう。それには政治・経済の世界的、歴史的な流れが大きく影響していると思います。

バブル経済期には地価が上がり、都市圏が拡大しました。1991年にバブルが崩壊し、「失われた10年」が来ました。この時期が東京が大きく発展する準備期間でした。金融再編が起こり、地価が下がって土地の集約が進みました。さらに2002年の「都市再生特別措置法」といった立法措置によって、高層化を伴う都市再生が可能になりました。
1991年は日本でバブルが崩壊しただけでなく、ソ連が崩壊した年です。戦後、日本は冷戦構造の恩恵を受けて発展しました。しかし冷戦が終わり、前後して急激な円高のため輸出産業の競争力が失われます。
日本は資本の投下先を、生産部門から空間の整備、それも東京という都市の再開発へと大きく転換しました。いわば産業の空洞化を国レベルで進め、東京の再開発に集中的に投資することを選択したのです。

90年代から、東京はニューヨーク、ロンドンと並ぶグローバル都市とみなされてきました。今は同じアジアのソウルや台北、香港、シンガポールや中国の大都市とも競争しています。東京のどの再開発プロジェクトも、競争力を維持するために、細心の注意を払って計画されています。
東京は国際的な地位を保ってはいますが、日本全体としては問題もあると思っています。東京だけが発展し、ほかの都市や地方とのバランスを欠いていることです。バブル崩壊後の政策が背景にありますが、この偏りを是正することは、人口減少や少子化とも関わる大きな課題でしょう・・・

大学への公的支出、国際平均の半分

2025年9月29日   岡本全勝

9月10日の朝日新聞に「大学への公的支出、国際平均の半分 OECDが報告書 「社会格差生む」指摘も」が載っていました。
日本の教育への公的支出が少ないことは、以前から指摘されています。「日本は教育に熱心だ」という通説は変更しなければなりません。「日本では親は教育に熱心だけれど、政府は熱心ではない」とです。政府・与党、文科省、財務省はどう考えているのでしょうか。
緊縮財政を続けた結果です。バラマキと批判される給付金配布には熱心なようですが。「米百俵」を思い出します。予算の問題とともに、その根底にある「社会の意識」「国民の精神」の問題です。

・・・経済協力開発機構(OECD)は9日、大学など高等教育への公財政支出額(在学者1人あたり)が、日本はOECD加盟国の平均の54%にとどまるとする報告書を公表した。小学校~高校は平均より多い。大学に対する、国などの公的支出の少なさが目立つ。
また、高等教育の女性教員の割合は31%にとどまり、比べられる国の中で最低だった。

報告書によると、高等教育の在学者1人あたりの公財政支出(研究開発を含む)は、日本は8184ドル。OECD平均は1万5102ドルだった。最高はルクセンブルクの5万4384ドル、最低はメキシコの4430ドル。比べられる37カ国の中で、日本は10番目に低かった。
一方、高等教育を卒業した人の割合(25~34歳)は66%で、OECD平均(48%)より多い。少ない公的支出にもかかわらず、大学などを卒業する人が多い形だ。
日本は、幼稚園など就学前教育の公的財源の割合も低く、OECD平均(85・6%)を下回る78・2%だった。教育への投資額全体をGDP比でみても、日本は3・9%で、OECD平均(4・7%)より低かった・・・