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地方行財政

日本自治学会、休止

日本自治学会が、5月15日に最後の総会を開き、活動を休止するそうです。

・・・地方分権一括法が2000年に施行されたのに合わせて、さらなる改革を進めてゆくために幅広く英知を結集しようと学会を立ち上げてから、すでに20年が過ぎました。
一括法が築いた分権改革のベース・キャンプから、地方自治を真にそれにふさわしい実質を備えたものに育て鍛え上げていくことをめざし、行政法、行政学、財政学など学界の研究者、さらにはジャーナリストたちを中核に全国各地で活動してきました。
分権改革は、現下の通常国会に第11次の一括法が提出されるなど、いまも続いてはいます。しかし、その内実は乏しく、足踏み状態にも見えます。この時点で学会を閉じることには忸怩たる思いもございますが、20年をひとつの節目として、いったん幕を引き、新たな展開を模索することといたします・・・

この文章の最後の段落に、分権改革の現状が表されています。2000年の第一次分権改革を経験した一人として、考えるものがあります。
大きな社会の改革を進め実現するには、理論ともに、社会の指導層や国民を巻き込む仕掛けや、社会の雰囲気が必要です。
自治体学会は、活動中です。

日本地方財政学会研究叢書

日本地方財政学会の年報「研究叢書」第28号が届きました。私も学会員なのですが、最近は会費を納めるだけの怠け者です。

巻頭論文は、林宏昭・理事長(関西大学教授)の「地方財政学会と地方財政研究」です。学会設立(1992年)以来の研究の動向が、整理されています。
この学会誌では、設立時、10年目、20年目にも、まとめられています。その分野の研究動向をまとめて、整理することは良いですね。
研究者は、それぞれが自らの関心で研究をしています。しかし、現在どのような研究が行われているか、対象や方法を共有することは意義があります。特に初心者は、知らないことでしょう。

『地方財政改革の現代史』

小西砂千夫著『地方財政改革の現代史 改革は何をもたらしたのか』(2020年、有斐閣)を紹介します。平成時代の地方財政制度改革の総括です。戦後の地方財政制度形成期と比較して、平成に相次いで行われた改革を評価しています。

1990年代と2000年代半ばまでは、行政改革の時代でした。いくつも改革が試みられ、その中に、分権や地方行財政も入っていました。しかし、当時その渦中にいた人の多くは、その全体像、進む方向を的確に把握していなかったようです。小西先生は、「その総括は、統治の知恵の継承が十分ではなかったことで改革論が迷走した」と主張しています。

当時の行政改革は、新自由主義的改革であり、戦後半世紀経って制度疲労を起こした「この国のかたち」の改革とも位置づけられました。もっとも、それぞれの改革についての議論や研究書はあるのですが、全体像についての研究は見当たりません。
私はかつて「行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)で、それを試みたことがあります。そこでは、大きく「小さな政府・財政再建」「官の役割変更・経済活性化」「ガバナンス改革」の 3 つに分類しました。参考「行政改革の分類
最近、待鳥聡史先生が、『政治改革再考―変貌を遂げた国家の軌跡―』(2020年、新潮選書)をまとめられました。この私の論考も、紹介してくださっています。この点については、別途書きます。

小西先生は近年、地方財政制度を、この国の統治の仕組みとして分析しておられます。「地方財政制度を統治の観点から考える」「小西砂千夫著『日本地方財政史』」。1990年代と2000年代半ばの改革を「この国のかたちの改革」とすれば、小西先生のおっしゃるように分権改革だけでなく、そのほかの地方行財政改革は日本の統治の仕組みの改革です。
しかし、改革は進んだものの、そのような視点からの位置づけ、改革は十分ではなかったようです。もちろん、実際の改革は関係者の政治ゲームの中で進むものなので、研究者や官僚の理想のようには進みません。三位一体の改革が、その象徴かもしれません。
地方分権改革だけでなく、その他の政治行政改革も、あの頃に比べ熱意は冷めたようです。再度燃焼させるには、目指す方向と、各改革の全体像、進める戦略をとが必要なのでしょう。

三位一体改革・交付税改革

総務省HP平成17年12月からの抜粋)
1 総額の大幅な抑制(H16~H18年度)
交付税総額(臨財債を含む)の抑制
△ 5.1兆円(うちH18年度△1.3 兆円)
2 制度の改革等
(1) 「行政改革インセンティブ算定」の創設・拡充
 歳出効率化努力に応じた算定(H17年度約400億円)
 徴収率向上努力に応じた算定(H17年度約100億円)
(2) 企業誘致等による税収確保努力インセンティブの強化
 道府県分の留保財源率を20→25%
(3) アウトソーシングによる効率化を算定に反映
 ゴミ収集、学校給食等について、アウトソーシングによる効率化を前提とした算定(約△2,000億円)
(4) 段階補正の縮小
 小規模市町村の算定を効率的な団体を基礎に縮減(約△2,000億円)
(5) 算定の簡素化
 都道府県分の補正係数を概ね半減
 事業費補正(事業量に応じた算定)の大幅な縮減
(6) 計画と決算の乖離の同時一体的是正
 H17年度に3,500 億円、H18年度に1兆円(一般財源)の是正を実施
(7) 財政力格差拡大への適切な対応
 税源移譲分を基準財政収入額へ100%算入(当面の措置)
(8) 不交付団体の増加
 人口割合(市町村) H12年度11.5% → H17年度18.4%
(2010 年代初頭には人口割合1/3、税収割合1/2を目指す)
各年度の改革を表にしたものは三位一体改革の目標と実績

三位一体改革の基本解説4

4 地域間格差はどうするのですか
(1)差がつく仕事、つけない仕事
事務の種類を、2つに分けて考えるべきでしょう。
義務教育・保育・生活保護・介護・警察・消防といったサービスは、日本中で最低限は保障すべきものです。国家として国民に「ナショナル・ミニマム」を保障すべきでしょう。これらについては、法令で地方団体が守るべき最低基準を義務付け、財源も保障します(国庫補助金でなく地方交付税でできます)。
もちろん、その基準以上に、各団体がサービスを上乗せするのは自由です。
その他の事務、例えば、公共事業・産業振興・内部事務費などは、それぞれの地域で自由に競争して良いと思います。一定額の財源を保障すれば、その中で工夫してください。
(2)国庫補助金が廃止された場合、それと同等の税収が増えない団体はどうしますか
日本全国で、廃止補助金額と税源移譲額を同額としても、各団体事にはでこぼこが生じます。これについては、税源移譲の際になるべく差がつかない方法を考えています。それでも差がでる分は、地方交付税で調整します。
【第3部:税源移譲】
国から地方への税源移譲って何ですか
(地方には財源が必要)
国庫補助金を廃止するだけでは、地方団体は困ります。仕事はなくならないのですから。それに見合うお金が必要です。
そのためには、地方税を増税する、または地方が自由に使えるお金(地方交付税、あるいは使途を特定しない交付金など)を国から交付する方法があります。地方自治のためには、地方税が一番です。自分で集めて自分で使うのですから。
(税源移譲の方法)
国民の負担を上げないで地方税を増やす方法が、「国から地方への税源移譲」です。
今回行う方法は、個人の所得にかける国税を、地方税に移すのです。即ち、私たちの所得には、国税として「所得税」が、地方税(県税・市町村税)として「住民税所得割」がかかっています。
例えば、所得税を10%・住民税を5%・合計15%払っている人がいると、所得税を5%・住民税を10%・合計15%にすると、国の取り分が減り、地方の取り分が増えます。個人の(国民の)負担は変わりません。
(国と地方の損得)
もし、3兆円国庫補助金を廃止するとしたら、3兆円を税源移譲します。すると、国は、歳出(国庫補助金)が3兆円減りますが、歳入(国税)も3兆円減るので損得なしです。予算規模は3兆円減ります。
地方は、歳入(国庫補助金)が3兆円減りますが、歳入(地方税)が3兆円増えて、損得なしになります。ただし、個別の団体ごとには、でこぼこが生じることがあります。
【第4部:地方交付税】
地方交付税って何ですか