小西砂千夫著『日本地方財政史』

小西砂千夫先生が、『日本地方財政史』(2017年、有斐閣)を出版されました。副題に「制度の背景と文脈をとらえる」とあります。
目次を見ていただくと、財政調整制度、国庫支出金、地方債などの主要項目の他、災害財政、財務会計なども含まれています。
そして、それらの各論をはさんで、「序章 統治の論理として」「第1章 制度の歴史的展開」「第12章 内務省解体」「終章 制度運営のパワー・ゲーム」という興味深い章があります。

「あとがき」p407に、次のような記述があります。
・・・編集者のお勧めに従って、書名を『日本地方財政史』としたが、本書は、いわゆる歴史の研究書ではない。歴史研究のアプローチならば、多面的にその時々の出来事を捉え、事実を再構成しなければならない。本書の内容は、そういった歴史的検証を加えたものではなく、「自治官僚による地方財政制度における内在的論理」、言い換えれば、地方財政における統治の論理を書き起こしたものである・・・

これは、なかなか書けるものではありません。これまで深く地方財政制度を研究してこられた先生でなければ、書けない本です。
各論の変遷をおさえつつ、なぜその時期にそのような制度ができたか。そして、先生も述べておられるように、理想だけでは実現せず、現実(実務、政治的力関係など)との妥協によってできたことなどを、考察する必要があります。その大きな流れを、「統治の理論」という言葉で象徴しておられます。
各論だけでなく、それらを通した視点・総論が重要なのです。今後、地方財政制度を議論する際には、必須の文献でしょう。

本来なら、地方財政制度を設計してきた関係者(自治官僚)が、書くべき本かもしれません。私も『地方交付税―仕組みと機能』や『地方財政改革論議』「近年の地方交付税の変化」(月刊『地方財政』2004年1月号)を書いていた頃は、それを意識していたのですが。小西先生と対談もしていました。その後、地方財政を離れ、官房や内閣の仕事に移ったので、できなくなりました。
小西先生、ありがとうございます。