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連載「公共を創る」、「私が・・」の多用

連載「公共を創る」が、230回を超えました。2019年4月から始めて6年。こんなに長くなるとは、思っていませんでした。
連載を始める前に骨格をつくり、それに従って記述しています。その点では、逸脱していません。しかし書き進めているうちに、あれも書きたい、これも書いておこうとなって、分量が増えているのです。少し振り返ってみました。

その要因は、次のようなものです。
・近過去に起きた事象や現在起きていることにも、触れていること。この連載は「現在日本の行政論」であり、かつての栄光と現在の低迷を分析すること、そして処方箋を提示することです。通常このような論考は、過去の事象を検証することが多く、私もそう考えていたのです。ところが、ついこの間に起きたことや現在起きていることも、議論の良い事例になります。で、取り上げることにしました。
・それはとりもなおさず、現在の政治と行政の問題点についての解説(批判)になります。それに終わってはいけないので、改善に向けての提言も書いています。

なので、目次を振り返ってみても、分量はいびつになっています。
第1部「町とは何か(第1章 大震災の復興で考えたこと 第2章 暮らしを支える社会の要素)」は38回
第3章「日本は大転換期」は32回なのに対して、
第4章「政府の役割再考(1社会の課題の変化、2社会と政府)」は80回。
第4章3「政府の役割の再定義」は80回を超えて続いています。

・もう一つは、私の経験をたくさん入れていることです。このような論考は通常、新聞に報道されるような「事実」を基に書かれるものです。私もそうあるべきだと考えていますが、他方でこの連載は「昭和の官僚の体験に基づく行政論」です。私の視点や主張が、どのような経験から書いているかを、明らかにしておきたいのです。そして、大きく変化している官僚像について、昭和の官僚がどのようなことをしていたか、書いて残しておきたいのです。
・私の書いた粗い原稿を、右筆が丁寧に加筆してくれることも、文章が長くなる要因です。しかしそれは、正確になり、読みやすくなっているということです。

連載「公共を創る」第234回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第234回「政府の役割の再定義ー「内閣官僚」の育成を」が、発行されました。前回から、内閣官房職員育成の問題を議論しています。

国家公務員は政府に一括して採用された後に各府省に配属されるのではなく、試験の合格者名簿等から各府省で採用され、そこで昇進し、やがて退職します。それに対し内閣官房は、独自に職員を採用して育成する仕組みを採ってません。各府省から派遣されている「出向職員」で構成されています。仕事が終わると、あるいは一定期間(多くは2年程度)が過ぎると、親元(本籍の府省)に戻ります(なので、一部の職を除いて職員採用のホームページや職場紹介のパンフレットもないようです)。

企業に例えれば、各省という事業会社(子会社)の上に、内閣という持ち株会社(ホールディングカンパニー)があるような姿です。そして、各子会社で社員(職員)を採用し、持ち株会社には子会社社員(職員)がその都度出向しているようなものです。
ところが、内閣官房の仕事は、各府省で行っている仕事とは、進め方などが異なっています。各府省での仕事の多くは、法令の運用や予算の執行など決められたことを実施する事務です。ところが、内閣官房での仕事は首相などから下りてきた新しい課題であり、前例通りや単なる運営改善では済まないことが多いのです。

私は旧自治省に採用されたのですが、官僚生活の後半は、省庁改革本部、首相秘書官、復興庁と、内閣の下やその近くで仕事をすることが多かったのです。それぞれに大変な仕事でしたが、政策の新しさと大きさと、そして首相の肝煎りという難しさは、やりがいでもありました。
私は、「内閣官僚」といった集団をつくるべきだと考えてきました。といっても、内閣官房で職員採用をするのではありません。官僚には専門性が必要です。内政、外交・安全保障、社会保障、経済・産業といった各分野での専門家が要請され、「何でもできます」という人材はあり得ません。内閣官房で採用して育成する方法では、機能しないのです。他方で各府省からの2年程度の期間の出向では、親元の方ばかりを見てしまいます。
職員は各府省で採用して育成しますが、若いときから内閣官房などに出向経験をさせ、その中から適性のある者を内閣官僚として転籍させるのです。

連載「公共を創る」第233回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第233回「政府の役割の再定義ー首相を支える事務秘書官の仕事」が、発行されました。政治家と官僚との関係に関して、前回から、首相秘書官の役割と育成について説明しています。

私は、麻生太郎内閣(2008年9月~09年9月)で約1年間、事務秘書官を務めました。総務省出身者が就くことは異例でした。そして、私は首相や政務秘書官と相談の上、政策統括担当と位置付けてもらいました。
その目的の一つは、事務秘書官間の縦割りの解決です。各省案件は事務秘書官が分担するのですが、バラバラに処理案を首相に上げるようでは困ります。いま一つは、首相の政治判断について、お手伝いをすることです。首相肝煎りの政策を進めるにも、首相の下での政策を統一するためにも、統括役が必要だと考えました。その成果の一つが、「麻生内閣の主な政策体系」です。

私は首相秘書官に就任する4年前に、麻生総務大臣に官房総務課長として仕え、その後も政策の勉強に呼ばれていました。そこで麻生氏の政治姿勢を理解し、首相秘書官に就任すると直ちに簡単な打ち合わせだけで、所信表明を含めて首相発言の原稿を書くことができました。それに首相が手を入れます。しかし、このような経験を有して、任命直後から対応できる秘書官候補は多くはいません。
各省でも、総理秘書官候補の人材を準備しているはずですが、明確に総理秘書官を育てる職や業務などの「経路」があるわけではありません。また、どなたが首相になるか予想も容易ではなく、また予想ができたとしても、候補者がその方と「密な」準備をしておくことも難しいでしょう。
首相、閣僚、与党、各省の結節点である首相秘書官候補者をどのように育成するかは、政治主導に対応するための行政側の課題の一つです。

次に、内閣官房で働く職員について考えますが、その前に、内閣官房について解説します。内閣官房がどのような組織か、多くの人は知らないでしょう。

連載「公共を創る」第232回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第232回「政府の役割の再定義ー「やりがい」低下の原因」が、発行されました。
国会や政治家との関係において、官僚の労働条件が劣悪なままであることを指摘しています。前回は、低い給与の他に、遅過ぎる質問通告、多過ぎる質問主意書を取り上げました。

働き方改革に真っ向から反することが、国権の最高機関を巡って行われていて、国民に働き方改革を唱えている政府が、自らの使用人である官僚に、とんでもない労働を強いているのです。過去の官僚は「高い評価」と「やりがい」で自らを納得させて、耐えてきたました。しかし、今の官僚に「耐えろ」とは言えません。志望者は減り、中途退職者が増えています。
しかも、政治主導への転換が目指されたのに、この悪条件は改善される兆しもありません。政治家が指導者あるいは管理者として、官僚を「働かせる」「能力を発揮させる」意識が低いのです。

官僚にやりがいを持たせる、それには新しい社会の課題に取り組めるような、十分な条件を与えなければなりません。
それは一つには、時間的余裕です。現在は、日常業務に追われていて、ゆっくりと考える時間が持てていないようです。それは、仕事が増えたのに職員数が増えていないことによります。国会対応も、その原因の一つです。
もう一つは、予算の余裕です。長年にわたり厳しい予算要求基準が設けられ、新しい政策に取り組むだけの予算がありません。もう少し、官僚たちから上がってくるアイデアを実現できるようなゆとりが欲しいのです。

「収入」「労働条件や職場環境」「やりがいと将来性」の三つについて、学生や若手公務員に納得のいく改善をしない限り、若者は公務員を選ばないでしょう。それを考えるのは、内閣人事局と各省人事課の役割です。彼らに期待します。

連載「公共を創る」第231回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第231回「政府の役割の再定義ー遅過ぎる質問通告、多過ぎる質問主意書」が、発行されました。
首相や大臣が官僚をうまく使うために、官僚にやりがいを持たせる重要性を指摘しています。人事院の年次報告書や私の経験から、職場に関する官僚の不満とその対策について説明しています。

収入については、公務員は民間準拠ですから、企業の給与の平均です。しかし、官僚の多くは世間でいわれる難関校を卒業していて、同級生たちは日本を代表するような大企業などに就職しています。彼らは、企業の平均ではなく、もっと高い給与をもらっています。それと比較すれば、官僚の給与ははるかに低いのです。人事院も比較対象の企業を変更するようですが、まだまだでしょう。

そして、国会業務に起因する長時間労働は、改善されていません。通告の遅い国会質問については、誰がなぜ遅くなったのかを明らかにして欲しいです。
しかも、その国会答弁案と質問主意書作成の内容を見ると、そのような形を取る必要があるのか(通常の問い合わせで答えられるのではないか)、それが政策立案に役立っているのか(答弁が政策立案につながっているのか)、疑問になるものも多いのです。
このままでは、優秀な若者は官僚という職業を選ばないでしょう。