カテゴリーアーカイブ:社会の見方

意味の世界に生きる人間

2022年12月15日   岡本全勝

ピーター・バーガー著『聖なる天蓋 神聖世界の社会学』(2018年、ちくま学芸文庫)を読んでいます。
宗教の持つ機能を知りたくて、これまでにいくつか本を読んだのですが、私の関心に合う本は見当たりません。この本が、私の疑問に答えてくれそうなのです。
文章は平易なのですが、内容が高度に抽象的でもあり、なかなか先に進みません。このような深い意味のある本を、布団の中で読むことが間違いです。昨日読んだところは何が書いてあったかと振り返る必要があり、少しずつしか進まないのです。
とはいえ、一気に読み通せる内容ではありません。で、途中で考えたことを、書き留めておきます。

宗教は世界の成り立ち(ときには宇宙や死後の世界も含めて)を説明してくれます。それが、社会に秩序をもたらし、個人に居場所と生きる意味を与えてくれます。

p105 「神義論が第一義的にもたらすものは、幸福ではなく、意味なのである」
キリスト教にしろユダヤ教にしろ仏教にしろ、生きていく際の苦しみ(生命、病気、貧困、差別、家族との軋轢)などを緩めてはくれません(貧しい信者に「もっと喜捨をせよ」とか、聖戦と称して命を差し出すことを命じることすらあります)。しかし信者は、教えを信じることで生きる意味(場合によっては、生命を差し出す意味)や安心を得るのです。
宗教が与えてくれる意味の世界は、利害得失の物差しとは違う基準ですから、異教徒には理解できないものです。

ではなぜ、生きる意味を求めるのか。
一つには、「なぜ私はこの世に生まれてきたのか」「私の生きる意味は何か」「なぜ人は死んでいくのか」「死んだら私はどうなるのか」という「意味の世界」に人は生きているからです。自然科学は、どのようにして人が生まれ死ぬかを説明してくれますが、その意味は説明してくれません。
もう一つは、苦しいことや困った事態に出会ったときに、人はその緩和を求めます。しかしそれが実現しない場合に、その説明やよりどころを求めます。それぞれに理由はあるのですが、納得できないこともあります。その場合に、それを宗教は説明してくれるのです。それは時に本人の力不足であったり他人の方が条件がよかったりするのですが、それを認めたくない場合は、前世からの報いであったり、世界の秩序が理由となります。
苦しみや困った場合でなくとも、御利益を期待して神に祈る場合もありますが。

ツイッター買収の意味

2022年12月14日   岡本全勝

12月3日の朝日新聞オピニオン欄「ツイッター買収、その意味」、東浩紀さんの「無料モデル、公共性に限界」から。

今回のイーロン・マスク氏によるツイッター改革騒動は、私企業が運営するSNSに公共的な役割を持たせることの限界を示したものでしょう。ある意味で、SNSへの過剰な期待に冷や水を浴びせるものだと思っています。
ツイッターは本来、今どこにいて、誰と会っているかを共有するメディアとして生まれたものです。公共的な議論や合意形成に向くプラットフォームではありません。

マスク氏は思想やイデオロギーより、経営者として動いているのでしょう。前提にあるのはツイッター社の赤字です。ツイッターは私企業であって、赤字が続いている以上、マスク氏がドラスティックに変えようとするのは、ある意味でしかたがない。
今回の騒動は、本質的には、無料の広告モデルで公共性を作ろうとすることの限界が表れたのだと思います。広告収入を考えると、ヘイトだろうがカルトだろうが、閲覧数が多ければ力を持ってしまう。リベラルな理念で質の高いものを提供しますと言っても、お金は生み出されない。

ネットの言論が公共性を持つには、「有料」を導入するしかないというのが僕の持論です。本を売り、雑誌を売るように、記事や動画を売る。顧客の側にも「買う」という習慣を身につけさせる。僕は「シラス」という有料配信サービスをやっていますが、公共的な議論は有料の場でしかできないと考えたからです。
もともと公共的なメディアは雑誌も新聞も有料です。課金することと公共的であるということは両立できます。そこで重要になるのがサービスの規模です。100万人、1千万人になると、そもそも議論が成り立たない。一方で、あまりに少なすぎては公共性は持てない。1万人から10万人ぐらいが、公共的な議論に適した規模でしょう。適度にメンバーが多様で、反応も活発だけれど、炎上は起きにくい。1万から10万の規模で公共的な議論ができるコミュニティーが、いくつもある状態が健全な社会だと思います。

若者による殺人が減った

2022年12月13日   岡本全勝

12月3日の日経新聞「犯罪減っても体感治安は? 戦後最も安全 実感できぬ理由」には、若者による殺人が減ったことも書かれていました。

・・・殺人を犯す性別と年齢をみると、20代前半の男性に鋭いピークがある。「20代前半に自分の評価を高めるための個体間の強い競争が、特に男対男で生まれるから」(長谷川真理子さん)だ。世界で共通するこの傾向は「ユニバーサルカーブ」と呼ばれる。
ところが日本だけは20代前半の男性の殺人率が低下し始めた。長谷川さんはその理由を「失業率低下や終身雇用など労働環境の改善」に求め、経済情勢が悪化すれば再び増えると予想した。だが実際の殺人率は直近でも減り続けている。長谷川さんは「競争を避けるようになったことが一因」と分析する。若者の怒りは陰湿ないじめや自殺に向かってはいまいか・・・

図がついていますが、一目瞭然です。

犯罪が減っても体感治安は悪く

2022年12月12日   岡本全勝

12月3日の日経新聞に「犯罪減っても体感治安は? 戦後最も安全 実感できぬ理由」が載っていました。

・・・犯罪の認知件数は約20年で5分の1以下に激減した。日本の社会は数字上「戦後最も安全」であることを示す。しかし「治安は悪くなった」と感じている人は多い。なぜか。背景を探った。

刑法などに触れる刑法犯の認知件数は2002年の約285万件をピークに減り続け、21年は約56万件と7年連続で戦後最少を更新した。
減った原因はさまざまだ。刑法犯はバブル期の1980年代から増加傾向が鮮明になり、90年代後半に急増。「治安」が重要な政治課題になった。犯罪を防ぐ法改正や警察官の増員、頑丈なカギや防犯カメラの普及など官民挙げて対策を講じた。国民の防犯意識も高まった。地域の防犯ボランティアの数は03年の約18万人から20年末には約248万人に増えた。

法務省法務総合研究所によると、認知件数の減少は「刑法犯の7割以上を占める窃盗の件数が大幅に減少し続けた影響」が大きい。なぜ窃盗は減ったのか。防犯を研究する立正大学教授の小宮信夫さん(犯罪学)は「特殊な用具でカギをあけるピッキングが激減した。とりわけ中国から来た窃盗団がほとんど消えた。この20年で日中の経済格差が縮小したため、日本で稼ぐ必要がなくなった」とみる。

ところが、人々は安全や安心を実感していない。内閣府が1月に発表した世論調査では、日常生活での悩みや不安について「感じている」「どちらかといえば感じている」と答えた人は77.6%と過去最多になった。
警察庁が21年11月に実施した、この10年の日本の治安に関する関するアンケートでは、合わせて64.1%の人が「悪くなった」「どちらかといえば悪くなった」と答えた。いわゆる体感治安が悪化しているのだ。悪化を感じる人が思い浮かべた犯罪(複数回答)は無差別殺傷事件が約8割で最多。オレオレ詐欺などの特殊詐欺が約7割で続いた。
刑法犯が全体で減る中、特殊詐欺やネットを利用したサイバー犯罪など「非対面型」の犯行は増えている。21年のサイバー犯罪の検挙数は前年比約24%増の1万2275件と過去最多。「見えれば」身を守りやすいが、無差別殺人も特殊詐欺もサイバー犯罪も「相手が見えない」犯罪だ。「見えないことが不安をあおる」(小宮さん)・・・

宇宙への挑戦を支える民間の保険

2022年12月9日   岡本全勝

12月1日の朝日新聞に「民間初の挑戦、支える宇宙保険 三井住友海上、オーダーメイドで設計」が載っていました。

・・・日本の宇宙ベンチャー「ispace(アイスペース)」(東京)が、無人の月着陸船を打ち上げる。無事に月までたどり着けば、民間初の偉業となる可能性がある。その歴史的な挑戦を陰で支えているのは、日本の損害保険会社による宇宙保険だ。
民間初となる月探査計画「HAKUTO―R」で保険を引き受けるのは三井住友海上火災保険。アイスペースと共同で「月保険」を開発した。打ち上げから月面着陸までに起こりうる損害を切れ目なく補償する。月着陸船から発信されるデータによって異常を検知して、保険金を支払う仕組みだという。
三井住友海上は宇宙保険との関わりが古い。宇宙開発事業団(NASDA、現宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉)初の人工衛星「きく1号」が打ち上げられた1975年、打ち上げ場所の周辺家屋などへの損害リスクを補償する「宇宙賠償責任保険」を国内で先駆けて開発した。以来、50年近く手がけてきた・・・

保険の起源の一つは、中世欧州での船舶保険です。航海は儲かる代わりに危険も大きく、その危険を分散したのが保険です。現在においても、これまでにない新しい事業に乗り出す場合には同じ問題があります。それを支えるのが、損害保険です。経済発展を支える大きな公共的役割があります。