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社会

子どもの心「なんとなく不調」

9月20日の日経新聞夕刊「子どもの心「なんとなく不調」」、平山哲・大阪母子医療センター子どものこころの診療科副部長の発言から。

ここ3年ほど、子どもの心のストレスが話題になり、精神疾患発症率の上昇なども報告されるようになった。国立成育医療研究センターが2020年6月以降に公表した複数の報告書では、心身の不調を訴えている子どもが一定数いることがわかっている。
21年12月に実施したアンケートでは、1週間のうち数日以上で「気分が落ち込む、ゆううつになる」などと答えた小学4~6年は36%いた。中学生では56%にのぼっている。「疲れた感じがする、気力がない」と回答したのも小学4~6年で43%、中学生では75%だった。
私は子どもの発達にかかる領域全般を専門に診療しているが、初めて受診される方の約半数は未就学児で、残り半数は小中高校に通っている児童や生徒。未就学児では発達に関する相談が中心だが、小学生以上になると学校生活の問題や思春期特有の悩みなど、心のストレスにまつわる内容が多くなる。

そもそもストレスはどのような時に感じるのか。
嫌な出来事があった時によく「しんどかった、つらかった」などと言う。だが、実は嫌な事だけがストレスにつながるとは言い切れない。
厚生労働省によるコロナ下でのメンタルヘルスに関する調査では、回答した15歳以上の約8300人のうち17.5%が「第5波」の期間だった2021年7~9月に「生活の変化に対する不安」を感じていた。このような結果を参考にすると、ストレスとは嫌な事があった時だけではなく、変化が起きて心身へ何らかの影響があったことで生じると考えられる。
外来では「コロナが落ち着き、遠足や運動会など様々な行事が再開できるようになって楽しみにしていたのに、体調を崩してしまった」と保護者が不思議そうに話すことがある。楽しみにしているにもかかわらず、体調不良という正反対の反応が出てしまっている。これも変化によって生じた不調と言えるだろう。

大切なのは子どもと対話をすることだ。国立成育医療研究センターのアンケートでは「子どものことを決めるときに大人たちが気持ちや考えを聞いてくれるか」と尋ねたところ、小学4~6年で18%、中学生で39%が「そう思わない」と感じていた。
大人に対して「もっと熱心に話を聞いてほしい」「接している時にスマホを見ないでほしい」など求める声もみられた。
外来にくる子どもたちを診療していると、コロナ下であっても「友達と遊ぶ」「祖父母に会いに行く」など自分がしたいことを保護者と共有できている子どもたちは元気に過ごしている傾向がみられる。話す時間は短くてもかまわない。「明日は何をしようか」ということを保護者から語りかけてもらいたい。

見知らぬ人との会話

9月16日の朝日新聞オピニオン欄、デイビッド・ブルックス、ニューヨークタイムス・コラムニストの「見知らぬ人との会話 不安は思い込み、もっと幸せに」から。

ある日、ニコラス・エプリー教授はシカゴ大学のオフィスに電車で通勤していた。行動科学の専門家である彼は、社会的なつながりが私たちをより幸せにし、健康にし、多くの成功をもたらし、幸福な人生へと導くことを理解している。ところが、電車内を見渡して気づいた。誰かと話をしている人が一人もいないのだ。みんなヘッドホンをしているか、新聞を読んでいるかだった。
そこで疑問が浮かんだ。私たちは一体ここで何をしているんだ? 自分を幸せにしてくれる行動をなぜ取らないのだろう。
エプリー氏は、人々が電車や飛行機で知らない人と会話するのを嫌がる理由の一つが、それが楽しいものになると思っていないからだということを見いだした。気まずく、退屈で、疲れるものだと信じているのだ。あるオンライン調査では、待合室で見知らぬ人と話すと答えた人はわずか7%で、電車でも24%しかいなかった。

しかし、こうした予測は正しいのだろうか。エプリー氏の調査チームは、これについて数年間研究を続けてきた。彼らは人々に見知らぬ人との出会いについて予測をしてもらい、その後、実際はどうだったか尋ねた。
調査チームは、私たちのほとんどが見知らぬ人との出会いをどれほど楽しめるかについて、体系的に誤った思い込みをしていることを突き止めた。知らない人と会話をしようとすると快適さが損なわれると通勤者らは考えたが、実際の体験は正反対だった。見知らぬ人と会話することを指示された人たちは一貫して、人と話さないように言われた人よりも道中を楽しんだ。内向的か外向的かを問わず、一人で乗車するより会話を楽しむ傾向があった。

こうした誤認識の多くは、さらに深い誤解に基づいている。それは、人が自分をどう見ているかということだ。会話を始めることは、特に知らない人との場合、難しい。「うまく会話を始められるだろうか。自分の考えを効果的に伝えられるだろうか」と、自分の能力に疑問を抱きながら会話を始めるのだ。
だが、調査からわかるのは、会話中に人はあなたの力量を第一に考えているわけではないということだ。考えているのはあなたの温かさだ。親しみやすく、親切で、信頼できる人に見えるか。あなたが気にかけてくれているのかを知りたいだけなのだ。
エプリー氏の研究は、私がしばらく考えていた謎を解き明かしてくれる。私たち物書きの多くは社会的なつながりの崩壊について書いてきた。最近では「孤独の世紀」「つながりの危機」「失われたつながり」といった題名の本が出版されている。
孤独な人がたくさんいるのなら、なぜ一緒に過ごさないのだろう。それはおそらく人々が非現実的なほどの不安と否定的な予測を抱きながら見知らぬ人に向き合おうとしているからだ。このことを理解すれば、私たちは行動を変えることができるかもしれない。

「働かないおじさん」

9月11日の朝日新聞オピニオン欄「50代社員、諦めないで」、人事コンサルタント、フォー・ノーツ代表の西尾太さん「後進育て、誰かの役に立とう」から。

――若い世代が中高年をどう見ているのかが気になります。
「私たちの調査では、若手社員の50代への評価は概して高く、『新たなスキルや知識を身につけ、未経験の仕事に取り組むことができる』と考える人が約45%に上りました。私たちの世代を温かい目で見てくれているんだな、と意外でした。半面、50代の当事者に意欲を聞くと、3人に1人が『できれば取り組みたくない』と答えている。消極性や自己評価の低さが目立ちました」

――自分の能力がどれだけあるのか、悩んでいる人も多いのでは。
「真面目に30年以上仕事をしていたら、自分では意識していなくても経験やスキルは蓄積している。それを棚卸ししてみましょう。これまで積み重ねてきたことを体系化し、後進を育てることを考える。人を育てる50代を企業は手放しません」

――中高年の頃は教育費や住宅ローンなどの負担が多い。公的支援が少ない日本では、その分、年功賃金で企業がまかなってきました。
「給与が抑えられていた20代、30代に馬車馬のように働いたのだから、その分を払って欲しいと考えるのは分かります。しかし、バブル崩壊後、中高年を温かく処遇できる企業は減りました。若い社員は現在の働きに見合う給与を払わないと辞めていく時代です。今の価値に対する賃金を時価払いしなくては企業が立ちゆかなくなった。それが、人事施策を手伝っている私の実感です」

――企業が適切な仕事を割り当てられていない面もありませんか。
「その人のパフォーマンスを最大限に発揮できる部署が社内にあれば幸運でしょう。一方で、最近では社外での人材の流動性も高くなっており、大きな組織できちんと仕事をしてきた管理職経験者が欲しい、という中堅企業も増えています」

――中高年以降の働き方、生き方が変化しているのでしょうか。
「働く理由を中高年に問うと、多くの人は給料のためと答えます。管理職研修でも、誰かの役に立ちたいという外向きの答えが少ない。収入を得るのは大切ですが、生活のために耐えるというモードでは自分がもちません。どんな価値を社会に提供できるか、考えましょう」

みっともない

いつものスマホ批判です。

歩きスマホで前の人とぶつかりそうになる人。周りの人に気づかないひと。これらは、他者に迷惑をかける「悪い人」です。「気配り破壊器
駅や電車の中で、ゲームに熱中して指を高速で動かしている人。漫画や映画にのめり込んでいる人。これらは、通行の邪魔にならなければ、周囲に迷惑をかけていませんが、その行動が「恥ずかしい人」です。
それらは各人の趣味ですが、人前で熱中することは、恥ずかしいことです。電車が到着した際に周囲に気を配らず、他人を押しのけて空いた座席に突進する(そして直ちにスマホを操作する)ことも、みっともないことです。

「してはいけないこと」の次に「気配りが足らない」があり、その次に「みっともない」があります。人前での行動の評価であり、作法です。
「迷惑をかけていないから良いでしょ」と答えるかもしれませんが、その行動は周囲から低く評価されます。あなたが結婚相手を選ぶとき、職員採用をするときに、順位は落ちるでしょう。

「みっともない」「はしたない」という言葉は、死語になったのでしょうか。皆さん、自分を美しく見せようと、化粧をしたり服装に気を遣います。なのに、そのような恥ずかしい行動には、気がつかないのでしょうか。礼儀作法を教える方法や機会はないものでしょうか。「公衆の場でのスマホ操作、両耳イヤホン」「君は間違っていない、しかし

転職しない日本の労働者

9月7日の日経新聞「労働移動先進国の半分 生産性向上を妨げ」から。

厚生労働省は6日、転職や再就職などをテーマとした2022年の労働経済の分析(労働経済白書)を公表した。日本の労働移動の活発さは経済協力開発機構(OECD)平均の半分にとどまっていると分析した。生産性向上や賃金上昇に向け、働く会社や仕事内容を柔軟に変えることができる環境が大事だと訴えた。

国際的にみても、日本の労働移動は鈍い。新たに失業した人と再就職した人の合計が生産年齢人口に占める割合は日本が01年から19年の平均で0.7%と、OECD平均1.5%の半分程度だ。「失業プールへの流入出率」と呼ばれるこの指標は、労働移動の活発さを推し量る目安のひとつで、日本は低い水準が続いている。
日本は失業者が少ないため、同指標は低めに出やすい。雇用が安定しているというメリットがあるが、デメリットもある。白書は、この労働移動の活発さと技術進歩などを示す全要素生産性(TFP)の伸びを各国比較したところ「弱い正の相関がある」と分析した。労働移動が活発だと「企業から企業への技術移転や会社組織の活性化につながり、生産性向上にも資する可能性がある」と指摘した。

日本は勤続年数が10年以上の雇用者が45.9%と30%前後の米英などに比べ多く、同じ会社で長く働く。白書によると、特に役職のある男性が転職などに慎重だった。係長級の男性は37.7%が転職を希望するが、実際に転職活動をしている人は13.1%。2年以内に転職した人が11.3%にとどまった。課長級も、希望者35.0%に対し活動者が12.2%、2年内の転職者が13.3%だ。
終身雇用を前提とした人事制度では、中途採用者の社内でのキャリアパスが明確でないケースも多い。転職に踏み切っても新しい職場で能力が生かせなかったり、賃金が減ったりするリスクもある。
労働移動を促す手段の一つが学び直しだが、取り組みは広がっていない。職業能力を自発的に開発する自己啓発をしている人は男性正社員で20年度に43.7%と12年度の50.7%から減少した。女性正社員も41.1%から36.7%に減った。取り組めない理由は男女とも「仕事が忙しい」が多く、また「家事・育児が忙しい」と回答する女性も目立った。「費用がかかりすぎる」といった理由を挙げる人も男女ともにみられた。白書は「企業が費用面の支援や就業時間の配慮をしている場合、自己啓発をしている社員の割合が高い」として企業による支援の重要性を指摘した。