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連載「公共を創る」第253回

2026年3月26日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第253回「政府の役割の再定義ー官僚に仕事をさせるために」が発行されました。
社会の未来に関する議論に関して、官僚の発言が少なくなっていることを述べています。各分野の政策に一番通じているのは各省の官僚です。得られた知識や考察をもとに、意見を世に問うてほしいものです。

その際にお願いしたいことは、ぜひ、個人の名前で公表してほしいのです。その分野で長く、あるいは広く仕事をしてきた官僚の個人の意見は、決して無用なものではありませんし、多くの場合、今後の議論に役に立つであろうと思われます。発表することによって、やがて私見が組織の公的な見解になることもあるかもしれません。また、組織の政策にならなかったことも重要なのです。「この政策を決めるにはこのような背景があった」「このような案もあるが、採用されたのは別案である」「このような問題があるが、対応は将来に持ち越されている」といったことを書くことは、意義があると思います。他方で、こんなことを匿名で書いたのでは、無責任な「怪文書」になる恐れがあります。

官僚の発言が減ったもう一つの理由は、社会に新しく生まれてくる問題がこれまでの所管にすっきりとは収まらず、各省組織の中に拾いあげにくいことも考えられます。各省各局の分担管理に収まらない新しい課題を、どのように官僚機構が取り上げるのかが大きな問題です。そのためには、個別バラバラに見える諸課題を統一的な視点から位置づけ、総合的に対策を考え、実行する仕組みをつくることが必要なのです。
地方自治体には企画部や企画課がありますが、国では各省や各局にそのような組織はあっても、内閣にはありませんでした。内閣官房があり、内閣の重要政策に関する企画、立案、総合調整を所管しています。しかし、特定案件についての各省間の調整にとどまっているようです。
根本に戻ると、将来の日本を考え政策を考えることに関して、官僚の発言が減ったことの大きな理由は、目標と役割の再設定に遅れているからです。

官僚機構を再び活性化し、活用するためには、新たな官僚論が必要です。ところが、このような議論が本格的になされているようには見えないのです。公務員制度改革も取り組まれましたが、重要なのは、成熟社会における行政の役割、そして政治主導での官僚の使い方です。それは、制度論に収まるものではなく運用論が主になるでしょう。これについては、政治家、研究者、報道機関などの意見も重要ですが、何より当事者である官僚の、現実を踏まえた考えと発言が求められます。

もう一つ、官僚論の問題点を挙げておきます。それは、日本の行政と行政学が国内に引きこもっていることです。かつて「日本の官僚は世界一」と評価され、慢心したことの代償でしょう。この点を厳しく指摘したものとして、砂原庸介・神戸大教授の「日本の行政は他国の行政に学べるか―あるいは行政学の国際化」(季刊「行政管理研究」2025年6月号)を紹介しました。

これで本論を終え、次回からは「まとめ」に入ります。

日本型ジョブ型雇用

2026年3月26日   岡本全勝

3月6日の日経新聞経済教室は、濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の「導入広がるジョブ型雇用、制度の土台は日本型のまま」でした。

・・・「ジョブ型」というのは奇妙な言葉である。jobという英語が元になっているけれども、ジョブ型に当たる英語(job-type)は存在しない・・・なぜか。雇用にせよ人事・賃金にせよ、世界では職務に基づくのが大前提で、職務に基づかないとは想定しがたいからだ。それゆえジョブ型という用語は、労働に関わるどの言葉に冠しても冗長で無意味となる。
では、なぜ日本ではこの言葉が頻繁に用いられるのか。雇用も人事も賃金も、職務に基づいていないからだ。あるいは少なくとも、職務以外のものに基づいていることが多いからだ。
つまりジョブ型は、日本でそう思われているように特殊なものとして名指しされるべき概念ではない。むしろ逆で、ジョブ型ではない日本のあり方こそ、世界では特殊なものと名指しされるべき概念なのである。
そこで、こうした日本の特殊なあり方を筆者は著書「新しい労働社会」(岩波新書、2009年)で「メンバーシップ型」と名付けた。そして対義語として、世界ではとくに名前もない普通のあり方に対してわざわざ「ジョブ型」という言葉を案出したのである。
ところが、これが日本の文脈に投げ込まれてしまうと、筆者の意図とは全く逆に受け取られることになる・・・

・・・筆者はやむなく21年に「ジョブ型雇用社会とは何か」(岩波新書)を刊行し、正しい理解の普及に努めたが、今日でもなおジョブ型をタイトルに冠する書物の大部分は、新商品としてのジョブ型を売り込むためのコンサルタント本である。
そこで「ジョブ型」とされているものは、パソコンに例えれば基本ソフト(OS)としては従来の日本的なメンバーシップ型の雇用を前提としつつ、OS上で動くアプリケーションソフトたる人事異動や賃金制度において、ジョブ型風味の改革を唱道するものが大部分であるように見える・・・
・・・24年8月には「ジョブ型人事指針」と称する、内閣官房・経済産業省・厚生労働省連名の文書を策定した。ところが、この文書は政府が策定した指針でありながら、政府が企業にこのようにすべきだと指し示す部分はほとんど存在しない。富士通、日立製作所をはじめ20社の人事制度改革の概要をただ束ねただけであり、まえがき的な小文に「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」と書かれている。
その20社の実例を見る限り、その主眼は人事異動における社内公募制(ポスティング)と、賃金制度における職務給(職務等級制度)であるらしい。逆に言えば、雇用契約自体は新卒一括採用による職務無限定の正社員モデルでありつつも(つまり雇用のOSはメンバーシップ型のまま)、その上で走らせるアプリはジョブ型風に運用する、ということであろう・・・

局長が課長の仕事をし、課長が課長補佐の仕事をするようになった

2026年3月25日   岡本全勝

昨日紹介した長屋聡執筆「官僚制の変容と若手官僚」(季刊『行政管理研究』2025年9月号)に、次のような指摘があります。

・・・また、官僚個人のレベルでは、事柄により、かつてより1ランク又は2ランク下の職責の仕事をしている印象も抱く。局長がかつての審議官、ともすれば課長級の判断・決定を、課長が課長補佐級の判断・決定をしているといった具合である。
これは、行政自体がより緻密な仕事を求められるようになったこととともに、例えば、幹部職員について見れば、当該ポストで自らの責任で決めることのできる裁量範囲が狭くなり、上司である政務等の判断を要する事柄が増えている面があることは否めない。上のポストの裁量範囲が狭くなれば下のポストにも影響は及んで行く・・・

「かつては課長補佐がやっていた仕事を課長がやっている」という話は、よく聞きます。働き方改革が進んで、部下に超過勤務を頼めず、管理職がそれを行っているという要素もあるそうです。それなら、仕事を取捨選択して、仕事量を減らさなければなりません。それは、緻密な仕事を求められる・裁量範囲が狭くなった場合も同じです。

他方で、官僚主導から政治主導に移行すると、幹部官僚の仕事の範囲は狭くなっても良いはずです。重要事項は政治家が判断し、幹部はその指示で動くので、責任=仕事が狭くなるからです。組織内で、課長より課長補佐や係長の方が、責任が軽くなるのと同じです。
では、なぜ局長が課長の仕事をするようになったのか。私が考える理由は次の通り。
1 幹部は、政治家に気を遣うことが増えた
これは、長屋論考が指摘していることです。幹部が自分で判断できず、官邸や大臣の意向を重要視することで、仕事が増えて遅くなるのです。想定問答をたくさん用意するとか、指示を待つとかです。

2 幹部が攻めの仕事をせず、守りの仕事になっている。
政治家の指示を待つこととともに、目の前の案件を処理することで手が一杯になり、長期的な課題検討ができていないのではないでしょうか。いつの時代にも仕事はたくさんあります。その際に、優先順位をつけることができれば、効率よくかつ安心して進むことができるのですが、モグラ叩きをしていると、良い成果は出ず、疲れます。

長屋論考には、次のような指摘もあります。
・・・ア  国会待機など、合理的と思われない業務による拘束。
このほか、幹部による必要以上の詰め(必要以上の完璧主義)、上司による有意と思われない手厚すぎる業務の指示など(近年、幹部・管理職は若手を気遣うマネジメントをするようになったとの変化は見られるが、一部には、マイクロマネジメントが変わらぬ幹部・管理職もいるように聞く)。
イ  政官関係の中での官の当事者性(自律性)の低下。
達成感を感じるような成功体験の機会の減少。政治家への根回しと政治家からの宿題こなしに多忙を極めたり、一時の野党ヒアリングで叱責されたりしている幹部・管理職の姿は、若手官僚が自分の将来を考えた時、やりがいや充実感を感じることにつながるであろうか・・・

「災害ケースマネジメントに基づく 被災者支援ガイドブック」

2026年3月25日   岡本全勝

一般財団法人ダイバーシティ研究所が、「災害ケースマネジメントに基づく 被災者支援ガイドブック」を作成しました。無料でダウンロードできます。

災害時に被災者支援に携わる自治体職員、福祉・医療関係者、NPOやボランティアなど、現場で支援を担う人たちが、「災害ケースマネジメント」の考え方に立って、実践に活かすための手引きです。これまでに実践してきた被災者支援の取り組みと、中国5県の被災自治体における支援の実践経験を基に、「災害ケースマネジメント」で必要な要素を体系化して提供するものとのことです。

被災者支援活動は、行政の手が行き届いていませんでした。極端に言えば、避難所で支援物資を提供し、仮設住宅を建設するまででした。東日本大震災で、NPOによってさまざまな被災者支援の重要性が認識され、支援内容も充実してきました。
研究所代表の田村太郎さんは、その面での私の師匠です。

長屋聡執筆「官僚制の変容と若手官僚」

2026年3月24日   岡本全勝

長屋聡執筆「官僚制の変容と若手官僚」(季刊『行政管理研究』2025年9月号)を紹介します。遅くなってすみません。執筆者から送ってもらっていたのですが、机の上で寝ていました。良い論考です。官僚制に危機感を持っている人、霞ヶ関の幹部には読んでいただきたいです。冒頭に次のように書かれています。

・・・若手の官僚が中途退職し、国家公務員志望者が減少していることが、社会的な耳目を集めている。人事院及び内閣人事局は、近年、相当な危機感を持って、これに対処すべく取り組んでいる。
本稿では、まず、政と官との関係で政治主導の必要性が唱えられ始めた1990年代以降、官僚及び官僚制はどのように変わって来たのかについて、Ⅰ官僚制の変容として概観した。そして、Ⅱにおいて、そのような経緯を経た現在の官僚制の中で、若手官僚(いわゆるキャリア官僚を念頭)の実相はどのようなものとしてとらえられるかを、個人的心証を含めて概説した。
官僚制の内側の視点から官僚制の変容の経過を整理している文献は必ずしも多くなく、Ⅱではマネジメントや人材育成にも言及しており、現役官僚の方々、さらに官僚制に関心を抱く方々に何がしか参考になれば幸いと思っている・・・

連載「公共を創る」第253回「官僚に仕事をさせるために」(3月26日号)で、「官僚機構を再び活性化し、活用するためには、新たな官僚論が必要です。ところが、このような議論が本格的になされているようには見えないのです。何より当事者である官僚の、現実を踏まえた考えと発言が求められます。」と書いたのですが、この論考は、まさに官僚が(現在は元官僚)が人事課長などの経験を元に、近年の官僚を取り巻く環境と行動の変化を述べたものです。すみません、連載「公共を創る」で紹介、引用すべきでした。

いくつか目次を紹介します。
Ⅰ 官僚制の変容
本章では、官僚制がいかに変化して来たか、また官僚制は状況の変化に十分に対応・適応して来たと言えるかを問題意識として、以下、官僚制をめぐる環境の変化と、官僚制(国家公務員制度)の改革、官僚そのものの変化と現状について記述したい。
1 取り巻く環境の変化
⑴  行政及び官僚を取り巻く経済・社会・国際状況等の変化(1990年代以降)
ア  バブル後の社会・経済・国際状況への対応の不十分 イ 個別行政の失敗 ウ 官僚不祥事の発生
⑵ 国の行政の役割の変化
⑶ 政と官、政府(内閣)と与党との関係の変化
(ウ)その他の官僚制にかかわる状況変化 ⅰ)国家公務員倫理法の制定 ⅱ)天下り批判
ウ 中央省庁改革後の運用(小泉内閣、民主党政権)
2 公務員制度改革及び官僚における変化と現状
⑵ 官僚個人をめぐる変化
ア 官僚に求められる能力 イ 志望動機、やりがい
⑶ 官僚の類型と行動 ⑷ 専門性と政治的応答性
3 官僚制についての現状認識

Ⅱ 若手官僚の実相
Ⅰに見るように官僚制が変化して来た中で、近年、若手官僚の退職者の増加、志望者の減少が著しい。以下、こうした状況の背景分析、若手官僚の実態、対応策などについて考えたい。
1 若手官僚をめぐる課題、背景
⑴ 社会的背景、社会意識の変化 ⑵ 霞が関に内在する課題
2 若手官僚の認識、特徴等
⑴ 若手職員の現状 ⑵ 若手官僚の気質、特徴 ⑶ 若手官僚の指摘(例)⑷ 構造的課題
3 対応(マネジメント)