分権後の自治体・知事会の役割

10月16日の朝日新聞夕刊「いま聞く」は、平井伸治・全国知事会新会長(鳥取県知事)の「対コロナ、地方からの「共闘」とは」でした。

・・・新型コロナへの対応を通じ、全国知事会の存在感が増した。国と意見を交わし、対策を引き出した。さらに「国民運動的な手法」で「共に闘う」という。このスローガンを提唱する新会長の平井伸治・鳥取県知事に具体策を尋ねた。
新型コロナの出現以後、全国知事会は多忙を極めた。平時なら、年に数回の会合を開き、国への要望をまとめる定型業務で事足りた。ところが地域住民の命が危険にさらされることとなり、現場で対応に当たる知事たちの状況は一変した。

昨年1月、新型コロナの感染拡大に対応するために知事会に緊急対策会議を立ち上げ、翌2月には緊急対策本部を設置。各知事がオンラインで参加し、問題提起や国への要望を共有する対策本部会議を30回近く開催した。総意としての「緊急提言」をまとめ、その都度、関係各大臣と意見交換した。
「新型コロナの副産物として、国と地方の対話の機会は飛躍的に増えました。そして地方の現場を預かる我々の声が、これまでになく尊重された1年半でもあった。知事会と政権との歴史において、初めての経験だったと思います」
「尊重された」という言葉通り、新型コロナ対応の中で知事会の議論が国を動かし、制度化されたものは複数ある。
例えば、事業者への休業補償。政府は当初、対応に否定的だったが、知事会の提言を受けて地方創生臨時交付金を使える仕組みが生まれ、「協力金」制度を法に明記するに至った。そして、緊急事態宣言に至らない予防措置としての「まん延防止等重点措置」も、知事会の議論から生まれたものだ・・・

2000年頃の地方分権改革の時代には、国に対し「戦う知事会」が脚光を浴びました。分権改革で一定の分権が進んだことから、その運用が問われる時代になっています。今回の新型コロナウイルス感染症対策では、その存在を高めたと思います。

経済停滞の30年

各紙が、日本経済がこの30年間、成長していないことを取り上げています。

10月16日の日経新聞1面「データが問う衆院選の争点」「日本の年収、30年横ばい 新政権は分配へまず成長を
・・・OECDがまとめた年間賃金データを各国別に比べると、日本は30年間ほぼ横ばいだ。購買力平価ベース(20年米ドル換算)の実質系列で30年前と比べると、日本は4%増の3.9万ドル(440万円)どまりだったのに対し、米国は48%増の6.9万ドル、OECD平均が33%増の4.9万ドルと大きく伸びた・・・

10月20日の朝日新聞1面「日本経済の現在値」「30年増えぬ賃金、日本22位 上昇率は4.4% 米47%、英44%
・・・日本経済をどう立て直すのかは、衆院選の大きな争点だ。様々な指標を外国と比べると、低成長にあえぐ日本の姿が見えてくる。安倍政権が始めたアベノミクスも流れはほとんど変えられず、1990年代初めのバブル崩壊以来の「失われた30年」とも呼ばれる低迷が続いている。
国際通貨基金(IMF)の統計で、国の経済規模を示す名目国内総生産(GDP)をみると、日本は米国、中国に次ぐ世界3位と大きい。しかし、1990年の値と比べると、この30年間で米国は3・5倍、中国は37倍になったのに、日本は1・5倍にとどまる。世界4位のドイツも2・3倍で、日本の遅れが際立つ。国民1人当たりのGDPも、日本はコロナ禍前の19年で主要7カ国(G7)中6番目という低水準だ。
賃金も上がっていない。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の平均賃金は、加盟35カ国中22位で3万8514ドル(1ドル=110円で424万円)。この30年で日本は4・4%増とほぼ横ばいだが、米国47・7%増、英国44・2%増などと差は大きい。賃金の額も、隣国の韓国に15年に抜かれた・・・

同じく13面の「置き去り、米と339万円差 424万円、日本の平均賃金
・・・まず、日本の現状を確認してみた。経済協力開発機構(OECD)の2020年の調査(物価水準を考慮した「購買力平価」ベース)によると、1ドル=110円とした場合の日本の平均賃金は424万円。35カ国中22位で、1位の米国(763万円)と339万円も差がある。1990年と比べると、日本が18万円しか増えていない間に、米国は247万円も増えていた。この間、韓国は1・9倍に急上昇。日本は15年に抜かれ、いまは38万円差だ・・・
・・・日本生産性本部によると、19年の1人あたりの労働生産性は37カ国中26位。70年以降では最も低い順位で、主要7カ国(G7)では93年以降、最下位が続く。自動車産業など、日本経済の稼ぎ頭だった製造業でさえ、直近の18年は16位。95年、00年は1位だったのに、他の国に次々に抜かれていった。
中小企業庁による21年版中小企業白書には衝撃的なグラフが載っていた。従業員1人あたりの労働生産性が03年度以降、ほぼ横ばいで上昇がみられないのだ。企業の数で99%以上、従業員で7割を占める中小企業が伸びないのは、日本の成長力にとっては痛い・・・
記事についているグラフを見ると、日本の負け方が鮮明です。

同じく10月20日の読売新聞経済面「過去30年 賃金上昇実感できず
・・・ただ、欧米各国に比べると、日本の賃上げは力強さに欠ける。経済協力開発機構(OECD)がまとめた平均賃金のデータによると、各国の物価水準を勘案して調整した「購買力平価」ベースでは、20年の日本は3・9万ドル(約440万円)。30年前に比べると、わずか4%増に過ぎない。
この間に米国の賃金は48%、英国も44%増えた。30年前に日本よりも低かった韓国には追い抜かれた。
企業の業績は好調で、利益の蓄積である内部留保は積み上がり、20年度末は484兆円と9年連続で過去最高だった・・・

日本の産業経済政策は、この30年間の失敗をどのように総括し、どのように転換していくのでしょうか。政府と経済界、そして企業の責任と役割が問われています。

連載「公共を創る」執筆状況報告

恒例の、連載「公共を創る 新たな行政の役割」の執筆状況報告です。
紙面では「第4章政府の役割再考」の「1社会の変化」が10月21日で終わり、28日から「2社会と政府」に入ります。「(1)社会を支える民間」の前半、3回分は既にゲラになっています。
その続きを書き上げ、手を入れてもらうべく、右筆たちに送りました。右筆さんたち、よろしくお願いします。

「(1)社会を支える民間」の後半は、社会を支える国民の意識についてです。日本は民度が高く、関係資本や文化資本も強いと言われています。「この国のかたち」「日本人論」として高く評価されてきました。しかし、それらが新しい暮らしの形に適合せず、社会の活力と安心にほころびが出ています。この通念と社会の仕組みの問題について説明しました。

これまでの執筆で、いろんな角度いろんな分野でこの問題を取り上げたので、それらの集約となります。「この話は、どこかで書いたよな」と、過去に書いたものを見なおしてみると、たくさん出てきます。まあ、この主題で書いているので、当然ですが。
とはいえ、今回も執筆に難渋しています。転職したばかりでいろいろと用務があること、夜の異業種交流会を再開したことから、なかなか執筆の時間を取ることができません。

外食市場の規模

日経新聞夕刊「あすへの話題」10月18日は、磯崎功典・キリンホールディングス社長 の「外食文化を守りたい」でした。
「外食市場は26兆円とGDPであれば5%程度に相当し、そこに携わる人々は400万人以上と裾野が広い。日本経済を支える重要な産業のひとつだ」と書かれています。

もちろん経済だけでなく、社会や文化での機能も大きいです。新型コロナウイルス感染症が、改めて見せてくれた意義でした。

連載「公共を創る」目次4

「目次3」から続く。
全体の構成」「執筆の趣旨」「日誌のページへ」「目次」「目次2」『地方行政

第4章 政府の役割再考
2 社会と政府
(1)社会を支える民間
10月28日 97社会と政府ー保険に見る企業と政府の協働
11月11日 98社会と政府ーサービス提供、担い手は官か民か
11月18日 99社会と政府ー広がる企業の役割
11月25日 100社会と政府ー通念と生活の「ずれ」ー顕在化した不安
12月2日 101社会と政府ー家族と職場に見る「ずれ」の実像
12月9日 102社会と政府ー「新しい通念と仕組み」構築の方向性
12月16日 103社会と政府ー「通念」を変える─その方策と障害

2022年
(2)政府の社会への介入
1月13日 104社会と政府ーその理念的な推移
1月20日 105社会と政府ー産業政策と日本の発展
1月27日 106社会と政府ー産業政策の転機
2月3日 107社会と政府ー政府とコミュニティーの関係
2月10日 108社会と政府ー「国のかたち」の設定ー倫理
2月17日 109社会と政府ー倫理や慣習への介入
3月3日 110社会と政府ー社会意識の変化
3月10日 111社会と政府ー「世間の目」と学歴・職業観
3月17日 112社会と政府ー倫理や社会意識、議論する場は?
4月7日 113社会と政府ー生活への介入
4月14日 114社会と政府ー「生きていく力」を身に付けるには
4月21日 115社会と政府ー個人の自由への介入
5月12日 116社会と政府ー家族と個人の衝突
5月19日 117社会と政府ー国民・社会の政府に対する意識
5月26日 118社会と政府ー国民の政治参加と新自由主義的改革の実像
6月2日 119社会と政府ー「戦後民主主義」の罪
6月16日 120社会と政府ー政治への嫌悪感とゼロリスク信仰
6月23日 121社会と政府ー行政・官僚への不信ーその内実
7月7日 122社会と政府ー行政と官僚ー信頼回復への道筋
7月14日 123社会と政府ー政治参加の現状─主権者教育と地方自治
7月21日 124社会と政府ー社会参加の意識─諸外国との比較
8月4日 125社会と政府ー社会参加政策のあり方―スウェーデンとドイツ
8月18日 126社会と政府ー政治・社会参加を促す具体策
8月25日 127社会と政府ー政治・社会参加の重要性
9月1日 128社会と政府ー政治・社会参加で「つながり」を得る
9月8日 129社会と政府ー日本における政治・社会参加の現状考察
9月29日 130社会と政府ー求められる「構造的な改革」
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