年別アーカイブ:2018年

政治への信頼

2018年9月4日   岡本全勝

9月3日の日経新聞オピニオン欄、ファイナンシャル・タイムズのジャナン・ガネッシュさんによる「米の政治不信、発端は」から。

・・・米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、1960年代までは米国民と指導者の間にはべったりと言っていいほどの信頼関係があった。ジョンソン大統領がベトナムに地上軍を送り込む前年の64年には、政府を信用していると答えた国民が約77%いた。ところが10年後にはその半分以下となる。80年代に入る頃にはさらに減り、昨年は18%にとどまった。
米国の戦後史で断絶あるいは変曲点があったとすれば、ベトナム戦争だろう。国外での殺りくと国民同士の憎しみはトラウマを残した。それに比べて金融危機は、少なくとも政府への信頼度にはさほど大きな影響を与えなかった・・・
・・・政府はあの戦争で戦術的な無能さから戦況に関する嘘まで、負の側面ばかりが目立った。人命の損失も深刻で、国内の空気は険悪になった。街の至る所でカウンターカルチャーと反カウンターカルチャーの衝突が発生。ベトナム戦争をテーマにした映画「ディア・ハンター」などが大ヒットした。こうした流行は移り変わったが、かつて信頼していた政府への幻滅は消えず、むしろ強まった・・・

あこがれのフランス

2018年9月4日   岡本全勝

フランス旅行には、いつものように、固い本と軟らかい本を持って行きました。柔らかい方は、鹿島茂著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(2007年、中公文庫)を、積ん読の山から見つけて。

フランスで(フランスに滞在中は余裕はないので、正確には飛行機中で)、フランスに関係するエッセイを読むのは、ぜいたくなことですね。日本で読むより、「なるほど」と思うことが多いです。この本の原本は、1999年。さらに、収録されている個別のエッセイは、その前に書かれたものですから、結構時間が経っています。
いつもながら、先生の著作は、切れ味良く読みやすいです。

その中で、フランスとフランス語、フランス語学科が、かつてのようなあこがれでなくなったことを、嘆いておられます。
そうですね。私の時代は「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し・・・」(萩原朔太郎)の時代ではありませんが。かつては、海外旅行は簡単でなく、そしてフランスはその中でもあこがれでした。「おふらんす」と、漫画おそ松くんの中で、フランス帰りのおじさんイヤミは表現していました。
デパートでも、イギリス展、フランス展が毎年開かれていました。いつの頃からか、このようなフェアがなくなりました。売り場を覗いても、欲しいなあと強くひかれるモノもなくなりました。

フランスやイギリスに行っても、これは買いたいと思う品も、お土産に買って帰りたいという品も、なくなりました。もちろん、とんでもないお金を出せば買える「すばらしいモノ」はあるのですが。これは、私には手が出ないので。
日本が豊かになり、「舶来品」「舶来上等」が消えました。舶来といっても、若い人には通じませんかね。また、海外旅行が珍しくなくなり、彼我の差が縮まりました。おいしフランス料理もワインも、日本で食べることができます。
しかし、行ってみると、見るところは多いですね。

頭という限りあるキャンバス

2018年9月3日   岡本全勝

飯田 芳弘 著『忘却する戦後ヨーロッパ』を読みながら(忌まわしい過去を忘却する戦後ヨーロッパ)、次のようなことも考えました。
「思考の枠」「頭は限りのあるキャンバス」ということです。これだけでは、何を言っているかわかりませんよね。

『忘却する戦後ヨーロッパ』では、独裁政権が倒れたあと、忌まわしい過去を忘れるために「忘却の政治」がとられます。しかし、その際には、積極的に「忘れる」という行為は取られません。他の政治課題が優先され、過去の断罪が脇に追いやられるのです。
多くの場合、「忘れよう」「許そう」とは主張されません。新国家建設(共産主義崩壊後は、たくさんの国が生まれました)、経済再建・経済発展などが優先課題になり、これらの課題は後回しになり、取り上げられなくなります。もっとも、国際社会からの要求もあり、その範囲では対応せざるを得ません。

すなわち、複数の政治課題がある場合に、同時にすべてを処理することはできません。ある期間に取り組むことができる思考には、限りがあるのです。
画用紙・キャンバスを想像してください。白地なので、何でも描くことができます。しかし、1枚の紙に書くことができる図柄には、限界があります。たくさん描きたい動物があっても、大きな象とシマウマを書くと、他の動物は描くことができません。そして、細かく書き込もうとすると、時間が無くなります。次の紙に描くしかありません。

新聞紙面も、わかりやすいでしょう。毎日、ニュースが伝えられます。しかし、その日の一番大きなニュースが大きな紙面を占めて、他のニュースは隅に追いやられます。ほかの日だったら、1面に来るニュースも、大災害の翌朝だと、載らないこともあります。そして、翌日には、次の朝刊が配達されます。

「思考の枠」「頭は限りのあるキャンバス」とは、このように、人が一時に考えることができる項目には限りがあることを、言いたいのです。これは、個人の脳とともに、政治空間や新聞紙面も同じです。
すると、何を重要項目として取り上げるか。これが、本人、政治家、編集者の重要な判断項目になります。嫌なことを取り上げないことも、同様です。「話をそらす」ことです。
他方で、「忘れてはならない重要な課題」は、その時には取り上げられなくても、忘れることなく考え続ける必要があります。そして、他に重要課題がない時に、取り上げるように準備しておく必要があります。

身につけた経済力を生かす2

2018年9月3日   岡本全勝

先日、「身につけた経済力を生かす」を書いたら、次のような指摘がありました。
・・・中国に抜かれたとはいえ、まだまだ日本の経済力は強いです。この国力を、どのように後世に残すか、世界に貢献するかを考えるべきです・・・

ご指摘の通りですね。私の発言は、過去のことや、過ぎたことへの反省が多いです。歳をとりましたね(反省)。

豊かになった現在、個人がその豊かさを楽しむこと、企業が消費者の要望に応えること、行政が公共サービスを充実すること。これらも大切ですが、日本社会として、日本国として、後世と世界にどのように、何を遺すか、残すことができるか。

フランス旅行の際に見物するのは、古代ローマ・中世の遺跡、18世紀から19世紀のフランスの建造物や富、文化です。フランスが強かった時の富や国力が、建造物、街並み、美術、小説、料理を含めた文化に残っています。
観光客が多いことは、それだけ世界の人を引きつける魅力があるということです。日本も、海外からの観光客が急増しています。アジアの国々が豊かになったという条件もありますが、日本の魅力が認識されたということです。自然(そのものとともに残す努力も必要です)、街並み、建造物、歴史文化、食事・・。買い物やお土産。
では、さらに何を日本の魅力として売り出すか。

モノとともにコトにも、注目したいです。安全、清潔、誠実・・。和食・日本酒の他に、お風呂なども広がって欲しいです。
脱線しますが。その点で、日本企業に相次ぐ性能偽装は、心配です。

忌まわしい過去を忘却する戦後ヨーロッパ

2018年9月2日   岡本全勝

敗戦の認識」で紹介した、橋本明子著『日本の長い戦後』に触発されて、飯田 芳弘 著『忘却する戦後ヨーロッパ  内戦と独裁の過去を前に 』( 2018年、東京大学出版会)を読みました。私が知らなかったこと、考えていなかったことが多く、勉強になりました。

ナチズム、戦後南欧諸国の独裁、共産党支配。これらは、20世紀にヨーロッパで続いた、暴力的独裁です。ナチスや共産党支配については、そのとんでもないひどさが、よく伝えられています。
では、それらの支配が倒されたあと、国民と新政府は、それら過去をどのように扱ったか。すべてを否定することができれば、簡単です。しかし、支配者側にあった人やそれに加担した人たちが、たくさんいます。どこまで、彼らを裁くのか。また、その時代にされた行政や判断を、どこまで否定し、どれを引き継ぐのか。そう簡単ではありません。公務員を全員入れ替えることは、不可能でしょう。

過去を否定し、断絶することを進めると、社会の混乱は大きく、国民の間に亀裂が入ります。行政も産業も、ゼロからのスタートは非現実的です。
また、ヒットラーやスターリンに押しつけられたとはいえ、祖国と祖先たちが行ったことをすべて否定することは、ナショナリズムにとっては屈辱です。
そこで取られたのが、ある程度で妥協し、それ以上は過去にこだわらないことです。裁判の打ち切りであったり、恩赦です。著者は、過去の忌まわしい記憶を忘れるための「忘却の政治」と表現します。

各国によって、事情は異なります。ドイツと日本では、連合国による軍事裁判が行われましたが、イタリアでは行われていません。そして、自国が過去の自国民を裁いた国と、しなかった国があります。
この本は、ヨーロッパを対象としていますが、日本の戦後政治を考えざるを得ません。ぜひ、日本やアジアの国を対象とした本が、書かれることを望みます。

買ってあったのですが、積ん読でした。フランスに行く飛行機(片道10時間以上)で、集中して読めると思い、持ち込みました。読みやすくて、読み終えました。『日本の長い戦後』とあわせてこの2冊は、この夏、もっとも収穫があった読書でした。
エリック・ホブズボーム著『20世紀の歴史』(2018年、ちくま学芸文庫)は下巻の途中まで読んで、道草中。トニー・ジャット著『ヨーロッパ戦後史 1945-1971 』も、買ってはあるのですが。