忌まわしい過去を忘却する戦後ヨーロッパ

敗戦の認識」で紹介した、橋本明子著『日本の長い戦後』に触発されて、飯田 芳弘 著『忘却する戦後ヨーロッパ  内戦と独裁の過去を前に 』( 2018年、東京大学出版会)を読みました。私が知らなかったこと、考えていなかったことが多く、勉強になりました。

ナチズム、戦後南欧諸国の独裁、共産党支配。これらは、20世紀にヨーロッパで続いた、暴力的独裁です。ナチスや共産党支配については、そのとんでもないひどさが、よく伝えられています。
では、それらの支配が倒されたあと、国民と新政府は、それら過去をどのように扱ったか。すべてを否定することができれば、簡単です。しかし、支配者側にあった人やそれに加担した人たちが、たくさんいます。どこまで、彼らを裁くのか。また、その時代にされた行政や判断を、どこまで否定し、どれを引き継ぐのか。そう簡単ではありません。公務員を全員入れ替えることは、不可能でしょう。

過去を否定し、断絶することを進めると、社会の混乱は大きく、国民の間に亀裂が入ります。行政も産業も、ゼロからのスタートは非現実的です。
また、ヒットラーやスターリンに押しつけられたとはいえ、祖国と祖先たちが行ったことをすべて否定することは、ナショナリズムにとっては屈辱です。
そこで取られたのが、ある程度で妥協し、それ以上は過去にこだわらないことです。裁判の打ち切りであったり、恩赦です。著者は、過去の忌まわしい記憶を忘れるための「忘却の政治」と表現します。

各国によって、事情は異なります。ドイツと日本では、連合国による軍事裁判が行われましたが、イタリアでは行われていません。そして、自国が過去の自国民を裁いた国と、しなかった国があります。
この本は、ヨーロッパを対象としていますが、日本の戦後政治を考えざるを得ません。ぜひ、日本やアジアの国を対象とした本が、書かれることを望みます。

買ってあったのですが、積ん読でした。フランスに行く飛行機(片道10時間以上)で、集中して読めると思い、持ち込みました。読みやすくて、読み終えました。『日本の長い戦後』とあわせてこの2冊は、この夏、もっとも収穫があった読書でした。
エリック・ホブズボーム著『20世紀の歴史』(2018年、ちくま学芸文庫)は下巻の途中まで読んで、道草中。トニー・ジャット著『ヨーロッパ戦後史 1945-1971 』も、買ってはあるのですが。