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行政

市債権の徴収一元化

時事通信社の行政情報サイト「iJAMP」10月10日に、橋本一磨・愛知県豊田市東京事務所長の「市債権の徴収一元化を実現」が載っていました。

・・・2013年当時、税を専門的に扱う納税課主査として、ある高齢男性の窓口対応に当たったときの出来事がきっかけだった。男性は、税や後期高齢者医療保険料、市営住宅使用料といった納付書を持って窓口に訪れ、「全部は払えないから相談したい」と話した。しかし、税の部署なので税以外のものは相談を受けることができないと伝えると、怒って帰ってしまった。
男性にとって市役所は一つなのに、税以外の相談は受けられない。役所自ら市民の信頼を失う組織体制をつくり出していることに気付いた。異なる部署でばらばらに行われている債権回収業務を、一つの窓口で行えるよう組織体制の見直しが必要だと感じたが、主査という一担当職員の力ではどうにもならないことも分かっていた。

そこで、14年に各部対抗のプレゼン大会の場を使って太田稔彦市長に直接提案したところ、市長から具体的に検討するよう指示を受けた。15年度に一元化に向けたプロジェクトチームを発足。翌年度から組織体制の見直しやシステム整備を進め、19年度までに26部署がそれぞれで取り扱っていた60種類もの未収債権を一つの窓口に集約した。併せて、17年度に納税課から債権管理課へ名称変更。19年度には、弁護士チームと連携し、官民連携による債権回収を始めた。

債権回収は、多くの課で本来業務ではないとの意識が高く、後回しにされがちだった。税と税以外を重複して滞納する「滞納のプロ」のような人もいて、対応する職員側も専門性の高さが求められる。このため、税務職員の滞納整理に関する知識と経験を、市の全体的な歳入確保のために最大限活用して効率的・効果的な債権回収に取り組んだ。併せて、システム整備に着手。関連情報を紙やエクセルで管理している課が多く、これらを整理して情報を一元的に管理するシステムを構築し、効率的な業務につなげている。
一元化した初年度から成果が数字として表れ、介護保険料や後期高齢者医療保険料の収納率は中核市の中で1位に。一元化後の6年間で、約28億円の未収債権を回収した。

一方で、滞納者の中に一定数、「無い袖は振れない」生活困窮者がおり、支援の必要性を感じていた。債権回収業務は、「取る」「押さえる」「落とす」のいずれかを判断して進めると学んできたが、「立て直す」の視点を追加。これは、債権回収の現場で発見した生活困窮者を福祉部門へつなぎ、自立に向けた支援を行うことだ。弁護士、社会福祉協議会などと合同で納付相談会を開き、弁護士相談で発見した生活困窮者をシームレスに社会福祉協議会へつないでいる。
地方自治体の基本は「住民の福祉の増進を図ること」で、歳入確保による財政健全化の視点と福祉的な側面への配慮の間に、常にジレンマを抱えている。故に、単に債権回収すればいいというものでなく、福祉的側面への配慮など債務者の個別事情を踏まえた対応が必要となる・・・

社会保障制度の申請主義

9月28日の朝日新聞夕刊、社会福祉士・横山北斗さんの「社会保障制度、迷わず使うために」「知らないのは罪ですか?―申請主義の壁―」から。

・・・コロナ禍による経済的困窮者が増えていた2020年12月。厚生労働省がツイッター(現X)に投稿した内容が話題になりました。
《生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。》
SNS上で肯定的な受け止めが多かったのですが、裏を返せば、それほどまでに私たちの権利意識が希薄であるということかもしれません。それはつまり、社会保障制度に対し「お上からの施し」的な受け止めや、利用を我慢することにつながります。社会保障制度を名実ともにセーフティーネットにするためには、私たちがそれを行使することが当たり前だと認識している状況に社会を変えていくことが必要です・・・
・・・私たちの生存権(憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」)を実現するために社会保障制度は整備されてきました。ですが、その利用は自力で制度の情報を収集・選択し、物理的・能力的に申請手続きが可能であることを前提としているため、それを自力で行うことが難しい人たちが排除され、より困った状況に陥ったり、生活・生命の危機に瀕したりする可能性があります・・・

・・・申請プロセスでの障壁や、制度の利用が権利であるという意識の希薄さ、国や自治体が行う施策の乏しさが、生存権の実現という社会保障制度の目的を果たすことを難しくさせています。
こうした矛盾はどのように生じたのか。歴史をひもといてみます。

1946年制定の旧生活保護法では生活保護を申請する権利は認められておらず、市町村長が必要だと認めた場合にのみ利用できました。それでは憲法25条の精神に反するとして、50年制定の新たな生活保護法に保護請求権が盛り込まれました。生活保護は原則、本人の申請で開始され、家族や同居の親族にも申請が認められるようになったのです。
生活保護以外の社会保障制度(障害者福祉、児童福祉、高齢者福祉など)は戦後長く、行政が職権で必要性を判断し、サービスの種類・提供機関を決定する仕組み(措置制度)で提供され、自由にサービスを選ぶことができませんでした。
90年代の構造改革を経て、措置制度から契約制度へと移行が進みました。利用者は制度やサービスを選択し、それを提供する事業者との間で契約を交わす形で、申請を前提に提供されるようになりました。2000年の介護保険制度開始に伴う介護サービスの提供、さらに障害福祉サービスと続きました。
申請する権利を得た社会は、制度やサービスを自ら調べ、理解し、選択し、申請をするというプロセスを一般化させました。結果、社会保障制度はそのアクセスに障壁を生じさせ、国民の生存権保障という目的を果たすことが困難になるという自己矛盾を抱えることになりました。

解消するには、申請する権利の行使をサポートする施策を、社会に網の目のように張り巡らせること、私たちが権利意識を高めることが必要です。後者については例えば、義務教育など人生における早い時期に、社会保障制度の利用が権利であることを学び、私たちをサポートする制度についても知る機会が不可欠だと考えます。
学校に当たり前のように通ってきた人は、自分が教育を受ける権利を行使してきたことを強く認識することはないでしょう。それが日常的で、当たり前のものだと感じているからです。社会保障制度の利用も、そのような未来をたぐり寄せることができるでしょうか・・・

政治の情報化

10月3日の朝日新聞夕刊で、野口陽記者が「データ化に遅れ 政治資金、分析可能な公開を」を取り上げていました。

・・・自民党派閥の裏金作りは、遅くとも十数年前から続いてきた。発覚したのは、政治資金収支報告書の記載漏れを「しんぶん赤旗日曜版」が報じたからだ。
報告書は全ての政治団体が公開を義務づけられている。派閥のパーティー券を買った団体が購入額を報告書に記した一方、派閥側は販売収入を記載していないケースが多くあったのだ。
もっと使いやすい公開制度なら、不正はより早く見つかったのではないか。米国留学時に現地の制度を見た経験から、そう思う・・・
・・・日本でも国や地方がウェブで報告書を公開しているが、米国に比べると状況は大きく遅れている。
「格差」の要因は公表データの形式の違いだ。米国は、ウェブ上でテキストの検索や数字の集計などの処理ができる「機械可読」の形式だ。日本では、ほとんどの政治団体が機械可読なデータで報告書を作るが、提出する段階で紙にしたり、国などがウェブ公開の際にPDF画像にしたりする。そのため機械可読でなくなり、処理がしづらい・・・
・・・見直しは難しいことではない。報告書を機械可読なデータのまま1カ所に集め、最低限の加工だけ施して公開すればいい・・・

他方で、9月23日の読売新聞東京版は、「墨田区議会「改革度」なぜ1位? AI駆使 情報公開徹底」を伝えていました。
2022年に政務調査費を着服する事件が起き、それへの反省から、区民への説明や区政の透明化を進めたとのことです(読売新聞のウエッブで出てこないので、リンクを張ることができません)。

西川貴清著『現場から社会を動かす政策入門』

西川貴清著『現場から社会を動かす政策入門――どのように政策はつくられるのか、どうすれば変わるのか』(2024年、英治出版)を紹介します。
「おわりに」に、本書の意図が書かれているので、引用します。確かに、政策立案について書かれた概説書は見当たりません。その作業と知識が、公務員に独占されてきたからでしょうか。公務員としての経験があり、現在も政策提言に携わっている筆者ならではの著作です。お勧めです。

・・・この本は現場の実感を政策に反映させて、より良い社会をつくろうとしている様々な民間団体の人たちや、政策をより良い方向に導こうとしているメディア関係者、普段の仕事からは見えない政策の動きを知りたいと考える新人公務員たちをメインの読者として書きました。

官僚として働いていた私は、政策立案の知見があまりにも政府外の人に知られていないことに課題意識を感じていました。役所側は政策づくりのプロセスを隠してもいないのですが、政策とは縁の遠い仕事をしている人たちが理解するにはあまりにも専門的過ぎるのです。政策の仕事への理解が乏しいことが、官僚や政治家へのネガティブな理解にもつながっているようにも感じました。
政策に関わりの薄い人でも政策づくりを理解できる本がないかと探してみましたが、学術的に分析されたものが多く「じゃあ実際にどうすればいいのか」という問いに答えるものはありませんでした・・・

・・・政策に関わり始めた人、政策に関心のある人向けに、たとえ話や架空の例も含めて、できるだけ分かりやすく書きました。「厳密には違う、不正確な内容がある」という専門家の方のご指摘は甘んじてお受けしますが、対象読者やこの本の目的も踏まえて、ご容赦いただけると幸いです。
民間団体も、メディアも、官僚も、政治家も、それぞれが勝手に動くのでは、力を発揮できません。お互いを理解しあい、力を合わせることでより良い未来をより早く手繰り寄せることができる、と信じています・・・

旧優生保護法、遅かった救済

9月19日の日経新聞「強制不妊、逃した「救済」機会 司法判断で政治解決再び」から。

・・・強制的な不妊手術という国による重大な人権侵害に対する補償制度法案が18日、超党派の議連で固まった。旧優生保護法の成立から76年。国際社会からの批判や当事者の訴えという「救済」の機会があったにもかかわらず政府は動かず、司法に迫られる形で政治決着に至った。約2万5千人とされる被害者へ補償が行き渡るかが問われる。

旧優生保護法は1948年に議員立法で成立した。戦後の深刻な食糧不足から人口抑制を図りつつ、復興に携わる人材を確保する狙いがあったとされる。「不良な子孫の出生を防止する」ため、正当な理由なく不妊手術を認める規定が盛り込まれた。
同法が示す「優生思想」を批判する声は80年代ごろから国内で高まり、旧厚生省内でも「人道的に問題はあるのでは」と指摘が上がったという。しかし法改正の動きは鈍く、90年代に入っても不妊手術は続けられた。

見直しを迫ったのは国際社会だ。94年、カイロで開かれた国連の国際人口開発会議で本人の同意なく子宮を摘出された日本人の事例が紹介された。「日本にはなお優生保護法が存在し、障害をもつ女性の人権が侵害されている」との訴えは大きな反響を呼び、障害者の国際団体などから法改正の要望が殺到した。
国会は96年に旧法を母体保護法に改正し、手術の規定を削除した。しかし手術を受けた人への補償は見送った。同様に不妊手術を強制し、見直し後に正式な謝罪や補償をしたスウェーデンやドイツとは対照的な対応だった。
国際人権規約委員会が98年、必要な法的措置をとるよう勧告した際には「過去に遡って補償することは考えていない」との政府見解を示した。

国による補償がないまま法改正から20年超が経過した2018年1月、当事者が声を上げた。手術を受けた本人が初めて訴訟を提起。これを受けて同年3月に超党派の議員連盟などが発足し、補償に関して初めて具体的な検討が始まった。
19年に全会一致で成立した一時金支給法は手術を受けた本人にのみ一律320万円を支給することを柱とする。320万円は「見舞金」という位置づけで、賠償の趣旨は含まれていない。国の法的責任は明示せず、全面的な補償はまたも置き去りとされた。

背景には旧法により障害者への社会的差別や偏見が助長されるなかで、当事者が訴え出る心理的負担が重かった点がある。約2万5千人が手術を受けたとされる一方、一時金の支給を受けたのは24年7月末時点で1129人にとどまる。今なお家族や周囲にさえ明かせていない人も多いとされる。
「国会は適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講ずることが強く期待される状況にあった」。最高裁は24年7月の判決で、立法府としての役割を果たさない国会や政府への批判を強くにじませた。
最高裁判決を受け、岸田文雄首相は7月、原告らに直接謝罪した。面会で「政府の主張自体が原告の気持ちを傷つけるもので、政府の姿勢が問題の解決を遅らせた」と言及した。旧法成立から76年が経過し、全面補償への道筋がようやく開けた・・・