カテゴリーアーカイブ:行政

復興事業の教訓、人口の減少、その2

2021年1月27日   岡本全勝

復興事業の教訓、人口の減少」の続きです。次は、宮城県沿岸部です。
この図表でも、被災の10年前、直前、10年後を比べてあります。宮城県全体では、100、99、97で、微減です。沿岸部人口は表の下に示しました。減っていません。ただし仙台市を除くと、100、97、88と減っています。
そして各市町村を見ていただくと、仙台市とその近くの市町は増えていて、仙台市から遠い北と南の市や町が大きく減っています。

町が大きく壊れた町ほど復興工事が長引き、人口の流出が大きいという指摘がありますが、それも事実でしょう。他方、宮城県を見ると、それだけでは説明できません。地理的、経済的条件が大きいと思われます。働く場と都市的魅力がある地域、そこに近い地域が人を集め、そうでない地域は人口減少が続きます。
これは津波被災地だけの問題ではなく、日本全国で起きていることです。被災地は、それが劇的に起きたのです。

話は変わりますが、原発被災地では、県内のゴルフ場や那須高原に新しい町を作って、移住する案がありました。私は担当ではなかったのですが、意見を聞かれて反対しました。働く場所のない町は、持続しないからです。かつて、東京や千葉県にニュータウンがいくつも作られましたが、それは東京という働く場があったからです。それがないと「ベッドタウン」寝るだけの町になり、持続しません。この項続く

復興事業の教訓、人口の減少

2021年1月26日   岡本全勝

大震災復興に長く携わったので、取材や講演、執筆の依頼がよく来ます。これまでの主題は、復興の現状と課題が多かったのですが、10年を迎えるに当たって、また津波被災地では工事がほぼ終了したので、主題が反省と教訓に移ってきています。
これまでは、問題の指摘や批判があれば、それにどのように答えるか、改善するかが対応でした。ここに来て事業が終わったので、次回への教訓をまとめることが必要になりました。1月21日の「シンポジウム 東日本大震災から10年」でもこの点に触れましたが、改めて説明しておきます。今回は、津波被災地復興について述べます。

いくつか批判と反省がありますが、主なものとして、次のようなものがあります。
・住民が戻っていない。町のにぎわいが戻っていない。
・巨大な防潮堤はムダだったのではないか。町づくり計画が過大だったのではないか。
これらについて、関係者と議論し、また講演会などで話をして、私の考えを整理してみました。
まず、住民が戻っていない。町のにぎわいが戻っていないことについてです。

次の図表は、津波被害に遭った岩手県沿岸部12市町村の人口の推移です。被災の約10年前(平成12年10月)、被災直前(平成22年10月)、被災10年後(令和2年11月)を並べてあります。右の表は、平成12年を100とした指標です。
岩手県全体では、100、94、86という減少ですが、沿岸部合計では100、88、74です。沿岸部は既に人口減少傾向にあり、かつて「10年で10%減る」と聞いたことがあります。その減少傾向がさらに加速したのです。この項続く

慰霊から心のケアへ

2021年1月24日   岡本全勝

朝日新聞別冊グローブ1月号特集「心のレジリエンス」に、「慰霊から心のケアへ」が載っていました。

・・・一度に多くの人が亡くなる災害。「不条理」ともいえる悲しみに、宗教はどう向き合ってきたのか。亡くなった人たちの鎮魂・慰霊のための「祈り」から、残された人たちの「心のケア」への取り組みが始まっている。
東日本大震災で4000人近くの死者・行方不明者(関連死含む)が出た宮城県石巻市。昨年11月初旬、曹洞宗通大寺住職の金田諦應さん(64)が2011年に始めた移動傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」が開かれた。新型コロナの影響で約9カ月ぶりだった。20人余りがコーヒーを飲んだり、マニキュアを塗ってもらったりしていた・・・
・・・金田さんは宮城県を中心に各地でカフェを毎月のように開いてきた。「被災者が自然に喜怒哀楽を出せる日常に戻る手助けをしたい」。それが金田さんたちの思いだ。仲間には神主も牧師もカトリックのシスターもいる。だからカフェで布教はしない。共通するのは、死者を弔い、被災者の話に耳を傾け、土地の人々に寄り添って生と死をつないできたという自負だ・・・

・・・上智大グリーフケア研究所長の島薗進さん(72)は震災の翌月に「宗教者災害支援連絡会」を設立し、代表に就任した。仏教やキリスト教、新興宗教が参加。地元の僧侶を中心に始まった「心の相談室」にも様々な宗教が集まり対応にあたった。島薗さんは「心のケアは主に医師や臨床心理士が担っていたが、大惨事に直面して『死にどう向き合うか』というスピリチュアルなところに踏み込まざるをえなくなった」と指摘する。

宗教者による心のケアは、欧米ではキリスト教会が育成する「チャプレン」が、病院などで行うことが多い。イスラム教の国では患者と医師ら「ケアされる側とする側」が同じ教えを共有している。島薗さんは「特定の宗教色が強く出ないようにするのは日本特有のかたちで、米国などでも広がりつつある」という。
日本でそうした宗教の枠を超えた心のケアが広がった背景には、「政教分離」の側面もある。「戦前・戦中の国家神道への反動もあり日本は『信教の自由』に非常にセンシティブだ」。日本宗教連盟と全日本仏教会の理事長を兼務する戸松義晴さん(67)はそう説明する。

東日本大震災でも、憲法の規定を理由にさまざまな問題が起きた。市町村が主催する慰霊式では、参加者全員が寺の檀家(だんか)でもお経は唱えられず献花のみ。火葬場に入ることも許されず、建物の外でお経をあげたこともあった。事前に行政と協定を結んでいない寺が避難所になると、行政からの支援物資を配れないこともあったという。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で不安が増すなか、宗教の役割が注目されつつある。全日本仏教会が「寺院・僧侶に求める役割」について聞くと、これまでは「特になし」という回答が多かったが、昨年8月のアンケートでは「不安な人たちに寄り添う」が3割を超えた。戸松さんは「葬式仏教にとどまらず、日々の生活で必要とされるよう、ふだんから人に寄り添い、信頼関係をつくっておかなければならない」と話す・・・

この主題は、拙著「復興が日本を変える」や、連載「公共を創る」第69回でも取り上げました。

治療の選別

2021年1月19日   岡本全勝

新型コロナウィルスの感染拡大で、病床の逼迫が伝えられています。この状態がひどくなると、治療の選別、すなわち患者のうち誰を優先して治療をするかが問題になるでしょう。いくつかの報道が、それを指摘しています。12月18日朝日新聞「コロナ感染者、増え続けたら… 誰に人工呼吸器、重い判断」、1月12日朝日新聞「治療の選別 始まった都市部

救急現場では、識別救急(医療トリアージ)という概念があります。患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うことです。たくさんの患者がいて、一度に全員の治療ができない場合に、患者の治療順位、救急搬送の順位、搬送先施設の決定が必要です。
普通の病院のように受付け順で治療を行うと、重症者が長時間放置されるということが出てきます。最重症者から治療を始めた場合には、その治療だけでほかの患者の治療ができなくなるといったこともあります。救命の可能性が非常に低い者よりも、可能性の高い者から順に救護、搬送、治療にあたるべきであるという考え方です。

問題は、この選別の基準と、それを行った医師などの責任です。10月5日の日経新聞「トリアージ 免責法制化を」が参考になります。一人一人の命はかけがえのないもので、比較することはできません。しかし、医療現場では、選別をしなければならない場合もでてきます。

民主主義が機能する社会経済条件、2

2021年1月18日   岡本全勝

民主主義が機能する社会経済条件」、待鳥聡史・京都大学教授の「民主主義再生、政党改革が鍵 危機克服への道筋」の続きです。

・・・だがこうした構図は1970年代以降、次第に崩れていった。先進各国は労働集約型・資本集約型(製造業)から知識集約型(金融・サービス・知的財産などの業種)へと主要産業を変化させ、90年代以降のグローバル化やIT(情報技術)化はその流れを加速した。経済的豊かさを得た人々は社会文化的少数派の権利や環境問題などの新しい争点へと関心を移した。人口構成の少子高齢化や経済格差の拡大も生じた。主要政党は政策面でこうした変化に対応できず、支持基盤の縮小と不安定化が進んだ・・・

・・・以上のことから、代議制民主主義に対するポピュリズムや権威主義の挑戦は社会経済構造の変化に起因するところが大きく、特定の政治指導者の退場で消え去りはしないだろう。それだけに深刻な課題といえる。
挑戦を退け、代議制民主主義が魅力と活力を取り戻すには、マスの政治参加と統治エリートの迅速な政策決定を従来にもまして両立させるとともに、社会や経済が直面する課題への応答能力を示す必要がある。

ここで重要になるのが政党のあり方だ。代議制民主主義には政党政治が不可欠だが、その政党が社会的基盤を失い、狭い範囲の強固な支持層のみに依存する状態に陥っている。主要政党が人々の価値観の多様化を踏まえ、若年層など従来とは異なる人々の党内過程への参加を認めて新しい支持基盤を形成することは、とりわけ社会文化的課題への応答能力を高める・・・