カテゴリーアーカイブ:行政

日経新聞、大震災復興事業の検証。予算総額

2021年2月9日   岡本全勝

2月8日の日経新聞1面に大きく「震災10年、空前のインフラ増強 予算37兆円超」が載っていました。「東日本大震災10年 検証・復興事業①」とのことです。
・・・3月11日で東日本大震災発生から10年となる。地震と津波に加え、原子力発電所事故まで起きた未曽有の複合災害に対し、政府は37兆円超の予算を投じ復興を進めてきた。前例のない手厚い支援は功を奏したのか。復興事業を検証する・・・

大震災から10年が経つことで、各紙が検証記事を書いています。良いことです。政府が取った政策がよかったか、どこに問題があったかを、調べてください。そして、今後の教訓として欲しいです。
この記事が取り上げている、予算総額とその使い道も、検証対象の一つです。それぞれの事業は必要性があり、無駄には使われていません。その点では、会計検査では適切でしょう。その上で、次につなぐ教訓として、次のような視点を指摘しておきます。

東日本大震災では当初、どれくらいの復興復旧予算がかかるかわかりませんでした。被害総額は試算されましたが、それが政府の復旧事業対象となるわけではありません。インフラはどの程度復旧するのかの判断があり(今回は復旧以上に、復興道路が造られました)、がれき片付け経費、高台移転経費、産業復興支援などは推計の外だったでしょう。

復旧復興事業を進めて行くにつれて、予算額が確定していったのです。いわゆる積み上げです。
他方で、当初見込みで予算総額が仮置きされ、財源が手当てされました。復興増税を国民にお願いし、政府が保有する日本郵政の株式売却益を当てることとなりました。ひとまず必要な財源を、財務省は手当てしてくれたのです。その後の事業費増加についても、それぞれ財源手当てをしてくれました。だから、これだけの事業を実施することができました。

予算を使って行う事業である以上、予算額が上限になります。そしてそれは、財源裏打ちが必要です。次回このような大災害が起きたときに、この総額と財源をどう考えるかが、一つの要素となります。そして、予算額が無限でない限り、事業に優先順位を付けなければなりません。
それぞれの事業は必要であっても、どれを先にするか、あるいはどの事業はあきらめるかです。
東日本大震災では、その時点その時点で必要性を判断しました。走りながら考えたのです。それを積み上げたのが、この結果です。もし予算額に限りがあり、その中から選べと言われると、市町村長はたぶん、被災者支援、住宅再建、産業再開を優先し、インフラ復旧についてはその中で優先順位を付けると思います。
また、各集落を元に戻すのか、他の方法をとるのかなども、検討されるでしょう。これについては、別途書きます。この項続く
参考「復興事業の教訓

教師の育成、子どもの貧困を学ぶ

2021年2月7日   岡本全勝

1月28日の読売新聞解説欄、古沢由紀子・編集委員「子供の貧困 教師の卵学ぶ」から。
・・・教員養成大学で、子どもの貧困問題や支援の方策について学ぶ機会を拡充する動きが広がっている。学校現場には、困窮家庭の子どもの状況を早期に把握し、地域や福祉の専門家らと連携する役割が求められるためだ。教師を目指す学生らの意識向上とともに、教科指導に偏りがちな教員養成課程のカリキュラムを実践的な内容に見直す効果も期待される・・・

・・・厚生労働省の国民生活基礎調査によると、18年の子どもの貧困率は13・5%に上り、約7人に1人の子どもが、厚労省が目安とする所得の基準を下回る困窮家庭で暮らす。こうした状況を踏まえ、約8割の学生が教師志望の同大では、子どもの貧困問題について学ぶ授業や研究活動を本格化させている。
オンラインによる小学生の学習支援を主体とした授業は、17~19年度に実施された。同大と連携する都内の自治体で毎年度、希望者を募集。自治体からの就学援助を受けており、学習塾などに通わせる余裕のない家庭の児童らを対象に無償で行った。
時間、距離の制約などから、指導にはネットを活用。当初は子どもが騒いで立ち歩くケースもあり、学生たちは雑談を交えるなど、信頼関係づくりに努めてきた。
中学校の数学科教師を目指す男子学生は「回を重ねるうちに集中して勉強する子が増えてきた。自分は子どもの頃、当たり前のように塾に行っていたが、そうでない子と接するのは貴重な体験。教師を目指す上で、いろいろな見方ができるようになるのではないか」と話した。

学習支援には、スクールソーシャルワーカーなどの専門職を目指す学生らも参加。指導後には毎回、学生同士で意見交換し、報告書を提出する。月1回程度、学生の有志と児童らが対面で交流する場も設けた。
担当した入江優子准教授は「教師志望の学生らが、多様な子どもたちと接する機会は大切だ。大学生には比較的学習機会に恵まれてきた人が多いが、学校現場に出れば様々な困難を抱える子どもがいる実情に触れてほしい」と話す・・・
・・・一般に、教員養成大学の授業は教科の指導法に重点を置き、学力水準が高い付属学校での実習などが「学校現場の実態に合っていない」との指摘もあった・・・

これまでの教育が、「よい子」を育てることに重点を置き、漏れ落ちる子どもを視野に入れていないと、連載「公共を創る」で主張しています。選抜された優秀な子どもを相手に教育実習をしていても、現場では役に立ちません。できる子どもは、極端に言えば「放っておいても」勉強します。手のかかる子どもを、どう指導するのか。それを教えないと、教員養成にはなりません。
職場でも同様です。「よい部下の育て方」だけでは、管理職研修になりません。出来の悪い職員をどう育てるのかが、重要なのです。
平成31年度からの新しい教職課程では、「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解(1単位以上修得)」が増えています。

自治体の対口支援

2021年2月7日   岡本全勝

2月1日の日経新聞「東日本大震災から10年、災害支援 自治体連携進む」が、よい解説をしていました。

・・・2011年の東日本大震災では関西広域連合の7府県が支援先を分担して責任を持つ「カウンターパート支援(対口支援)」を始めるなど、地方自治体の組織的活動が注目され「自治体連携元年」とも呼ばれる。それから10年。広域連携支援は地震から風水害にも広がり、国も18年に自治体の対口支援を制度化した。しかし大きな被害が想定される首都直下地震や南海トラフ地震への支援体制は曖昧なままで、事前の備えが急務だ・・・

自治体による被災自治体支援は、東日本大震災で大きく進みました。この記事にも書かれているように、特定自治体が長期的に継続して支援してくれると、ばらばらな人が短期間に来てくれるより、はるかに効果が大きいです。これは、個人ボランティアより、組織ボランティアであるNPOが被災者支援の際には効果を発揮することと、並べることができます。また、支援した自治体も、勉強になるのです。
記事には、課題とその後の充実も書かれています。

原発事故被災地での農業再生

2021年2月5日   岡本全勝

2月1日の毎日新聞が「福島の農、復興途上」を大きく伝えていました。
・・・2011年3月の東京電力福島第1原発事故で避難指示などが出た福島県沿岸部で、県外企業が進出してサツマイモの大規模生産を行ったり、ハイテクが導入されたイチゴなどの栽培が始まったりしている。東日本大震災後、風評被害で大きなダメージを受けた福島の農業は今、「再生」の兆しを見せていると言えるのだろうか・・・

具体事例として、菓子製造販売企業と連携したサツマイモの大規模栽培(楢葉町)、農業生産法人の支援を受けた稲作(浪江町、これはこのホームページでもしばしば取り上げています)。その他、イチゴや野菜工場です。
支援してくださる企業に、感謝します。課題は、担い手の確保です。

政治家による官僚人事

2021年2月3日   岡本全勝

1月27日の朝日新聞オピニオン欄、嶋田博子・京都大学公共政策大学院教授の「官僚の忖度、いつから?」が、勉強になります。ぜひ原文ををご覧ください。

・・・伝家の宝刀・人事権を使い、霞が関を支配してきたとされる安倍、菅両政権。官僚側の過度な忖度(そんたく)や萎縮も問題となっている。なぜ、「政と官」はこんな関係になったのか。人事院の元官僚で、人事政策とその国際比較を研究する嶋田博子さんは、英国をモデルにした平成の「政治改革」にその伏線があるという・・・

――菅義偉首相は、選挙で国民の審判を受けた政治家に反対する官僚は異動してもらう、と明言しています。
「最近の米国の研究では、多数決原理だけでは実現できない公益がある、との指摘があります。もし『選挙で勝った政権はすべてを託されている』といった選挙万能主義があるなら、それは日本独特と言えます。英国では、『選挙独裁』とも呼ばれるこの課題を克服しようとする仕組みもあります」
――それは何ですか。
「下院にある特別委員会です。政府の監視・チェックなどを目的とする超党派の委員会で、たとえば政官関係に懸案があると、この特別委が調査し、報告書をまとめ、政府は60日以内に回答しなければなりません。そっけない回答が多いのですが、さらなる証拠を求められる可能性を見越して政府が慎重になるため、政府に対する有効な牽制として機能している、とする研究者の分析もあります。実際、現ジョンソン政権の前のメイ政権では、官僚への高圧的言動、理不尽な要求を禁じる文言が大臣規範に加えられました」
――なぜ英国では、議会がそこまで政府に対峙できるのですか。
「議会には、与野党を問わず、内閣を生み出した立場として内閣を監視し続ける責任がある、という自覚があるのです。べつに官僚を擁護しているわけではありません。内閣も、権力の行使には自重、抑制的である姿を示すことが国民の信頼獲得につながり、中長期的にも有利との考えがあります」

――政治改革で、英国から導入されなかった要素は他にありますか。
「政治家は官僚の人事に介入しない、という原則です。19世紀からの政治的伝統で、政官がともに仕事をするからこそ、官が政に臆せず進言できるようにする、との理由からです。具体的には、事務次官以下の高官の職能要件をあらかじめ公開して公募し、各省次官や外部有識者らでつくる委員会が各省ポストを選考しています」
「これと対照的なのが米国の政治任用制でしょう。米国では、大統領と官僚が一緒に働く以上、大統領が信を置く人物を選ぶという発想です。ただし、もともと議会や最高裁が大統領を強く牽制できるシステムになっています」
――英国では、政治家が「官僚の人事に介入したい」という誘惑には駆られないのですか。
「それが時々あるんです。キャメロン政権は12年、大臣が事務次官を選べるようにしたい、と提案しました。ところが下院の特別委が賛同しない見解を示し、上院からも『それは国家のオウンゴールになる』との声が上がりました」
――英国も試行錯誤を続けている、と。
「その通りです。初めから理想的な正解があるとは考えておらず、絶えず見直しを続けています。こうした柔軟性は、日本も学ぶところがあります」

――そうした海外の制度・ルールから、日本の参考となる点はあるでしょうか。
「官邸が各省の幹部人事を一元管理する内閣人事局が14年にせっかくできたのですから、主要ポストについては、どんな能力・経験が求められるかを政治の側があらかじめ具体的に示しておく、といった改善が図られてもよいのではないでしょうか。そうして透明性を高めておけば、人事で何らかの問題が起きた時、その妥当性を事後にチェックできます」
「現状では、人事の決定がブラックボックスなので、官僚も疑心暗鬼になり、上司の顔色を気にしがちになります。日本は英米のように転職容易な労働市場でもないため、政治家の不興を買うことを先回りして避けようとするのです。これは内閣人事局ができる前からありました」