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社会と政治

G7への市民社会の働きかけ

3月30日の朝日新聞オピニオン欄、三浦まり・上智大学教授の「G7へ市民社会が作るアツ」から。

・・・今年のG7サミット(主要7カ国首脳会議)はなんだか騒がしい。7年前の伊勢志摩サミットでは今回の広島サミットほどには市民社会の関与は見えなかったように思う。首脳同士が直接会って信頼醸成を行うことの意義が強調されるサミットだが、G7にしてもG20(主要20カ国・地域)にしても、昨今のグローバルガバナンスでは市民社会との対話が重視されており、市民社会としても政府に対して効果的に発言できる機会となっている。

市民社会が国際的な連携で作り出せる圧力は、外国政府が持ちうる力よりは弱いかもしれないが、それでも人権や平和、気候変動など、さまざまな分野で市民社会がアツを生み出し、政府の決定に影響力を持ってきた。これは外からの圧力というよりも、国内状況を改善したいと願う市民が海外の市民と協力しながら作り出すもので、実際には内圧あってこそ、外圧が梃子になりうる。

広島サミットが日本の市民社会にとって強く意識されるのは、LGBTQ+(性的少数者)の権利や安全、性と生殖に関する健康と権利、性暴力根絶などについて国内法が未整備の状況が続いており、日本とG6を比較することで内圧を高める戦略が一定の効果を持つからだ。とりわけ、ロシアに対して結束を高めるG7は自由、民主主義、人権を高らかに謳う。日本がその一員を占めるのであれば、国内で人権分野の法整備が進まない状況を放置できなくなる。対外アピールを狙った政策転換が打ち出されるのではとの期待が芽生える・・・

意識を変える難しさ

女性の昇進を阻む男性たち」「人は何に従うか」の関連にもなります。
人の意識を変えるといった場合に、二つの状況があります。
例えば、「たばこのポイ捨てをやめましょう」という呼びかけは、たばこを吸う人向けです。たばこのポイ捨てがなくならず、エスカレーター問題に見られるように、呼びかけだけでは効果が少ない場合にどのように働きかけるか。これが課題です。
ところが、女性の昇進を進める場合は、呼びかける相手は女性ではなく、それを阻んでいる男性に向ける必要があるのです。すると、喫煙者向けより、難しくなります。
すなわち、本人の課題か、周囲の課題かです。

少子化問題についても、よく似た課題があります。生まれる子どもの数が減っています。しかし、夫婦から生まれる子どもの平均数は減ってはきていますが2人程度で推移しています。すると、夫婦に向かって「子どもを産みましょう」と呼びかけても、大きな効果はないでしょう。
結婚した夫婦から生まれる子どもの数が減っていないのに、子どもの数が減っているのは、結婚する若者が減っているからです。
夫婦に働きかける以上に、独身者に結婚する気になるように働きかける必要があります。「若者には結婚したい意識がある」という調査結果もあります。彼ら彼女らが結婚に踏み切れない課題を解決する必要があります。それは、彼らに問題があるのではなく、社会の仕組みに問題があります。
「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のような昭和の標準的家庭は、過去のものになりました。非正規の若者は結婚が難しいです。それを変える必要があるのです。

中間層が壊れた日本

2月26日の読売新聞言論欄、駒村康平・慶応大教授の「逆風の世代 自己責任でない」から。

・・・日本の大きな問題の一つは、働き盛りの、子育て世代の中間層が壊れてしまっていることです。
厚生労働省の調査をみると、2002年には30代後半の男性の40%が月給30万円台でしたが、19年は33%に減りました。一方で20万円台は31%から40%へ増え、20万円未満の人も合わせ、ほぼ半数が月給30万円に届いていません。分布をグラフにすると、「真ん中」部分がつぶれ、「真ん中より下」が増えていることがわかります。

バブル崩壊や国際的な価格競争の中で、非正規雇用の増加と賃金抑制の流れが続き、中間層が壊れていきました。今の日本は、働き盛りで、結婚するタイミングの若者たちに「向かい風」が集中しています。それを放置し続けたことが未婚率の上昇、出生率の低下につながっているのだと思います。
中間層を再生させ、将来の展望を持てるようにすることが、少子化対策になるはずです。
統計的に、男性の未婚率は年収300万円未満で高くなっています。特に若い世代の賃金を引き上げなければなりません。労働者の賃金アップの交渉力を高める仕組み作りが重要だと思います・・・

・・・コロナ禍で、従来のセーフティーネット(安全網)に見直しの必要があることを強く感じました。「最後のセーフティーネット」と言われる生活保護は、限定的な役割しか果たせなかったからです。
経済がストップし、雇用保険を受けられる期間で再就職が決まらなかった人や、非正規で仕事がなくなった人が困りました。ただ、生活保護を受けられる収入の状況でも、申請しない世帯が多かった。

家族との関係は切れました、就労に困難な状況があります、などと「自分がいかに困っているか」を証明して初めて受け取ることができる生活保護の申請には、心理的なハードルがあるからです。
最大200万円借りられる「特例貸付」が設けられ、335万件、総額1・4兆円の利用がありました。ただ、生活保護を受けられる状況なのに申請せず、特例貸付を利用した場合、住民税が非課税でなければ返済は免除されません。今後、返済義務が生じますが、その余裕がない人も多いはずです。

生活保護より手前の段階で、別のセーフティーネットがもっと充実している、というのが望ましい形だと思います。生活困窮者を対象に家賃を支援する「住居確保給付金」の制度がありますが、もっと対象を広げる手もあります。
セーフティーネットを使いやすくすることで、再び中間層に戻ろうとトライする意欲を引き出す。そういう仕組み作りが必要です・・・

「土地は公のもの」への一歩

2月15日の日経新聞オピニオン欄、斉藤徹弥・上級論説委員の「「土地は公のもの」漸進的改革を」が勉強になりました。

明治初めの地租改正が、近代日本の強い土地所有権をつくりました。日本の土地所有権は、何をしてもよい絶対的土地所有権といわれます。これに対して、厳しい建築規制で街並みを保つ欧州は、相対的土地所有権といわれます。日本でも、土地公有化論や私権制限を強める議論もありましたが、進みませんでした。

かつては、土地は重要な財産で、一坪の土地を巡って争いがありました。ところが、山林も田畑も富を生まなくなり、管理されない土地が増えています。弥生時代以来続いてきた「土地への執着」が、崩れつつあります。
日本には、土地を放っておく「自由」もあるのです。しかし、放置されたままの土地は地域に悪影響を及ぼします。自治体では、空き家対策や、危険な空き家を取り壊す取り組みも進んでいます。政府も、所有者不明土地問題で、公共の福祉を優先した所有権の抑制に乗り出します。相続登記を義務とし、国庫帰属制度を始めます。

なかなか進まなかった、「土地は公のもの」という認識が進むきっかけになるかもしれません。

侵略されるのは嫌だけれど、自分は戦いたくない。できれば他人に戦ってほしい。

2月5日の読売新聞言論欄、井上義和・帝京大教授の「「祖国」を守る想像力 必要」から。

・・・ウクライナはこの1年間、自国の領域内でロシア軍を迎え撃つ戦いに徹してきました。焦土と化した街で市民までも武器を手に取り、兵站を支える総力戦を続けています。必然的に犠牲者は増える。それは日本が国是としてきた「専守防衛」に他なりません。
ウクライナでは、軍に入る男性が国外に避難する妻や子どもたちに向き合い、「国のために戦うよ」と語りかけています。こうした映像は日本でも繰り返し放送されました。しかし私たちは、危険を顧みずに国を守る人たちがいることを、別の世界の出来事のように捉えています。ロシアの暴挙が、文明が進んだはずの21世紀の世界でも、明白な侵略戦争が起きる事実を示しているのに。

専守防衛とは、相手から攻撃を受けたときに初めて、必要最小限度の防衛力を行使する受動的な戦略です。先の大戦を起こした痛切な反省と周辺国への配慮から、日本は専守防衛を国是とし、国民も支持してきました。一定程度持ちこたえれば、同盟国や国際社会が助けてくれるという発想です。
それは自分から仕掛けなければ相手から攻撃されることはないという信念の裏返しでもあります。戦後の日本では、外国の侵略からどう国を守るかという真剣な問いかけは忌避されてきたのが実情です。

昨年4月、日本人の学生100人を対象にアンケート調査をしました。「他国が自国に攻め入ってきたら、国のために戦いますか」との質問に「いいえ」と答えた学生は32人で、「わからない」との回答は40人に上りました。
その一方で、「戦わずに、敵の侵略を受け入れた方がいいと思いますか」と聞くと、88人が「いいえ」と回答し、「できれば自分や身内以外の他の誰かに戦ってほしいですか」との問いには、47人が「はい」と答えました。
最初の質問で「いいえ」と「わからない」が多いのは、国際意識調査で示された日本の傾向と同じでした。侵略されるのは嫌だけれど、自分は戦いたくない。できれば他人に戦ってほしい。多くの日本人には、そんな本音があるのではないでしょうか。危機が訪れたとき、どこからともなくヒーローが現れ、敵を撃退して去って行くのが理想なのでしょう。でも現実の世界ではそんなことはあり得ません・・・