「社会と政治」カテゴリーアーカイブ

社会と政治

政治と経済

日経新聞「経済教室」は8日から、連載「政治経済学の新潮流」を始めました。「複雑な経済事象を分析するアプローチとして、政治経済学への関心が高まっている。もともと政治学と混然としていた経済学は20世紀に入り純化が進んだが、なぜここに来て再び連携が強まっているのか」。
8日の読売新聞「スキャナー」では、石崎浩記者が「人口推計、年内公表へ。変わるか大甘予測」を解説していました。政府が5年ごとに公表する将来推計人口です。今回も、1976年推計以降の「惨憺たる予測の外れ」が、グラフになっています。(8月8日)
8日の日経新聞「経済教室」は「政治経済学の新潮流・中」、岩本康志教授の「政策決定、内閣主導確立を。財政健全化に必須」でした。「小泉政権のもとでは従来の政治手法を打破する2種類の実験が行われたことになる。第1は、竹中経済財政担当相時代に諮問会議を司令塔として内閣主導の意思決定を図ったことである。このときには政府と自民党との対立が注目されたが、政府と与党とを一体化させる議院内閣制の趣旨からは外れた、過渡的な手法であったといえる。
一方、今回の歳出・歳入一体改革では、自民党側で歳出削減案をまとめて、個別利益の主張を押さえ込んだ。政府と与党の方向性が一致したことは好ましい変化だが、二元体制が復活した感もある。これは、内閣が必要な総合調整をして政策決定を一元化できなかったことの裏返しであり、大きな課題を残した。個別項目の削減を議論する諮問会議で所管大臣が官僚と族議員の利害を代弁し、歳出削減に反対する事態では、内閣主導は確立できない」

社会と政治6

6月30日に、2005年の国勢調査抽出速報が出ました。ポイントは、65歳以上人口が21.0%と世界最高になり、15歳未満は13.6%と世界最低になったことです。未婚者も増え、20代後半の未婚率は男73%、女60%、30代前半でも男48%、女33%です。1世帯あたりの人数は2.6人ですが、半分が一人暮らしか夫婦だけの世帯です。1日付け日経新聞など。また、1日の日経新聞には、人口推計の見直しの記事がありました。これまでの推計と実際とのズレが、表になって載っています。(7月2日)
書き忘れていたことですが、6月8日の朝日新聞で、山室信一教授と樋口陽一教授が「国家とは何か」を議論しておられました。どんな国家像を持つべきかなど、興味深いものでしたが、そこでもう一つの指摘が重要でした。「2004年の登録外国人は約197万人で、県別人口21位の岡山県の人口より多い。また、海外在留日本人数は96万人を超え、永住者は30万人を超える」。(7月2日)
4日の朝日新聞「政態拝見」は、「司法制度改革、政治を変え民主主義深める」でした。
「・・司法改革は法の世界にとどまらず、政治改革や民主主義の深化と不可分の関係にあるということだ。5年前の意見書もこう宣言していた。司法制度改革は、政治改革、行政改革、規制緩和等の経済構造改革といった様々な改革を、『法の支配の下に有機的に結び合わせようとするもの』である。それは、諸改革の『最後のかなめ』なのだ、と。」
「法と政治の密接な関係をわかりやすく示すのは、2009年までに導入される裁判員制度だろう。・・お上にお任せから、責任ある統治主体へ。様々な改革は、私たちに脱皮を求める」(7月4日)
日本経済新聞は「会社とは何か」の連載を続けています。27日は「官をしのぐ社会性」でした。うどんチェーンが支援する私鉄、企業が経営する区立保育園などの例が挙がっていました。私も、この主張には賛成です。
もっとも、これらの例は、そんなに代表例ではありません。そもそも、日本の近郊公共輸送機関は、私鉄と私営バスです。学校・保育園でも私学は多いのです。拙著「新地方自治入門」p219で、病院、学校、古紙回収を例に説明しました。サービスの供給主体が官か民かと、サービス内容が公か私かとは、別の話なのです。
でも、これまでの財政学や公共経済学、行政学の教科書は、そのあたりを明確に書いていません。だから、日経新聞の記者でもこんな記事を書き、それが紙面を飾るのでしょう。記者を責めるのは、酷なのかもしれません。
今、日本の社会や行政は、大きく変化しつつあります。それが、このような記事でもわかります。

日本の都合

7日に東京地裁が、1950年代に日本政府が行った中南米への移民について、国の対応を違法だとする判決を出しました。7日の夕刊・8日の朝刊各紙が伝えているとおりです。行政の失敗という観点からも取り上げるべきテーマですが、今回はもう一つの問題として取り上げます。
この政策は、「海外からの引き揚げ者などで急増した人口を減らすため」に行ったとのことです。一方、現在の日本は、外国人の受け入れに決して積極的ではありません。例えば、10日の朝日新聞は「外国人受け入れ、揺れる政府方針」を書いていました。代表的な例では、フィリピンとの間には介護士を受け入れる内容のFTAをまとめましたが、日本側の都合で未だに実現していません。
もちろん、両国の合意で進めた移民と、昨今の外国人受け入れとは同列には論じられないでしょう。でも、この構図は、10年前までの「自動車や電気製品は全世界に輸出する。しかし米は一粒たりとも輸入しない」という我が国の主張に重なって見えます。

日本社会の変化

9日の日経新聞は、新成人の大学生千人へのアンケートを載せていました。15年前と比べ日本が良くなったと答えた人は47%、悪くなったが49%でした。15年後の日本が良くなっていると予想したのは50%、悪くなるが47%です。日本が国際社会で尊敬される努力をするべきだという人が79%、そう思わないが9%です。
日本が世界に誇れることは、アニメなどのサブカルチャーが73%、伝統文化や芸能が58%、ハイテク技術力が58%、食文化が51%です。一方、教育システムは5%、政治システムは1%、官僚機構は1%でした。この先、日本を変えたい人が65%、変えたいと思わないが16%です。変えたいのは、教育が52%、政治が51%、国際関係が46%です。(1月9日)
昨日の記事を読んで、記者さんの反応です。
「昨日のHPは、コメント抜きでしたね。読めば、『岡本の言いたいことはわかるだろう』と言うことでしょうが」
「日本が誇れるものの下位三つが、教育システム・政治システム・官僚機構というのは、驚きですが、納得します。10年前だったら、政治は二流としても、教育と官僚は世界に誇ることでした」
「大学生は、これらを実際には検証していないでしょうから、新聞をはじめとするマスコミから得た知識でしょう。でも、そう思っているという事実は、重いですね」
「この中で、教育は実体験あるものです。でも、有効な改革案を打ち出してない。文科省は補助金配りより、こういう課題にエネルギーを注がないのですかね」(1月10日)
11日の朝日新聞オピニオン欄に、小熊英二さんのインタビュー「ナショナリズムの今」が載っていました。
「近年、経済の停滞とともにナショナリズムが台頭した」と言われるが、そうではない。80年代以前も、「日本的経営は優れている」「日本人は勤勉な民族だ」という「日本人論」という形で、ナショナリズムが表現された。90年代以降は経済が停滞し、そういう表現が成り立たなくなって、歴史認識や靖国問題に焦点が移った。つまり、ナショナリズムが台頭したというより、表現形態が変わった。
質的変化は起きている。戦前の農村・小工場などの中間共同体、経済成長期の企業・労組・商工会といった中間共同体が壊れた。そこで、大衆社会型のナショナリズムの基盤ができた。欧米諸国で起きたことを、20年遅れで経験している。
日本の保守には、思想的な核がない。明治維新以来、政府主導で文明開化が進められたから。日本の保守政党は、何を保守してきたか。保守論者も、「左派嫌い」だっただけ。
近年日本で台頭しているのは、ナショナリズムというより、不安を抱えた人々が群れ集うポピュリズムである。(5月13日)
15日の日経新聞経済教室では、スティーブン・ヴォーゲル教授が「バブル不況乗り越えた日本経済、新しい改革モデル誕生」を書いておられました。長期不況を乗り切り、日本経済は大きく改革をした。従来と比べ、選別が進み、企業は社員や取引先を厳しく選ぶようになった。また、差別化が進み、単一の日本型モデルはなくなった。外国人や外国企業に対し、オープンになった。
しかしそれは、アメリカ型の自由市場経済とは異なる、調整型市場経済である。アメリカ型は、労働・資本・製品市場において、スピードとコスト合理化を身上とする。それに対し日本は、継続的な改善を得意とし、長期投資がしやすい。効果が疑問なアメリ型経営手法をもてはやす風潮は、気がかりだ。(5月16日)
17日の日経新聞連載「人口減と生きる」は、「次代のアジアどう描く」でした。日中韓3か国の25~44歳100人へのアンケート結果が、興味深かったです。
日本と密接な関係を築くべきだと考えている人は、中国では100人中たった1人、韓国も8人です。中国では緊密でありたい国は、ロシアが29人、アメリカが23人です。韓国では、中国が53人、アメリカが19人です。日本では、中国とアメリカが26人、韓国が17人です。
30年後に、自国の経済的地位が高まると考えている人は、中国では97人、韓国では76人に対し、日本は21人でした。自国を年齢で表すと、中国は28.8歳、韓国31歳に対し、日本は41.7歳です。若くて上り坂の中韓に対し、成熟した自画像を描く日本となっています。自分で、このあとは下り坂だと考えていては、実際より早く老け込んでしまいますよ。
一方、今後アジアとの結びつきが強まると考えている人は、中国では90%、韓国が74%に対し、日本では54%です。労働力の移動が自由になると考える人は、中国が60%、韓国が42%に対し、日本では22%でしかありません。アジアに対し門戸を閉ざす、内向きな性格も表れています。(5月17日)
5月22日朝日新聞夕刊、清水克雄編集委員「思想の言葉で読む21世紀論」から。
「地球が狭くなり、情報や人の移動が活発になる一方で、目に見えない不安感や喪失感が人々の間に広がっているといわれる。『その理由は、グローバル化の時代には精神的な異郷化が避けられないからなのです』とジャンリュック・ナンシー氏(フランス・ストラスブール大名誉教授)は強調する。・・・ナンシー氏が問題にするのも、都市への人口の集中や移民の増加などの目に見える変化だけではない。同じ土地にとどまっていても居心地の悪さを感じるほど世界全体の風景は大きく変わってしまった。そのために故郷喪失のような悲しみや、あてどのない思いが世界中に広がっているのが現実だ」
「古い『くに』が崩れ、宙づりにされたような不安に人間が直面した時代は過去にもあったという。・・その不安や喪失感の中から新しい宗教や価値観が生まれた。・・だから現代の異郷化も大規模な文明の転換を予告しているはずだという・・・」

社会の基礎の融解

現在の日本は、社会が大きく変わりつつある、それは時代が変わるほどの変化だというのが、私の持論です。東京大学出版会から刊行されている「融ける境、超える法」シリーズは、法律学からそれに取り組んでいる試みだと思います。
現実の人間関係・社会関係は、連続的でありまた多様です。「法」は、それを「法的関係」という観点から、人為的に切り取り、分節化するとともに、一律の枠の中に入れてしまいます。赤ちゃんが生まれてくる際に、どの時点で「人」と見なすのかが、一番わかりやすい例です。生物学では連続した過程ですが、法律学ではある時点で財産を相続できるようになり、あるいは殺人罪の対象となります。
そのほか、貸した借りたを好意ととらえるのか権利義務と位置づけるのか、主権国家の内と外(国際社会)の区分、一定の人の集まりを「法人」と位置づけるなど。
どこかで「境界」をひくのが、法律です。ところが、社会の変化が大きく、これまでの法律と法律学が想定していないことが、いろいろな分野で起きているのです。通常、ボーダーレスというとき、グローバル化と情報化がその原因とされますが、社会の基礎を融解しているのはそれにとどまりません。一番の例が、家族です。これまでの民法(家族法)はもちろん、社会保障・税制・教育などは、家族を単位に組み立てられてきました。それが自明のことでなくなってきています。こうしてみると、近代市民社会といわず、ローマ法以来の社会基礎の変化かもしれません。
もちろん、官と民の境界もです。「権利の主体」とか「権利義務」といった法的概念は変わらないのでしょうが、これまでの法が前提としていた条件、例えば家族、国家、官と民などという概念が大きく変わり、10年後には全く違った世界ができあがっているのかもしれません。行政のあり方、公務員のあり方は、もっと早く大きく変わっているでしょう。変わるべきでしょう。
豊かな社会を達成した日本社会の問題と政治の課題は、私の問題関心の一つです。12月30日の日本経済新聞経済教室では、貝塚啓明教授が「不平等化と低所得層の拡大」を書いておられました。
「効率性と公平性は、経済政策における重要な課題であり、どちらの目標を重視するかは、長年にわたり経済学の分野で議論が戦わされてきた。日本の場合には、社会保障システムは、第二次世界大戦直後に占領軍によって提案され、その後しばらくの間、若い人口構成のもと、経済の効率化と分配の公平性は両立し、日本経済は幸福な時期を過ごした。しかし、1990年代以降、効率性と公平性とは、両立しにくくなってきた。
このプロセスのなかで、日本社会は二極分化を起こし始め、閉塞感の強い社会に移りつつある。日本社会を覆いつつある陰鬱な雰囲気は、単なる経済問題ではなく、元来社会学者が論ずべき問題であり・・」
「筆者は、低所得層の増加が最も問題視されるべきだと考える。所得の低い人々、端的に言えば貧困層が顕在化して、かつて高い平等性を誇った日本の社会構造が大きく変わりつつあるということである。1990年代に進行したのは、正規社員には採用されない若者や、フリーターと呼ばれる階層が若い世代に定着したことである。この階層に属する人々の特徴は、将来、中流階級に上昇する期待も意欲も持たないこととされ、階層として固定化する傾向が強いとみられている。
このような社会の変化は、おそらく社会保障システムの機能にも影響を与えるであろう。・・公的年金の加入要件は長期継続雇用であり、その他の社会保険も多かれ少なかれ、保険料の支払いがその給付の条件である。制度が維持されることとなっても、今後拡大が懸念される貧困層のかなりの部分は、このような受給条件を満たさないであろう。このような社会的変化に対応するために、とりあえず必要な制度改革は、生活保護制度の改革である」
画面の都合上、極めて部分的な抜粋になっています。先生、申し訳ありません。ぜひ原文をお読みください。