カテゴリーアーカイブ:政治の役割

みんなで議論する国

2022年2月26日   岡本全勝

2月16日の朝日新聞オピニオン欄「国民的議論、できるもの?」、ニールセン北村朋子さんの発言「最上の妥協点、探る国なら」から。
・・・私が住むデンマークでは、一昨年、気候変動に適応しようと、CO2排出を2030年までに1990年比で70%削減する法律を作りました。
再生エネルギーを導入するだけでは達成できません。基幹産業の一つで排出量の多い養豚業を減らそう、そのためには肉を食べる量を減らそうと、農業関係者から消費者まですべての利害関係者が参加して、国民的議論が進んでいるという実感があります。
各地で地域のNPOやNGOが主催する議論が行われています。政府は食べ方を変えるキャンペーンを展開し、大臣が全国の市民集会に出向きました。農業団体は討論会を行い、メディアもインタビュー番組を放送しています・・・

・・・「デンマーク人は議論好き」ということもあるでしょう。人々は本音と建前ではなく、本音と本音で話をします。小さい頃から「言ってはいけない」がなく、自分の意見を言うように育てられます。話しやすいし、空気を読まないし、忖度する必要もありません。子どもや周りの人を見ていてもそう感じます。
この国では「最上の妥協点、着地点」という言葉をよく使います。どこがお互いにセカンドベストなのか、それを探り出せるか。議論はこれを得るためのツール、という考え方です。議論のための議論は少ない。しかも結論が出て終わりではなく、おりを見ては議論を続けます。だから議論が尽きません。決めたら終わり、ではないのです。
全会一致には懐疑的です。それが歴史上間違った方向に行ったことがたくさんあるとみんなが知っています。だから、少数意見だからと無視したり笑ったり取り上げなかったりは、ここではありえません。それも良さの一つです。

日常の中で人々が議論する時間は十分あります。仕事は午後4時には終わりますし、金曜日は半日です。多くの人たちが夜や週末に、地域の会合に参加しています。
大事なことを話し合わないと次世代に責任を持てない。子や孫の未来を奪ってしまう。ここではそんな考え方が根付いています。「話し合う時間や余裕がない」などと言ったら、「なぜ議論しないのか、時間をかけないのか、ほかに大事なことがあるのか」と不思議がられるでしょう・・・

民主主義を恐れるロシア指導層

2022年2月25日   岡本全勝

2月16日の朝日新聞国際面、オリシア・ルツェビッチ氏(英王立国際問題研究所特別研究員)の「民主主義 恐れるロシア」から。

・・・北大西洋条約機構(NATO)の拡大が問題の発端だというロシアの主張は、国内向けの言説に過ぎない。冷戦時代にソ連国内で反NATOのプロパガンダが盛んに流された結果、「NATOが拡大してくる」と言えば、今でも通用する。
ロシアが本当に恐れるのは「民主主義」。民主主義が欧米からウクライナを通ってロシアに入るのではないか、と懸念している。でも、そうだとは決して認めない。『ウクライナが怖い』などとは、口が裂けても言えない。

プーチン大統領は19世紀の帝国主義的価値観に染まり、国境周辺の土地にも所有権があると信じている。また、巨大なマーケットであるウクライナを支配することで、地域大国以上の力を持とうとしている。ロシアがウクライナなど周辺諸国を支配しようとするのは、ロシア指導層の不安の表れでもある。攻めの姿勢を取り続けないと、ロシアは求心力を失い、将来解体に向かうかも知れないと恐れるからだ。・・・

民主主義国家は団結せよ

2022年2月23日   岡本全勝

2月13日の読売新聞言論欄、アメリカの政治学者、ラリー・ダイアモンドさんの「民主主義国家は団結せよ」から。

・・・20世紀の潮流は民主化でした。特に1989年の冷戦終結後、民主主義は旧社会主義圏に一気に拡大した。94年頃には人口100万人超の国々の過半数が「選挙民主主義」の基準を満たします。複数政党の参加のもとで普通選挙を実施するという、民主主義の最低限の基準です。20世紀末、その数は6割を超えました。その中に、法の支配・基本的人権の尊重・政治的自由の保障などを実現した「自由民主主義」が含まれます。米国、西欧、オーストラリア、日本、台湾などはここに分類できます。
21世紀に逆流が起きます。
東南アジアで言えば、タイは2006年のクーデターで軍の支配に後戻りし、民主主義の歩みを始めたミャンマーは21年に軍が権力を握り直した。選挙民主主義国は今日、5割を切っています。
質も劣化した。為政者が説明責任を 蔑ろにし、任期を破棄して居座り続け、権力を乱用する傾向がある。腐敗も伴います・・・

・・・民主主義の後退の一つの要因に経済の不振があります。民主主義と資本主義は車の両輪です。新参の選挙民主主義諸国は中間層が薄く、教育程度は低く、民主主義の土台はもろい。景気後退で民主主義は言わば侵食されてしまう。欧州連合(EU)で言えば、ユーロ危機後のハンガリーとポーランドが該当します。両国とも権威主義に染まりつつある。
世界的には経済グローバル化で不利益を被った大衆の不満がある。職を失い、生活に困窮すれば、移民を敵視するようになる。大衆の不安を糧に右翼ポピュリストらが横行し、グローバル化を非難し、移民排斥を叫び、民主主義をエリート支配と糾弾する。4月の仏大統領選を争う国民連合のマリーヌ・ルペン氏はその一人です。
トランプ前米大統領は右翼ポピュリストの代表です。大衆の心に響く言葉遣いの巧みな扇動家です。16年の大統領選で負かした、ヒラリー・クリントン元国務長官は有能な公僕でしたが、国家指導者に必要なカリスマがなかった。
米国はトランプ前政権の4年間で政治対立が先鋭化し、SNSを通じて党派的な情報・虚言が拡散して社会分断が深刻化した。民主主義は劣化しました・・・

・・・民主主義は権威主義にも脅かされています。最大の脅威は中国です。習近平氏はアジアの覇権樹立に加え、世界支配の野望さえ抱いているように見えます。
特に台湾が危うい。台湾問題は20世紀半ばの朝鮮戦争に並ぶような、世界秩序を左右する危機へと拡大しかねないと私は考えます。この点で、米国が昨年、日豪印3か国と構築した外交安保協力体制「クアッド」を私は高く評価します。アジア太平洋地域での中国の強引な軍事的拡張を抑止するための重要な戦略的一歩です。
権威主義諸国からのサイバーテロを含む侵犯行為に対抗し、民主主義の後退に歯止めをかけるためにも民主主義諸国は団結すべきです。バイデン大統領が昨年末にオンライン形式で開いた民主主義サミットはその試みです・・・

西欧的価値と普遍的価値

2022年2月5日   岡本全勝

今野元著『ドイツ・ナショナリズム 「普遍」対「固有」の二千年史」』(2021年、中公新書)の「はじめに」に、次のような記述があります。

・・・本書の鍵概念は西欧的=「普遍」的価値である。これは私の造語で、歴史的に西欧(英仏米)で生まれた、その意味では西欧「固有」の政治理念でありながら、西欧の影響力の大きさゆえに、近現代世界で「普遍」的に妥当すると主張されている価値のことである。それぞれの時代や地域において、西欧的=「普遍」的価値を推進しようとする勢力が進歩派(左派)であり、それを抑制しようとする勢力が保守派(右派)である・・・

・・・ちなみに私のいう西欧的=「普遍」的価値は、日本国憲法では「人類普遍の原理」と呼ばれているが、ドイツ連邦共和国では「西欧的価値」(westliche Werte)と呼ばれている。日本で「西欧的価値」と呼ばないのは、異国「固有」のものが自国に押し付けられているという語感を出さないための工夫だろう。だが、西欧中心主義的気風が強い現代ドイツでは、西欧のものが「普遍」妥当性を持つのは当たり前だと考えられているので、わざわざ「普遍」的などと言う必要を感じないのである・・・

3段階の科学者の説明

2022年2月1日   岡本全勝

1月27日の朝日新聞オピニオン欄、横山広美・東大教授の「科学的提言、信頼得るために」から。

・・・新型コロナ対策の専門家有志は21日、オミクロン株による感染者数の急増への対応について提言を発表した。その前日に検討された案には「若者は検査せずに診断」という旨の文言が入っていた。医療機関のキャパシティーを心配してとのことだが、各方面からの苦言を受けて撤回された。「人流抑制よりも人数制限」という方針も混乱を招いた。

科学者と社会のコミュニケーションは、3段階に分けることができる。緊急時のクライシスコミュニケーション、それよりは状況に余裕のある段階でのリスクコミュニケーション、そして平時から行う科学コミュニケーションである。
クライシスコミュニケーションの重要な点は、社会の構成員にこの危機は制御可能であるという具体策を示すこと、恐怖を煽らないこと、一貫したメッセージを発することだ。メッセージは状況によって変えてもよいが納得感が肝心である。今回の提言はこの2年間で私たちが自分たちなりに抱いた落としどころと、ずれが生じた・・・