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行政-官僚論

制度を所管するのか、問題を所管するのか。1

広い視野と行動力、岡本行夫さん」の続きにもなります。
公務員にとって、広い視野と狭い視野との違いは何か、どうして生まれるのでしょうか。その一つの答として、「制度を所管するのか、問題を所管するのか」の違いに、思い至りました。

広い視野の反対の一つが、「法令に書いてありません」「予算にありません」「それは私の所管ではありません」という公務員のセリフです。これはこれで、正しいのです。法律に基づいて仕事をする公務員としては。
しかし、困っている住民からすると、これでは答えになりません。社会の問題を取り上げ解決するのが公務員の役割なら、思考と視野を所管の範囲に狭めてはこまります。

その基にあるのが、制度を所管するのか、問題を所管するのかの、思考の違いです。
ある課題について、制度(法令、予算)を所管していると考えると、その制度の範囲内で処理しようと考えます。それに対して、問題の解決を所管していると考えると、今ある制度を超えて、どのようにしたらその問題を解決できるかを考えるでしょう。

東日本大震災からの復興で、被災者支援本部と復興庁が、これまでにないことに取り組んだのも、これで理解できます。これらの組織は、制度を所管しているのではなく、被災者支援と被災地の復興が任務だったからです。
この項続く

行政の評価、努力と結果

東日本大震災から10年が過ぎ、たくさんの評価や検証がされました。私も出番があり、考えたことをこのホームページに書いておきました。「大震災10年目に考えた成果と課題、目次

全体を見るには、『総合検証 東日本大震災からの復興』が良くできています。そして、阪神・淡路大震災の検証と比較すると、東日本大震災復興政策の特徴がわかりやすいと考えました。
阪神・淡路大震災復興政策の検証としては、兵庫県が作成した「復興10年総括検証・提言事業」があります。学識者54名による検証報告を元にとりまとめた、全4千ページ以上の検証報告書です。目次を見ると、さまざまな分野で詳細な検証がされています。ただしあまりにも大部で、読み物としては不向きです。いわば「辞書」としての機能と言ってよいでしょう。

もう一つ残念ですが、私の関心とは少々ズレています。阪神・淡路大震災の検証報告書には、新たに取られた施策がたくさん列記されています。しかし、復興政策を検証するには、目的がどの程度達成されたのか、どこが足りなかったのかを、見てみたいのです。
東日本大震災復興政策での目的は、安全な町を復興することと、住民の暮らしと街のにぎわいを再建することだったと言えるでしょう。安全な町づくりは、高台移転と現地かさ上げで達成できたと考えます。住民の暮らしと街のにぎわい再建は、取り戻せたところとまだ不十分なところがあります。
その目的のために、行政は十分なことをしたかどうか。これについては、これまでにない政策をたくさん打ちました。これも高く評価されているのですが、これは目的達成の手段でしかありません。

すると、行政の評価としては、どれだけ達成したかという成果の評価と、そのためにどれだけ政策を実行したかの、二つの面があります。阪神・淡路大震災の検証報告書は、後者の面が強いのです。それに対し、『総合検証 東日本大震災からの復興』は目次を見ていただくとわかるように、研究者が6つの分野で23の項目に分けて、やったこととその評価を分析しています。

M・ウェーバーの責任倫理と心情倫理の対比を利用すると、結果評価と努力評価でしょう。学生の勉強の評価でも、どれだけの点数を取ったかと、どれだけ努力したかの2つがあります。
大震災復興政策検証に限らず、行政の評価の際に役所が行うと、しばしば「これだけのことをしました」という項目が並びます。それは、役人にとって「産出量・アウトプット」であっても、現場では「投入量・インプット」でしかありません。現場での評価は、どれだけできたかという「成果・アウトカム」で行うべきです。

お知らせ、岡本行夫さん追悼記念シンポジウム

4月24日、岡本行夫さんが亡くなられてから一年が経ちます。コロナウイルスのため、まだ、お別れ会も開けないようです。

4月29日(午前9時半~12時)に、JICA主催で「岡本行夫 追悼記念シンポジウム―海図なき世界、日本の進むべき道を考える」が、にオンラインで開催されます。当日は、You Tubeで視聴可能です。

黒江・元防衛次官の壮絶な体験談、その3

このホームページでも紹介した、黒江・元防衛次官の壮絶な体験談、「失敗だらけの役人人生」。第20回、最終回「最後にして最大の失敗」が載りました。
詳しくは本文を読んでいただくとして。官僚が仕事において責任を取るということが、どのようなことかを見せてくれます。

私は、この一件は、釈然としないこともあります。ご本人には、もっといろいろな想いがあると推測します。

報道記者との付き合い方

黒江哲郎・元防衛次官の「失敗だらけの役人人生」、第16回は「マスコミとの接し方」です。
報道機関との付き合いは、官僚にとって重要な仕事なのですが、どの省庁でも、これまではきちんと教えられることはなかったでしょう。通常の取材、記者会見、オフレコの取材、記者懇談会(バックグラウンドブリーフィング)、さらなる付き合い・・・。
黒江次官の経験談を、お読みください。自衛隊はこれまで、報道機関からは「批判の対象」と扱われてきました。他省庁の官僚とは違った苦労があったでしょう。

私も官僚人生を振り返って、報道記者との付き合い方は経験して、勉強になりました。30歳の課長の時に、業務の失敗を新聞社に「抜かれ」たこと。地方財政のあり方を巡り、記者さんたちと議論や勉強をしたこと。42歳の総務部長の時に、1年で4回お詫びの記者会見をしたこと。総理秘書官での経験。大震災時の経験。いや~、いろいろありました。
職場では系統だって教えてもらえず、先輩を見て、そして自分で身につけました。それを文章にまとめつつあります。後輩たちに語っておこうと考えたのです。書きかけたのですが、途中で放置してあります。いずれ、このホームページに載せようと考えています。