カテゴリーアーカイブ:社会の見方

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは」

2021年2月1日   岡本全勝

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは?」(2021年、文藝春秋)を、お勧めします。去年4月にコロナで亡くなられた岡本行夫さんが、2017年から2019年にかけて行った講演をまとめたものです。
行夫さんが亡くなられた後、岡本アソシエイツ(行夫さんの会社)の方が、行夫さんの若者への熱い思いを何とか形に残したいとの思いで、企画し原稿を整理して、出版されたそうです。よい本を作って下さって、ありがとうございます。

1990年、湾岸戦争時の岡本さんの活躍、四輪駆動車を日本から運ぶ際の話は有名です。私もすごい先輩がおられるのだと感激し、ファンになりました。その後、大震災で、親しくしてもらうようになりました。漁港の復旧を待たず(待てず)、冷凍コンテナを贈ってくださったのです。拙著にも書きましたが、行夫さんのアイデアと実行力に、私たち役所が「負けた」のです。
この本には、そのほか、ご自身の経験や見聞による知見がたくさん載っています。

若い人たちには、ぜひ読んでいただきたい。特に、第Ⅱ章日本の国際化のために必要なこと、第Ⅲ章個人の国際化、第Ⅳ章皆さんに贈る言葉、を読んでください。
表題にあるように「日本にとっての最大の危機」を憂い、問題点と解決の方向を述べておられます。毎日、ニュースやインターネットで多量のかつ細切れの問題が伝えられますが、それは「消費財」のように垂れ流されます。官僚、企業の幹部候補生をはじめこれからの日本を背負って立つ若者たちは、日々の仕事に忙しいでしょう。本書を読んで、立ち止まって、広い視野から考えて欲しいです。

国際人に必要な資質として他人への優しさ、そして組織として多様性の重要性が、具体事例を挙げて説かれます。「寧ろ牛後となるも、鶏口となるなかれ」(国語の試験では間違い)「欲窮千里目 更上一層楼」は、なるほどと思います。

講演録で、読みやすいです。分量も多くありませんが、読み終えて熱くなります。日本を思う気持ち、世界の困っている人を思う気持ち、思うだけでなく実行する行動力。
私には、「全勝君、まだまだ若いのだから、頑張ってよ」という、行夫さんの声が聞こえてきました。「追悼、岡本行夫さん

五百旗頭真ほか編「岡本行夫 現場主義を貫いた外交官」(2020年、朝日文庫)もお勧めです。

脳の働きと仕組み、推理の能力

2021年1月30日   岡本全勝

乾敏郎・坂口豊著『脳の大統一理論ー自由エネルギー原理とは何か』(2020年、岩波科学ライブラリー)を書店で見かけて、読みました。難しいところ(自由エネルギー)は、飛ばしてです。なるほどねと納得するところがあり、脳の働きについてはまだほとんどわかっていないのだなというのが、読後感です。

自由エネルギーによる統一理論は、脳が推論をする(物を見て事物を認識するにしろ、コップを取るために筋肉の動かすにしろ、推論に基づいて行われています)際の方法を説明する理論です。私の理解では、「脳が推論する際には、最も省エネの方法で行う」です。これは納得できました。
他方で、まだこんなことしか、わかっていないのかとも思います。脳が細胞からできていることは周知の事実ですが、脳細胞・神経細胞を解剖しても、脳の働きはわかりません。でも、細胞はどのようにして、私たちの認識、判断、行動を生んでいるのでしょうね。

推論の方法で、次の説明が役に立ちました。私たちは、仮説を立て検証する方法として、帰納法と演繹法を学びました。もう一つの方法があります。仮説形成(仮説生成、アブダクション)です。脳はそれを使っているようです。
ウィキペディアの説明を借りると、
演繹は、仮定aと規則「a ならばbである」から結論bを導く。
帰納は、仮定aが結論bを伴ういくらかの事例を観察した結果として、規則「aならばbである」を蓋然的に推論する。
それに対し仮説形成は、結論 bに規則「aならばbである」を当てはめて仮定aを推論します。帰納が仮定と結論から規則を推論するのに対し、アブダクションは結論と規則から仮定を推論します。

私たちのふだんの行動や仕事は、この仮説形成ですよね。遠くから人を見てぼんやりとした姿から、「Aさんかな、Bさんかな」と推論します。そして近づいて、「やはりBさんだった」と確認します。
中学生の数学、因数分解の授業を思い出します。適当な数字を当てはめてみて、正解を探します。私は数学は演繹法だと思っていたので、解を見出すとき「(論理的に出てこないのに)なぜそのような解を思いつけばよいのですか」と先生に質問しました。田中先生は「直観サバンナ」と一言答えられました。当時、マツダ自動車の宣伝で「直観サバンナ」という表現が流行っていたのです。私は「へえ~」と感心し、納得しました。50年前の事ですが、よく覚えています。

仕事で案を思いついたとき、「なぜそのようなことを思いついたの?」と聞かれても、「ひらめいた」としか答えられないのです。帰納法でも演繹法でもありません。
もちろん、脳は無から有を生じませんから、いくつもある蓄積の中から、新しい事態に当てはまりやすい仮説を立てるのでしょう。いくつか仮説を立てることができるかどうか、そしてその仮説が当たっているかどうかは、その人の経験と能力によるのでしょう。私たちは日頃の仕事で、その能力を磨いています。

合理的バブルが終わるとき

2021年1月27日   岡本全勝

1月22日の日経新聞「エコノミスト360°視点」、中空麻奈・BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の「合理的バブルが終わるとき」から。

・・・足元で起きている資産価格と実体経済がかけ離れる「バブル」は、世界の中央銀行による金融緩和で生じたため「合理的」らしい。1990年代の米国が「根拠なき熱狂」に沸いたのとは異なるということだ。合理的に生じたものは合理的に終わると期待され、妙な安堵感も広がる。

しかし、合理的か非合理的かにかかわらず、バブルはいつかはじける。
良く引き合いに出されることだが、電気自動車世界最大手、米テスラ株の時価総額が日本車メーカー9社合計を上回った事実一つをとっても、資産価格の上昇はすでに説明がつかない。警戒感を持ってバブルの波から早く降りれば崩壊に備えられる。とはいえ、まだ株価が上昇するとすれば、指をくわえて見ていられないのが投資家の宿命だ。

問題は合理的か非合理的かではなく、①このバブルは何をトリガーにして②いつ終わるのか――という2点だ。
効率的市場仮説に基づいて価格が決まっているのだとすれば、そこから生じたバブルの限界は、「その価格では転売できなくなった時」か、現実世界の資源の有限性がネックになって「その価格が成立しなくなった時」である。

しかし、前者については、中央銀行が最後の買い手となると市場は理解している。中央銀行の出口戦略がきっかけになるとの声は多いが、極端な政策を取るとは思えない。そうなると、今回のバブルは現実世界の「崩れ」が原因で終わる公算が大きいのではないか。トリガーとなり得るポイントを3つ指摘する・・・
原文をお読みください。

そこに至るまで、どれだけ努力したか

2021年1月25日   岡本全勝

1月22日の読売新聞夕刊「言葉のアルバム」、細谷雄一・慶應大学教授の「相手国 歴史含めて理解」から。

・・・気鋭の国際政治学者は、恩師である北岡伸一・国際協力機構(JICA)理事長のこの言葉を大切にしている。
「その時にどのような位置にあるかではなく、その時にどれだけの努力をするかによって評価することが大事」
北岡氏との出会いは1990年、立教大1年生の時に受講したゼミだ・・・
・・・ある日のゼミで、「米国が理想主義を掲げながら、国内に人種差別の問題を抱えるのは偽善的ではないか」と議論になった。北岡氏は、米国の偽善を批判する前に、「米国という国家が人種問題を乗りこえるために、どれだけの努力を払ってきたかにも目を向けるべきだ」と説いた。そして「それは人間を評価する時も同じだ」と付け加えた・・・

・・・恩師の言葉は国際政治の分析にもあてはまる。歴史を含めて相手国を理解する努力が外交の基本であり、国際関係を維持する重要な要素だ。戦争はその不足から生まれる。世界は今、そのことを忘れかけているのではないかと危惧している・・・問題が起きると、どうしても相手国の欠点や問題点を探してしまう。でも、どうしてその国がそういう行動をとるのか、偏見を持たず、もう少し粘り強く理解する。混迷する世界をそうした眼で見つめていきたいと考えている・・・

アルファベット日本語

2021年1月25日   岡本全勝

1月23日の朝日新聞「ことばサプリ」は「SDGs」を取り上げていました。
・・・ここ最近、毎日のように新聞で目にするようになった「SDGs(エスディージーズ)」という言葉。地球環境の改善や社会での共生など、2030年までに達成を目指す17の目標のことですが、少しとっつきにくい印象がぬぐえません。
「どう読んだらいいのか分からないという声を聞きますね。外来語だと身近に感じにくいかな、という思いもありました」。SDGsの研究・紹介に携わる蟹江憲史・慶大大学院教授は、悩みを打ち明けます・・・

この言葉を広げたい人の怠慢だと思います。新聞社も怠慢です。「中学生がわかる言葉で」と言っておきながら、これでは国民に理解してもらえませんわ。わかりにくい業界用語を、一般人にわかるように書き換えることもマスコミの任務だと思います。「持続可能目標」ではダメでしょうかね。
クラスター、ソーシャルディスタンスなども、子どもでもわかる言葉、国語辞典を引けばわかるあるいは想像できる言葉にして下さい。

私のホームページでは、しばしばカタカナ英語、すなわち日本語の中で使われるカタカナの英語らしき日本語を批判しています。SDGsのような単語は、カタカナ英語を通り越して、アルファベット日本とも呼ぶのでしょうか。
会社名でも、アルファベット3文字が増えています。でも、消費者に広く覚えてもらうことを放棄しているとしか思えません。「アルファベットの会社名

ちなみに、朝日新聞のこの欄の名称は「ことばサプリ」で、サプリというわからない言葉を使っています。「この言葉は何を意味しているか」を高校入試に出したら、何が正解でしょうか。「天声人語」氏や「素粒子」氏に聞いてみたいです。