カテゴリーアーカイブ:社会の見方

消費回復へ賃金引き上げを

2021年5月2日   岡本全勝

4月26日の日経新聞経済教室、山口広秀・日興リサーチセンター理事長と吉川洋・立正大学長による「コロナ後のあるべき政策 消費回復へ賃金デフレ脱却」から。

・・・戦後最悪の経済の落ち込みを前に、財政支出は拡大せざるを得ない。所得低下は低所得家計で大きい。就業形態別にみると、パート労働者(特に飲食店)で現金給与総額の落ち込みが大きい。不況は常に逆進的だが、コロナ禍では特に著しい。従って格差の緩和が財政政策の大きな役割となる・・・
・・・しかしコロナショック後に採られた諸政策は、個人消費の明確な増加にはつながっていない。コロナが収束しない限り、消費の盛り上がりは期待できない。しかも日本の個人消費には構造的な弱さがある。
それは近年の消費性向の一貫した低下に端的に表れている。消費性向は14年の75%から20年には61%まで低下した。消費性向の高い65歳以上の高齢者ですら、11年の94%から20年には72%まで低下している。内閣府「国民生活に関する世論調査」をみても、人々が現在より将来への備えを重視する割合は、この20年間調査のたびに上昇している。
金融広報中央委員会の世論調査では、世帯主が60歳未満の世帯に老後の生活について尋ねると06年以降、「心配である」という人が約9割に達する。この10年余りは4~5割が「非常に心配である」と答える。家計の貯蓄目的としては「老後の生活資金」の割合が年々上昇し、13年以降は貯蓄の最大の目的となっている。
図は、消費者の経済や所得への見方をアンケート調査して指数化した経済協力開発機構(OECD)の消費者信頼感指数を国際比較したものだ。日本は14年ごろまでは米欧とほぼ並ぶ水準にあったが、その後低迷が続き、コロナショック後の回復も弱い。財政・金融政策は大同小異にもかかわらず、日本の景気回復が米国に比べ著しく弱いのは、日本の消費者心理が好転しないことが大きな原因だ。

漠然とした将来不安の背景は2つある。一つは政府の財政再建の展望が開けないなか、社会保障の持続性への懸念が強いこと、もう一つは消費者の所得上昇期待が低下していることだ・・・
・・・もう一つの賃金・所得上昇が期待できないことについては、名目賃金の上昇率(年収ベース)は、20年6月以降マイナス幅が拡大しており、足元ではマイナス1.5%となっている。世界的に低インフレが指摘されるなかでも、名目賃金の上昇率(19年)は米国が3.7%、ドイツが2.7%だ。日本の賃金デフレは異常な状態だ。賃金・所得の低迷は経済成長の問題にほかならない。経済成長は財政再建にとっても、十分条件ではないが必要条件だ。
先進国の潜在成長率(直近5年の平均)をみると、米国が2.0%、ユーロ圏が1.3%に対し、日本は0.6%と低さが際立つ。労働人口の減少もあるが、より大きいのは労働生産性の伸び悩みだ。1人当たり実質GDPの年平均伸び率(購買力平価ベース)は、1990年から2019年までの間、米国が1.5%、ユーロ圏が1.2%の一方、日本は0.9%にとどまる。生産性は、サービス業はもとより、製造業を含め幅広い業種で米欧より低い・・・

参考「最低賃金の引き上げ

最低賃金の引き上げ

2021年4月28日   岡本全勝

4月22日の朝日新聞オピニオン欄、竹内幹・一橋大学准教授の「最低賃金引き上げの意義 人として生きる費用必要」から。
・・・最低賃金の引き上げは先進国のトレンドになっている。昨年、スイスのジュネーブ州では最低賃金を時給23スイスフラン(約2700円)に引き上げることが住民投票で決まった。最低賃金としては世界最高だろう。他方、日本は時給902円(全国加重平均値)にすぎない。
一般的に、最低賃金を国際比較する場合は絶対額でなく、フルタイム労働者の稼得の中央値を100として最低賃金がその何%に相当するかを比べる。OECDのデータでは日本は44%で、加盟国でデータがある31カ国のなかで27位だ・・・

記事では、「多くの経済学者は最低賃金法は、賃金が一定水準以下の雇用機会を奪うので、低賃金でしか働けない貧困層の職を奪うだけだ、と長らく信じてきた」と書かれています。そして、その考え方が変わりつつあることも、紹介されています。

しかし、最低賃金を経済学の理論で扱うこと自体が、間違っていると思います。
賃金は、人が暮らしていくために必須です。その際に、最低賃金は、商品やサービスのように、需要と供給で決まってはいけないのです。高度な技能や人がやりたくない仕事について、需要と供給の関係で賃金が上下することがあっても、最低賃金は人が暮らしていけるだけの金額にしなければなりません。これは経済学ではなく、社会保障です。
連載「公共を創る」では、非正規労働者を貧困から救う政策として、同一労働・同一賃金と、この最低賃金引き上げを、書いているところです。

土地の管理、国家と私人の権利義務のあいまいさ

2021年4月27日   岡本全勝

4月21日の日経新聞オピニオン欄、斉藤徹弥・論説委員の「「土地は公共財」原点に戻れ 国家が担う所有不明の対処」が、参考になります。所有者不明の土地が増えていることに対処する法案についてです。

・・・所有者不明の土地は海外ではあまりみられない日本特有の問題で、その根底には日本の土地制度に起因する土地の細分化と所有権の分散化がある――。3月の衆院法務委員会では、司法書士総合研究所の石田光広・主任研究員がこんな問題提起をした。
日本は小規模な土地を多くの人が所有しているという特徴がある。明治の地租改正で1筆の土地に所有者は1人の一地一主とした。当時の総筆数はおおむね1億筆だ。
その後、経済成長と人口増で土地の資産価値が高まり、相続税対策も重なって土地の分割や共有が進んだ。日本の土地は今、2億筆を超える。国土が本州ほどの英国は1500万筆、日本とほぼ同じドイツが6000万筆、1・5倍のフランスは1億筆とされ、日本の土地は細分化が著しい。

石田氏によると、日本のように土地の分割や所有権の共有が簡単にできる国は少ない。世界では土地の分割は景観や農地の保全を妨げ、土地の価値を変えてしまうとして許可制が主流だ。同様の理由で安易な所有権の共有も制限する国が多い。
ドイツでは自治体が域内の土地利用を都市計画で厳しく規制している。緩い規制で開発を広げて空き家を生み、コンパクト化もままならない日本の自治体とは対照的だ。都市国家だった歴史的経緯もあるが、底流には「土地は公共財」という公地思想がある・・・

・・・その理由を慶応大学の松尾弘教授は「国家としての土地管理が行われてこなかったことが最大の原因だろう。土地に対して国家がもつ権限・責務と私人がもつ権利・義務の関係は曖昧だ」と東京財団政策研究所の論考で指摘する。
人口減少時代に引き取り手のない土地は公的に管理するのが妥当だ。欧州の例をみても公共財としての土地に責任を持つべきは自治体だろう。知恵を絞り土地の価値を高めて税収増を探るのは自治体の本来業務と言ってよい・・・

戦後民主主義の罪、2」で、私権の制限が進まないことを述べました。

「理不尽な進化」説明と理解と納得

2021年4月22日   岡本全勝

理不尽な進化 競争でなく不運で滅びる」の続きです。吉川浩満著「理不尽な進化」は、後半で、自然科学と社会科学の違いを扱います。

自然を説明すること(自然科学)と、歴史を理解すること(歴史学、社会科学)の違いがわかりやすく説明されます。進化論がその中間に位置していること、双方で使われることで、私たちの進化論の誤用が説明されます。
私たちは、自然科学によって事実の因果関係を説明されると、なるほどと思います。しかし、それが私たちにとってどのような意味があるのか、別途、理屈が欲しいのです。社会科学は、それを教えてくれます。自然科学の説明は「因果」「方法」であり、歴史の理解は私たちが求める「意味」「真実」の世界です。次元が違うのです。

さらに言うと、説明されることと、理解することのほかに、納得することがあります。頭で理解できても、気持ちで納得できないことがあります。
地震は地下で岩盤がずれることで発生すると、説明されます。でも、なぜ2011年3月11日に起きたのか。それは理解できません。そして、あの人は亡くなり、私はなぜ助かったのか。説明され、理解できても、納得はできません。
そこに、「意味」を求めるからです。かつて宗教は、それを説明してくれました。自然科学がいくら発達しても説明してくれない「意味」を、私たちはどのように「納得」するのか、自分を「納得」させるのか。難しいことです。

この本は、もっといろいろなことを教えてくれます。面白いです。ただし、文庫本で400ページを越え、文章は平易なのですが、しっかり理解しようとすると読みやすい内容ではありません。著者も狙っているのですが、学術書と小説を混合した文章です。
シーザーがルビコン川を渡ると歴史的事実となり、ほかの何百万の人がルビコン川を渡っても、筆者が神田川を渡っても歴史的事実としては取り上げられない話など、難しい内容に、軽妙な比喩がちりばめられています。でも、納得できます。

本文中にある「注」が、とても充実しています。参考文献がたくさん取り上げられ、どのように読むと良いかが解説されています。哲学から自然科学、そして小説まで、良くこれだけの書物に目を通し、紹介するだけの理解をされたものだと、尊敬します。
私も読もうと思っていた本、興味を引く本がいくつも取り上げられています。でも、これを注文すると、読まない本が増えるのですよね。

建て替えられる建物

2021年4月20日   岡本全勝

42年半の公務員生活で、いくつもの職場で働きました。先日、どこで働いたか思い出していて、気がついたのですが。それらの建物が壊されて、新しくなっています。
戦前の建物が古くなり、狭くなったので建て替えたもの、再開発で壊されたものなどです。そのような時代だったのですね。
地域と、勤めた順に見ていきます。同じ組織に2度以上勤めた場合は、最初の勤務を出します(と、去年11月ごろに書いて、放置してありました)。

(地方自治体)
昭和53年、徳島県庁。その後、隣に新築移転。旧県庁は移築されて、文書館になっています。
昭和58年、鹿児島県庁。その後、新築移転。旧県庁は、正面部分が県政記念館として保存されています。
平成6年、富山県庁。健在。
三つの県庁とも戦前に建てられ、内務省が造ったので、同じような形になっていたようです。旧山形県庁が、それを保存しています。

(霞が関)
昭和55年、自治省。旧内務省ビル。その後取り壊され、第2合同庁舎になっています。
平成10年、内閣・省庁改革本部。民間のビルに入っていました。最初に入った溜池の雑居ビルも、次に移った虎ノ門の第10森ビルも壊されて、再開発されました。
平成13年、総務省。新築された建物に入居しました。健在。
平成18年、内閣府・内閣官房。第4合同庁舎。耐震補強がされ、健在。
平成20年、総理官邸。平成14年に新築されたばかりでした。健在。
平成23年、被災者支援本部。内閣府別館。取り壊され、現在は第8合同庁舎が建っています。
平成23年、復興本部のち復興庁。三会堂ビル。健在。
平成28年、復興庁。第4合同庁舎。健在。

(出先)
昭和63年、自治大学校、広尾(有栖川公園の隣)。その後、立川に移転。旧校舎は売却され、高齢者施設になっています。
平成21年、消防大学校、三鷹。平成13年に改築されたもの。健在。
平成22年、自治大学校、立川。平成15年にこの地に移転新築され健在。
この項続く