カテゴリーアーカイブ:社会の見方

感染症対策の科学と政治

2022年6月24日   岡本全勝

6月9日の朝日新聞、飯島渉・青山学院大教授の「中国が続ける「ゼロコロナ」政策の教訓は」から。

――中国が続けてきた政策は妥当でしょうか。
「02年から03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行が、医療・衛生行政の改革のきっかけになりました。経済成長の果実を使いながら、医療保険制度の改革を行いました。現在の対策を見ると、社会主義の下での大衆動員による医療・衛生行政との連続性も垣間見えます」
「感染症対策を決定するのは科学であると同時に、むしろそれ以上に政治、文化や社会であることを痛感します。中国では、政治文化としての介入的で、動員的なモデルからの離脱が難しい。ただ、いずこの国も臨機応変な政策転換は容易ではありません」

――中国の現状から、日本や世界各国がくみ取れる教訓は何でしょうか。
「中国の対策の特徴は、『社区』や『小区』と呼ばれる居住単位を基盤とした厳しい行動規制、情報通信技術(ICT)を駆使した住民管理、それを実現しうる共産党の組織力、物資や医療人材を集中させられる経済力です。同時にロックダウンのコストは膨大で、継続は難しい」
「一方、そのあり方は近未来的でもあり、さまざまな健康情報の集約も含め、過度に情報が一元化されています。その方が効率的だという誘惑にかられるのですが、個人の生活において、常に自分の情報をめぐって防疫との『取引』をしなければいけない世界だといえます」
「中国の感染症対策におけるICTの活用は、デジタル化した社会での個人の生活のあり方を考えるきっかけを提供しています。ポストコロナを見据えながら、その過程をていねいに検証する必要があるでしょう」

スマートフォンでの交際相手探し

2022年6月23日   岡本全勝

6月3日の朝日新聞夕刊、「スマホで素敵な出会い?」から。
・・・スマホのマッチングアプリが、交際相手を見つける手段の一つとして使われる時代になっている。ただ、その使い方に悩む人も。トラブルも絶えず、マイナスイメージがつきまとう。活用法について、アプリ専門家の伊藤早紀さん(31)に聞いた・・・

・・・そもそも出会いの場といえば、学校や職場、サークル、合コンなどが定番とされる。そこで実際に一定の時間を過ごし、相手の表情やしぐさ、考えを知り、自分と性格が合うかどうかなどを判断してきた。
ただ、マッチングアプリでのとっかかりは、主に顔写真とプロフィル。伊藤さんは「『現実世界』での出会い方とアプリでの出会い方が同じだと思っていると、良い出会いはありません。アプリの使い方を知らないといけません」と言う。
コツはあるのか。例えば、笑顔でないキメ顔で、自己紹介が数行ほどの短いプロフィルの男性はどうか。伊藤さんはバッサリと斬る。「アプリの世界では、女性は月に100人からアプローチを受けています。いい加減なプロフィルで出会えるわけがありません」

アプリの利用者は男性が多く、女性が少ない。単純に男女比率からみれば、女性のほうが優位な立場にある。伊藤さんによると、女性側は男性を減点方式で評価しがちだという。例えば、アプリで知り合った後、実際に男性と会っても「エスコートが下手だった」などとマイナス評価をつけるという。
こんな例が続けば、アプリから遠ざかる。そのミスマッチを少なくしようと目指すのが、伊藤さんの仕事だ・・・
詳しくは原文をお読みください。

その場所のための建築

2022年6月22日   岡本全勝

6月5日の読売新聞言論欄、建築家の田根剛さんへのインタビュー「建物の可能性 その場所のための建築を
・・・誰が設計を手がけたか、ひと目で分かる建物がある。未知の巨大生物を思わせる曲面、むき出しのコンクリートの質感、近未来都市のイメージ、等々。どこの国でも、どんな街でも、その人らしいにおいを放つ。パリを拠点に活動する田根剛さんは、まったく違う道を進む。「建築家のスタイルより優先すべきものがある」と言い切るのだ。「建築家は場所のために仕事をしている」とも・・・

・・・ここ20年の間に、建築家がグローバルに活躍できる土壌ができました。それまでに準備しておいた建物のデザインを、まったく無関係な土地へと持っていく。スターの建築家のデザインが置かれると街が元気になる、見たこともないものは活性化の起爆剤になる、というので、世界のスター建築家たちのデザインが世界のどこにでもある状態になりました。
そのスタイルは明快で、数も多くつくられる。しかし日本国内では、そうした建築がやすやすと壊されかねない。建物の新しさに驚いても、その驚きは3年もするとなくなって、古くなったので取り壊し、という流れになるのです。

建物の寿命が人生より短くなります。人生を超え、人生を支えてくれるはずの存在を、人間が消費し、壊すということを繰り返している。建築はもっと人生や街を支えたり、社会をつくったりしていく存在であるべきではないか。
到達した結論はこうです。スタイルを街に押しつけてはいけない。建築家その人のスタイルよりも前に、一つひとつの建物のスタイルが優先されなければならない――。自分の知識や技術を使い、その場所のための建築をする、そういう建築家になりたいと思うようになりました・・・

現代社会の時間泥棒

2022年6月16日   岡本全勝

『モモ』という童話を読まれたことがありますか。ドイツの作家ミヒャエル・エンデの作です。1973年にでていますから、私は大人になってから読みました。あらすじは、本を読むなり、インターネットで見てください。
大人たちが、時間を節約することに熱心になり、逆にゆとりをなくすという話です。現代社会の時間に追われる私たちを風刺しています。すばらしい内容なのですが、子どもには難しいと思います。

豊かになるための手段が、そのうちに目的になり、本来の目的が失われることがあります。お金がそうでしょう。豊かな生活を送るために、お金を儲ける。ところが、お金儲けが目的になって、豊かな生活が送られなくなるのです。時計もそうです。計画的な時間配分をするために作った時計。ところが、その時計によって私たちの行動が管理され、振り回されるのです。

最近では、スマートフォンが典型です。便利のための道具なのに、朝から晩までスマホに支配されています。
「常時接続」という言葉があります。専門的には、コンピュータが常にインターネットと接続状態にあることをいいますが、私たちの日常生活では、携帯電話やスマートフォンにメールや電話がいつでもかかってくることに使えます。
コンピュータの常時接続なら、自分の都合に合わせて使えばよいのですが、スマートフォンの場合はそうはいきません。時と所をかまわずかかってきます。無視すればよいのですが、気になって見てしまいます。持ち運びが簡単なので、屋外でも、電車中や歩きながらでも、応答します。「何か来ていないか」「すぐに返事しないと」と不安になるようです。そして、自分の時間を取られてしまいます。

スマホの画面を見て、指で操作をしていると、「何かをやっている感」があります。これもくせ者です。やっている感ですが、時間も脳もスマホに支配されています。時間泥棒は脳泥棒でもあります。
スマホにのめり込んでいると、人に会う、旅行に行く、本を読む、商店街に行く、運動をする・・・。そのような行動と選択をしなくても良いのです。自分の行動を支配されています。

便利さを求める。それは心身ともに豊かな生活を送るための道具だったはずです。しかし、見る人をとりこにする刺激的で面白い内容、いつでもどこでも使えるという便利さが、使う人から時間と考えることを奪っています。作った物に使われる逆説。
「すき間時間にできます」とは、そんなわずかな時間までもが、スマホに取られてしまうのです。究極の「時間泥棒」です。

動画を倍速で見る若者たち

2022年6月16日   岡本全勝

5月28日の朝日新聞読書欄で、宮地ゆう・副編集長が副編集長が、稲田豊史著『映画を早送りで観る人たち』(2022年、光文社新書)を取り上げていました。「余裕ない若者の「自己防衛策」

・・・映画などの動画を早送りで見る習慣が、若者の間に広まっているという。多くの人が、「一体何のために?」と思うだろう。だが、「いまどきの若者は……」と切り捨ててしまう前に、まず本書を読んで欲しい。お金も時間も余裕もなく、SNSやリアルな社会からプレッシャーを受けて生きる世代の姿が痛々しいほどに浮かび上がる。
著者が行った大学生の調査では、倍速の視聴を「よくする」という人は35%、10秒ごとに飛ばす視聴を「よくする」という人は50%いたという。
彼らはSNSで友人との話題について行くために数をこなす必要がある。だから、手っ取り早くあらすじを知りたがる。
2時間の映画をゆっくり見ていた世代とは経済状況も違う。大学新入生の仕送りによる生活費は、約30年前の約4分の1。授業もバイトもあり、娯楽にかけられる時間やお金は圧倒的に少ない。時間の無駄だったと思わないよう、あらすじを知った上で作品を選ぶ。ストレス過多の彼らは、難解な作品、感情を乱される作品は求めていない。
こうした受け手の変化は、作る側にも影響し始めている。沈黙で感情を表現するなどという場面は早送りされてしまう。「苦しい」「痛い」といった登場人物の心の声まで字幕にして、わかりやすい物語を作る・・・

5月26日の読売新聞も取り上げていました。「広がる「倍速視聴」メリットと不安
・・・「ウルトラマンマックス」やアニメ「サザエさん」などのシナリオを手がけた脚本家の小林雄次さん(42)も現状に不安を感じている。
主人公がピンチに追い詰められた末に勝利するから感動が大きくなるように、脚本家は視聴者をひきつけるため、ストーリーに緩急をつける。ところが、暗い話は「停滞」、沈黙シーンは「無意味」と捉えられる――。そんな風潮を危惧しているという。小林さんは、「映像作品は『時間の芸術』とも言う。見たいところだけを見ると、作者の意図が伝わらない」と複雑な心境を明かす。
倍速視聴によってコミュニケーション能力の低下を招く可能性もある。

玉川大脳科学研究所教授の松田哲也さん(認知神経科学)によると、人は作品の登場人物のやり取りから、実生活に役立つ対人スキルなどを学ぶという。例えば、「いいよ」など同意の返事一つとっても、相手の返答までの間や目線の動き、頬のこわばりなど、様々な情報から同意の程度を読み取ろうとする。倍速だと細かい情報を見落としてしまい、推察力などを習得する機会を無意識のうちに失うそうだ。
松田さんは、「倍速視聴は効率的だが、得られる情報量は減り、感情移入しにくくなる場合がある。その功罪を理解して使うことが大切だ」と助言する・・・

6月10日の朝日新聞文化欄「倍速視聴、現代を生き抜く戦略 時間のコスパ重視、20代49%が経験」も、取り上げていました。