カテゴリーアーカイブ:社会の見方

侵略されるのは嫌だけれど、自分は戦いたくない。できれば他人に戦ってほしい。

2023年2月16日   岡本全勝

2月5日の読売新聞言論欄、井上義和・帝京大教授の「「祖国」を守る想像力 必要」から。

・・・ウクライナはこの1年間、自国の領域内でロシア軍を迎え撃つ戦いに徹してきました。焦土と化した街で市民までも武器を手に取り、兵站を支える総力戦を続けています。必然的に犠牲者は増える。それは日本が国是としてきた「専守防衛」に他なりません。
ウクライナでは、軍に入る男性が国外に避難する妻や子どもたちに向き合い、「国のために戦うよ」と語りかけています。こうした映像は日本でも繰り返し放送されました。しかし私たちは、危険を顧みずに国を守る人たちがいることを、別の世界の出来事のように捉えています。ロシアの暴挙が、文明が進んだはずの21世紀の世界でも、明白な侵略戦争が起きる事実を示しているのに。

専守防衛とは、相手から攻撃を受けたときに初めて、必要最小限度の防衛力を行使する受動的な戦略です。先の大戦を起こした痛切な反省と周辺国への配慮から、日本は専守防衛を国是とし、国民も支持してきました。一定程度持ちこたえれば、同盟国や国際社会が助けてくれるという発想です。
それは自分から仕掛けなければ相手から攻撃されることはないという信念の裏返しでもあります。戦後の日本では、外国の侵略からどう国を守るかという真剣な問いかけは忌避されてきたのが実情です。

昨年4月、日本人の学生100人を対象にアンケート調査をしました。「他国が自国に攻め入ってきたら、国のために戦いますか」との質問に「いいえ」と答えた学生は32人で、「わからない」との回答は40人に上りました。
その一方で、「戦わずに、敵の侵略を受け入れた方がいいと思いますか」と聞くと、88人が「いいえ」と回答し、「できれば自分や身内以外の他の誰かに戦ってほしいですか」との問いには、47人が「はい」と答えました。
最初の質問で「いいえ」と「わからない」が多いのは、国際意識調査で示された日本の傾向と同じでした。侵略されるのは嫌だけれど、自分は戦いたくない。できれば他人に戦ってほしい。多くの日本人には、そんな本音があるのではないでしょうか。危機が訪れたとき、どこからともなくヒーローが現れ、敵を撃退して去って行くのが理想なのでしょう。でも現実の世界ではそんなことはあり得ません・・・

ライト・ミルズ著『社会学的想像力』

2023年2月15日   岡本全勝

ライト・ミルズ著『社会学的想像力』(2017年、ちくま学芸文庫)を読み終えました。
ほかの本にも引用されていて気になっていたのですが、なかなかその気にならず。『21世紀を生きるための社会学の教科書』で、読まなくてはならないと考え、文庫本で新訳が出て読みやすくなったので挑戦しました。判型は読みやすくなったのですが、内容は決してわかりやすいものではありません。かなりの日数がかかりました。布団で読む本ではないですね(反省)。

ウィキペディアのミルズの項では、「「一人の人間の生活と、一つの社会の歴史とは、両者をともに理解することなしにはそのどちらの一つも理解することができない」と考える想像力である」と書かれています。
私なりに理解すると次のようになります。
ミルズは、社会学を学ぶ意味とは人が日々遭遇する困難を根本的に解決するにはどうすればよいかを考えることである、と言います。個人が困っている問題を本人の責任とせず社会の問題であると位置づけることが、この学問の意義だと言うのです。そのためには個人の日常の問題を社会と関連づけて捉える知性が必要であり、その知性を「社会学的想像力」と呼びます。
我が意を得たりです。「今頃、遅い」と言われそうですが。早速、連載「公共を創る」に利用しました。
このホームページを検索すると、「社会を観察するのではなく、社会に参加し貢献する学問」から「社会学的想像力と政治的想像力」まで、長く同じ主題を考えていたのでした。

要旨は明快なのですが、当時の社会学への批判の書でもあります。原著が出版された当時(1959年)の社会学界、特にアメリカの社会学界を知らないと、理解しにくいのです。パーソンズの「構造主義」や、調査統計に特化する社会学を批判します。社会学の有り様を理解するにはよい本です。もっとも、出版以来、半世紀以上が経っています。
ミルズの書は、学生時代に政治学で『パワー・エリート』を読みました。あの人だったのですね。

日本を捨てて外国に行く人たち

2023年2月13日   岡本全勝

朝日新聞が、1月27日から「わたしが日本を出た理由」を連載していました。
・・・海外に移住する人の流れが静かに増えています。失敗のリスクも承知のうえで、生まれ育った日本を離れた決断の背景には何があったのか。それぞれのストーリーを重ねていくと、日本の現在地が見えてきました・・・
として、日本での仕事を辞めて、海外に移住し仕事をしている人たちを紹介してます。

そこに見えるのは、海外が憧れと言うより、日本の職場の処遇の悪さです。給与が低い、勤務時間が長い、休みを取れない、周囲の目が厳しいなどなど。日本の職場の「欠点」が見えます。このような現実が広く知れ渡ると、日本型職場慣行がおかしいことや、経済力が低下していることが理解され、変わる一助になるのではないでしょうか。

福井県立大教授(人口学)・佐々井司さん
――海外永住者がコロナ下でも増え続けています。
このところ非常に強くなった、日本の閉塞感が背景にあるのでしょう。賃金や労働環境、社会の多様性などの面で、日本より欧米諸国に相対的な魅力を感じる人が多くなっているのではないでしょうか。閉塞感が解消しない限り、増加傾向は続くと思います。

――長期滞在者も含めて、いつごろから増え始めたのですか。
2000年ごろからです。日本経済の低迷や日系企業の海外進出が進むなか、日本国内での求人は抑制され、特に若い人たちが正規雇用につきにくくなりました。

――日本の人口減を抑えるため、海外から移民を積極的に受け入れる必要があるとの意見があります。
日本の賃金は上がらず、他の国の賃金は上がってきています。日本に来る外国人の数は減り、人材の質も変わるでしょう。日本人が生きづらさを感じているなかで、外国人の方々はいつまで働きに来てくれるでしょうか。「外国人に来てもらえば何とかなる」という楽観的なシナリオは、もう成り立たないと思います。

新手のインターネット詐欺

2023年2月12日   岡本全勝

先日、アマゾンから、次のような電子メールが届きました。
「あなたがこのような商品を購入して、××さんに送るという注文を受けましたが、心当たりはありますか。おかしいと思ったら、次のURLをクリックして取り消してください」と。××さんのか所には、具体的な住所と氏名が書かれています。

アマゾンでは本くらいしか購入しないし、そんな人は知らないので、「詐欺に利用されたのか」「取り消さなければ」と思いました。でも「おかしいよな」と考え直し、差出人のアドレスを見ると、Amazonの綴りの後ろに変な文字がついています。
「そうか、書かれているURLをクリックすると、引っかかるのか」と理解して、直ちに削除しました。
悪人は、いろんな知恵を出すものですね。困ったものです。

池上俊一著『歴史学の作法』

2023年2月9日   岡本全勝

池上俊一著『歴史学の作法』(2022年、東京大学出版会)を紹介します。
歴史とは何か、歴史学と何かを、先生の立場から考えた本です。歴史学の研究方法も書かれています。「近藤和彦訳『歴史とは何か』『歴史学の擁護』などの延長にあります。
先生の立場は明確です。社会史と心性史を中心にすることです。20世紀に西欧歴史学が、政治史からや経済史に広がり、さらに社会史などに広がってきました。先生はその路線を進めるべきだと主張されます。「歴史の見方の変化」「歴史学は面白い

私も、賛成です。社会は個人から成り立ち、その人たちの関係が作っています。すると、社会科学の基本は、個人とその人たちの関係になると思います。個人の行動に焦点を当てる心性史、人々の関係に焦点を当てる社会史が、基本になると思うのです。

先生は、『シエナ―夢見るゴシック都市』(中公新書 2001年)、『パスタでたどるイタリア史』(岩波ジュニア新書 2011年)、『お菓子でたどるフランス史』(岩波ジュニア新書 2013年)、『森と山と川でたどるドイツ史』(岩波ジュニア新書 2015年)など、一般向けのわかりやすい本も書いておられます。私も、楽しみながら読みました。