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地方行財政

三位一体改革62

日本経済新聞「経済教室」は、1日は冨永朋義さんの「歳入改革で地方に自律性」「消費税を地方に、交付税制度は抜本改革」を載せていました。前段は、地方税である法人関係税を国税とし、国税である消費税を地方税とする案です。これで地域間税収格差は、かなりなくなります。2つめの交付税については、誤解があるようです。「自治体の収支ギャップをもとに交付額が決まる。だからある首長が歳出削減を断行すると、その自治体が受け取るお金は減る」というのは、明らかに間違いです。拙著「地方財政改革論議」p134をご覧下さい。歳出削減しても交付税は減らず、その分は余裕財源となるのです。
2日は神野直彦東大教授が「分権改革の第2弾、消費税の地方割合高めよ」「国・地方税を大改革、交付税の税目も入れ替え」を書いておられました。ここでも、消費税の取り分を地方に多く渡し、法人課税は国税に逆移譲する。交付税財源である消費税を地方消費税とし、国税となった法人税を交付税財源とする案です。地域間偏在を少なくし、また実現可能性の高い考えだと思います。私も、次はこの案だと考えています。
2日の読売新聞では、青山彰久記者が「解剖三位一体改革1、対立の重層構造」を書いておられました。一つは「分権vs集権」で、官僚が抵抗している背景には、補助金廃止が日本の統治構造の基本を変える要素があるからです。三位一体改革が、これまでの「補助金共同体構造」を破壊するからです。もう一つは「分権vs財政再建」です。よく分析されたわかりやすい解説です。是非ご一読下さい。(11月3日)
4日は、新内閣になって初めての、4大臣会合が開かれました。また、生活保護の協議会では、厚労省が、負担率引き下げや一部の一般財源化を提案しました。地方団体は猛反発していると、新聞は伝えています。(11月5日)
読売新聞・青山彰久記者の「解剖三位一体改革」は、2日が「義務教育の責任分担。国と地方、建設的議論薄く」、4日は「公共施設の補助金。廃止、権力構造の変化も」でした。(11月4日)
7日の朝日新聞1面は、三位一体改革に関する全知事へのアンケート結果でした。40人は「裁量広がらず」と厳しい評価でした。「移譲額という数字が先にあって、自由度が高まっていない」というのが主な理由のようです。また「交付金は補助金と同じで、自由に使えない」との意見も紹介されていました。
日経新聞は「義務教育費国庫負担金、私の考え1」で、中教審会長の意見を載せていました。見出しに「中教審の役割、今後も重要」とありましたが、自分の組織を「今後は不要」という人がいますかねえ。中教審がどのようなものかは、この騒ぎの中でよく見えました。国民が評価するでしょう。(11月7日)
読売新聞・青山彰久記者の「解剖三位一体改革」は、5日が「中央と地方の協議」「国のかたち変える契機に」でした。私は、三位一体の意義の一番はこれだと思っています。(11月7日)
今日の新聞は、昨日各省へ割り当てが示されたことについて、解説していました。日経新聞は「補助金削減 官邸ペース」、読売新聞は「省庁の抵抗排除狙う。官邸に危機感、反発強くなお曲折も」などです。(11月9日)
今日、官房長官が各大臣に、6,000億円の補助金削減案の各省への割当額を示したとのことです。各紙には、各省ごとの割当額も載っています。合計額は6,300億円で、5%増しの金額になっています。生活保護費については、厚労省に対し「国と地方による協議が整わなかった場合は、これを除く改革案を出してもらう」とのことです(日経新聞夕刊)。(11月8日)
10日の朝日新聞では、坪井ゆづる論説委員が「三位一体改革 決着は」を解説しておられました。「しかし、ここはあえて自治体案に沿って、分権改革の突破口として義務教育を位置づけるべきではないか・・」。
その中で、西尾理弘出雲市長(元文部官僚)が述べておられます。「文部科学省は本来、教育内容や水準を政策的に誘導する『政策官庁』であるべきだ。ところが現状は、国庫負担金を配る『人件費官庁』でしかない。分権議論を機に、政策中心の官庁に脱皮してほしい。そもそも負担金制度は、昭和20年代の公立学校中心主義の産物なんですよ。すでに制度として崩壊している」。
9日朝日新聞夕刊「窓・論説委員室から」では「最後の証言」として地方教育行政法制定に力を尽くし、後に文部事務次官になられた木田宏さんの証言を紹介していました。「この50年間、文部当局は、学校のことは市町村の仕事であるという指導をしてきませんでしたね。都道府県は国の言うことを市町村に伝達するだけでした。マスコミも、何かあると文科省にだけ目を向けて、ものを言ってきました」。
お二人の文部官僚OBの発言でした。(11月10日)
10日には、生活保護に関する国と地方の協議会が開かれました。厚労省が示した「国庫負担率を2分の1に引き下げ、住宅扶助負担の廃止・一般財源化」に対し、地方側は「三位一体改革に名を借りた地方への負担転嫁」と反発しました(11日の東京新聞)。読売新聞「論点」では、高橋はるみ北海道知事が「三位一体改革、負担押し付け許されず」を主張しておられました。11日の朝日新聞では、松田京平記者が解説していました。毎日新聞は社説で「押し付け合いはやめよう」と主張していました。
(11月11日)
11日には、官邸で「国と地方の協議の場」が持たれ、また政府主催の全国知事会議が行われました。朝日新聞によると「小泉首相は11日、政府主催の全国都道府県知事会議に出席し、06年度までの3年間で国から地方へ3兆円の税源移譲などを目指す、『三位一体改革』について、『地方の意見を尊重していく。これで終わりではありません』と述べ、07年度以降も税源移譲や補助金削減などを、さらに進めるべきだとの考えを示した」 とのことです。
日経新聞によると、麻生知事会長は、官邸が各省に対し14日までに提出を求めた補助金削減案について「官房長官が数値目標を示したのにゼロ回答だったら、内閣としての体をなさない」と牽制したそうです。その通りですよね。三位一体改革(補助金廃止)が日本の政治改革=官僚主導を止め、政治主導に変えることであることがよくわかります。(11月12日)
今日の正午が、補助金廃止の各省からの回答期限でした。
NHKニュースによれば「総務省は割り当てられた10億円の補助金を削減する案を示したほか、農林水産省は340億円の割り当てに対し、109億円を、また、経済産業省は70億円の割り当てに対し、59億円を削減する案を示したうえで、いずれも、このほかに削減する補助金を早急に決定し、目標を達成するとしています。一方、全体の80%にあたる5040億円を割り当てられた厚生労働省は、焦点となっている生活保護の補助金について、「地方側と調整がついていない」として盛り込まず、109億円と回答し、環境省は50億円の割り当てに対し、2億円あまりにとどまりました。さらに、文部科学省と国土交通省は「検討中」として金額は示さず、各省の回答は、全体として目標額の6300億円以上を大きく下回りました」とのことです。
社会の趨勢が認めている分権、そして総理の指示に対する回答が、このようなことです。私は、これが官僚にとって末期症状、各大臣にとっては政治主導を問われた試験だったと思います。(11月14日)
6,300億円の補助金削減を割り当てられた7省の回答は、合計289億円、達成率は5%に満ちませんでした。満額回答は、総務省だけでした。麻生全国知事会長は、「官房長官の指示が守られないことは驚くべきことであり、遺憾きわまりない」とコメントを出しました(11月15日づけ日経新聞ほか)。普通の人なら、そう思うでしょうね。

三位一体改革61

17日は、先に官房長官が各省に、補助金改革案の数字を提出することを求めた期限です。一部の新聞では、ゼロ回答の省もあると報道されています。まあ、去年のことを思い出せば、そんなところですかね。官僚は改革ができないだけでなく、抵抗勢力ですわ。
地方案の実現度」の表をご覧下さい。今年の欄には、どんな数字が入るのでしょうか。各省の回答が何であれ、去年は2.4兆円が決まりました。今年も、総理・官房長官・総務大臣が、「残る6千億円は達成する」と明言しておられます。(10月17日)
今朝の各紙によると、各省からの回答は、各紙の予想通りゼロ回答だったそうです。「地方案の実現度」の各省回答欄に、0を書き込みました。(10月18日)
19日の読売新聞は、「三位一体改革、月末に基本方針。中教審、官邸と対立。補助金削減、施設整備費が焦点」を大きく解説していました。
もっとも、「文教族は妥協やむなし」として、「文科省内でも、国庫負担割合を2分の1から3分の1に下げたり、負担金の使途を広げたりする交付金を創設したりする案が取りざたされている」とありました。
うーん、文科省もこれを書いた記者さんも、全然わかっていませんね。あるいは、地方団体や三位一体改革をバカにしているのですかね。地方団体が一番嫌がっているのが補助率引き下げ、次が交付金化です。これでは、税源移譲にならないのですから。
なお、別表で各省の対応案が出ていました。いくつかの省で「補助金削減」の数字が出ています。昨日、私は、「各省0回答」と書きました。明日、職場で確認します。もっとも、この記事でも、6000億円の目標に対して、52億円ですがね。
囲みの中で、塩谷裕一記者が「官から政も必要」を書いていました。「小泉構造改革の2大フレーズは『官から民へ』と『国から地方へ』。前者の具体策が郵政民営化、後者が三位一体改革だ。ただ、抜け落ちている視点がある。それは『官から政へ』だ。道路公団民営化など一連の改革では、首相らが重要な政策判断を官僚に丸投げするケースも目立った。三位一体改革や公務員の総人件費削減、政府系金融機関の統合などは、官僚の既得権益に切り込む改革ばかりだ。骨抜きに終わらせないためには、政治家自身の決断が必要だ。小泉改革の真価が問われるのはこれからだ」
「官から政へ」とは、良いフレーズですね。使わせてもらいます。(10月19日)
20日に、三位一体改革の4大臣会合と、各大臣を呼び込んだ協議が行われました。東京新聞は、「省庁は譲歩姿勢見せず。ゼロ回答、手放さぬ力の源泉」として、詳しく解説していました。
朝日新聞は、社説で「国と地方、首相の力量が試される」を書いていました。「首相は『官から民へ』と唱えて、郵政民営化法を成立させた。こんどは『国から地方へ』の第一歩として、この改革を有意義な内容に仕上げる番だ。 」「3兆円の税源移譲ができれば、首相は改革は成功だと胸を張るかもしれない。しかし、単なる数字合わせでなく、自治体に権限と税源を渡すことが重要だ。来年度以降も分権改革を進める道筋をつけることも、首相の仕事である。」
各省の回答で「削減」とあったのは、縮小(スリム化)であって地方への税源移譲に結びつくのではないそうです。よって、各省回答は、やはり「0」です。(10月21日)
22日の毎日新聞社説は「三位一体改革、ゼロ回答とはどういうことか」でした。
「地方財政の三位一体改革で中核をなす補助金削減で、06年度政府予算編成に向けた関係省の対応はゼロ回答だった。地方6団体が約1兆円の削減要求を策定し、小泉純一郎首相も地方の意見を尊重することを求めていたことに対しての返答である。・・それがゼロ回答では問題にならない。補助金改革では文部科学省が義務教育国庫負担金の地方移譲に執ように反対している。これと併せて、この後ろ向きの姿勢は何なのか。」
「では、政府はいま、何をやるべきなのか。第一は、補助金削減、税源移譲をやり切ることである。これがすべての出発点なのだ。・・小泉首相が昨年来、地方団体に改革案の提示を求めてきた。そのことを考慮すれば、今回の関係省のゼロ回答は、地方支配を維持しようという露骨な行動と言わざるを得ない。」
「第二は、補助率の引き下げや交付金化などで、数字の上で3兆円を確保する姑息(こそく)な手は許されない。」「第三には、施設費も聖域ではない。」
また、24日の毎日新聞「闘論」では、「義務教育費移譲の是非」を巡って石井岡山県知事と梶田兵庫教育大学長が、紙上討論をしておられました。(10月24日)
各紙が伝えているように、25日は官邸で、政府与党の協議会が開かれ、26日には国と地方の協議の場が開かれました。皆さん、これが当たり前のように思っておられますし、「協議をしても進まない」との批判もあります。
しかし、分権について、しかも各論について、官邸で各大臣が出席し、与党幹部を巻き込み、地方団体代表が出席して議論するということは、数年前には考えられませんでした。せいぜい、陳情に行くか、全国知事会議が儀式的に開かれるだけでした。それが、地方団体代表が首相官邸で対等の立場で議論するのですから、隔世の感があります。他のテーマで、これだけ官邸で議論している会議はないでしょう。
もちろん、そう簡単には、地方団体の希望通りには進みませんが、このような場を積み重ねていくことが重要だと思います。また、たとえ中教審で主張が通らなくても、出席して議論する。そして、中教審がどんなものであるかを国民に見せる。そういったことも、効果があると思います。内政の責任者になる、そう国民から認知されるには、努力と積み重ねが必要です。(10月26日)
30日の朝日新聞は、義務教育費国庫負担金について「中教審の100時間振り返る」を解説していました。また、読売新聞社説は「中教審答申に重なる地方の声」を書いていました。(10月31日)
1日の日経新聞は「三位一体改革-私の意見」(上)で、北城経済同友会代表幹事の「国との決別を」を載せていました。2日の日本経済新聞「三位一体改革-私の意見」(中)は、増田寛也岩手県知事の「地方の創意後押し、補助金は削減、内閣の優先課題」、3日(下)は、沼尾波子日大助教授の「住民の利点、説明を」「長期的視点で交付税考えよ」でした。

三位一体改革60

(簡単な三位一体の経緯と金額)
地方財政改革の経緯」の年表が、追加しているうちに大きくなって見にくくなりました。そこで、簡単にした「三位一体改革の経緯(簡略版)」を作りました。また、金額を簡単に整理した図表「三位一体改革金額イメージ」も作りました。「位一体改革の目標と実績」や「地方案の実現度」とともにご利用下さい。ただし、数字は丸めてあったりして正確でないこと(見やすさを優先したこと)をご了解下さい。(10月8日)
先日作成した「三位一体改革の経緯(簡略版)」「三位一体改革金額イメージ」は、森山正之係長の協力を得ました。遅くなりましたが、お礼を申し上げます。(10月12日)
(地方団体も自らに厳しく)
12日の読売新聞「論点」に、木村良樹和歌山県知事が「地方分権改革、自治体は質、効率競え」を書いておられました。「小泉政権の重要課題である三位一体改革が、ヤマ場を迎える。地方が政府に出した案に沿って改革が進むよう、郵政民営化と同様に首相の強い指導力を期待したい。同時に、政府に対して分権を主張する以上、我々にも自らを厳しく律して住民に信頼される地方政府になる責務がある。これに努力することが、分権改革の推進力になると思う」
12日の日経新聞夕刊は、「義務教育費国庫負担金。首相、削減を明言。文科相に検討を指示」を伝えていました。「首相は官邸で中山成彬文科省と会談し・・・『政府の方針を踏まえて検討してほしい』と述べ、税源移譲を念頭に検討するよう指示した」「首相は記者団に『8500億円を移譲すべきか』聞かれ、『そうですね。規定方針ですからね』と強調した」
(首相の責任)
また同紙は、「ニュースの理由」で、中西晴史編集委員が「三位一体数値目標達成に現実味」を解説しておられました。「昨年末の調整最終局面で小泉首相は『私の出番はないように』と”ドタ逃げ”した実績もある。選挙に圧勝し、郵政民営化法案成立のメドがついたことから、首相は年末の予算編成の焦点でもある三位一体改革に力を入れる」「来年度予算案で仮に目標数字を達成したとしても依然として補助金の大半は国に残る、2期改革への道筋を小泉政権の間につけられるかどうかも課題だ」
あわせて「地方の収支尻」を図表にしておられました。地方から見てプラスは、税源移譲予定の2.4兆円(予定3兆円)、マイナスは、補助金削減の3.6兆円(予定4.2兆円)と交付税等の削減2.9兆円です。(10月12日)
(審議会行政の終焉)
12日の中教審の特別部会答申案について、各紙が大きく報道していました。読売新聞は「中教審答申素案、首相と対決姿勢」。朝日新聞は「義務教育費せめぎ合い。地方自由裁量を。文科省格差を懸念」「首相の視線は未定の6000億円に」。毎日新聞は「三位一体改革。官邸、短期決着目指す」「最終攻防へ、族議員勢いなく」。日経新聞は「首相あくまで地方移管」「審議会行政曲がり角に」です。
各紙とも大きく伝えていますが、重点が異なります。読売新聞は、審議会と首相を対等に位置づけた記事でしょうか。日経新聞は、審議会行政が政治主導の前に終わろうとしていることを述べています。読売新聞は過去の日本政治の枠組みにたった記事、日経は日本の政治構造や政治過程が変わることを分析した記事、と私は思います。小泉政治を鋭く分析している読売新聞、政治主導を唱える読売新聞にしては、首尾一貫しない残念な記事ですね。
このほか、一番わかりやすかったのは、毎日新聞社説「中教審答申案、首相判断が一段と重くなった」です。詳しくは原文を読んでいただくとして、一部を紹介します。
「・・・毎日新聞は地方側の削減案について数合わせの色彩が強いことは認めながらも、発展途上時代を引きずり、中央統制が今も強い日本の教育行政を変える転機になると再三指摘してきた。その点で、素案の内容には「結局、国の権限の低下を恐れているだけではないか」と失望せざるを得ない・・・。
昨年11月の時点で、この問題は決着をつけておくべきだったのだ。むしろ、中教審は政府・与党内の対立を回避するための道具にされた感がある・・・。
今回の審議が「カネ」の話に焦点が当たり、「義務教育はどうあるべきか」という本来のテーマがかすんでしまっているのも残念なことだった。
 問題は今後だろう。中教審は文科相の諮問機関に過ぎない。三位一体改革の原点に立ち返り、内閣と地方側との協議の場で決するのは当然だ。そして「教育の地方分権」の趣旨を貫くため、いずれ小学校分も移譲を進めるべきだ。大事なのは原則である。対立する双方の顔を立て、国の負担率を切り下げてお茶を濁すという見方も依然ささやかれる。そんな妥協方式だけはとらない方がいい。」
また、12日夜には、「国と地方の協議の場」が久しぶりに開かれました。(10月13日)
(公共事業の税源移譲、理想と現実戦略)
14日の日経新聞社説は、「原点を忘れた三位一体改革」でした。
「改革の狙いは使い道を縛る補助負担金を縮小し、地方の財政の自由度を高めることにある。補助負担金はその趣旨に沿うものから順に廃止すればいい。最悪なのは裁量の余地の少ないものを優先し、廃止ではなく、補助負担率引き下げで済ませることだ。配分作業は変わらないから、霞が関のスリム化にもならない。
実際には最悪のシナリオ通りに進んでいる。昨年11月の政府・与党合意で、地方側の提案にない国民健康保険負担金の負担率引き下げを加えてから本来の軌道を外れ始めた。」
「改革が狙い通りに進まないのは、税源移譲すれば最も地方の自由度が高まるとみられる公共事業や施設整備関係の補助負担金を対象から外したのが大きい。建設国債を原資としているから税源移譲の対象にできないという理由だが、公共事業などを聖域にしたら改革は成り立たない」
その通りです。公共事業や施設整備を、税源移譲の対象とすべきです。これらのいくつかは国債が財源ですが、道路整備については特定財源ですから、「国債が財源なので税源移譲できない」という主張は成り立たないはずです。関係者は明確にはしませんが。もちろん、国債が財源であっても、それは仮の財源(つなぎ)であって、その償還財源(最終財源)は国税ですから、これも税源移譲対象になります。
もう一つの指摘については、私は、結果として「数字あわせ」的な面があっても、仕方がないと思っています。もちろん、生活保護費の負担率を下げるなどはもってのほかで、許されることではありません。
なんだかんだと理屈をつけては改革を先送りしてきたのが、日本の近年の政治です。完璧な理想を求めることは良いことです。しかし、政治の世界で、それは無い物ねだりでしょう。多くの場合、「不完全だ」とか「今と変わらない」という主張は、守旧派の隠れ蓑です。「官僚とはできない理屈を考える動物である」は、確か曾野綾子さんの名言でした。
少々不完全であっても、まずは第一歩を進めること。これが今の日本の政治に必要なのです。もちろん、大幅に骨抜きになって、当初の目的を達しないのは論外ですが。
14日の読売新聞解説欄では、青山彰久記者が「ヤマ場の三位一体改革」を書いておられました。国と地方の協議の場が、日本の政治過程に持つ意味を取り上げています。
「瞬間的に設置が決まった協議の場だが、持っている意味は重い。内政の政策立案に地方が参加することには、今も政府部内や与党内で抵抗がある。特に補助金の存廃の判断は従来、予算査定した財務省の権限で、それを頭越しにする手法は異例だった。だが、政権が分権改革を掲げた以上、教育やまちづくりなど生活に密着した政策に、現場に責任がある地方が加わるのは必然的な流れといえる。むしろ地方は責任ある立場で国と対等に協議する必要がある」(10月14日)

三位一体改革59

26日の日経新聞「経済教室・新政権に求める3」は、西尾勝元東大教授の「三位一体こそ改革の本丸」「首相が指導力を、公共事業の補助金削減も」でした。
「来年度予算の編成過程のなかで最も重要な懸案事項は『三位一体の改革』の着実な前進である」「この三位一体の改革の方が郵政民営化以上に直接的に中央省庁官僚機構の既得権益に鋭く切り込む構造改革であり、その波及効果も郵政民営化よりもはるかに広く、国・地方を通ずる行財政構造の全般に及ぶ改革である。本来はこちらの方こそ『改革の本丸』と位置づけられてしかるべきものであった」
「三位一体の改革を曲がりなりにもここまで進めてきたのは、第2次小泉内閣の功績であった・・・しかし、昨年の地方6団体の提案から政府与党合意に至るまでの混乱と迷走の過程では、遺憾ながら小泉首相の積極的な介入は見られなかった・・」
「三位一体の改革の具体案は、国の責任において改革案を策定すべきものである。そしてそれは、首相の強力なリーダーシップの発揮によって、財務省をはじめ関係省庁の官僚機構とこれを取り巻く族議員集団を承伏させなければ、実現困難な構造改革である。その反面、これを成功裏に成し遂げさえすれば、それは国・地方を通ずる歳出削減に最も有効な方策となりうる。小泉首相はその任期いっぱい、この構造改革に全力を傾けてほしい。」
ぜひ全文をお読み下さい。(9月26日)
26日に小泉総理は、衆参両院で所信表明演説をされました。その大半は郵政民営化で占められていましたが、その次は三位一体改革でした。「『地方にできることは地方に』という方針の下、4兆円程度の補助金改革、3兆円規模を目指した税源移譲、地方交付税の見直しの三位一体の改革について、地方の意見を真摯に受け止め、来年度までに確実に実現いたします」。郵政民営化の次は、いよいよ三位一体改革(その1)の仕上げです。(9月26日)
27日、小泉総理は官邸に文部科学事務次官を呼んで、義務教育費国庫負担金について「地方にできることは地方に、地方の意見を尊重してやるから、しっかりやってくれ」と指示されたそうです。「地方案に沿ってやってくれという趣旨か」との問いには、「そうですね」と答えられたとのことです(28日付朝日新聞、日経新聞)。(9月28日)
4日の日本経済新聞は、「義務教育国庫負担金8500億円。首相、全額地方移管狙う」を大きく解説していました。読売新聞は、「中教審、国庫負担制を堅持。8500億円の削減、焦点に」と「調整は首相ペース。文科省は強権警戒」を2面に分けて書いていました。
いよいよ、決着をつける時期が来ましたかね。いつも書いているように、これは単なるお金の取り合いでなく、内閣のリーダーシップが各省・官僚の抵抗を乗り越えられるか、地方の意見が中央政治を動かせるか、中央集権を地方分権に転換できるか、これまでの日本型政治を改革できるかなど、日本の政治の焦点・試金石なのです。
また、夕刻には経済財政諮問会議が開かれ、社会保障制度改革と三位一体の改革が議論されました。
共同通信社によると、「小泉純一郎首相は4日夜、国・地方財政の三位一体改革で焦点になっている義務教育費国庫負担金の削減問題について『地方の意見を尊重しなければならない』と述べ、削減を求める全国知事会など地方6団体の意向に沿って2006年度予算編成を進める方針をあらためて示した」とのことです。(10月4日)
4日の経済財政諮問会議で、三位一体改革が動き出しました。竹中大臣の記者会見によれば、次の通りです。
「地方六団体の代表の方々においでいただきまして、真の地方分権のための三位一体の改革の実現に向けて、ということで、地方六団体からの御要望といいますか、お話をお伺いいたしました。地方からは、幾つかの項目が紙に出ておりますけれども、3兆円の税源移譲を確実に実施してほしい、補助金の削減等についてしっかりと地方の改革案の中から実現してほしい、建設国債対象経費である施設費についても、しっかりとそれを実現してほしい等の御要望が出されました。最後に総理は、この三位一体の改革は、地方の意見を尊重して行う、というような御挨拶をされました」
5日の朝日新聞は、「三位一体も首相ペース?補助金削減『地方案を尊重』」「族議員後退、力学に変化。中央省庁なお抵抗」という見出しで、大きく解説していました。図では、義務教育について首相対文科大臣、公共事業について岩手県知事対財務大臣、生活保護について横浜市長対厚労大臣を対立の構図として載せていました。毎日新聞も、2面に分けて解説していました。
諮問会議で地方団体代表が意見を述べるとか、首長が大臣と対立の構図で取り上げられるとか、少し前までは考えられなかったことです。それが今や普通のことになりました。政治が、確実に変わってきています。
もっとも、対立の構図のなかで、「首相対文科大臣」は事実としても、変ですよね。文科大臣の任命権者は首相ですから。(10月5日)
7日の閣僚懇談会で、官房長官が三位一体改革を進めるために、「関係各大臣には、改革案の検討を進め、その結果を10月17日までに提出していただきたい」と発言されました。
昨年と同様、三位一体秋の陣が、キックオフです。でも、昨年は、期待したほど各省からは良い回答が出なかったのですよね。(10月7日)

三位一体改革58

9月2日の読売新聞「点検公約」第5回目は、地方分権でした。「問題は2つある。一つは、バランスが取れた『三位一体』の改革を実現できるかという点だ。・・もう一つの問題は、07年度以降も改革を継続できるのかということだ」(9月3日)
読売新聞社説は「三位一体改革、国地方の役割を問い直せ」を、毎日新聞「知っておきたい政策論争Q&A」では堀井恵里子記者が「三位一体改革」を解説していました。いずれの解説も、「各党は地方分権の意義を説くが、具体的な道筋は示していない」というものです。(9月7日)
8日の東京新聞は、「義務教育費国庫負担金8500億円どちらに、議論不足の二重計上」を大きく取り上げていました。朝日新聞社説は「公務員削減、分権なしには進まない」、読売新聞社説は「指定管理者制度、地域の活性化に生かせるか」を取り上げていました。(9月8日)
9日の読売新聞は、「改革を問う、05衆院選」「データで読む争点10」で、安江邦彦記者が税源移譲を図表入りで解説していました。また、「決戦、05衆院選」で、青山彰久記者が「進まぬ地方分権改革、国との分担乏しい論戦」を書いておられました。
「地方は長い間、『地域づくりとは、国の事業と補助金を導入すること』と考えて事業を乱発した結果、財政規律を失った。膨大な借金と利用率の低い施設が残り、次の世代に負担させる構造を招いた。この体質に終止符を打ち、人口減少時代でも人々が支え合って持続できる地域にするには、まず、無駄を洗い直し、地方に自立の志が必要になる。そして、責任をもって限られた税金を住民から集め、地域の現実に合わせて効率的に使えるよう、行政と財政を分権することが不可欠になる」
「分権改革は、国と地方の責任を決め、国の『統治構造』を転換する意味があり、衆院議員の重要な仕事だ。政党と候補者は分権改革の考え方を最後まで語ってほしい」
「論点」では、谷沢叙彦英国大使館一等書記官が「学校教育改革、英に学ぶ現場重視の発想」を書いていました。「英国では、来年度から始まる教育予算制度によって、自治体は学校に3年間、生徒数を基本に国が計算した通りの金額を交付しなければならない。国が自治体から教育査定権を剥奪するようなものである。・・・だが、大半の関係者が、この改革を中央集権化ではなく更なる分権化と捉えている」
「英国の校長は、企業経営者のような存在だ。中等学校の場合、予算は年間総額350万ポンド(約7億円)程度だが、現場の校長は、どの給与水準の教員や補助スタッフを何人雇うかを含めて、学校に交付される予算の使途を自由に決定できる。そもそも『教員給与費』という区分をして国が関与するような発想自体がない。つまり、学校現場に自由があることが、今回の改革の大前提になっている訳だ・・・」
興味深い比較です。ご一読ください。(9月9日)
総選挙を受けて地方6団体が、以下のような要旨の「地方分権改革の推進を求める共同声明」を出しました。
「今回の衆議院議員総選挙において、自由民主党、公明党の連立与党が圧勝した。このことは、小泉内閣が推進してきた『官から民へ』、『国から地方へ』の構造改革に対する国民の強い支持が表明されたものと考える。地方分権改革は『国から地方へ』の改革の最大の柱であり、待ったなしの改革である。
とりわけ『三位一体改革』については、自由民主党と公明党の連立与党重点政策で『残り6千億円の税源移譲を18年度までに確実に実現するとともに、19年度以降も地方の意見を尊重しつつ一般財源を確保のうえ、地方分権を推進する』とし、全力で取り組むとの決意が示されている。
今後、新たな政権においては、小泉内閣総理大臣の強いリーダーシップの下、我々地方6団体が政府の要請に真摯に応え二度にわたり提出した地方の改革案に基づき、3兆円の税源移譲、義務教育費国庫負担金を含め国庫補助負担金の地方案に沿った改革などを実現されることを強く求めるものである。」
至極もっともなことです。昨日の開票速報中、総理は郵政民営化以降の政治課題を問われ、三位一体改革を挙げておられました。(9月12日)
総選挙の結果をふまえ、各紙が今後の政治課題などを議論しています。例えば13日の日本経済新聞は、総理の12日の記者会見を次のように紹介していました。
「『郵政民営化が実現したら後の政策はないんじゃないか?とんでもない』首相は記者会見で強調した。年金、医療などの社会保障制度改革、国と地方の税財政改革(三位一体改革)、公務員制度改革、財政再建などを列挙し『今後も改革を進めていく』と宣言した」
そして、義務教育費の地方移管、医療費の伸び抑制、公務員給与・定員見直しの3つを別枠で解説していました。
この秋の、郵政民営化の次の課題は三位一体改革であることは、共通認識になっているようです。総理の改革にかける意気込み、そしてそれを期待して投票した国民の意思が実現することを期待しましょう。もっとも、この課題は抵抗が大きく、期待するだけでは進まないので、声高に叫び行動する必要があります。(9月13日)
21日に第3次小泉内閣が発足し、総理が記者会見されました。その中でポスト郵政の政策課題で、第一に三位一体改革と公務員人件費改革を取り上げ、「抵抗、反対が強いが、方針通り進める」と強調されました(22日付け日経新聞、朝日新聞など)。心強い限りです。それでも、各省は補助金廃止に抵抗するのでしょうか。(9月22日)