三位一体改革62

日本経済新聞「経済教室」は、1日は冨永朋義さんの「歳入改革で地方に自律性」「消費税を地方に、交付税制度は抜本改革」を載せていました。前段は、地方税である法人関係税を国税とし、国税である消費税を地方税とする案です。これで地域間税収格差は、かなりなくなります。2つめの交付税については、誤解があるようです。「自治体の収支ギャップをもとに交付額が決まる。だからある首長が歳出削減を断行すると、その自治体が受け取るお金は減る」というのは、明らかに間違いです。拙著「地方財政改革論議」p134をご覧下さい。歳出削減しても交付税は減らず、その分は余裕財源となるのです。
2日は神野直彦東大教授が「分権改革の第2弾、消費税の地方割合高めよ」「国・地方税を大改革、交付税の税目も入れ替え」を書いておられました。ここでも、消費税の取り分を地方に多く渡し、法人課税は国税に逆移譲する。交付税財源である消費税を地方消費税とし、国税となった法人税を交付税財源とする案です。地域間偏在を少なくし、また実現可能性の高い考えだと思います。私も、次はこの案だと考えています。
2日の読売新聞では、青山彰久記者が「解剖三位一体改革1、対立の重層構造」を書いておられました。一つは「分権vs集権」で、官僚が抵抗している背景には、補助金廃止が日本の統治構造の基本を変える要素があるからです。三位一体改革が、これまでの「補助金共同体構造」を破壊するからです。もう一つは「分権vs財政再建」です。よく分析されたわかりやすい解説です。是非ご一読下さい。(11月3日)
4日は、新内閣になって初めての、4大臣会合が開かれました。また、生活保護の協議会では、厚労省が、負担率引き下げや一部の一般財源化を提案しました。地方団体は猛反発していると、新聞は伝えています。(11月5日)
読売新聞・青山彰久記者の「解剖三位一体改革」は、2日が「義務教育の責任分担。国と地方、建設的議論薄く」、4日は「公共施設の補助金。廃止、権力構造の変化も」でした。(11月4日)
7日の朝日新聞1面は、三位一体改革に関する全知事へのアンケート結果でした。40人は「裁量広がらず」と厳しい評価でした。「移譲額という数字が先にあって、自由度が高まっていない」というのが主な理由のようです。また「交付金は補助金と同じで、自由に使えない」との意見も紹介されていました。
日経新聞は「義務教育費国庫負担金、私の考え1」で、中教審会長の意見を載せていました。見出しに「中教審の役割、今後も重要」とありましたが、自分の組織を「今後は不要」という人がいますかねえ。中教審がどのようなものかは、この騒ぎの中でよく見えました。国民が評価するでしょう。(11月7日)
読売新聞・青山彰久記者の「解剖三位一体改革」は、5日が「中央と地方の協議」「国のかたち変える契機に」でした。私は、三位一体の意義の一番はこれだと思っています。(11月7日)
今日の新聞は、昨日各省へ割り当てが示されたことについて、解説していました。日経新聞は「補助金削減 官邸ペース」、読売新聞は「省庁の抵抗排除狙う。官邸に危機感、反発強くなお曲折も」などです。(11月9日)
今日、官房長官が各大臣に、6,000億円の補助金削減案の各省への割当額を示したとのことです。各紙には、各省ごとの割当額も載っています。合計額は6,300億円で、5%増しの金額になっています。生活保護費については、厚労省に対し「国と地方による協議が整わなかった場合は、これを除く改革案を出してもらう」とのことです(日経新聞夕刊)。(11月8日)
10日の朝日新聞では、坪井ゆづる論説委員が「三位一体改革 決着は」を解説しておられました。「しかし、ここはあえて自治体案に沿って、分権改革の突破口として義務教育を位置づけるべきではないか・・」。
その中で、西尾理弘出雲市長(元文部官僚)が述べておられます。「文部科学省は本来、教育内容や水準を政策的に誘導する『政策官庁』であるべきだ。ところが現状は、国庫負担金を配る『人件費官庁』でしかない。分権議論を機に、政策中心の官庁に脱皮してほしい。そもそも負担金制度は、昭和20年代の公立学校中心主義の産物なんですよ。すでに制度として崩壊している」。
9日朝日新聞夕刊「窓・論説委員室から」では「最後の証言」として地方教育行政法制定に力を尽くし、後に文部事務次官になられた木田宏さんの証言を紹介していました。「この50年間、文部当局は、学校のことは市町村の仕事であるという指導をしてきませんでしたね。都道府県は国の言うことを市町村に伝達するだけでした。マスコミも、何かあると文科省にだけ目を向けて、ものを言ってきました」。
お二人の文部官僚OBの発言でした。(11月10日)
10日には、生活保護に関する国と地方の協議会が開かれました。厚労省が示した「国庫負担率を2分の1に引き下げ、住宅扶助負担の廃止・一般財源化」に対し、地方側は「三位一体改革に名を借りた地方への負担転嫁」と反発しました(11日の東京新聞)。読売新聞「論点」では、高橋はるみ北海道知事が「三位一体改革、負担押し付け許されず」を主張しておられました。11日の朝日新聞では、松田京平記者が解説していました。毎日新聞は社説で「押し付け合いはやめよう」と主張していました。
(11月11日)
11日には、官邸で「国と地方の協議の場」が持たれ、また政府主催の全国知事会議が行われました。朝日新聞によると「小泉首相は11日、政府主催の全国都道府県知事会議に出席し、06年度までの3年間で国から地方へ3兆円の税源移譲などを目指す、『三位一体改革』について、『地方の意見を尊重していく。これで終わりではありません』と述べ、07年度以降も税源移譲や補助金削減などを、さらに進めるべきだとの考えを示した」 とのことです。
日経新聞によると、麻生知事会長は、官邸が各省に対し14日までに提出を求めた補助金削減案について「官房長官が数値目標を示したのにゼロ回答だったら、内閣としての体をなさない」と牽制したそうです。その通りですよね。三位一体改革(補助金廃止)が日本の政治改革=官僚主導を止め、政治主導に変えることであることがよくわかります。(11月12日)
今日の正午が、補助金廃止の各省からの回答期限でした。
NHKニュースによれば「総務省は割り当てられた10億円の補助金を削減する案を示したほか、農林水産省は340億円の割り当てに対し、109億円を、また、経済産業省は70億円の割り当てに対し、59億円を削減する案を示したうえで、いずれも、このほかに削減する補助金を早急に決定し、目標を達成するとしています。一方、全体の80%にあたる5040億円を割り当てられた厚生労働省は、焦点となっている生活保護の補助金について、「地方側と調整がついていない」として盛り込まず、109億円と回答し、環境省は50億円の割り当てに対し、2億円あまりにとどまりました。さらに、文部科学省と国土交通省は「検討中」として金額は示さず、各省の回答は、全体として目標額の6300億円以上を大きく下回りました」とのことです。
社会の趨勢が認めている分権、そして総理の指示に対する回答が、このようなことです。私は、これが官僚にとって末期症状、各大臣にとっては政治主導を問われた試験だったと思います。(11月14日)
6,300億円の補助金削減を割り当てられた7省の回答は、合計289億円、達成率は5%に満ちませんでした。満額回答は、総務省だけでした。麻生全国知事会長は、「官房長官の指示が守られないことは驚くべきことであり、遺憾きわまりない」とコメントを出しました(11月15日づけ日経新聞ほか)。普通の人なら、そう思うでしょうね。