カテゴリー別アーカイブ: 地方行財政

地方行財政

三位一体改革の基本解説3

2 国庫補助金廃止で、地方団体はどうなりますか
(1)自由になる
いちいち国にお伺いを立てる必要もなく、国の基準に縛られることもなく、自分たちで自由に事業ができます。
①どんな仕事をするか=福祉か公共事業かを選べる
②どのようにやるか=道路の幅を選べる
③どこをするか=道路ならどこの箇所を優先するか
(2)責任が増える
その代わり、地方団体には責任が生じます。
まず、自分で考えなければなりません。そして、どこに何をどれだけ使うかを選べるということは、それに対して責任を持たなければならないということです。「国の基準で・・」とか「補助金がないので・・」といった言い訳はできません。
(3)満足度が上がる
国の押しつけでない、自分で選べます。そこに、満足度が上がります。
(4)地域で差が生じる
地方団体の自由が増える、選択ができるということは、地域間で差が生じるということです。それは、より住みやすいまちづくりの競争が始まるという良い面と、取り残される町・失敗する町が出てくるという面の両方があります。
それが「自治」です。「画一」の反対は「個性」であり、「格差」です。
3 政治的位置付け
(1)地方分権
補助金廃止・地方への税源移譲は、単に国から地方へお金を移す=各省と地方団体のお金の取り合いではありません。日本の政治と行政の構造を変える、日本社会のあり方を変えようとするものです。
国庫補助金は、官僚が地方団体にいうことを聞かせる「手段」です。中央集権の手法なのです。それをやめようとしているのです。
日本の地方分権は、次の3つの段階を経て進みます。
①国と地方団体の関係を上下から、対等にする。これは2000年の第一次分権改革で達成しました。
②財源の分権=国庫補助金を廃止
③規制の分権=国による地方団体に対するコントロールを縮小
今取り組んでいる国庫補助金廃止は、この第2段階なのです。
(2)たとえ話
国庫補助事業を「給食」と、補助金をもらわない単独事業を「レストラン」と考えてください。貧しい時代には、給食は、みんなに栄養のある食事を提供しました。効率的でした。しかし、食生活が豊かになると、給食をいやがる子供が出てきます。「私は肉が嫌だ」「僕はこんなに食べられないよ」と。また「もっと美味しいのを出して」と、要求は上がります。
レストランだと、メニューの中から自分で選びます。満足度が上がります。もし選んだ料理がまずくっても、自分で選んだんですから、不満は出せません。
(3)住民生活はどう変わりますか。三位一体改革の効果が、わかりにくいのですが。
直ちには、変わりません。住民税が上がったりとか、教育が変わったりとかは、しません。分権は、地方自治体と各省の仕事のやり方を、変えようとするものです。
分権が進んだときに、頑張る自治体は、より安い税金でよりよいサービスをするでしょう。出来の悪い自治体は、高い税金で粗悪なサービスを提供するでしょう。それを監視する、しっかりした市長を選ぶのが、市民の務めです。
(4)日本の政治を変える
三位一体改革は(1)に書いたように、分権改革=行政改革ですが、それを超えて日本の政治改革なのです。

三位一体改革の基本解説2

【第2部:国庫補助金の廃止】
1 国庫補助負担金をなぜ廃止するの
(国庫補助金とは)
国庫補助金は、地方団体が仕事する際に、国(各省)が援助してくれるお金です。例えば、公立小学校の先生の給与の約半分は、文部科学省が県に支援してくれます。公立小学校の先生の給料は、県が払っているので、県は残りを自分の税金で賄います。県や市町村が、道路を作るとき、介護保健サービスをする時もです。大抵は、費用の半分を国が出してくれます。
このうち、法律で「国が負担する」と書いてあるのが国庫負担金です。国庫負担金は、国にも責任があるので「割り勘にします」というものです。一方、国庫補助金(狭義)は、国が地方団体への「呼び水」として出すものです。たいてい、二つまとめて「国庫補助金」と呼びます。
国が補助金を出さない事業もたくさんあります。公立高校の費用、多くの道路建設事業、国の基準を超えて小学校の先生を雇う場合、役場の事務費などです。国庫補助金をもらう事業を「補助事業」と、もらわずに行う事業を「単独事業」と言います。
(効果)
国庫補助金があったので、日本中に40人学級の義務教育が行き渡りました。介護保険もでき、道路も立派になりました。明治維新以来140年、戦後半世紀で、世界トップ水準の行政サービスを、全国同じ水準で整備できたのも、国庫補助金のおかげです。
国庫補助金制度の利点は、次のようなものです。
①地方団体は、お金が半分あればできる。
②日本中に、国が考えている同じサービスを行き渡らせることができる。
③地方団体は、何をどうつくるか悩まなくても良い。
(弊害)
しかし、「全国で同じものを」という目標をほぼ達成したことで、国庫補助制度の弊害がでてきました。それは、上に書いた利点の裏返しです。
①無駄な事業も行われる。
例えば、ある村が道路を作ろうとします。交通量も多くないので細い道路なら、6千万円でできるとしましょう。しかし、国庫補助事業なら、幅の広い道路が1億円でできるとします。普通なら、6千万円の道路を作るでしょう。でも、補助事業の方は、自前の負担は5千万円で済みます。「じゃあ、立派な道路を作った方が得だ」となってしまいます。
②同じサービスということは、「画一的」ということです。
上に述べたように、その町にあった仕事ができないのです。学校でも、難しいクラスは先生を増やすといったことも、できません。
③地方は自立しない。
国の言うことを聞いていると、地方は自分で考えません。何かあると、「国に頼んでみましょう」、「補助金がつかないので、できません」となります。
④時間と金のムダ。
国庫補助事業は、一つ一つ国(各省)に、お伺いを立て、許可を得て、仕事をします。また終了後は、国の検査があります。そのために、補助金を申請する地方団体も、許可をする省も、膨大な人と手間をかけています。
⑤国にはもっと重要な仕事がある。
国の各省には、もっと他に、しなければならない仕事があります。国際社会でどう付き合いをするのか、どのように貢献をするのか。学力の低下をどうするか、年金は破綻しないかとか。国のあり方を考えなければなりません。××村の道路や、○○町の教員の配置は、県や市町村に任せればいいのです。
(解決策)
国庫補助金を廃止して、それに見合うだけのお金を地方団体に渡して、自由にやってもらえばいいのです。すると、地方団体は住民の意見を聞いて、必要だと思うところにお金を使うでしょう。立派な道路を作る代わりに、細い道路で辛抱する。またそのお金を、教育に使うとか。

三位一体改革の基本解説

これは、平成14年から18年までに行われた、「三位一体改革」の解説のページです。詳しい経緯は、進む三位一体改革ーその評価と課題」「続・進む三位一体改革」として、論文にまとめてあります。
三位一体改革までの地方財政改革(平成14年春以前)については、拙著
「地方財政改革論議」をご覧ください。
また、「三位一体改革についての座談会」神野直彦東大教授や柏木孝大阪市財政局長らとの座談会(月刊『
地方財務』(ぎょうせい)2003年7・8月合併号や、「第11回地方財政学会の基調講演と概要」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2003年9月号もあります。 

三位一体改革の経緯(簡略版)
地方財政改革の経緯
三位一体改革の目標と実績
地方案の実現度
三位一体改革(補助金改革・税源移譲)金額内訳
三位一体改革・交付税改革1 三位一体改革って何(概要)
①国庫補助負担金の廃止削減(→詳しくは基本解説2
②国から地方への税源移譲(→詳しくは基本解説4
③地方交付税の見直し(主に総額削減)
の3つの改革を一緒に行うことから、「三位一体の改革」と呼ばれています。
平成14年6月「骨太の方針2002」でこの方針が決められ、名前が付けられました(キリスト教の教義とは、関係ありません。念のため)。

2 何のためにやるの(目的)
2つの目的があります。
1つは、「地方分権」のためです。①と②がこれに当たります。
もう1つは、「財政再建」のためです。③がこれに当たります。
この2つは、まったく違う目的です(①と②はセットですが)。
それを政治的に、「三位一体改革」と名付けたのです。目的の違う2つを一緒にやろうとしているので、わかりにくいです。

3 なぜ一緒にやるの(意図)
3つの改革がそれぞれに難しく、進みにくいので、「この際一緒にやってしまおう」という、政治的意図からです。
①は、各省とそれを応援する国会議員が反対します。また、財務省も積極的ではありません。権限が縮小する、仕事がなくなる(失業する)からです。
②は、財務省が反対します。国税が減るのですから。
③は、地方団体が反対します。総務省も、「理屈のない削減」には反対です。
それぞれ反対が強く、「三すくみ」と言う人もいます。そこで、一緒にやることで「三方一両損」を狙っている、ともいえます。

4 どうしてなかなか進まないの(困難さ)
3に書いたように、それぞれに(特に①②に)抵抗が強いからです。国庫補助金は、官僚の重要な権力の源泉、中央集権の手段であるといわれています。また、補助金がなくなると、多くの官僚が「失業」します。関係する国会議員も、「口利き」「補助金の地元への誘導」がなくなり、「寂しくなる」といわれています。
補助金を廃止し中央集権をやめることは、これまでの「日本の政治構造」を転換することなのです。
そして、官僚と国会議員は、現在の日本の「政治決定権」を握っています。その人たちにこのような改革を求めることが、無理な話ともいえます。「補助金廃止・税源移譲」は、本来、政権交代がなければできないほどのことなのです。

5 なぜ少しずつ進んでいるの(進展している理由)
(1)時代の要請
1つには、時代の要請があります。中央集権システムは、日本が発展途上にあるときには、効率的でした。しかし先進国になり、社会が成熟したときには、相応しくないシステムです。国民の多くが、地方分権が必要であると考えています。マスコミや論壇の主張も、分権を後押ししてくれます。

(2)小泉内閣
小泉総理は、「自民党をぶっこわせ」をスローガンにしておられます。そして、三位一体改革は、内閣の重要テーマになりました。16年秋に、これがもっとも大きな政治争点になり、連日新聞をにぎわしたことは、みなさん覚えておられるでしょう。
また、総理と麻生総務大臣が、補助金配分に深く関与した政治家なら、補助金廃止には手をつけられなかったと思います。さらに、麻生大臣という実力者が、担当大臣であることも大きいでしょう。

(3)仕掛けと場
しかし、総理のかけ声だけでは改革は、進みません。官僚がサボタージュするからです。進めるためには、それなりの「仕掛け」が必要です。
①諮問会議
まず、経済財政諮問会議という「場」が、重要です。ここが、改革の司令塔になります。そしてこの会議は、会議概要が公表されます。政治家は責任ある発言をしなければなりませんし、うやむやにすることもできません。
②目標の閣議決定
次に、三位一体改革は、「目標を決めること」によって、進んでいます。それも、「尺取り虫」のようにして、進んでいます。
方針を決めたのが、平成14年6月「骨太の方針2002」です。しかし、それではほとんど進まなかったので、翌年「骨太の方針2003」では、補助金廃止目標金額4兆円と期間(平成18年度まで)を決めました。
それでも16年度予算では、総理の指示がないと、1兆円の補助金改革も困難でした。そして、税源移譲は4千億円だけでした。そこで、「骨太の方針2004」では、税源移譲目標金額3兆円を決めました。
③地方団体に案を作ってもらう
さらに、ここでの重要な仕掛けは、「地方団体に補助金廃止案を考えてもらうこと」でした。
こうして、1つ仕掛けをしては少し進み、そして進まないことが見え、また次の仕掛けをして・・、と進めてきたのです

関連するページ
年表は「地方財政改革の経緯」「三位一体改革の経緯(簡略版)
目標と達成の表は「三位一体改革の目標と実績
これまでの動きと評価は「進む三位一体改革ーその評価と課題
地方団体の主張などは三位一体改革推進ネット
新聞記事などはヤフーニュース三位一体改革財政学のアンテナを利用ください。

地方行財政刊行物案内

【注意】かなり古くなっています。その後に廃刊になったり体裁が変わったものもあります。
地方行財政に関しては、数多くの雑誌などが刊行されています。関係者以外には、案外知られていないようです。また、どこにどのような雑誌があるかの、案内もないようです。このページに載せたいと考えています。(アイウエオ順・未完成)
1 地方行政

 

誌名 編集・刊行等 発行頻度
ガバナンス ぎょうせい 毎月一回1日発行
市政 全国市長会 毎月一回1日発行
自治研究 第一法規 毎月一回10日発行
自治総研 地方自治総合研究所 毎月一回発行
「住民行政の窓」 日本加除出版 毎月一回5日発行
住民と自治 自治体問題研究所 毎月一回1日発行
「地域政策研究」 財団法人地方自治研究機構 毎月一回1日発行
地方議会人 中央文化社 毎月一回1日発行
「地方行政」 時事通信社 毎週二回月曜日、木曜日発行
地方自治 地方自治制度研究会編・ぎょうせい 毎月一回5日発行
地方自治情報 財団法人地方行政総合研究センター 毎月一回発行
町村週報 全国町村会 毎週月曜日発行
「都道府県展望」 全国知事会財団法人都道府県会館 毎月一回発行
日経グローカル 日経産業消費研究所 毎月二回第1、第3月曜日発行
日本行政 日本行政書士会連合会 毎月一回25日発行
LASDEC 財団法人地方自治情報センター 毎月一回1日発行

 

2 地方税財政

 

誌名 編集・刊行等 発行頻度
公営企業 財団法人地方財務協会 毎月一回20日発行
ぎょうせい 毎月一回1日発行
税経通信 税務経理協会 毎月一回1日発行
税研 財団法人日本税務研究センター 毎月一回20日発行
税務弘報 中央経済社 毎月一回1日発行
税理 ぎょうせい 毎月一回1日発行
租税研究 社団法人日本租税研究協会 毎月一回10日発行
「地方行財政旬報」 財団法人地方財務協会 毎月二回第1、第3水曜日発行
「地方債月報」 地方債協会 毎月一回15日発行
地方財政 財団法人地方財務協会 毎月一回1日発行
地方財務 ぎょうせい 毎月一回5日発行
地方税 財団法人地方財務協会 毎月一回1日発行

 

3 地域振興等

 

誌名 編集・刊行等 発行頻度
コミュニティ 地域社会研究所 毎月一回15日発行
自治体国際化フォーラム 自治体国際化協会 毎月一回15日発行
地域開発 日本地域開発センター 毎月一回発行
地域創造 財団法人地域創造 毎年二回発行
地域づくり 財団法人地域活性化センター 毎月一回1日発行
「FURUSATOVitalization」 財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団) 毎月一回1日発行

 

4 職員研修等

 

誌名 編集・刊行等 発行頻度
「アカデミア」 市町村アカデミー 毎月一回1日発行
国際文化研修 全国市町村国際文化研修所 毎月一回15日発行
自治実務セミナー 第一法規 毎月一回10日発行
自治フォーラム 自治研修協会 毎月一回10日発行
「地方自治職員研修」 公職研 毎月一回15日発行

 

5 その他

 

誌名 編集・刊行等 発行頻度
「災害補償」 地方公務員災害補償基金 毎月一回10日発行
「選挙」 都道府県選挙管理委員会連合会 毎月一回1日発行
「選挙時報」 全国市区選挙管理委員会連合会 毎月一回25日発行
「全国自治体病院協議会雑誌」 全国自治体病院協議会 毎月一回1日発行
「総務省」 総務省 毎月一回1日発行
「地方公務員時報」 総務省自治行政局公務員課 毎月一回10日発行
デルクイ(富山県職員政策情報誌) 富山県総合政策課 季刊
都市問題 東京市政調査会 毎月一回1日発行
都市とガバナンス 日本都市センター 毎年一回発行
都市問題研究 都市問題研究会 毎月一回20日発行
判例地方自治 ぎょうせい 毎月一回1日発行
「Local Government Review inJapan」 Japan Center for Local Autonomy(財団法人自治総合センター

地方財政制度を統治の観点から考える

小西砂千夫先生が『統治と自治の政治経済学』(2014年、関西学院大学出版会)を出版されました。
・・筆者はこれまで、地方財政や地方自治の研究を行うなかで、制度を設計し、運営する側の立場にたって目の前の事実を補足しようと心掛けてきた。毎年度、地方財政に関する予算折衝が、旧自治省と旧大蔵省との間で展開されるが、それは戦争にも例えることができる・・そこにみえてくるのは、予算折衝におけるパワーバランスである。旧大蔵省と旧自治省だけがプレーヤーではない。官邸、閣僚、与党、野党、地方6団体などの様々なプレーヤーが登場する・・
・・財政学研究は官房学を起源とする伝統的な財政学に、近代経済学のめざましい発展の要素を取り入れることによって、学問的なコンテンツを充実させてきた。それ自体は、けっして悪いことではない。しかし、財政学が対象とする政策課題がそれですべて解けるわけではない。ましてや、財政学は応用経済学の一分野などではない。公共経済学の発展は喜ぶべきことだが、それが財政学に代わって。財政問題をアプローチする学問となることはできない・・(序章)
地方財政制度や毎年度の地方財政対策は、経済的機能とともに、政策意図や政治によって決まるという要素を持っています。
私はかつて『地方交付税・仕組と機能』(1995年、大蔵省印刷局)を書いた時に、仕組みの解説とともにそれが果たしてきた機能についても解説しました。その後、さらに視野を広げて、「財政調整制度の機能と思想」を書こうと考えていました。「今後書こうと思っている論文」に「地方交付税制度がどのような思想に支えられて、50年機能したか。また変化してきたかを、大きな観点から考えてみたいと思っています」と書いたのですが。
しかし、その後、交付税の仕事から離れたことと私の関心が他に移ったので、とうとう書くことができませんでした(それどころか、『地方交付税』の改訂もしないまま、もう20年も経ちました。すみません。後輩に期待します)。私の意図とは必ずしも一致しませんが、小西先生の著作は重なるところが多いです。
制度にあっては、制度設計者の意図と、それが果たしてきた機能が重要です。『新地方自治入門』では、地方交付税制度が戦後の日本の発展(地域のナショナルミニマム整備)に大きな貢献をし、日本社会を安定させたことを書きました。
官僚が、制度や法律の解説を書くことがあります。私は、それに携わった官僚の務めだと思っています。その際に、仕組みの解説だけでなく、どのような意図で作ったか、また一定期間後には、どのような成果を上げたかどのような機能を果たしたかも、書くべきだと思っています。そうでないと、価値がないですよね。