カテゴリーアーカイブ:行政

政府が主導する働き方改革

2019年10月29日   岡本全勝

政府は、男性の国家公務員が育児休業を取得する際に、原則1か月以上とするよう促す方向で検討していると、NHK日経新聞が伝えています。
育休取得率は、女性公務員が99.5%、民間の女性社員社員が82%なのに対し、男性公務員は22%、民間の男性社員が6%です。まだまだ、男女共同参画には遠いです。
政府による、働き方改革の一つです。これに関して、いくつかのことを考えました。

1 この政策を、政府の役割のどこに位置づけるのか。
労働時間の規制なら、労働者保護です。また、公共の場での禁煙は、国民の健康保護でしょう。受動喫煙によって、周囲の人の健康を損ねないようにです。
しかし、 現在進められている働き方改革は、このようなこれまでの政策分野とは少し違います。労働者や国民の健康や暮らしを守っているのではありません。

平成の初めに、週休2日制が導入されました。労働時間短縮なら、目的は労働者の健康保護ですが、必ずしもそこに収まるものではありませんでした。国民に、働き方や休日の取り方を誘導したのです。
育休取得も、国民の健康を守るものではなく、男性の働き方、母親にだけ押しつけている育児を父親もすべきだという、男女共同参画を目指すものでしょう。これまでの、夫は家庭を犠牲にしてでも働く、妻は家庭を守るという、昭和の家庭や職場の形を変えようとするものです。

さて、これは、行政の役割のどこに位置づけるのか。簡単言うと、これまでの霞ヶ関の政策分類にはまらず、既存の担当省庁が見つからないのです。
その場合は、内閣府が所管することになるのでしょう。内閣府は既に、男女共同参画型社会や共生社会政策を担当しています。

政府としては、「この国のかたち」を変えることも重要な役割です。連載「公共を創る」でも、考えています。「この国のかたち」という言葉を安易に使うのは良くないと思うのですが、直ちによい言葉を思い浮かばないので。
この項続く

憲法破壊勢力となった護憲派

2019年10月25日   岡本全勝

東大出版会PR誌『UP』10月号、井上達夫先生の「立憲主義を救うとは、どういうことか」から。
1997年の朝日新聞に載った鶴見俊輔さんのインタビュー「憲法改正に関する国民投票を恐れてはいけない。その機会が訪れたら進んでとらえるのがいいんじゃないか」を紹介した後。

・・・公正な政治的競争のルールの支配に権力抗争を服せしめる企てとしての法の支配と立憲主義の要請は、立法闘争だけでなく憲法闘争にも貫徹されなければならない。日本国憲法は、憲法闘争を公正に裁断するルールとして、九六条で憲法改正手続きを定めている。改憲派のみならず護憲派もまた、九六条の憲法改正プロセスに従って、九六条を改正すべきか否か、いかに改正すべきかについて国民投票により国民の審判を仰ぐ責任がある。
しかし、護憲派は「負ける試合はしない」とばかり、九六条のプロセスの発動自体に反対し、挙げ句の果て、「国民投票」自体を「危険なポピュリズム」として糾弾しさえしている・・・

・・・いまの護憲派は政治的御都合主義に開き直り、この要請(法の支配と立憲主義の要請)をまったく無視している。それにより、護憲派は残念ながら、いまや「憲法破壊勢力」に変質してしまっている・・・

官僚意識調査、実施終了

2019年10月24日   岡本全勝

10月23日の朝日新聞夕刊で、このページでも紹介していた、北村亘・阪大教授による官僚意識調査が紹介されていました。「「情と理」1998年刊・後藤田正晴 政と官のあり方は

・・・ 今秋、行政学者たちが官僚の意識調査をしている。過去に村松岐夫・京都大名誉教授が3回手がけ、最後は2001年の内閣機能強化・省庁再編からまもないころ。研究班代表の北村亘・大阪大教授は「この間の変化がわからないままだったので明らかにしたい」・・・

今回の調査に協力いただいた現役官僚の諸君、ありがとうございました。いずれ、調査の成果が公表されると思います。

許認可官庁の責任、その2

2019年10月19日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、鈴木幸一さん「郵政省の壁」の続きです。
第15回(10月16日)は「銀座で素っ裸」でした。その顛末は原文を読んでいただくとして。ここでは、郵政省の許認可が1年あまり遅れたことによる、日本社会の損失について紹介します。

・・・ネットの急速な普及を後押ししたのは、今では人類にとって一番重要なメディアともいえる「ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)」の登場だ。ウェブそのものは欧州で考案されたが、それを一般に普及させるカギになった閲覧ソフト(ブラウザー)を世に出したのが、IIJのサービス開始と同じ94年に産声を上げた米モザイク・コミュニケーションズ(後にネットスケープに改称)だ。
実はその少し前に「今度できるモザイク社にIIJも出資して、日米で協力関係をつくらないか」という話が持ち込まれたこともあるが、その時は郵政省の承認がおりる前。こちらは食うや食わずの状態で、当然出資話もお断りするしかなかった。

その後、ネットスケープは巨額の赤字を抱えたまま米ナスダック市場に上場すると、時価総額はたちまち2500億円に達した。その頃の同社にたまたま立ち寄る機会があった。同じネット関連の新興企業なのに桁違いに大きくきれいなオフィスを見て、IIJとのあまりの違いに羨ましさを通り越して呆然とした覚えがある。
ネット草創期の90年代前半は、閲覧ソフトや米ヤフーの検索エンジンなど、ネットをめぐる戦略的な技術が次々に登場し、その中から様々なデファクト・スタンダード(事実上の標準)が生まれた時期だ。ここで開いた差は簡単には取り戻せなかった。IIJがこの大切な時期を傍観者として過ごさざるを得なかったのは、我が社にとっても日本全体にとっても大きな損失だったと思う・・・

官僚の判断間違いが、このような社会の損失を生みました。
鈴木さんの文章を、当時の郵政省関係者は、どのような思いで読んでいるでしょうか。

許認可官庁の責任

2019年10月17日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、今月は、IIJ会長の鈴木幸一さんです。インターネット草創期の苦労を書いておられます。1993年頃の話です。第13回(10月13日)「郵政省の壁」に、次のように書かれています。

・・・それに拍車をかけたのが、通信の監督官庁である郵政省(現総務省)との堂々巡りの折衝だ。当時の規制ではIIJのようなネット接続企業は「特別第2種電気通信事業者」として、郵政省の「登録」を得る必要があった。登録なしで通信サービスを提供すると無免許操業となり、刑罰の対象になってしまうのだ。

郵政省の係官は登録の条件として「通信は公益事業で、倒産は許されない。当初の計画通り設備投資をし、一方で3年間1件も契約が取れないと仮定しても、会社が潰れないという財務基盤を示せ」という。私は「3年間、契約ゼロなどあり得ない」と反論するが、平行線のままだった。
「そもそも法律には『3年間売り上げゼロでも耐えられる』とは書いていない」と言っても、「これは内規。これまで通信市場に参入した会社は条件を満たしている」。「内規の文書を確認したい」と求めても、「部外秘で見せられない」と断られる。

これではまさに「不条理の迷宮」ではないか。法律の字面では参入自由化をうたいながらも、実際に参入を認めるのは十分な財務力のある大企業だけで、倒産の可能性のあるスタートアップ企業は内規をタテに排除しよう、というのが本音であった。インターネットは従来の通信事業とは根本的に異なる、といくら説明してもムダだった・・・

こんな行政が、まかり通っていたのですね。情報公開法の施行は2001年、行政手続法の施行は1994年です。この項続く