カテゴリーアーカイブ:行政

憲法を時代に合わせる仕組み

2019年11月10日   岡本全勝

10月31日の日経新聞経済教室、林知更・東京大学教授の「改憲論議の視点  冷静なエンジニアの目を」から。

・・・第三に、条文と運用の両面から憲法のメカニズムを考える場合、諸国の憲法は20世紀に大きな構造変動を経験している。これを家にたとえれば「平屋」から「2階建て」への変化と整理することができる。憲法の古典的な課題は、「物事を政治的に決める仕組み」をいかに整えるかであり、統治機構の編成こそは憲法の中核をなす。

20世紀の憲法はこの上に新たな階層を付け加えた。
それは「行われた決定を事後的に検証する仕組み」であり、違憲審査制がそれである。政治的決定はしばしば、時間的な制約の下で、一定の政治的目的を実現するために行われる。違憲審査制はこれを、憲法の定める長期的な国の基本原理に合致するか否かという観点から改めて審査する。
この仕組みの導入は、多くの国々で全体としての統治の質を高める上で重要な意味を持ったと考えられる。現代憲法がこのような構造を持つとすれば、日本の憲法の問題点を検証する際も、1階と2階それぞれの課題を区別して論じなければならないはずである。

特に、日本の違憲審査制がこの点で大きな問題を抱えていることは学界の共通認識に属しており、この論点を無視した憲法論議は考えられない。憲法を平屋構造で捉え、この事後的コントロールの問題を十分に顧慮しない改憲論は、現代憲法の基本的な水準に到達していない・・・

納得します。
憲法が作られるときは、新しい政治体制ができて、理想とする政治の仕組みや社会のあり方を宣言します。その後、時代の変化によって条文を修正したり(日本では解釈を変えることで対応してきましたが)、政治体制が変わって憲法そのものを取り替えます。
しかし、林先生が指摘しているように、宣言したあと、次に「書き換える」という過程の前に、「運用を検証する」が必要ですよね。すると、「宣言する。検証する。書き換える」という過程になるのでしょう。

長期の社会政治課題を議論する、大平総理研究会

2019年11月8日   岡本全勝

11月4日の日経新聞オピニオン欄に、芹川 洋一・論説フェローが「今ふたたびの大平研究会 望まれる長い目の政治」を書いておられました。
大平正芳総理は、総理に就任すると民間有識者による政策研究会をつくり、合計9つの長期的な政策を議論し、提言をまとめました。田園都市、環太平洋、家庭基盤、総合安保、文化の時代などです。

この研究会が活動した頃、私は官僚になったばかりでした。
学生時代に、月刊誌『諸君』が、硬派の議論を展開して多くの支持を得ていました。それまでの論壇は、月刊誌『世界』に代表される、理想主義的左派の議論が主流でした。それに対し、より現実的な議論、日本のあるべき論でした。

大平研究会の主題が現在、重要な課題になっていることに、改めて驚きます。
中長期的な課題を取り上げ、それを議論する。その方向を国民に示し、政策を実行することも、政治の重要な任務です。選挙の際のマニフェスト(選挙公約)も重要ですが(最近、はやらなくなりました)、もっと長期の課題と対策です。
沿岸部を航海するときは、岸を見ながら船を進めればよいですが、大洋を航海するときは海図が必要です。

冷戦終結後の理想は

2019年11月7日   岡本全勝

11月3日の朝日新聞コラム「日曜に想う」、大野博人・編集委員「解けてしまった30年前の魔法」から。

・・・「あれは魔法のときだったと思う」
エマニュエル・トッド氏の言葉に確かにそうだと思った。
このフランスの歴史学者はソ連の崩壊を早くから予測していた。冷戦が終結した30年前とその後をどう考えているか。先日、パリの自宅を訪ねた。
「ロシア人は共産主義という全体主義システムからある意味でエレガントに抜け出した。戦車をほかの国に送ることを拒み、東欧諸国の解放もソ連の解体さえも受け入れた。(当時のソ連共産党書記長)ゴルバチョフ氏の偉大な功績だ」
大量の核兵器で威嚇し合う軍事的緊張関係によって築かれていた第2次大戦後の東西2極体制。30年前、それが武力衝突もなく消えていった。まさに魔法にかかったように。これから世界は民主主義と市場経済によって平和で豊かになっていく、と楽観的な気分が広がった。

けれども今、各国で民主主義は不信の的となり、市場経済も不平等を拡大していると批判を浴びている。結局その二つは特権階級を利するだけだ、というポピュリストの主張に人々は傾いている。
「もっとうまくやれたはずなのに」とトッド氏はいう。「レーガン米大統領やサッチャー英首相は共産主義の崩壊を、文明化されていない資本主義、ネオリベラリズム、ヒステリックな資本主義の勝利だと考えた。それがあらゆる種類の行き過ぎにつながってしまった」・・・

・・・数カ月で、政治と社会の風景はすっかり変わった。歴史が動くときは加速するのだと感じた。
しかし、冷戦が終わった直後から急務と言われていた「新しい国際秩序」の構築はちっとも加速しなかった。今に至ってもなお、それは姿を見せているようには思えない。むしろ経済のグローバル化をうまくコントロールできないまま「無秩序」ばかりが広がり続けている。
1989年11月9日にベルリンの壁が開放されてからまもなく30年になる。
あのとき、世界は何を終わらせ、何を始めたのだろうか・・・

多くの政治家や学者と同じく、ベルリンの壁が壊れるまで、私もドイツ統一はないと思っていました。参考、「高橋進著『歴史としてのドイツ統一』」。
ゴルバチョフ書記長は、体制を失ったとはいえ、大きな戦乱なくソ連と東欧諸国の共産主義支配を終わらせました。
その後の東欧の歴史は、指導者(東西の)の理想通りには行きませんでしたが、市場経済と自由主義はほぼ確立しました。この二つは、指導者の強力な力がなくても、多くの市民の支持と「自動運動」で実現するようです。
さて、地球温暖化、大量の廃棄物、非民主主義国家中国の台頭、貧富の格差拡大、大量の難民、それらを背景に起きているポピュリズム・・これらの国際的課題と各国の課題に、政治家はどのように対処するのでしょうか。

ところで、東西ドイツの国境は、有刺鉄線や地雷で隔てられていました。その跡が、幅300メートルの緑地帯に生まれ変わったようです。日経新聞11月3日「東西ドイツ国境開放から30年

松元崇さん、若者の働き方支える視点を

2019年11月3日   岡本全勝

11月1日の日経新聞経済教室は、松元崇・元内閣府事務次官の「全世代型社会保障改革に向けて 若者の働き方支える視点を」でした。
ポイントは、次のようです。
・スウェーデンは高成長で政府規模を縮小
・有意な転職支える流動的な労働市場カギ
・国が成長しなければ国民の所得増えない

・・・スウェーデンについては1995年から2015年にかけての20年間の動きが矢印で示されており、この間に政府規模が英国やドイツよりも小さくなったことが分かる。スウェーデンはかつて大きな政府で有名だったが、高い経済成長率により状況が変化したのだ。
ビル・エモット氏の著書「『西洋』の終わり」によると、スウェーデンは高い経済成長率を持続することで、93年に国内総生産(GDP)比で72%もあった政府規模を07年には49.7%に引き下げた。GDP比で約22ポイントの引き下げは、GDPが550兆円の日本の感覚に当てはめれば、約120兆円にも相当する。

スウェーデンの高成長の背景にあるのが選択と集中だ。選択と集中の時代には、企業の栄枯盛衰や個人の転職が当たり前になった。そこでは転職に際して、学校などで新たな技術を学び直す、そうした個人をしっかりと支える仕組みを持つ国の経済が成長するようになった。個人のキャリアアップを支える流動的な労働市場を持つ国の成長率が高まるようになったわけだ。
かつて転職が珍しかった時代には、そうした仕組みは経済成長にほとんど役に立たなかったが、それが様変わりしているのだ。
図でスウェーデンと正反対の動きを示しているのが日本だ。その大きな要因は、個人のキャリアアップを支える労働市場がほとんどないことによる低成長だ。日本の経済成長率は先進国の平均を1%ほども下回っている。その分だけ図の潜在的国民負担率の分母が大きくならず、負担率が上がっていくことになる・・・

・・・日本でも個人のキャリアアップを支援する取り組みは始まっている。19年6月の「骨太の方針」では、就職氷河期に正規社員になれなかった人々の再チャレンジを支援する方針が打ち出され、7月には内閣官房に就職氷河期世代支援推進室が設置された。就職氷河期世代の正社員を30万人増やす目標が掲げられている。
18年4月の週刊ダイヤモンドによれば、就職氷河期に就職できなかった人々がそのまま老後を迎えると、生活保護に依存せざるを得なくなる。「生活保護予備軍」は約147万人にのぼり、生活保護費は約30兆円にも達すると試算されている。そうした人々が再チャレンジして就職し、生活保護予備軍から脱却すれば、当人も幸せだし、日本のGDPも相当押し上げられるはずだ。ちなみに再チャレンジは、第1次安倍内閣が06年に掲げた政策目標だ・・・

原文をお読みください。
松元さんの主張については、著書『日本経済 低成長からの脱却』をこのホームページで紹介しました。

政府が主導する働き方改革、2

2019年10月30日   岡本全勝

政府が主導する働き方改革」の続きです。

2 社会を変える手法は何か
2つめは、このような働き方や夫婦の役割分担を変える際に、政府はどのような手法を使うかです。いくつか考えられます。
・法律による規制、さらには罰則をつける。
・まず、政府の職員である国家公務員に義務づける。
・従った企業に、税や補助金で優遇する。
・広報で、宣伝でする。

もっとも、このような法律を作るとすると、「その法律によって守ろうとしている法益は何か」という質問が出るでしょう。

昨日、「この国のかたち」と表現しましたが、変えようとしているのは、国民生活の慣習と言ってもよいでしょう。夫婦の役割分担、職場での仕事の仕方(働き方改革はそこにつながります)、休暇の過ごし方・・・。
「どのように生きようが、個人の自由だ」と主張する自由主義者や、「我が家では、夫婦の間で役割分担を決めるのです」と主張する夫婦には、どのように説得しましょうか。