カテゴリーアーカイブ:行政

原発事故被災地での農業再生

2021年2月5日   岡本全勝

2月1日の毎日新聞が「福島の農、復興途上」を大きく伝えていました。
・・・2011年3月の東京電力福島第1原発事故で避難指示などが出た福島県沿岸部で、県外企業が進出してサツマイモの大規模生産を行ったり、ハイテクが導入されたイチゴなどの栽培が始まったりしている。東日本大震災後、風評被害で大きなダメージを受けた福島の農業は今、「再生」の兆しを見せていると言えるのだろうか・・・

具体事例として、菓子製造販売企業と連携したサツマイモの大規模栽培(楢葉町)、農業生産法人の支援を受けた稲作(浪江町、これはこのホームページでもしばしば取り上げています)。その他、イチゴや野菜工場です。
支援してくださる企業に、感謝します。課題は、担い手の確保です。

政治家による官僚人事

2021年2月3日   岡本全勝

1月27日の朝日新聞オピニオン欄、嶋田博子・京都大学公共政策大学院教授の「官僚の忖度、いつから?」が、勉強になります。ぜひ原文ををご覧ください。

・・・伝家の宝刀・人事権を使い、霞が関を支配してきたとされる安倍、菅両政権。官僚側の過度な忖度(そんたく)や萎縮も問題となっている。なぜ、「政と官」はこんな関係になったのか。人事院の元官僚で、人事政策とその国際比較を研究する嶋田博子さんは、英国をモデルにした平成の「政治改革」にその伏線があるという・・・

――菅義偉首相は、選挙で国民の審判を受けた政治家に反対する官僚は異動してもらう、と明言しています。
「最近の米国の研究では、多数決原理だけでは実現できない公益がある、との指摘があります。もし『選挙で勝った政権はすべてを託されている』といった選挙万能主義があるなら、それは日本独特と言えます。英国では、『選挙独裁』とも呼ばれるこの課題を克服しようとする仕組みもあります」
――それは何ですか。
「下院にある特別委員会です。政府の監視・チェックなどを目的とする超党派の委員会で、たとえば政官関係に懸案があると、この特別委が調査し、報告書をまとめ、政府は60日以内に回答しなければなりません。そっけない回答が多いのですが、さらなる証拠を求められる可能性を見越して政府が慎重になるため、政府に対する有効な牽制として機能している、とする研究者の分析もあります。実際、現ジョンソン政権の前のメイ政権では、官僚への高圧的言動、理不尽な要求を禁じる文言が大臣規範に加えられました」
――なぜ英国では、議会がそこまで政府に対峙できるのですか。
「議会には、与野党を問わず、内閣を生み出した立場として内閣を監視し続ける責任がある、という自覚があるのです。べつに官僚を擁護しているわけではありません。内閣も、権力の行使には自重、抑制的である姿を示すことが国民の信頼獲得につながり、中長期的にも有利との考えがあります」

――政治改革で、英国から導入されなかった要素は他にありますか。
「政治家は官僚の人事に介入しない、という原則です。19世紀からの政治的伝統で、政官がともに仕事をするからこそ、官が政に臆せず進言できるようにする、との理由からです。具体的には、事務次官以下の高官の職能要件をあらかじめ公開して公募し、各省次官や外部有識者らでつくる委員会が各省ポストを選考しています」
「これと対照的なのが米国の政治任用制でしょう。米国では、大統領と官僚が一緒に働く以上、大統領が信を置く人物を選ぶという発想です。ただし、もともと議会や最高裁が大統領を強く牽制できるシステムになっています」
――英国では、政治家が「官僚の人事に介入したい」という誘惑には駆られないのですか。
「それが時々あるんです。キャメロン政権は12年、大臣が事務次官を選べるようにしたい、と提案しました。ところが下院の特別委が賛同しない見解を示し、上院からも『それは国家のオウンゴールになる』との声が上がりました」
――英国も試行錯誤を続けている、と。
「その通りです。初めから理想的な正解があるとは考えておらず、絶えず見直しを続けています。こうした柔軟性は、日本も学ぶところがあります」

――そうした海外の制度・ルールから、日本の参考となる点はあるでしょうか。
「官邸が各省の幹部人事を一元管理する内閣人事局が14年にせっかくできたのですから、主要ポストについては、どんな能力・経験が求められるかを政治の側があらかじめ具体的に示しておく、といった改善が図られてもよいのではないでしょうか。そうして透明性を高めておけば、人事で何らかの問題が起きた時、その妥当性を事後にチェックできます」
「現状では、人事の決定がブラックボックスなので、官僚も疑心暗鬼になり、上司の顔色を気にしがちになります。日本は英米のように転職容易な労働市場でもないため、政治家の不興を買うことを先回りして避けようとするのです。これは内閣人事局ができる前からありました」

どういうルールを創ったら、人はどう行動するか

2021年2月2日   岡本全勝

Web日本評論、有吉尚哉さんの「どういうルールを創ったら、人はどう行動するか」(2021年1月25日掲載)から。この記事は、池田真朗著「行動立法学序説―民法改正を検証する新時代の民法学の提唱」についての紹介です。

・・・法律を制定する権限は国会に帰属するものであるが、行政がその企画立案に大きな役割を果たしているほか、政令・省令などの下位法令は行政が制定権を有する。このように立法作業を担うのは主に行政の役割であるが、実務上、民間の法律実務家が立法過程に関与することも少なくなく、その影響も高まっている。
例えば、近年、私法の領域においても規制法の領域においても、取引実務に影響を与えるような法令改正等が頻繁に実施されているが、業務への影響が生じる法令改正が行われる場合には、パブリックコメントの手続において意見提出をすることが想定される・・・特に各取引分野の専門化が進む中、法制度の制定・改正を行うために実務経験を有する民間の意見の重要性が高まっている。このような場面では、民間の法律実務家にも立法のための思考法が求められることになる。

ここで、新規法令の制定や既存法令の改正などの立法作業は、法令を扱う業務という点では法律実務家が実務の課題に取り組むために法令の解釈を検討することと共通している。もっとも、後者は制度趣旨を考慮することは必要であるとしても、存在する法令の枠組みの中での解釈論が求められるものであるのに対して、前者は(既存の規律や実務との整合性が考慮要素となるとしても)価値判断を前提に新たなルールを策定するものであり、求められる発想は大きく異なる。
また、法令が存在せず、取引が発達していない状況で新たに法令を制定する場合には、出来上がった法令の内容が適切なものであればそれでよいことになろう。しかしながら、既に法制度が存在し、取引が複雑化している中で、新規の立法を行ったり、既存の法令の改正を行う場合には、立法後の法令の内容だけでなく、規律が変動することによる実務への影響にも十分に配慮することが必要となる。

本稿は民法の権威であり武蔵野大学大学院法学研究科の池田真朗教授が2020年に施行された民法改正(いわゆる債権法改正)を題材に「行動立法学」という考え方を説くものである。「行動立法学」は確立した学問分野ではなく、社会的に最適な立法をするための理念や方法論を考察しようとするものとして池田教授が提唱する新しい考え方であり、「もともと不合理な行動をする人間の存在は当然の前提としたうえで、新しい立法をする際には、どういうルールを創ったら、人はどう行動するかという、その法律の対象となる人々の事前の行動予測の観点から法律というルールを創るべきとするもの」と説明される。この考え方から、池田教授は、「法律は、作ってから解釈を工夫して運用するものではなく、作る前に効果を想定しシミュレーションをして作るもの」であると強調する・・・

池田論文は、次のページで読むことができます。「法学研究(慶應義塾大学)93巻7号(2020年)57頁~113頁」

復興事業の教訓、過大な防潮堤批判

2021年1月29日   岡本全勝

復興事業の教訓、過大な街づくり批判」に続き、「復興事業の教訓」その4です。
次に、防潮堤は過大ではないかという批判についてです。「多額の予算で防潮堤を復旧したのに、後背地に住む住民が少ない。金のかけすぎではないか」というものです。

公共施設災害復旧制度は、戦後70年にわたる経験から、立派な制度ができています。被災後直ちに現場を見て、元に戻す作業に入ります。早く安全な町に戻すためです。例えば2019年の台風19号による、長野県千曲川氾濫を思い出して下さい。堤防が壊れ、濁流が町や農地を呑み込みました。すぐに復旧作業が始められました。

では、なぜ津波被災地では、このような批判が出るのか。災害復旧は、担当部局が被災後直ちに事業に着手しました。安全な町を取り戻すために、急いでくれたのです。これは正しいことです(なお、防潮堤については従来の「これまでの津波に耐える高さにする」という哲学を変更し、100年に一度の津波には耐えるが、それ以上の津波には他の方法を組み合わせることにしました。L1、L2の考え方です)。
他方で町づくりをする復興事業は、今回が初めてでした。復興計画を作り工事を行うために、新たに復興交付金制度をつくりました。
その頃には、復旧事業は進んでいました。復興交付金制度に復旧事業費は入っていません。「なぜ入れないの?」と担当者に聞いたら、「復旧事業は既に進んでいて、これから交付金に組み込むのが難しいのです」との答えでした。私も納得しました。

防潮堤復旧が先に進み、町づくり計画が後から進んだのです。そして、「後背地の町と整合性がとれない防潮堤」といわれるものができました。
では、これまでなぜ問題にならなかったか。これだけ大きな町の復興事業がなかったこともありますが、人口減少が主たる原因です。住民が減らない、あるいは増える町なら、大きな防潮堤を造っても問題にならなかったでしょう。町が縮小するのに、それを考慮に入れずに防潮堤を復旧したことが、このような結果を生んだのです。部分最適が全体最適にならなかった例です。
その点では、宮城県女川町は街並みを中心部に集め、公共施設なども人口減少に対応した町を作りました。

今後の災害復旧事業では、「町が縮小するときに、各種施設を元の大きさで復旧するのが良いか」が問われると思います。それは、防潮堤に限らず、道路、学校、農地などにも当てはまると思います。

追加で、次の問題も述べておきましょう。3万戸の公営住宅を造りました。20年後や30年後に、いくつかの町で空き家がたくさん発生する恐れがあります。入居者に高齢者が多いからです。次の人が入ってくれないと、空き家が増えます。これは、建設時からわかっていたことですが、対処案は難しいです。

アイケンベリー教授、新しい国際秩序

2021年1月29日   岡本全勝

1月22日の朝日新聞オピニオン欄「米新政権 重い宿題」、ジョン・アイケンベリー・米プリンストン大教授の発言から。

――民主主義の混迷は米国だけの現象ではないようです。
「過去200年の間、民主国家の市民は自分たちの子供がより豊かな人生を送ることを期待できました。生産性の向上、世帯収入の増加、労働者の地位向上という果実とともに民主主義も前進しました」
「冷戦終結を祝福していた1990年代に停滞が始まります。先進民主国家は新技術導入やグローバル経済への適応で打開を図りましたが、かえって格差が拡大し、より良い生活をもたらす使命を果たせなくなったのです」

――国際秩序も曲がり角を迎えました。
「冷戦中から冷戦終結直後までの時期、いわゆるリベラルな国際秩序は先進民主主義国の社交クラブのような存在でした。『会員』になれば安全保障が約束され、貿易や投資へのアクセスも得られた。それがグローバル化の進展で誰でも出入りできるショッピングモールに変貌しました。民主主義へのコミットメントという『会費』を払わなくても、世界貿易機関(WTO)をはじめとする枠組みに中国などが仲間入りする時代になったのです」

――新政権で米国のリーダーシップは復活しますか。
「リベラルな国際秩序は米国が各国に指図する形だったのではなく、根幹は協調と相互依存です。米国の覇権的なリーダーシップではなく、同盟関係や国際機関を通じて協調を促す『内側からのリーダーシップ』なのです。バイデン政権でも日本やドイツ、韓国、豪州など同盟国の支えが欠かせないでしょう」

――国際主義への懐疑論にはどう向き合えばいいでしょう。
「自由貿易や同盟、国連に対する支持を米国人が捨ててしまったとは思いません。数々の世論調査は、国際主義への信頼が米国内に根強いことを示しています。しかし、自由貿易や国際協調を中間層が前向きに受け入れられるようにする努力は必要です。国際主義は、国境を取り払って単一システムに同化させることではありません。各国間の相互依存をうまく管理することです。外交政策と国内の再建を有機的に結びつける。米国人の日常にとって国際主義を身近なものとする。そうした工夫が欠かせません」

参考「トランプ大統領と中国と、リベラルな国際秩序