9月29日の日経新聞は、「ドイツの未来図-東西統一から20年」を連載していました。ベルリンの壁が崩壊したのが1989年、東西ドイツの統一が1990年でした。あれよあれよという間の出来事でした。東西冷戦は半永久的に続くと考えていた私にとっては、本当に驚きでした。世界の多くの人にとって、そうだったのではないでしょうか。
私が読んだ本では、高橋進著『歴史としてのドイツ統一』(1999年、岩波書店)が、勉強になりました。その中で、高橋先生は次のように書いておられます。・・戦後のドイツ外交を研究してきた者として、ドイツの統一は、私が生きている間はありえないというのが、染みついた公理であり、1989年11月9日のベルリンの壁の開放をみても、統一はまだ遠いという思いを拭い去ることはできなかった・・
東ドイツの格差をどう埋めるのか、大きな問題だったのですが、記事では、東西格差是正はもはや大きな政治課題ではないと、書いています。大変な努力をして、ここまでに至ったのでしょう。メルケル首相が、東ドイツ出身でしたよね(去年、総理のお供をして、ベルリンの首相府に行きました。モダンで大きな建物でした。首相のスタッフの官僚たちと、拙い英語で話をしたことを、思い出します)。
それに代わって、移民をドイツ社会にどう溶け込ませるかが、課題になっています。詳しくは記事をお読み下さい。これは、フランスでも大きな問題になっています。
日本は、島国でもあり、移民を極端に制限しているので、これほど大きな問題にはなっていません。しかし、定住外国人は地域の大きな課題になっています。また、日本が国際化するに従い、西欧の後を追うことになるのでしょう。
「政治の役割」カテゴリーアーカイブ
行政-政治の役割
ペイオフ発動・金融行政の進化
9月10日に、日本振興銀行が経営破綻し、ペイオフ(上限つき預金保護による処理)が行われました。ペイオフが発動されたのは、わが国では初めてのことなので、大きく報道されています。日経新聞経済教室、15日の翁百合さん、16日の佐藤隆文教授(前金融庁長官)が、わかりやすいです。
私の関心は、市場(金融)に対して政府(行政)はどうかかわるかということと、金融危機という社会のリスクにどう備えるかということです。
普通の会社が倒産しても、それは関係者の負担で処理されます。手続や優先順位は、一般的な破産法制で決まっていて、それに沿って処理されます。しかし、銀行の場合は、これまで倒産させず、ほかの銀行に合併させて救済したり、国費を投入して保護したり、一時国有化して救うなどの処理をしました。預金も全額保護したのです。
これには、大きく二つの要因があったと思います。一つは、銀行の倒産が、次々とほかの金融機関に波及し、金融システムが機能不全になる恐れがあること。システミック・リスクです。金融はお金のネットワークなので、このようなことが起きます。もう一つは、国民の間に「銀行は倒産しない」という信仰があり、預金が戻ってこないとは考えていなかったこと、そして通常の会社と違い、取引先(預金者)が一般人で範囲が広いことです。社会不安を引き起こす可能性があるのです。
今回、初めてペイオフによる破綻ができたのは、それをするだけの条件が整った、整えたからです。この点は、佐藤論文に詳しく書かれています。
佐藤教授は、事前予防と事後処理の整合性を、指摘しておられます。金融行政は、かつてのきつい規制行政から、規制緩和が行われました。そして市場の競争に委ねるようにしたのですが、破綻した場合の処理が、一般企業と違って問題になるのです。
預金者保護・金融システム維持のために、セーフティネット(安全網)を強くすると、ずさんな経営者が出てくる可能性があります。高い利息で預金者を集め、うまくいかないと倒産させるのです。このような銀行や預金者が保護されるようでは、まっとうな競争は生まれません。そして、その費用負担は国民に押しつけられるのです。他方、安全網がないと、金融システムの危機が発生する可能性があります。
それをにらみながら、うまく制度を組み立て運用する。この20年間の銀行破綻と金融行政の経験から、日本が学んだことです。
民主主義の進歩
朝日新聞9月17日1面「危機の政党」曽我豪編集委員の「選挙偏重から抜け出せ」に、次のような記述があります。今回の民主党代表選挙結果についてです。
・・国民が期待する答えは、そこではない。選挙制度改革、官邸機能強化、脱官僚。政治再生の方策は多々繰り出されたが、今や権力をつくり出す政党の仕組みと作法のチェンジが必要な時代に移った・・
そうですね。1990年代前半に日本の政治のエネルギーの多くをつぎ込んだ選挙制度改革は、16年前に実現しました。そしてその後、「2大政党+その他の党」体制を生み、ついに1年前に、実質的には半世紀ぶりの政権交代を生みました。
官邸機能強化は、橋本行革、省庁再編、小泉政権で、いくつかの制度化と運用の成果を生みました。もっとも、官邸機能強化は、その時々の総理大臣と官邸の運用によるところが大きいです。それはまた、各省や党がどのような抵抗をするかにもよります。そして、脱官僚・・。
この1年で、政権交代だけでは、国民の期待する政策が立案され実行されるわけではない、ということが見えました。次の課題として、政党内での政策の集約と、大臣及び総理候補者の育成が、課題として浮かび上がりました。
民主主義とは、このようにして、一歩一歩進んでいくものなのでしょう。
政治の限界、国民の支持
国際金融危機に学び備える
9月3日の日経新聞経済教室ゼミナールが、金融危機後の規制・監督改革の世界的取り組みを、整理していました。今回の世界金融危機・世界同時不況では、先進各国の協調が求められ、結構うまくいきました。1929年の大恐慌の再発にならなかったのは、そのおかげです。しかし、再発を防止するためには、各国が対応する(金融規制と経済政策)だけでなく、世界規模での対応の制度化が求められたのです。
それが、G20(20か国・地域首脳会議)であり、金融安定理事会(FSB、金融安定化フォーラムを改組)です。FSBは、銀行・証券・保険の各分野の規制・監督のあり方や国際会計基準に関する総合調整を行っているそうです。
国境を越えて動く金融に対して、国家を超えて規制しようとする試みです。世界政府への道のりというのは、評価しすぎかも知れませんが、重要な進展だと思います。危機に遭遇するたびに、人類は進化するという例です。