カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

景気対策でなく経済成長を促進する対策を

10月4日の日経新聞経済教室、植田健一・東京大学教授の「日本経済再生の針路、価格・企業活動に介入するな」から。

・・・世間では日本経済再生のために、あれもこれもとかまびすしい。だが多くは必要ない。むしろ障害となる。
とりわけ景気浮揚のための財政・金融政策は、世間で考えられているような効果はない。経済学の研究をまとめれば、景気が悪化した時に下支えするという実績は多少ある。だがあくまでその効果は、経済学的に定義される景気の悪化に関してだ。そうした景気の悪化は、世間で考えられているほど起きていない・・・
・・・安倍政権時には、戦後2番目に長い好景気、すなわちトレンドの周りでの上昇局面があった。それでも世間では景気の良さを実感しないという声が多く、それに応えて政府・日銀は長きにわたり財政赤字を続け、金融政策を緩和したままにしてきた。これは間違いと言わざるを得ない。本来、好景気時の財政・金融政策による景気対策は、不景気時とは逆に、財政黒字を出し、金利を上げるものだ。
ただし金融政策については本務は景気対策よりも物価安定だ。景気にかかわらず、2%程度のインフレ目標の達成まで緩和することは理にかなう。だが好景気時の財政赤字はおかしい。

もっとも、世間の人々の景気に対する不満は、経済学の定義する景気ではなく平均の経済成長を実感してのことだろう。実際、日本の高度成長期やバブル期、中国の2000年代以降の経済成長と比べて、安倍政権時の長い好景気でも平均の経済成長は低かった。
だが発展途上国が先進国にキャッチアップする過程では通常、先進国よりも経済成長が高くなることが経済成長の研究で判明している。その意味で、高度成長期の日本や近年の中国と、先進国になった後の過去30年ほどの日本の比較は本来すべきことではない。

そして経済政策は経済学的な知見、つまり理論と実証研究に裏付けられたものでないと、効果が不明で副作用の危険すら伴う。好景気時には景気浮揚策よりも景気抑制策が必要なのだ。
ただし、本当に必要なのは景気循環における景気対策でなく、中長期的な構造的な経済成長を促進する対策だ。財政・金融による景気対策はそれには役立たないことが判明している。効果があるのはより民間活力を引き出す構造改革だ。構造的問題の所在を確認し、市場経済がうまくいくように改善していくほかない・・・

岸田政権の先送り負担増、年3兆円規模

9月28日の朝日新聞に「先送り負担増、年3兆円規模 岸田政権の置き土産、次期政権は」が載っていました。
・・・自民党の新しい総裁に選ばれた石破茂氏は、岸田文雄政権が決めた年3兆円規模の負担増にも向き合うことになる。防衛、少子化対策、脱炭素化の三つの予算を大幅に拡充して事業が始まっているのに、国民に不人気の負担増は始まっていないからだ。
岸田首相は防衛費を5年間で段階的に増やし、2027年度は22年度比で3・7兆円多い8・9兆円にすると決めた。少子化対策でも、28年度までに国と地方の予算を3・6兆円増額する。さらに、脱炭素社会を実現するためとして、32年度までの10年間で20兆円を投じることも決めた。

これらの予算増は22年度以降、順次始まっている。計画通り進めば、三つの政策の予算は、合計で年9兆円程度増える。ただ、岸田政権は、既存の財源をやりくりするだけではまかなえないため、一部を新たな負担として国民に求めることにしていた。
防衛費増に対応するため、法人税、所得税、たばこ税で計年1兆円強の増税を打ち出した。遅くとも26年度までに始める方針だが、与党の反発で実施時期が決まらず、必要な税法の提出の先送りを重ねてきた。少子化対策では、社会保険料の引き上げで年1兆円をまかなう法律を成立させ、26~28年度に段階的に実施する。
脱炭素投資の財源は、28年度から化石燃料賦課金、33年度から有償の排出量取引制度を通じて集める方針だが、具体的な仕組みは未定だ。50年までに投資20兆円の全額を回収する予定で、単純計算で年1兆円弱の負担増になる・・・

10月3日には「増やした、使った、後は任せた 岸田政権、財源確保は3割」載せていました。
・・・岸田文雄政権が3年の幕を閉じた。この間、物価高対策と称して巨額の補正予算の編成を繰り返したうえ、当初予算も大幅に増やし、将来にわたる歳出増を決定的にした。歴代政権は深刻な財政状況に配慮し、一度増やすと翌年度以降に減らすのが困難な当初予算は、高齢化に伴う年金や医療費などの伸びに抑えてきた。その不文律をも破ったことになる。

朝日新聞は、当初予算のうち恒常的に使われる政策の予算(国債費を除いた政策経費)が、前年度に比べてどれだけ増えたかを検証した。元参院予算委員会調査室長の藤井亮二・白鴎大教授(予算制度)の助言を受け、消費増税対策やコロナ対策の予備費など一時的な要因を除いた。
分析結果によると、岸田政権は2023~24年度に計6・2兆円、当初予算の政策経費を増やしていた。防衛と少子化対策の予算を大幅に拡充したためだ。01年度以降でみると、09~10年度(7・0兆円)に続く規模だ。当時、自民党から民主党への政権交代があり、「バラマキ合戦」になった時期だ。
岸田政権は、別枠の特別会計を用い、年平均2兆円のペースで脱炭素化の支援策を増額した。これを含めれば、政策経費の伸びは09~10年度をも上回ると見られる・・・
・・・積極財政を掲げた安倍晋三政権でも、政策経費の伸びは、最大で19~20年度の3・2兆円にとどまる。高等教育無償化などを進めたためだが、消費増税により、支出増を上回る税収増を確保していた。
一方、岸田政権が打ち出した防衛と少子化対策の強化の財源では、将来の増税や社会保険料の引き上げで確保したのは、増やした予算の3割だけ。残りは、特別会計の剰余金など恒久財源とは言えないものばかりだ・・・

政治の情報化

10月3日の朝日新聞夕刊で、野口陽記者が「データ化に遅れ 政治資金、分析可能な公開を」を取り上げていました。

・・・自民党派閥の裏金作りは、遅くとも十数年前から続いてきた。発覚したのは、政治資金収支報告書の記載漏れを「しんぶん赤旗日曜版」が報じたからだ。
報告書は全ての政治団体が公開を義務づけられている。派閥のパーティー券を買った団体が購入額を報告書に記した一方、派閥側は販売収入を記載していないケースが多くあったのだ。
もっと使いやすい公開制度なら、不正はより早く見つかったのではないか。米国留学時に現地の制度を見た経験から、そう思う・・・
・・・日本でも国や地方がウェブで報告書を公開しているが、米国に比べると状況は大きく遅れている。
「格差」の要因は公表データの形式の違いだ。米国は、ウェブ上でテキストの検索や数字の集計などの処理ができる「機械可読」の形式だ。日本では、ほとんどの政治団体が機械可読なデータで報告書を作るが、提出する段階で紙にしたり、国などがウェブ公開の際にPDF画像にしたりする。そのため機械可読でなくなり、処理がしづらい・・・
・・・見直しは難しいことではない。報告書を機械可読なデータのまま1カ所に集め、最低限の加工だけ施して公開すればいい・・・

他方で、9月23日の読売新聞東京版は、「墨田区議会「改革度」なぜ1位? AI駆使 情報公開徹底」を伝えていました。
2022年に政務調査費を着服する事件が起き、それへの反省から、区民への説明や区政の透明化を進めたとのことです(読売新聞のウエッブで出てこないので、リンクを張ることができません)。

旧優生保護法、遅かった救済

9月19日の日経新聞「強制不妊、逃した「救済」機会 司法判断で政治解決再び」から。

・・・強制的な不妊手術という国による重大な人権侵害に対する補償制度法案が18日、超党派の議連で固まった。旧優生保護法の成立から76年。国際社会からの批判や当事者の訴えという「救済」の機会があったにもかかわらず政府は動かず、司法に迫られる形で政治決着に至った。約2万5千人とされる被害者へ補償が行き渡るかが問われる。

旧優生保護法は1948年に議員立法で成立した。戦後の深刻な食糧不足から人口抑制を図りつつ、復興に携わる人材を確保する狙いがあったとされる。「不良な子孫の出生を防止する」ため、正当な理由なく不妊手術を認める規定が盛り込まれた。
同法が示す「優生思想」を批判する声は80年代ごろから国内で高まり、旧厚生省内でも「人道的に問題はあるのでは」と指摘が上がったという。しかし法改正の動きは鈍く、90年代に入っても不妊手術は続けられた。

見直しを迫ったのは国際社会だ。94年、カイロで開かれた国連の国際人口開発会議で本人の同意なく子宮を摘出された日本人の事例が紹介された。「日本にはなお優生保護法が存在し、障害をもつ女性の人権が侵害されている」との訴えは大きな反響を呼び、障害者の国際団体などから法改正の要望が殺到した。
国会は96年に旧法を母体保護法に改正し、手術の規定を削除した。しかし手術を受けた人への補償は見送った。同様に不妊手術を強制し、見直し後に正式な謝罪や補償をしたスウェーデンやドイツとは対照的な対応だった。
国際人権規約委員会が98年、必要な法的措置をとるよう勧告した際には「過去に遡って補償することは考えていない」との政府見解を示した。

国による補償がないまま法改正から20年超が経過した2018年1月、当事者が声を上げた。手術を受けた本人が初めて訴訟を提起。これを受けて同年3月に超党派の議員連盟などが発足し、補償に関して初めて具体的な検討が始まった。
19年に全会一致で成立した一時金支給法は手術を受けた本人にのみ一律320万円を支給することを柱とする。320万円は「見舞金」という位置づけで、賠償の趣旨は含まれていない。国の法的責任は明示せず、全面的な補償はまたも置き去りとされた。

背景には旧法により障害者への社会的差別や偏見が助長されるなかで、当事者が訴え出る心理的負担が重かった点がある。約2万5千人が手術を受けたとされる一方、一時金の支給を受けたのは24年7月末時点で1129人にとどまる。今なお家族や周囲にさえ明かせていない人も多いとされる。
「国会は適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講ずることが強く期待される状況にあった」。最高裁は24年7月の判決で、立法府としての役割を果たさない国会や政府への批判を強くにじませた。
最高裁判決を受け、岸田文雄首相は7月、原告らに直接謝罪した。面会で「政府の主張自体が原告の気持ちを傷つけるもので、政府の姿勢が問題の解決を遅らせた」と言及した。旧法成立から76年が経過し、全面補償への道筋がようやく開けた・・・

アメリカ、ニュースはソーシャルメディアから

8月24日の日経新聞オピニオン欄、西村博之・コメンテーターの「米大統領選ミームは毒か薬か」。
・・・秋の米大統領選に向け民主党候補のハリス副大統領が想定外の好スタートを切った。バイデン大統領が劣勢だった激戦州で支持を盛り返し、政治献金も急増する。
背景の一つが、ネット上で話題をさらう画像などのコンテンツ、いわゆる「ミーム」だ。勝ち目のないバイデン氏への絶望の反動もあり、一気に拡散した。
やたら大笑いするハリス氏は、「奇っ怪」と映っていた。だが共和党候補のトランプ前大統領がこれをちゃかし、攻撃用の動画集まで作ると若者らに人気となった。関連コンテンツも多く作られ、親しみと連帯感を生んだ。調子が狂ったのはトランプ氏だ・・・

本論は記事を読んでいただくとして。アメリカ市民のニュースの取得先が、図になって載っています。
2013年と2023年を比べて、テレビは約70%から約50%へ、新聞雑誌など紙媒体は約50%から約20%へ低下し、ソーシャルメディアが約30%から約50%に伸びています。
世代別には、重要な出来事やニュースはソーシャルメディアで知るという人びとの割合で、60歳以上は約20%、44歳から59歳は約50%、28歳から43歳は70%近く、12歳から27歳は80%近くです。

ソーシャルメディアでは、記事は短く、また興味を引く見出しや写真で、深くは考えません。