カテゴリーアーカイブ:社会の見方

政府の大規模財政支出を伴う産業政策

2026年3月7日   岡本全勝

2月20日に行われた、高市首相の施政方針演説、「2 経済力(1)国内投資促進のための「責任ある積極財政」」の中に、次のような文章があります。

「世界を見渡せば、政府が一歩前に出て、官民が手を取り合って重要な社会課題の解決を目指す新たな産業政策が大きな潮流となり、各国政府は、大規模かつ長期的な財政支出を伴う産業政策を展開しています。
世界が産業政策の大競争時代にある中、我が国として、経済成長を実現するために必要な財政出動をためらうべきではありません。」

若者の報道不信に応える

2026年3月7日   岡本全勝

2月20日の朝日新聞オピニオン欄、藤村厚夫さんの「若者に信頼される報道スタイルを」から。

・・・若者にニュースがどう見えているかを、米国の10代を対象にして探った衝撃的な調査結果がある(「ニュースリテラシープロジェクト」2025年11月)。報告書によれば、10代(13~18歳・756人を対象)の8割以上がニュース(メディア)に否定的な感情をいだいている(前年の調査では7割近くが「意図的な偏向を加えている」とも見ている)。さらに、報道機関やジャーナリストらの振る舞いを「文脈を外れて写真や動画を切りとっている」(60%)、「情報提供に対価や便宜を与える」(51%)、「引用などの細部を粉飾する」(50%)などと見ていることもわかった。若者のニュースへの不信感はこのように深いのだ。

海の向こうの話だと思っていてはいけない。電通が24年に実施した調査で、高校生・大学生にとって「信頼できる情報源は、ほとんどない(信頼できる情報源だと思っている割合は、SNSを含めたほぼすべてのメディアが10%前後)」との結果が出た(電通マクロミルインサイト・若者まるわかり調査)。
内訳では、テレビ番組(ニュース)への信頼は31・1%と格別に高いものの、X、ユーチューブ、インスタグラムの情報より「新聞記事」は信頼が低く、11・1%にとどまる。国内でもニュース不信は深いと見るべきだ。

ニュースを報ずる側にできることはなにか。先にあげた米国の調査で、10代の若者が「改善すべき点」を回答している。「正直であること/事実を正しく伝えること」(283人)、「偏向の最小化/バランスの改善」(138人)が1位と2位にあがっている。続く「ポジティブ(前向き)な報道」と「重要な出来事の発信」がいずれも19人と大差があることから、ファクト(事実)への希求と偏向への危惧という対をなす命題が飛び抜けて大きい。
この現状を知れば、「報道をこれまで以上に正確に行っていく」では済まされない。若者の求めに応えるニュースの「創り方」と「語り方」が必要だし、そんな報道スタイルの実践を若者が見えるようにしなければならない。

「事実を伝える」「偏向の排除」を明示する報道スタイルの開発では、米国での試みが参考になる。まず、新興メディア・セマフォーの事例を紹介しよう。セマフォーでは、客観情報に絞って伝える「ニュース」、記者の視点や意見を伝える「ビュー」、注目すべきポイントなど、小見出しを付したセクションを設けて見せる。ニュースの読解を手助けするという意義もあるだろうが、「事実」と「意見」の違いを読者が理解して読み取れる効果が期待できる。執筆する側にも、「ニュース=事実」セクションでは事実に徹した記述を促されるはずだ。「だれが(述べたのか)」も明示せずに「との指摘もある」などとしたり、匿名コメントを乱発したりするような主観の押しつけにつながるスタイルは消滅を迫られる・・・

挑戦しない日本の企業経営者

2026年3月5日   岡本全勝

2月18日の日経新聞経済教室、神田秀樹・東京大学名誉教授の「企業統治指針、改訂で産業構造の転換を後押し」から。

・・・日本ではバブル崩壊後に企業が設備投資の抑制や負債圧縮の姿勢を強めた。日銀の資金循環統計によれば民間企業部門は1998年から資金余剰に転じて今日に至っている。金融セクターが成長資金を出そうとしても、貸出先のビジネスがないという状況である。
日本で主にお金を使っているのは低金利下で積極的な財政出動を続ける政府部門であり、家計の預貯金が政府の赤字を埋めてきた。本来であれば企業の投資が景気をけん引し、賃上げによる家計の消費拡大が企業のさらなる投資を支えるという好循環が望ましいが、そうはなっていない。
日本の経済と金融は「悪い均衡状態」に陥っている。経済がジリ貧なのに危機感に乏しいのが最大の問題である。バブル期の不良債権処理ばかりにまい進し、新産業の創出を怠ってきたことのツケが、いま生じているのである。こうした悪い均衡から脱出するには、まずは新たな産業を生み出す必要がある。

米国ではIT大手の「GAFAM」が経済成長をけん引した。日本の強みがものづくりだとすれば、そうした分野でもっとイノベーションを起こす必要がある。日本は今こそ生産性を高める技術開発などにより、新しい産業構造へと転換しなければならない。
そのためには、強いリーダーシップを発揮する経営者が日本にもっと生まれてほしい。2025年4月末に経済産業省が公表した「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」は、こうした産業構造の転換を目指して各企業の取締役会の機能強化を提言するものである。筆者は研究会の座長として策定に関わった。
この原則では、企業の「稼ぐ力」強化に向けて経営陣が自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築し、実現のために事業ポートフォリオの組み替えや成長投資に取り組むなど、適切なリスクテイクを行うよう取締役会が後押しすることを提言している。
また、経営陣が短期的な成果にとらわれて中長期的な成長を犠牲にしていないか確認することや、取締役会がマイクロマネジメントに陥らないよう留意することなども求めている。

米国では経営者がリスクテイクに走り、取締役会はそれをけん制するという役割を果たす。日本では経営者が適切なリスクを取らないので、取締役会が経営者のリスクテイクを後押ししようというのが提言の狙いである。
日本では長年「貯蓄から投資」への転換の必要性が叫ばれ続けてきた。近年の少額投資非課税制度(NISA)導入や株式市場の活況により変化の兆しがみられるものの、依然として個人金融資産2200兆円の約半分が預貯金である。
少子高齢化に伴う急速な人口減少や巨額の政府債務といった構造的な問題にも、本格的な対応ができていない。むしろ状況は悪化し、危機的な状況にある。
日本が30年間続いたデフレ経済から脱しようとしている今こそ、産業構造の転換を実現するため、企業は大きく変化しなければならない。今回の企業統治指針の改訂も、それを後押しするような内容になることを期待している・・・

政府による産業支援、新しい展開

2026年3月4日   岡本全勝

2月18日の日経新聞「資本騒乱・誰のための市場か3」「半導体、巨費投じる国家事業に 民間や海外とのリスク分担が成否握る」から。

・・・ラピダスは半導体専門家の有志が22年8月に設立した。日本の半導体再興という国策の中核を担い、既に2兆円に迫る国費が投じられた。経産省主導で民間資金を集め、30社以上から1600億円超の出資を見込む。3メガバンクは最大2兆円を融資する意向を示す。

「過去の失敗を繰り返さない」。経産省で商務情報政策局長を務める野原諭は、25年12月に都内での半導体の国際展示会に登壇して力説した。野原は半導体政策を4年以上指揮する。局長級のポストは1〜2年の交代が通例のなか、異例の人事が敷かれている。
日本の半導体産業は1980年代後半に世界シェア50%を誇った。90年代以降縮んで今は1割を切る。
国費の投入は失敗を重ねてきた。国内電機各社の半導体部門が統合したエルピーダメモリは日本政府が支援に二の足を踏む中で2012年に経営破綻に追い込まれた。同じ時期、台湾や韓国、中国は大規模な補助金や税優遇で半導体企業を育てシェアを広げた。ジャパンディスプレイや三菱スペースジェット(旧MRJ)も同様だ。

経産省は21年に半導体衰退の要因を分析して、ビジネスモデル転換の遅れや日の丸自前主義など5つを挙げた。全体として「政府として半導体が戦略物資であるという認識が甘く、支援が足りていなかった」(幹部)と振り返る。
分析を踏まえ、同年に半導体政策を転換した。場当たり的対応から転じ「国家事業として主体的に進めることが必要」と位置づける・・・

福井ひとし氏の公文書徘徊10

2026年3月3日   岡本全勝

アジア時報』3月号に、福井ひとし氏の連載「一片の冰心、玉壺にありや?―公文書界隈を徘徊する」第10回「雪のむら消え(上)―文官たちの「二・二六」」が載りました。
1936(昭和11)年2月26日早朝に、陸軍青年将校らが、兵を率いて、首相官邸などを襲いました。今から90年前です。でも、私の生まれる20年ほど前のことだったのですね。大昔のことと、思っていました。

今回の記事は、襲われた内閣側にいた官僚たちの動向を、公文書から追っています。
内閣官房総務課長は、首相官邸敷地内の官舎で、事件を知ります。しかし身動きが取れないので、電話で要路と連絡を取ります。岡田啓介首相は生きていたのですが、それを公表すると、反乱部隊に再度襲撃される恐れがあります。首相が不在では閣議が開けないので、代理を指名する必要があります。首相が生きているのに、もう一人の首相を立てなければなりません。法形式はどのようにするのか。
警察幹部も大変です。陸軍の反乱に対し、警視庁は何をするべきか。陸軍との役割分担が、問題になります。警視庁建物は反乱軍に包囲されているので、幹部は近くの警察署に集まって、対応を協議します。
ほかの省庁は、どのようにしたか。当事者は命がけですが、今から読むとなかなか興味深いです。それにしても、よくまあ、こんな題材を思いつきますね。

私は大学3年生の時に、岡義達先生の政治学ゼミを取り、『西園寺公と政局』(全9巻)を読んでレポートを書きました。半年かけた、当時としては力作です。本棚に、本とレポートが残っています。その頃は、戦前の政治をかなり勉強して、政治家の名前なども覚えたのですが、今はすっかり忘れています。