カテゴリーアーカイブ:社会の見方

世界で異形な日本の30年のデフレ

2023年12月21日   岡本全勝

12月2日の日経新聞特集「物価を考える」に、わかりやすい図表が載っていました。1992年を100として、2022年までの主要国の物価の推移が折れ線グラフになっています。

多くの先進国は毎年モノやサービスの値段が平均で2%ほど上昇してきました。物価はこの30年で、アメリカ、イギリス、イタリアは2倍に、ドイツ、フランスは1.7倍程度になりました。一人独自路線で、ほぼ水平なのが日本です、1.09倍にしかなっていません。
この30年間が、いかに異常だったかがわかります。経済界と政府の責任は大きいです。国内で生活している限りでは、わからなかったのでしょうか。

物価が上がらないのは消費者としてはよいことでしょうが、その間に賃金も同じような動きをしています。日本の賃金はそれらの国に比べて、半分になりました。
今後毎年給料を2%ずつ上げても、それらの国には追いつきません。単純には、2%上乗せして4%の上昇を続ければ、30年後に追いつきます。
政府がすべきだったのは、毎年のインフレ目標を2%にするのではなく、毎年の賃金(例えば最低賃金)の上昇を2%にすることだったのでしょう。

忙しい時代に0.75倍速

2023年12月20日   岡本全勝

日経新聞夕刊月曜日連載の「令和なコトバ」は、現代社会を切り取る興味深い記事です。12月4日は「0.75倍速 タイパ時代 あえて引き延ばし」でした。

動画配信サービスには、1.25倍速とか1.5倍速という設定があります。普通の再生速度より早く再生してくれるので、急ぎで見る場合は便利です。しかも、音声はそんなに変になりません。
とろが、0.75とか0.5といった遅い速度もあるのです。私はこの記事を読むまで気がつきませんでした。

使われる理由は、練習の教材としてだそうです。ダンスや音楽の練習にです。外国語なども早くて聞き取れないときは、使えそうです。
もう一つは、時間稼ぎだそうです。子どもに静かに動画を見ていて欲しいときに、引き延ばすのだそうです。そんな使い方もあるのですね。

読者から、早速反応がありました。「私もギターの運指をコピーするときに、0.5倍速で見るときがあります」とのことです。

佐藤俊樹著『社会学の新地平』

2023年12月18日   岡本全勝

佐藤俊樹著『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』(2013年11月、岩波新書)を紹介します。

書名を見たときは、これからの社会学について論じたものかと思いましたが、内容は副題の「ウェーバーからルーマンへ」です。岩波のホームページの「マックス・ウェーバーとニクラス・ルーマン―産業社会の謎に挑んだふたりの社会学の巨人。彼らが遺した知的遺産を読み解く」が良く表しています。さらに言えば、「近代の合理的組織を生んだ資本主義の精神とは何かを読み解く」でしょうか。

佐藤先生はいつも切れ味が良いのですが奥深く、この本も岩波新書にしては少々難しい本です。
私の理解では、前半は
・ウェーバーの「資本主義の精神」とは何かの、謎解き
・これまでの日本の学会でのウェーバーの「誤読」を暴く
でしょうか。ウェーバーの親族の会社から読み解くのは、推理小説のようでした。

そのような「謎解き」を経るのですが、私はこの本を読んで、ようやく資本主義の精神や合理的組織が理解できました。
ウェーバーの書名は「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」です。プロテスタントの倫理が近代資本主義を生んだとは主張していないのですね。私たちは、そのように理解してきましたが。「資本主義の精神」について、私も十分に理解できていませんでした。佐藤先生によると、ウェーバー自身も答えにたどり着かないままだった、それが後世の誤読を招いたようです。

勤勉の倫理なら、江戸時代の日本や中国にもありました。そして、よく機能する官僚組織もありました。しかし日本も中国も、資本主義経済や合理的組織を生み出しませんでした。
他方で、かつて私が抱いた疑問はこのほかに、禁欲が資本主義経済を生んだという点もあります。みんなで倹約して貯金をしたら、経済は拡大しません。近代経済学では常識のことです。どうみても、プロテスタントの禁欲倫理が資本主義経済の発展を生んだとは思えないのです。読んでいて、何か奇術を見ているようでした。資本主義経済のためには、近代組織の合理性が重要なのです。

ルーマンによる、官僚制の階統制も意思決定の連鎖であるとの説明も納得です。官僚制の中で生きてきた人間としても、目から鱗でした。専門家の間では常識なのかもしれませんが。

報道機関の横並び意識

2023年12月18日   岡本全勝

12月1日の朝日新聞オピニオン欄「記者会見に求めるもの」、林香里・東大教授の「各社横並び、主体性持って」から。

・・・記者クラブという器ではなく、その空間にいる記者のマインドセット(思考の癖)が問題なのです。例えば、安倍政権で官房長官への取材で、各社担当記者が携帯やICレコーダーを事前に回収袋に入れていたと伝えられましたが、横並び意識が表れています。
日頃から他社の記者と団体行動で動いていると、記者一人ひとりの立ち位置がどこにあるのかという、自分の主体性を失って、思考停止になりがちです。

これは、ジャニーズ問題の報道にも表れました。長く沈黙を続けた大手メディアは、英国の公共放送BBCが報じたあと、批判しても安全という空気が作られると一斉に報道を始めました。ですが、ほとぼりが冷めると一気に引いていくという同じ構図が繰り返されるのではないでしょうか。テレビ局は似たような検証報道をしたものの、芸能事務所や広告会社とテレビ局の問題という構造的な問題には踏み込めていません・・・

縄文直系の子孫はいない

2023年12月16日   岡本全勝

11月26日の読売新聞「縄文直系の子孫 いない ゲノム解析プロジェクト」は、驚きの内容でした。詳しくは本文をお読みください。

・・・縄文人や弥生人のことは小学校でも習う。私たちの祖先として、親しみを感じる人もいるかもしれない。しかし、彼らがどんな人たちだったのか、実はまだよくわかっていない。今年3月末まで5年間にわたった国の大型プロジェクト「ヤポネシアゲノム」で、国立科学博物館の篠田謙一館長は、遺伝情報(ゲノム)から縄文や弥生の人々に迫った。篠田さんが研究の過程で感じた「三つの驚き」を通して、新たに浮かび上がった彼らの姿を見てみよう・・・

・・・約1万6000年前から、弥生時代が始まる約3000年前まで続いたとされる縄文時代。この時代に日本列島に生きていたのが、縄文人だ。「彫りの深い顔立ち」が特徴とされる。
プロジェクトでは69体の縄文人のゲノムを解読した。ゲノムの特徴から近縁関係を分析すると、縄文人は、中国など北東アジアから東南アジアにかけての大陸の現代人とは、かけ離れた存在であることがわかった。北海道・礼文島北部の船泊(ふなどまり)遺跡(縄文後期)で見つかった約3800年前の縄文人のゲノムを、アジア各地の約50集団と比較しても、近縁な集団はなかった。
「東南アジアなど、どこかに縄文人の子孫がいると考えていたが、ゲノム研究で完全に否定された。縄文人はもう現代には生き残っていない。予想外の結果だった」と篠田さんは驚く・・・

・・・次に弥生人を見ていこう。九州北部で稲作が始まったとされる約3000年前から古墳時代(3〜7世紀)が始まるまでの弥生時代に住んでいた人たちだ。縄文時代から引き続き住んでいた人たちや、大陸から稲作文化を持ち込んだ渡来人たちがいた。
彼らのゲノムを分析して浮かび上がったのが、現代の本州などの日本人をしのぐ、驚くべき多様性だ。篠田さんは「現代よりもはるかに少ない人口だった弥生時代だが、遺伝的に由来の異なる集団が共存し、混血のなかで多様性が生まれたのだろう」と分析する・・・

へえ、と思いますね。でも、現代の日本人は縄文人と弥生時代に渡来してきた人が混血し生まれたする「二重構造説」は正しいようです。